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番外編
二人の馴れ初め…ディランside
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その日、偶々豊穣祭の会場に訪れていた私はそこで一人の美しい少女と出会う事となる。
彼女を目にした瞬間、彼女から目が離せなくなった。
私はディラン・シェフィールド。後に侯爵家を継ぐ者であり、その為に日々努力をしている。
跡取りが私一人しかいない事もあってか、父の期待は大きく、教育も厳しいものだった。
とは言え、その事に不満があったわけではなく、叱られる事は勿論あるけれど、しっかりとやるべき事をしていればそれなりに褒めてもくれる。そんな父を私は尊敬していた。
それでも時折感じてしまう息苦しい、窮屈だと思う気持ちは私がまだ子どもだからなのだろうか?
父に反発したいわけではないが、偶にで良い、外の空気を吸わせて欲しいと思う事はあった。
今まさにそんな気持ちで外へ出ていたら、人の賑わう声に誘われるようにしてその場所へと赴いていた。
…そう言えば今日は豊穣祭の日だったか。
その賑わいから祭りの事を思い出して、会場に集まる観客達を見回すと、彼らの視線はまだ誰もいない舞台の上へと注がれていた。
興味がそこまでなかったから知らないけれど、今年の舞姫はどんな子だったか?なんて事をふと考える。
確か噂では今年の舞姫は逸材だと言われていたような。
名家の伯爵家、その一人娘だとか言っていた気もするけれど。
名前は確か……。
そこまで考えた時だった。
会場が歓声に包まれ、それに釣られて舞台へと視線を向けると――。
「……女神?」
自分の口から無意識に零れていた。
その言葉通り女神と言っても引けを取らない程、美しい容姿をした自分と同じ年くらいの少女が舞台の上に上がっていたのだ。
肩が少し出るような衣装で、肌がそこまで露出しているわけではないのに、透き通るような白い腕と足がちらちらと見え隠れし、美しさと色っぽさが醸し出されている。
大人っぽさの漂う少女に、彼女の美しさに会場の誰もが目を奪われる。自分でも驚いたが、その中には私自身も含まれていた。
彼女は顔を上げ会場の人々を見回し、そして何事もなく曲が流れる……そう誰もが思っていた事だろう。
しかし彼女はそのまま固まってしまったかのように動こうとしない。それに観客達も気がつき始め、ざわざわと周りが騒がしくなる。
彼女の様子を見ていた私は演出なのか?と一瞬思ったものの、そう言う訳でもなさそうだと直ぐに判断し、そこからはまたしても自分でも驚きの行動をとっていた。
「大丈夫、落ち着いて!君ならきっと出来るよ!」
気づいた時にはそう声に出ていたのだ。ざわついているこの場からの声なんて届かないかもしれないのに、それでも言わずにはいられなかった。
届くはずないか、と一瞬諦めかけた、その時、私の声に彼女が反応を示したのだ。
私の声を辿るようにして彼女がこちらを見て、そして彼女と目が合った。
…頑張って…
目が合っているのを良い事に、すかさず次の言葉を伝える。と言っても声には出さずに、口の動きだけで思いを伝えて、そして少しでも緊張がほぐれると良いなと思い笑ってみた。笑顔は人を勇気づけられると何かで聞いた事があったから試したのだが…。効果あっただろうか……?
