幸せな人生を目指して

える

文字の大きさ
上 下
166 / 227
第8章 ノスタルジア

17 自分にできる事

しおりを挟む
何だろう…来た道の方から音がする。

それに魔法を使っている気配もしている。

もしかして私が皆の元を離れてから魔物が襲ってきた可能性も…あり得るけど…大丈夫だよね。レヴィ君達は強いし、何より今回は城からの応援部隊がいるのだから。



「大丈夫よ。あの子達は私から見ても強いもの。心配いらないわ」

「そう、ですよね」

人気が無く姿を見せたウルにそう諭される。声に出していないのにもう顔の表情でバレバレのようだった。
でもウルがそう言うなら大丈夫なはずだ。

「それよりもエルちゃん、貴方しか出来ない事をこれからしてもらうわね」

「私にしか出来ない事…」

責任重大な事だけどやるって決めたんだから弱音を吐いている場合じゃない。

「そんなに固くならないで大丈夫よ。エルちゃんは姿を隠している精霊達へ協力を要請するの。
難しく考えないで自分の思った事をいつものように話せば気まぐれな精霊達だけれどきっと応えてくれるわ」

「わ、分かりました」

「それにね。エルちゃんの事を無視しようものなら私が許さないから安心して」

そう言ったウルから凄い圧。冗談っぽく言っているけど本気だ…。


「それじゃ早速始めるわね。エルちゃんは隠れている精霊達に心の中で良いから話しかけてみてちょうだい」

「分かりました」

それだけで良いの?と疑問は浮かんだものの、一先ずウルの言う事に従う。
目を閉じて集中。

すると自分の肩に小さい手が置かれる。
ん?と思いつつも声に出す事なく、ただ今は話しかける事に意識を集中させていった。


『――森の何処かにいるでしょう精霊の皆さん。どうか私の声が聞こえたなら応えて下さい』

返事はないが続ける。

『――皆さんも気づいているとは思いますが、今この森、いえ、森だけでなくシュレーデル王国でも突然発生した黒い霧と雨の影響で大きな被害が出ています。
私達人間もそして精霊である貴方達も得体のしれないこの現象に悩まされています。
私はこの件を調査する為にこの地に来ました。
そして現状をこの目で見て、一刻も早く対応をしなければならないと思い一緒に来てくれた私の仲間も解決する為に全力で行動をしてくれています』

森はシーンと静まり返ったままで、本当に精霊がいるのか不安になってくるけど、それでも諦めずに語り掛ける。


『――今回の現象はあらゆるものに害をなす瘴気である事が分かり、その瘴気を消し去るには浄化の力が必要だと言う事も分かりました。
ですから貴方達精霊の力をお借りしたいのです。
精霊は人の前には姿を現さない。力が強大である為、人間に力目的で狙われるからと言う話は聞いています。
今の私の発言はそんな人達と変わらないのかもしれませんし、こんな時だけ協力して欲しいなんて勝手だと言われても仕方がないと思います。
それでも今現状、沢山の人が苦しんでいて、その人達を救えるのは貴方達精霊の力だけなのっ……。
だからお願いします。どうか力を貸して下さい』



「良くできたわねエルちゃん。上出来よ」

肩に手を置いたままウルが呟く。その声に目を開けるとにっこりと笑った彼女の顔が目の前にあった。

「今の声は精霊達に届いたわ。ほら見て」

「え?」

呆然としていたらウルが前方を指さすので、その方向へ視線を移すと――

今の今まで目では確認できなかったのに、木の陰から子どもや大人の見た目をした精霊達が顔を覗かせていたのだった。
その姿は半透明で透けていて、人間ではないのだと物語っている。


「ちょっと貴方達、そんなに怖がっていないでこちらにいらっしゃい」

言い方優しく聞こえるけど、どこか有無を言わせないウルの言葉に精霊達は慌ただしく私達の方へと近づいて来る。

私、勝手に精霊はウルのような小さい子しかいないとイメージしていて、大人の姿をした精霊もいる事に少し驚かされた。しかも子ども大人と姿は異なるが皆若くて綺麗な容姿。
10代くらいだろうか小さい男の子や女の子。20代前半くらいの男性、女性の精霊達。

人間とは明らかにかけ離れた容姿でそれだけでも驚愕なのに、集まって来た精霊達が次々と跪き首を垂れていく。その光景に更に驚かされたのは言うまでもない。


一体どういう状況なんですか!?と口走りそうになるけど、その時一人の精霊が声を上げた。

「お久しぶりでございます、ウルティナ様。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」

ふんわりと波打った腰より長い水色の髪に同じく水色の瞳。そして雪のように白い肌をした見た目が20代前半くらいの女性の精霊。
その美貌は思わず私も見惚れてしまう程の輝きだ。

