幸せな人生を目指して

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第8章 ノスタルジア

3 水の都

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向かう先はオルデシア王国から片道三日もかかる、オルデシアと引けを取らない大きな国。
土地が広く栄えているのは勿論、王都を初め街中に水路が作られていて新鮮な水が流れているのが特徴な王国だ。
その特徴もあってまたの名を『水の都』とも呼ばれているらしい。

と言う事で途中途中休憩を取ったり宿に泊まったりしながらその水の都へと向かっているところなんだけど。


そうこう長い事馬車を走らせていると漸くその王国が見えてきて、近づくにつれ綺麗に並ぶ建物と水の都と言われる所以である水路が目に入ってきて思わず目を輝かせてしまう。

それにそれとは別に懐かしさがあるんだよね。今は姿の見えないウルももしかしたら感じているのではないかとなんとなく思うんだ。不思議な話だけど。

降りて歩き回りたい気持ちもあるけどそう言う訳にもいかないから我慢。
馬車は王国に入ると遠くからでも見える一番大きな建物、王城へと真っ直ぐに進んで行く。

ここへ来るまでは退屈だったのに王城が見えた途端に緊張が…。
その気持ちを落ち着けようと窓から目を離し、なんとなくレヴィ君と殿下を見てみたけど特に変わった様子はない。殿下はともかく、レヴィ君も緊張していないどころか眠そうに目を擦っているし。

緊張感皆無だなこの人達。まあ慣れているんでしょうね。そう思って内心苦笑い。


そんな事を一人で繰り広げていると馬車が止まって、

「お待ちしておりました。アルフレッド王太子殿下」

扉を開け出迎えてくれた男性が恭しく頭を下げ、歓迎の言葉をかけてくれる。

「うむ。出迎え感謝する」

その方は殿下に挨拶をした後、私達に対しても同じように丁寧に挨拶をしてくれた。

「そちらは同行者の方々ですね。お話は伺っております。ようこそいらっしゃいました」

「…は、はい。ありがとうございます」

こういうのって何回やっても慣れないな…。特に知らない国に来ると変に気を張ってしまうし。今も声が裏返ったし…。
と言うか目の前に衛兵さん達が綺麗に整列していてその光景にも圧倒されるんだけどな…。

「二人とも行くぞ」

内心零していると見透かされたのか殿下に笑われてしまった。と言ってもそれは一瞬で直ぐに真面目な王子様モードへと戻ると先に馬車を降りて行き、続いてレヴィ君そして私も順番に続いて新たな土地へと降り立った。

ここが水の都か…。ただただ美しい国だなと思った。


「ではご案内致します」

「頼む」

男性が先導し私達はその後を追っていよいよ王城の中へと入って行った。



中に入ると思わず周りを見回してしまうんだけど、これはもう無意識だから許してほしい、ね。

王城って言うのはどの国も同じく豪華絢爛だね。高価な装飾、そして高貴な人々が歩く赤いカーペットの敷かれた廊下、この大きな建物を支える太く頑丈な柱も白で統一されていて清潔感があるよ。
オルデシアの王城を何度も訪れている私でも目を奪われる美しさだ。
気を抜くと声を上げそうになるところ、それをグッと抑え込んで隣を歩くレヴィ君をちらりと見上げる。あー、興味なさそうだね。
若干心境に変化があるのでは?と期待したんだけどやはり彼は興味なさそうだった。退屈な顔をしていらっしゃるね。
残念、そう思った瞬間怪訝な顔をしたレヴィ君と目が合った。
あ、あれ…?その顔は…、声に出していないのに何だか見透かされたような気分なんだけど。


そんなやり取りを後ろでしていたその時、何処からか視線を感じて反射で周りを見回した。

…!

するとどうでしょう!規則正しく並ぶ柱から女の子がちょこんと顔を覗かせているではないですか!
私と目が合うとその女の子は柱の陰に隠れてしまった。

「どうした?」

いきなり立ち止まった私を不思議そうに見つめてくるレヴィ君に、柱の方を指さして女の子がいたと伝え、彼も同じようにその柱の方を見るとおっ本当だ、と少し驚いていた。

眠そうだったから目が覚めたかな?なんて思ってまた柱の方を見てみると、また女の子が柱の陰から顔を覗かせていて、本当にその仕草が可愛らしくて知らず知らずの内に頬が緩んでしまう。

「お前達何してるんだ?」

「どうかなさいましたか?」

私達の様子に前を歩いていた殿下と案内人の方も振り返る。二人にも状況を伝えるとなるほど、と案内人の方は納得し、今もそこにいる女の子に向かって優しく声をかけた。

「こんなところにいらしたのですか。皆が探しておられましたよ」

声を掛けられた女の子は一瞬びくっと肩を震わせたものの、ゆっくりと柱から離れその姿を見せた。

…っ!!

恥ずかしそうに顔を赤らめながらこちらの様子を伺う女の子はまたまた可愛らしく、一目見ただけでも分かるような上質なドレスを着ていて、それから察するにてっきり貴族の子どもかな?って思ったけど案内人の方の態度が少しひっかかるな。

「リハルト様も心配しておられましたよ、メリル様」

メリル様と呼ばれたその子は何やらもじもじしていて、失礼ながらも小動物のようで行動一つ一つが本当に可愛い。

「メリル!」

撫でたいな、なんて罰当たりな事を考えていたら、彼女を呼ぶ嬉しそうな殿下の声が聞こえてきて、ん?となりながら彼女と殿下を交互に二度見してしまった。
名前を呼ばれた彼女も先程の不安気な表情から一片、ぱあっと花が咲いたような明るい表情を見せると足取り軽く殿下の元へ駆けてくる。

「アルフお兄様!」

可愛らしい声が響いたかと思ったら殿下の胸に勢い良くダイブし抱きついたのだった。
勢いついてきた彼女に殿下は目を細め優しく彼女の頭を撫でる。

その様子を見ていた私達は置いてけぼりでぽかん、としていた。レヴィ君も何事!?って顔をしているよ。

そんな私達は蚊帳の外で、女の子は嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべていた。
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