伝わったのか?と一瞬不安にもなったが、どうやらその心配はいらなかったようで、タイミング良く音楽が流れだし、それに合わせるようにして彼女が舞い始めたのだ。
表情も柔らかくなり、あれが彼女本来の顔なのだろうと想像できる優しい笑み。
クルクルと優雅に可愛らしく舞い踊る一人の少女に、ざわついていた観衆も声を漏らす事なく息を呑んでその舞を見ていた。
翡翠のような美しい髪が靡く度に、感嘆の声が何処からともなく漏れる。
舞に迷いはなく、振りを間違える事もなく終盤に差し掛かり、最後の時には満面の笑みを浮かべて本当に楽しそうに舞い、観客を魅了していた。
そして舞い終わった後に彼女が頭を下げるも、彼女に魅了された観客はただただ呆然としていて、会場が一瞬シーンと静まり返ったが、ハッと我に返ったらしい観客の誰かが拍手をし出すと次から次へと割れんばかりの拍手が彼女の舞を称賛したのだった。
沢山の拍手を受け取り嬉しそうに笑う彼女はやがて舞台の上から去って行く。その後を追うようにして、まだ歓声が鳴りやまない内に人々の間を縫うようにして進み、私もその場を後にした。
私が向かっている場所は今まさに舞姫がいるであろう控えの間だ。
「すみません、関係者の方以外立ち入る事は許されておりません」
その場所が目の前と言う所で、だがしかし思っていた通り、目的の場所には外部の人間を中にいれないよう見張りが立っていた。
と言っても想定内の事に動じる事はなく、近づくと堂々と名乗りを上げる。
「私はシェフィールド侯爵家の者なのだが。中に入れてもらえないだろうか?」
そう言い証拠として侯爵家の印である紋章を見張りに見せる。
するとそれを目にした途端、見張りは飛び上がりそうな程驚いたと思ったら、直ぐに身体をずらし道を開けてくれた。
「も、申し訳ありませんでした!まさかシェフィールド侯爵家の方とは知らずに無礼を……」
「良いよ。それより通ってもいいかい?」
「はい!どうぞお通り下さい」
脅かすつもりはなかったし、権力を振りかざすつもりもなかったけれど、この際許してほしい。
何はともあれ見張りにありがとうとお礼を述べ横を通り過ぎ、彼女のいるであろう部屋へと向かったのだった。
扉の前に立てば、少しばかり緊張してくる。だがここまで来てもう迷っている場合ではないと意を決し、扉をノックする。
「どうぞ」
直ぐに彼女の声が聞こえてきて、心臓が口から出そうな程動揺するが、それを無理やり押さえつけるようにして扉を開けると、そこには先程美しい舞を見せ人々を魅了したあの少女が少し疲れた様子で椅子に座っていた。
だが顔を上げ私の顔を見るなり彼女の表情が驚愕の者へと変わって行く。
「…貴方っ!」
「やあ、また会ったね」
驚くのも無理はないけれど、落ち着かせるように私は普段通り挨拶をして笑った。それに平常心で接しているけれど、正直なところ私も緊張していて気を緩めたら失神しそうだった……。
そんなところ彼女に見せられないし見せたくもない。だからこれでも今の私は必死だった。
私の心の内を知らない彼女は、驚きを隠せないまま急に椅子から立ち上がると私に近づいて来た。
「ど、どうして…?」
その質問に私は笑みを深めながら伝えようと決めていた、思っていた事を伝える。
「君に会いたかったから」
初対面の相手に失礼だ、と言われても良い。この気持ちは最早自分でも止められない。
彼女の事を一目見た時から彼女に目を奪われてしまっていたのだから。所謂一目惚れ、と言うやつだ。
彼女の質問に真剣に答えると、彼女は分かりやすく頬を赤くし、あからさまな動揺を見せる。
が、それは私もある意味同じで、自分の頬が熱くなるのを自覚していた。
「その後、なんだかんだ色々大変だったけれどしっかり告白をして、お付き合いを経て、今こうしてローザと、そして可愛い娘達と幸せに暮らしているのさ」
「ロマンチックですね」
「父様…なかなかやるじゃない」
話し終えるとエルは目をキラキラさせて、アメリアは見直した、と言わんばかりに私の顔を覗いてくる。
その会話中も当のローザはと言うと、ルカの淹れてくれたらしい紅茶を一人堪能していたのだが。
ただ紅茶を飲んでいるだけなのに絵になるのだから、私の妻は見目麗しい。
本当に今も昔も変わらない美しさ、そして性格も綺麗だ。誰もが羨む侯爵夫人なのだから。
いくら侯爵と言えど、ローザが私の告白に答えてくれた、と言う事が奇跡としか思えず、今更だが夢なのでは?と思ってしまう時があるくらいだ。
それ程に私は彼女に惚れこんでいると言う事なのだろう。
「それで父様、母様になんて言って結婚したのですか?」
「そうよ。肝心なところを聞いてないわ!」
娘達が興味津々に詰め寄ってくるのが可愛くて、つい教えてあげそうになるけれど……。
「すまないな。これだけはいくら可愛い娘達でも言えないな」
「えー!どうして?」