「久しぶりね、クレネーア。会えて良かったわ。
でもそんな堅苦しいのはやめてちょうだい。この子が驚いているから」

「あらあら、とても可愛らしいですわね」

「そうでしょう。この子は特別。私のお気に入りの子なの」

「お人形さんみたいですわ」

高貴な人達の会話に巻き込まれた感……。
何故か私の事で話しが盛り上がっている気がする…。

「お二人ともその辺でおやめになって下さい。彼女が困っていますよ」

少し高めの声。でも落ち着いた口調で横から声をかけて来たのは、見た目が10歳くらいの少年だった。
緩く波打っている茶髪に、大きくてきりっとした金色の瞳。
見た目で言うと私とさほど年が変わらない彼は、その年齢に似つかわしくない落ち着きようで、俗に言うギャップが凄かった。

しかも彼の一言で、ガールズトークを繰り広げていたお姉様精霊二人の会話がぴたりと止まったのだから。

「ごめんなさいね。つい」

「ふざけすぎちゃったわね。ごめんなさい、エルちゃん」

「い、いえ…」

落ち着いてくれた…。良かった助かった…。

「あの、ありがとうございます。えっと…」

「僕の名前はルーチェ。ウルティナ様と同じく光を司る精霊です。そしてこちらにいるのは――」

「初めまして。私はクレネーア。私は水を司る精霊よ」

気の利いた対応をしてくれた彼――ルーチェさんは自ら名乗ってくれて、更に続いてウルと言い合っていた女性――クレネーアさんも後に続いて自己紹介をしてくれた。

「ルーチェさんとクレネーアさん。初めまして、私はエルシアと言います」

「エルシア…だからエルちゃんね。とても可愛いお名前だわ」

「クレネーア。そう呼んで良いのは私だけよ」

「まあ、ウルティナ様ったら独り占めはいけませんわ」

ああ、また話が脱線していってるよ、二人とも。
仲が良いのか悪いのか、良く分からない二人だな……。


「あの、名前は好きに呼んで下さい。私は気にしませんので」

あまり長く時間をかけている余裕がないので、早めに本題に入らないといけないから二人には申し訳ないけど、そろそろ切り替えてもらわないとね。

「分かったわ。じゃあ私はエッちゃんと呼びましょう。私達の事は呼び捨てで構わないわよ」

「分かりました」

「それじゃふざけるのはここまでで本題に入りましょう」

改めてウルがそう言うと集まってくれた精霊達は、先程までのふざけていた雰囲気が嘘のように静かになる。

凄い。皆ウルの言葉に耳を傾けてくれている。
前々からウルは凄い精霊だと思っていたけど、本当に高位の存在なんだな。

群れる事をしない精霊達がこうして集まってウルの言葉に従っているんだから。


「今エルちゃんが言っていた通り、貴方達の力を貸して欲しいの。
お願い出来るわよね?」

「ええ、彼女の言葉に応える為にこうして来たのですから。力になりますわ」

「僕も同じ思いです」

クレネーア、ルーチェ、そして他の精霊達もウルの問いかけに力強く頷いてくれたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

異世界で温泉はじめました 〜聖女召喚に巻き込まれたので作ってみたら魔物に大人気です!〜

冬野月子
恋愛
アルバイトの帰り道。ヒナノは魔王を倒す聖女だという後輩リンの召喚に巻き込まれた。 帰る術がないため仕方なく異世界で暮らし始めたヒナノは食事係として魔物討伐に同行することになる。そこで魔物の襲撃に遭い崖から落ち大怪我を負うが、自分が魔法を使えることを知った。 山の中を彷徨ううちに源泉を見つけたヒナノは魔法を駆使して大好きな温泉を作る。その温泉は魔法の効果か、魔物の傷も治せるのだ。 助けたことがきっかけで出会った半魔の青年エーリックと暮らしながら、魔物たちを癒す平穏な日々を過ごしていたある日、温泉に勇者たちが現れた。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜

蒼井美紗
ファンタジー
孤児院で代わり映えのない毎日を過ごしていたレイラの下に、突如飛び込んできたのが精霊であるフェリスだった。人間は精霊を見ることも話すこともできないのに、レイラには何故かフェリスのことが見え、二人はすぐに意気投合して仲良くなる。 レイラが働く薬屋の店主、ヴァレリアにもフェリスのことは秘密にしていたが、レイラの危機にフェリスが力を行使したことでその存在がバレてしまい…… 精霊が見えるという特殊能力を持った少女と、そんなレイラのことが大好きなちょっと訳あり迷子の精霊が送る、薬屋での異世界お仕事ファンタジーです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

処理中です...