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第8章 ノスタルジア
4 小さな天使
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久々に再会を果たせたと言わんばかりの女の子の喜びように、私まで胸が温かくなる。
純粋で満面の笑みを浮かべる彼女が眩しい。
けれど見つめていると漸くその視線に気付いた様子で、ハッと我に返った彼女は殿下を盾に後ろに隠れてしまった。
極度の人見知りのようだが、それでも気になるのか少し顔を覗かせて様子を伺っているところがまた可愛らしい。
「こらメリル。隠れていては彼らに失礼だろう?」
どうしたものかと困っていると察してくれたのかどうなのか、助け舟を出してくれた殿下が彼女の背中をそっと押す。
「はい…」
背中を押されて小柄の身体を更に小さくしながら一歩前に出てくると彼女はぺこりと頭を下げた。
「は、はじめまして…。メリル、です…」
か、可愛いっ…!
一挙一動が私のツボを押しまくる。
華奢で小柄、艶のあるオレンジの長い髪、パッチリとした大きく丸いターコイズの瞳。
珍しい組み合わせと言うそれだけで目立つ容姿だけど、顔の整い具合も重なって人の目を引き付ける子だ。
見目麗しいとはまさにこの事。天使が舞い降りたと言われても納得するね。
「初めまして。私はエルシア・シェフィールドと言います。こちらはレヴィ・ローレンス君です」
「おい、何勝手に教えてるんだよ」
自分の紹介とそれからレヴィ君の事もちゃっかり紹介してあげたら小声で怒られ睨まれた。
根は優しいけど初対面の相手に愛想良くしなさそうって思っての行動だったのに。と不満に思ったものの、それを言うとまた怒られるので黙っておきますね。
そうしてレヴィ君の小言を完全にスルーし、怖がらせないように彼女――メリルちゃんににっこりと笑いかける。
すると警戒が解けてきたのか、彼女もつられるように笑った顔を見せてくれた。
「良かったですね、メリル様」
「うん…」
案内の男性にメリルちゃんは嬉しそうに頷くと、そのくりっとした大きな目で私を見上げる。
その愛くるしさに私の心臓は撃ち抜かれ、ズキューンと効果音が聞こえてきそうな衝撃を受けたのだった。
「では皆さん。そろそろ先へ急ぎましょう」
「そうだな。それにしても久しいな。メリル、彼は元気にしているか?」
「はい!……でも最近はお仕事がいそがしいみたいで、あまりお話しできないの」
「そうか…。今は寂しくてももうすぐ終わらせてメリルに会いに来るさ。なんたってメリルを溺愛しているからな」
仲良く手を繋ぎながら並んで歩く二人の会話が耳に入ってくるけど、なんだかメリルちゃん悲しそうで、そんなメリルちゃんを殿下が優しく気遣う。無邪気で明るい殿下とは違い、あまり見せない大人びた優しい表情でメリルちゃんの話を聞いていた。
殿下に弟か妹がいたらこんな感じでちゃんとお兄ちゃんをしていたんだろうな。なんて新たな彼の一面を見て嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになった。
「こちらで王太子殿下がお待ちです」
そう言って案内されたのはオルデシアの王城でも良く見た玉座の間、ではなく応接室のようだった。
ひとえに応接室と言ってもここは王城。飾られている一つ一つの装飾は私でも目が眩んでしまう程価値があるに違いないのだけど。
「失礼するぞ」
国が違えど彼も王族。一言断ったが扉をさっさと開け、まるで自分の家のように堂々とした足取りで中に入って行く。
そしてそれに続いて入って行くメリルちゃん。
…?
そこで私の頭にはてなマークが浮かび上がった。
メリルちゃんは装いからして身分の高い家の子なんだろうけど一緒に入って大丈夫なのだろうか?
この先にいるのは王太子殿下だよね?