すまないね、と謝るもののアメリアはまだ少し不満そうだ。
「内緒なんだ」
それでもこれだけは私も譲る気はなく、そう言って人差し指を口の前に持ってくる。
すると今度はエルが助け舟を出してくれる。
「分かりました。これ以上は聞きません」
「エル、良いの?」
「はい。きっとこれは父様と母様、二人だけの秘密なのでしょうから」
エルはそう言い満足そうに笑って紅茶を口にした。
「そう、よね。私も少し興奮しすぎたわ。ごめんなさい父様」
「良かったわね、貴方?」
続いて納得してくれたらしいアメリアにホッとしていると、横から成り行きを見守っていたローザも一言付け加えてくる。
「ああ。ありがとう皆」
心優しい妻と娘達に感謝を述べ、私にもとルカが先程淹れてくれたばかりの紅茶を嗜んだのだった。
その夜の事。
「ねえディラン」
「なんだい?」
「本当はどうして教えてあげなかったの?」
不意に呟かれたローザの言葉は、昼間話していた私達の馴れ初めの話の事を指しているのだと直ぐに分かった。それを二人きりになった時に聞いてくるとは、相変わらずローザには驚かされる。
あの時言わなかったのは、いや、言えなかったのは……。
「…は、恥ずかしかったからだ。ローザが言う程格好いい告白でもなかっただろう?」
言ってしまった……。どうやってもローザには隠し事は出来ない運命に私はあるのだと、改めて思い知らされる。
はあ、と溜息を吐く私にローザは静かに笑い、
「そうかしら?私にとってはあの告白が人生で一番格好良くて大好きよ」
そう言った彼女は本当に嬉しそうに笑みを零した。その姿があの日の少女だった頃の彼女と重なり、懐かしい気持ちにさせられる。
「ありがとう、ローザ」
そんな彼女に私も笑った。
一夜のその短い間だけ、私達はあの日の少年と少女に戻ったように、ただただ無邪気に笑い合っていた。
彼女を目にした瞬間、彼女から目が離せなくなった。
私はディラン・シェフィールド。後に侯爵家を継ぐ者であり、その為に日々努力をしている。
跡取りが私一人しかいない事もあってか、父の期待は大きく、教育も厳しいものだった。
とは言え、その事に不満があったわけではなく、叱られる事は勿論あるけれど、しっかりとやるべき事をしていればそれなりに褒めてもくれる。そんな父を私は尊敬していた。
それでも時折感じてしまう息苦しい、窮屈だと思う気持ちは私がまだ子どもだからなのだろうか?
父に反発したいわけではないが、偶にで良い、外の空気を吸わせて欲しいと思う事はあった。
今まさにそんな気持ちで外へ出ていたら、人の賑わう声に誘われるようにしてその場所へと赴いていた。
…そう言えば今日は豊穣祭の日だったか。
その賑わいから祭りの事を思い出して、会場に集まる観客達を見回すと、彼らの視線はまだ誰もいない舞台の上へと注がれていた。
興味がそこまでなかったから知らないけれど、今年の舞姫はどんな子だったか?なんて事をふと考える。
確か噂では今年の舞姫は逸材だと言われていたような。
名家の伯爵家、その一人娘だとか言っていた気もするけれど。
名前は確か……。
そこまで考えた時だった。
会場が歓声に包まれ、それに釣られて舞台へと視線を向けると――。
「……女神?」
自分の口から無意識に零れていた。
その言葉通り女神と言っても引けを取らない程、美しい容姿をした自分と同じ年くらいの少女が舞台の上に上がっていたのだ。
肩が少し出るような衣装で、肌がそこまで露出しているわけではないのに、透き通るような白い腕と足がちらちらと見え隠れし、美しさと色っぽさが醸し出されている。
大人っぽさの漂う少女に、彼女の美しさに会場の誰もが目を奪われる。自分でも驚いたが、その中には私自身も含まれていた。
彼女は顔を上げ会場の人々を見回し、そして何事もなく曲が流れる……そう誰もが思っていた事だろう。
しかし彼女はそのまま固まってしまったかのように動こうとしない。それに観客達も気がつき始め、ざわざわと周りが騒がしくなる。
彼女の様子を見ていた私は演出なのか?と一瞬思ったものの、そう言う訳でもなさそうだと直ぐに判断し、そこからはまたしても自分でも驚きの行動をとっていた。
「大丈夫、落ち着いて!君ならきっと出来るよ!」
気づいた時にはそう声に出ていたのだ。ざわついているこの場からの声なんて届かないかもしれないのに、それでも言わずにはいられなかった。
届くはずないか、と一瞬諦めかけた、その時、私の声に彼女が反応を示したのだ。
私の声を辿るようにして彼女がこちらを見て、そして彼女と目が合った。
…頑張って…
目が合っているのを良い事に、すかさず次の言葉を伝える。と言っても声には出さずに、口の動きだけで思いを伝えて、そして少しでも緊張がほぐれると良いなと思い笑ってみた。笑顔は人を勇気づけられると何かで聞いた事があったから試したのだが…。効果あっただろうか……?
