幸せな人生を目指して

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第7章 Memory~二人の記憶~

38 守りたいもの…リカルドside

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今回も流血表現がありますので苦手な方はご注意ください!尚今回から注意喚起はこちらに書かせてもらいますので!

では大丈夫な方はどうぞ!







「リオ、終わったぞ」

力の入らないリオの身体を支えてやりながら呟く。

意識はまだあるけど疲労で上手く声を出せないようだ。リオは言葉の代わりに薄っすらと浮かべた笑みで答えた。

「お前も中々に強かったが今回は俺の勝ちな」

「う…ん…」

堂々と宣言するとリオは頷き素直に負けを認めた。だけど悔しそうな顔はしていない。
寧ろその顔にはすっきりしたと言わんばかりの笑顔が浮かび、感極まったのか涙が流れていた。


怒り、悲しみ、嫉妬。そんな気持ちを抱かずにまたこうして昔のように対等に話、向き合えるのが俺も嬉しかった。
リオの涙を見ていると涙もろくない俺まで泣きそうになるからそれはやめて欲しいが。
そう思うくせにそれを口に出せないのだから、俺も案外この状況に満足してしまっているのかもしれないな。


「リ……ド…」

「どうした?」

少し話すのも大変なはずなのに、何かを使えようとするその姿に、俺は咎める事が出来ずその代わり聞こえる様にと耳を傾けた。

「セド…ック…ちか……いる…」

必死に、だが聞こえるか聞こえないかギリギリのか細い声。それでもしっかりと伝わった。

――セドリックが地下にいる。そうリオは俺に教えてくれた。

「師匠…生きていたのか…。良かった…」

俺がこの国を追い出されてから一度も会う事ができなかった師匠。連絡を取る事も出来ずに生きているのかさえ分からなかった。

風の噂で王に反旗を翻したと聞いたが、その後の詳細は掴む事は叶わず、信じたくはなかったが最悪の想像をしてしまい俺は打ちひしがれる思いをした。

だからこそリオの教えてくれた事は俺にとって救いの言葉だ。


地下にいると言う事は少なくとも生きていると言う事だ。幸いにも命を取られる事はなく地下に幽閉されている、そう言う事だろうと察した。


本当に幸いだ。何はともあれ漸く師匠と会える。そう考えれば考える程嬉しくて仕方がない。


そうと決まれば早くリオを治癒して師匠を救出しに行かなければ。

「リオ待ってろ。直ぐに治す。ついでにオーガストもな」

その言葉に安心した様子で息を吐くリオを見た後、自力で起き上がりこちらに歩いてくるだけの体力がある様子のオーガストに視線を向ける。

全くあいつは。そう言えば、俺はどちらかと言うと貧弱(……自分で言っていて落ち込みそうになる……)の部類に入るが、オーガストは体格に恵まれていたし、その分体力もあったな。
しかも倒して倒れるような奴でもなかったから、平気だろうと思って放っておいたがあながち間違いではなかったな。

若干、苦悶の表情を浮かべているものの、昔のように今にも俺に掴みかかって来そうな戦意の目をしている。
リオとの死闘と魔物達の相手等で体力も魔力もそこまで残っていないこの状況だ。とてもじゃないが御免こうむりたい。
と言ってもオーガストもそれは理解しているだろうが。

それにしてもどいつもこいつも世話のかかる奴等だ。こいつらの世話係でもないのにそんな風に思ってしまった自分にもういっその事笑えてくる。



とまぁそれは良いとして。

「リリーシェ」

とりあえずリリーシェにもこちらに来てもらおう。彼女の治癒能力は凄かったが、彼女はそれをあまり使いたがらないようだからもしもがない限りは俺がリオ達を治癒するとしよう。ないとは思うがそのもしもがあった時の為に近くにいて欲しいだけだ。
傍にいれば何かあった時に咄嗟に助けられるしな。

そう思って彼女を呼んだのだが……。


「リド……」

リリーシェは怯えたように声を上げこちらを見ていて、その理由に俺は直ぐに辿り着いた。


「結界が……」

彼女が小さく呟く。


そう。のだ。


敵が展開した魔法。奴がいない今消えるはずのそれが、未だに俺とリリーシェの間に存在していたのだ。

それがどういう事か、そんな事は言うまでもなく。

つまり――……っ!



「結構良いところまで行ったと思ったけど、駄目だね。使えないね、やっぱり」

そう思った途端にやはり奴の声が聞こえてきた。耳に残るような何処か不気味な声が。



日が落ち暗闇が支配する庭園。月の光が注いでいたはずのそこは今また暗闇に包まれる。

奴の姿は見えない。ただ人を弄び喜んでいるようなその声だけが暗闇から聞こえてくるのみ。

緊張感が漂い俺は四方に視線を向けるもそこは暗闇だ。知らず知らずのうちに頬に汗が伝う。


「失敗作はもういらないよね。じゃあ……死ね」

心臓を凍り付かせるような冷徹な声音。

その瞬間、俺に、いやリオに向かって凄い勢いで迫ってくる魔力の反応を感じとり、振り返った時にはもう目の前にまでそれは迫っていた。


その時には考えるよりも早く俺の身体は動いていた。


防御魔法を発動している時間はなかった。発動できたとしても今の俺では防げないと分かる。
だからと言って何もしなければ俺だけでなくリオまで終わりだ。
それだけは阻止したい。その一心で俺は俺自身に身体強化魔法を施す事にした。

防御魔法を展開するよりも自身にかける身体強化魔法の方が発動が早い。それを利用しての判断、行動だった。

素早く魔法を展開し、それから俺は咄嗟とも言える動きでリオに覆い被さる。

衝撃、そして鋭い痛みが身体を駆け抜けたのはそれと程同時だった。

「がはっ…!!」


口から血が吐き出される。身体から血が流れる。止めどなく流れる沢山の血。

暗くてはっきり捉えられなかった奴の攻撃。
良く見ればそれは氷柱のような鋭利なもので、その太く固い剣のようなそれが今、自分の腹に突き刺さっていた。


「リ…ド……?」

身体強化魔法のおかげでリオにはその攻撃は届いていない。ただただ呆然と俺を見ていた。
その様子に怪我がなくて良かったと、何処か冷静に思ってしまった。

冷静に思うのだが、痛みは治まらない。寧ろ徐々に増してきている。


「リド…ッ!!!」

その痛みで遠くなりそうな意識の中、最愛の人の悲痛な声が聞こえた。
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