重要な話をするだろうし、この先は限られた人しか入る事が出来ないと思っていたんだけどな。
そんな率直な疑問だった。
だけどその疑問はこの後直ぐに解ける事となる。
その部屋へと足を踏み入れた途端、雰囲気がガラッと変わる。
応接室は来客をもてなす部屋でもある為、必要最低限で物は多くなくて広々としており、大きな窓が設けられそこから差し込む日の光が机と来客者用の椅子に降り注ぐような作り、配置になっていた。
そしてその椅子には一人の少年がおり、後ろには側近だろう若い男性が控えるようにして立っている。
「遠路遥々申し訳ない。シュレーデル王国、そして我が王城へ良く来てくれた。貴殿達を歓迎する」
「こちらこそ到着が遅くなってしまって申し訳ない。ここまでの案内、そして歓迎感謝する」
椅子に腰かけていた少年はその場で立ち上がると、良く通る声で私達に歓迎の言葉をかけてくれて、それに対して殿下も丁寧にお礼を述べ気持ちを伝えていた。
……この方が王太子殿下……。と言うか気が付いてしまったんだけど、髪と瞳の色がメリルちゃんと同じなんだけど……。これは嫌な予感…。
「お初にお目にかかる。私はリハルト・フォン・シュレーデル。そしてそこにいる子が――」
胸の前に手を当て紳士的に名乗るリハルト殿下。王子様スマイルも忘れる事なく添えて。
そしてアルフレッド殿下の隣でちょこんと佇むメリルちゃんを手招きし、自分の方へと呼び寄せた。
彼女は嬉しそうに駆けて行き彼女の頭を一撫でしてから肩に手を置くと私達の方へと顔を向けさせる。
「もう知っているかもしれないが、この子はメリル。私の可愛い妹だ」
「メリル・フォン・シュレーデルです」
その嫌な予感は的中した。
メリルちゃんも王族でした……。私ってばちゃん付けで呼んでたよ…恐れ多い事を。
リハルト殿下の妹。つまりは王女殿下……。
口走ってはいないだろうけど間違ってもメリルちゃんなんてもう呼べない……。
メリルちゃ…王女殿下は仕事が忙しいらしいリハルト殿下に久しぶりに会えたのだろう。本当に嬉しそうだ。
そんな仲睦ましい兄妹をよそに私は一人途方に暮れたのだった。
純粋で満面の笑みを浮かべる彼女が眩しい。
けれど見つめていると漸くその視線に気付いた様子で、ハッと我に返った彼女は殿下を盾に後ろに隠れてしまった。
極度の人見知りのようだが、それでも気になるのか少し顔を覗かせて様子を伺っているところがまた可愛らしい。
「こらメリル。隠れていては彼らに失礼だろう?」
どうしたものかと困っていると察してくれたのかどうなのか、助け舟を出してくれた殿下が彼女の背中をそっと押す。
「はい…」
背中を押されて小柄の身体を更に小さくしながら一歩前に出てくると彼女はぺこりと頭を下げた。
「は、はじめまして…。メリル、です…」
か、可愛いっ…!