伝わったのか?と一瞬不安にもなったが、どうやらその心配はいらなかったようで、タイミング良く音楽が流れだし、それに合わせるようにして彼女が舞い始めたのだ。
表情も柔らかくなり、あれが彼女本来の顔なのだろうと想像できる優しい笑み。
クルクルと優雅に可愛らしく舞い踊る一人の少女に、ざわついていた観衆も声を漏らす事なく息を呑んでその舞を見ていた。
翡翠のような美しい髪が靡く度に、感嘆の声が何処からともなく漏れる。
舞に迷いはなく、振りを間違える事もなく終盤に差し掛かり、最後の時には満面の笑みを浮かべて本当に楽しそうに舞い、観客を魅了していた。
そして舞い終わった後に彼女が頭を下げるも、彼女に魅了された観客はただただ呆然としていて、会場が一瞬シーンと静まり返ったが、ハッと我に返ったらしい観客の誰かが拍手をし出すと次から次へと割れんばかりの拍手が彼女の舞を称賛したのだった。
沢山の拍手を受け取り嬉しそうに笑う彼女はやがて舞台の上から去って行く。その後を追うようにして、まだ歓声が鳴りやまない内に人々の間を縫うようにして進み、私もその場を後にした。
私が向かっている場所は今まさに舞姫がいるであろう控えの間だ。
「すみません、関係者の方以外立ち入る事は許されておりません」
その場所が目の前と言う所で、だがしかし思っていた通り、目的の場所には外部の人間を中にいれないよう見張りが立っていた。
と言っても想定内の事に動じる事はなく、近づくと堂々と名乗りを上げる。
「私はシェフィールド侯爵家の者なのだが。中に入れてもらえないだろうか?」
そう言い証拠として侯爵家の印である紋章を見張りに見せる。
するとそれを目にした途端、見張りは飛び上がりそうな程驚いたと思ったら、直ぐに身体をずらし道を開けてくれた。
「も、申し訳ありませんでした!まさかシェフィールド侯爵家の方とは知らずに無礼を……」
「良いよ。それより通ってもいいかい?」
「はい!どうぞお通り下さい」
脅かすつもりはなかったし、権力を振りかざすつもりもなかったけれど、この際許してほしい。
何はともあれ見張りにありがとうとお礼を述べ横を通り過ぎ、彼女のいるであろう部屋へと向かったのだった。
扉の前に立てば、少しばかり緊張してくる。だがここまで来てもう迷っている場合ではないと意を決し、扉をノックする。
「どうぞ」
直ぐに彼女の声が聞こえてきて、心臓が口から出そうな程動揺するが、それを無理やり押さえつけるようにして扉を開けると、そこには先程美しい舞を見せ人々を魅了したあの少女が少し疲れた様子で椅子に座っていた。
だが顔を上げ私の顔を見るなり彼女の表情が驚愕の者へと変わって行く。
「…貴方っ!」
「やあ、また会ったね」
驚くのも無理はないけれど、落ち着かせるように私は普段通り挨拶をして笑った。それに平常心で接しているけれど、正直なところ私も緊張していて気を緩めたら失神しそうだった……。
そんなところ彼女に見せられないし見せたくもない。だからこれでも今の私は必死だった。
私の心の内を知らない彼女は、驚きを隠せないまま急に椅子から立ち上がると私に近づいて来た。
「ど、どうして…?」
その質問に私は笑みを深めながら伝えようと決めていた、思っていた事を伝える。
「君に会いたかったから」
初対面の相手に失礼だ、と言われても良い。この気持ちは最早自分でも止められない。
