幸せな人生を目指して

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第9章 愁いのロストフラグメント

6 一縷の望み

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「なかなか声を掛けられなくてすみませんでした」

「大丈夫よ。それに姿は隠していたけれど状況は理解しているわ」

「助かります。では……」

「ええ。早速やってみるわ」

ウルはやる事は心得ている、と言わんばかりに両手を前に突き出す。すると小さな光が次々と浮かび上がってきて暗い部屋の中を明るく照らし出していく。
その様は沢山の蛍が光り輝いているよう。

そして無数の光は四方に散っていき、床や天井へと染み込んでいく。


ウルには今、部屋に残った魔力を辿ってレヴィ君が何処へ行ったのかを追跡してもらっている。
正直、精霊の力をもってしても直ぐに彼が見つかるとは思っていないけど、可能性があるなら試さない手はない。

そう思い私と父様は後方へ下がり、唯々その様子を見守っていたのだった。



「エルちゃん」

少し時間が経った頃、ウルから控えめな声で名前を呼ばれた。
終わった?のだろうか。

「終わったのですか?」

「ええ。でも残念ながらレヴィの居場所はこの場所からでは探知出来ないわ」

「……そう、ですか」

簡単ではない。それは分かっていた事。だけど言葉にして言われてしまうと胸に迫るものがある。

「エル。まだ気を落とすのは早いよ。ウルの言葉を最後まで聞こう」

父様に言われ、気落ちする気持ちを押し込める。向き直るとウルと目が合い、私はゆっくりと頷いた。
それを見届けてからウルは口を開く。

「エルちゃん。居場所は分からないと言ったけれど魔力を辿って行って分かった事があるわ。
微力な魔力がこの屋敷の外へと続いていたの。それもレヴィともう一人、何者かの魔力もね」

「なるほど。レヴィの他にもう一人……。
自ら出て行ったのか或いは誘拐されたのか……。どちらにしてもレヴィは一人ではなかったという事か」

「そうなるわね」

レヴィ君が今どこにいるのかまでは特定出来なくても、少しずつ状況や痕跡から足取りは追えている。
あまり時間をかけてはいられないけど、今はこれしかないし、とにかく今日中にやれる事はやらないと。

「ウル。この場所からは足取りが追えないって言いましたよね?では場所を移しましょう。他の場所でも試してみたら痕跡が見つかるかもしれません。次は私も探します」

「分かったわ」

この場所からだと探知出来ないという事は、他の場所へ移動して同じように探知してみればまた違った結果が出るかもしれないのだ。情報が少ない今、この方法でやっていくしかない。

そうして場所を移すことになった私達はレヴィ君の部屋を後にし、屋敷の外へと向かった。

向かっている途中、ウルは屋敷の人に姿を見られてはまずいのでまた姿を隠してもらい、父様は大まかな事情を説明しに別の場所で待機しているルドルフさんの元へと向かった。その為今は別行動だ。
それに父様には事情を話すのと同時に出来る限りの時間稼ぎをお願いしている。
それは勿論ウルの姿を見られない為だ。部屋の中なら扉を閉めてしまえば人に彼女の姿を見られる事はないけど、外へ出てしまえば誰に見られてもおかしくはない。
いくらレヴィ君の家の人達と言え、あまりウルの存在を知られるのは宜しくない。彼女は精霊なのだから。
それを考慮してレヴィ君も家族に話さなかったようだしね。


「それじゃとっとと済ませちゃいましょう」

「はい」

そして今。私達はローレンス侯爵家へ訪れた際に通った門へと来ていた。
先程ウルが屋敷の外へと魔力が続いていると言っていた為、この場所からだったら何か掴めるのではないかと思ったのだ。

門へ着くなりお互いにやるべき事を確認し合った。

私は以前使用したサーチで足取りを辿ってみる。
ウルは先程の探知をもう一度と行ってもらうのともう一つ、近くに光の精霊がいたらその精霊にも協力をお願いしてもらう事。
ぱっと見、近くに精霊の気配は感じられないけど、どんなに小さな力でも精霊であればウルは感知出来る。
そしてもし運良く見つかればレヴィ君に関する貴重な情報が聞けるかもしれないのだ。

精霊は気ままな存在だが、ウルが私と出会った場所に一時いたように、ある場所を住処に留まっている者も中にはいる。だからローレンス侯爵家の周辺に精霊がいればレヴィ君がいなくなったその瞬間を見ているかもしれないから。

お願いだから見つかってほしい……!
切に願いながら自身もサーチの魔法を展開し、探知を試みる。



……駄目だ。
探知を行って数分。ウルの言っていた通り、屋敷の外まで魔力が残っているのは感知出来るけど、その先が分からない。
探知魔法をもってしても辿り着けないとなると、もう後はウルに頼るしかなくなってくる。

藁にも縋る思いで彼女の方へ顔を向けると、ちょうど終わったようでウルが顔を上げた。

「エルちゃん、彼の居場所が分かるかもしれないわ」

「えっ!本当ですか?」

呟かれた彼女の言葉に食いつく。それが本当なら希望が見えてきたという事だ。

「私だけでは足取りを追うのは難しいのだけれど、運良くレヴィのいなくなった時に居合わせた子を見つけたの。私と同じ光の精霊よ。今近くにいるのだけれど……」

「是非お話を伺いたいです!」

話をしてみる?と言うウルに私は即答する。

ウルの様子からしてその光の精霊は好意的な方のようだ。私の前に姿を現さないのは他の人に見られる可能性があるからだろうけど、でも話をしてもらえるというのならこちらとしては願ったり叶ったりだ。

直ぐにでも会いたい……なんだけど。


「ただ少し待ってもらえないでしょうか?父様にも伝えないと。勝手に動いては心配をかけてしまうので」

私は普段からルカやアリンちゃん、誰かしらが傍にいなければ外を出歩く事が許されない身。
性別や身分もあるからその事は私自身も分かってはいるけど、今は時間が惜しい。
ルカのようにお互いのピアスを通して会話を行ったりも出来ないので、直接屋敷に戻り父様に伝えなければならないのだ。


「それなら大丈夫よ。既に連絡済みだから。ディランからエルちゃんを宜しくって頼まれたわ」

えっ……?

色々考えていた今の時間は何だったのか…、ウルのその一言で解決してしまった。

と言うかいつの間に……?

「いつの間に?って顔ね。エルちゃんの為なら私は喜んで動くのよ」

置いてけぼりな私に彼女は楽しそうにウィンクをして見せたのだった。



良く分からない内に屋敷の外への外出許可が父様から出たので、早速屋敷を出て、直ぐに見える小さな林の中へとウルを追って入っていくと視線の先に黄色い光が見えた。

もしかしてあれが……?

そう思ったその時、その光が一際輝き、段々と消えて行く。するとそこにウルと同じ光の精霊だと言う者の姿が露になる。

「初めまして小さなお嬢さん。僕は光の精霊、ニール」

その声と共に姿を現したのは思っていたイメージと違い、私よりも背の高い少年の姿をした精霊だった。
ウルと同じ金色の髪と金色の瞳。少し吊り上がった眼。それだけ言えば光の精霊っぽいなと思うけど、何と言うかチャラ――ゴホンッ……派手な見た目の精霊だった。
派手な見た目の割に口調が丁寧で、それが相まってどうも失礼な感想を抱いてしまう。

そんな事を私が思っているなど露知らず、光の精霊は更に先を続ける。

「君は探し人がいるようだけど、僕の知っている情報で良ければ教えるよ」

そう言い――ニールさんはニカッと笑った。
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