一挙一動が私のツボを押しまくる。
華奢で小柄、艶のあるオレンジの長い髪、パッチリとした大きく丸いターコイズの瞳。
珍しい組み合わせと言うそれだけで目立つ容姿だけど、顔の整い具合も重なって人の目を引き付ける子だ。
見目麗しいとはまさにこの事。天使が舞い降りたと言われても納得するね。
「初めまして。私はエルシア・シェフィールドと言います。こちらはレヴィ・ローレンス君です」
「おい、何勝手に教えてるんだよ」
自分の紹介とそれからレヴィ君の事もちゃっかり紹介してあげたら小声で怒られ睨まれた。
根は優しいけど初対面の相手に愛想良くしなさそうって思っての行動だったのに。と不満に思ったものの、それを言うとまた怒られるので黙っておきますね。
そうしてレヴィ君の小言を完全にスルーし、怖がらせないように彼女――メリルちゃんににっこりと笑いかける。
すると警戒が解けてきたのか、彼女もつられるように笑った顔を見せてくれた。
「良かったですね、メリル様」
「うん…」
案内の男性にメリルちゃんは嬉しそうに頷くと、そのくりっとした大きな目で私を見上げる。
その愛くるしさに私の心臓は撃ち抜かれ、ズキューンと効果音が聞こえてきそうな衝撃を受けたのだった。
「では皆さん。そろそろ先へ急ぎましょう」
「そうだな。それにしても久しいな。メリル、彼は元気にしているか?」
「はい!……でも最近はお仕事がいそがしいみたいで、あまりお話しできないの」
「そうか…。今は寂しくてももうすぐ終わらせてメリルに会いに来るさ。なんたってメリルを溺愛しているからな」
仲良く手を繋ぎながら並んで歩く二人の会話が耳に入ってくるけど、なんだかメリルちゃん悲しそうで、そんなメリルちゃんを殿下が優しく気遣う。無邪気で明るい殿下とは違い、あまり見せない大人びた優しい表情でメリルちゃんの話を聞いていた。
殿下に弟か妹がいたらこんな感じでちゃんとお兄ちゃんをしていたんだろうな。なんて新たな彼の一面を見て嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになった。
「こちらで王太子殿下がお待ちです」
そう言って案内されたのはオルデシアの王城でも良く見た玉座の間、ではなく応接室のようだった。
ひとえに応接室と言ってもここは王城。飾られている一つ一つの装飾は私でも目が眩んでしまう程価値があるに違いないのだけど。
「失礼するぞ」
国が違えど彼も王族。一言断ったが扉をさっさと開け、まるで自分の家のように堂々とした足取りで中に入って行く。
そしてそれに続いて入って行くメリルちゃん。
…?
そこで私の頭にはてなマークが浮かび上がった。
メリルちゃんは装いからして身分の高い家の子なんだろうけど一緒に入って大丈夫なのだろうか?
この先にいるのは王太子殿下だよね?
重要な話をするだろうし、この先は限られた人しか入る事が出来ないと思っていたんだけどな。
そんな率直な疑問だった。
だけどその疑問はこの後直ぐに解ける事となる。
その部屋へと足を踏み入れた途端、雰囲気がガラッと変わる。
応接室は来客をもてなす部屋でもある為、必要最低限で物は多くなくて広々としており、大きな窓が設けられそこから差し込む日の光が机と来客者用の椅子に降り注ぐような作り、配置になっていた。
そしてその椅子には一人の少年がおり、後ろには側近だろう若い男性が控えるようにして立っている。
「遠路遥々申し訳ない。シュレーデル王国、そして我が王城へ良く来てくれた。貴殿達を歓迎する」
「こちらこそ到着が遅くなってしまって申し訳ない。ここまでの案内、そして歓迎感謝する」
椅子に腰かけていた少年はその場で立ち上がると、良く通る声で私達に歓迎の言葉をかけてくれて、それに対して殿下も丁寧にお礼を述べ気持ちを伝えていた。
……この方が王太子殿下……。と言うか気が付いてしまったんだけど、髪と瞳の色がメリルちゃんと同じなんだけど……。これは嫌な予感…。
「お初にお目にかかる。私はリハルト・フォン・シュレーデル。そしてそこにいる子が――」
胸の前に手を当て紳士的に名乗るリハルト殿下。王子様スマイルも忘れる事なく添えて。
そしてアルフレッド殿下の隣でちょこんと佇むメリルちゃんを手招きし、自分の方へと呼び寄せた。
彼女は嬉しそうに駆けて行き彼女の頭を一撫でしてから肩に手を置くと私達の方へと顔を向けさせる。
「もう知っているかもしれないが、この子はメリル。私の可愛い妹だ」
「メリル・フォン・シュレーデルです」
その嫌な予感は的中した。
メリルちゃんも王族でした……。私ってばちゃん付けで呼んでたよ…恐れ多い事を。
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口走ってはいないだろうけど間違ってもメリルちゃんなんてもう呼べない……。
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