彼女の事を一目見た時から彼女に目を奪われてしまっていたのだから。所謂一目惚れ、と言うやつだ。
彼女の質問に真剣に答えると、彼女は分かりやすく頬を赤くし、あからさまな動揺を見せる。
が、それは私もある意味同じで、自分の頬が熱くなるのを自覚していた。
「その後、なんだかんだ色々大変だったけれどしっかり告白をして、お付き合いを経て、今こうしてローザと、そして可愛い娘達と幸せに暮らしているのさ」
「ロマンチックですね」
「父様…なかなかやるじゃない」
話し終えるとエルは目をキラキラさせて、アメリアは見直した、と言わんばかりに私の顔を覗いてくる。
その会話中も当のローザはと言うと、ルカの淹れてくれたらしい紅茶を一人堪能していたのだが。
ただ紅茶を飲んでいるだけなのに絵になるのだから、私の妻は見目麗しい。
本当に今も昔も変わらない美しさ、そして性格も綺麗だ。誰もが羨む侯爵夫人なのだから。
いくら侯爵と言えど、ローザが私の告白に答えてくれた、と言う事が奇跡としか思えず、今更だが夢なのでは?と思ってしまう時があるくらいだ。
それ程に私は彼女に惚れこんでいると言う事なのだろう。
「それで父様、母様になんて言って結婚したのですか?」
「そうよ。肝心なところを聞いてないわ!」
娘達が興味津々に詰め寄ってくるのが可愛くて、つい教えてあげそうになるけれど……。
「すまないな。これだけはいくら可愛い娘達でも言えないな」
「えー!どうして?」
すまないね、と謝るもののアメリアはまだ少し不満そうだ。
「内緒なんだ」
それでもこれだけは私も譲る気はなく、そう言って人差し指を口の前に持ってくる。
すると今度はエルが助け舟を出してくれる。
「分かりました。これ以上は聞きません」
「エル、良いの?」
「はい。きっとこれは父様と母様、二人だけの秘密なのでしょうから」
エルはそう言い満足そうに笑って紅茶を口にした。
「そう、よね。私も少し興奮しすぎたわ。ごめんなさい父様」
「良かったわね、貴方?」
続いて納得してくれたらしいアメリアにホッとしていると、横から成り行きを見守っていたローザも一言付け加えてくる。
「ああ。ありがとう皆」
心優しい妻と娘達に感謝を述べ、私にもとルカが先程淹れてくれたばかりの紅茶を嗜んだのだった。
その夜の事。
「ねえディラン」
「なんだい?」
「本当はどうして教えてあげなかったの?」
不意に呟かれたローザの言葉は、昼間話していた私達の馴れ初めの話の事を指しているのだと直ぐに分かった。それを二人きりになった時に聞いてくるとは、相変わらずローザには驚かされる。
あの時言わなかったのは、いや、言えなかったのは……。
「…は、恥ずかしかったからだ。ローザが言う程格好いい告白でもなかっただろう?」
言ってしまった……。どうやってもローザには隠し事は出来ない運命に私はあるのだと、改めて思い知らされる。
はあ、と溜息を吐く私にローザは静かに笑い、
「そうかしら?私にとってはあの告白が人生で一番格好良くて大好きよ」
そう言った彼女は本当に嬉しそうに笑みを零した。その姿があの日の少女だった頃の彼女と重なり、懐かしい気持ちにさせられる。
「ありがとう、ローザ」
そんな彼女に私も笑った。
一夜のその短い間だけ、私達はあの日の少年と少女に戻ったように、ただただ無邪気に笑い合っていた。
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