幸せな人生を目指して

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第7章 Memory~二人の記憶~

37 取り戻した絆…リカルドside

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真っ直ぐに斬りこんでくる剣を自分の剣を上手く使って横に流していく。
その後直ぐにこちらも剣先を向け放つも、高まった身体能力のせいで軽々と交わされてしまう。

剣を振りかざし受け止めまた攻撃を繰り出す。その繰り返しだった。


「はぁ…はぁ……。強くなったな、リオ」

俺が国から離れている少しの間にこんなにも腕を上げているとは思わなかった。
元から素質はあったがそれでもここまでではなかったはず。
恐らくはあの負のオーラが身体能力を上げているのだろうが、それでも基本がなっていなければ俺とここまで渡り合えはしなかっただろう。


……そんな力に頼らなくても俺は相手になってやるのにな。


本心はそうだがでももう遅かった。今の俺が何を言ったとしてもリオには届かない。

……いや、彼の心を揺さぶる程度は出来るか。その先は俺の剣術次第だが。


グッと剣を強く握りしめ構える。

「なあリオ。その剣術中々だな。俺と互角だ」

俺は王宮魔法士として名を馳せていたが、剣はからっきし、と言う訳でもない。
セドリック――師匠に弟子入りまでして剣術を学んだくらいだしな。そしてそれをリオに教え指導したのはこの俺だ。

つまり成長しているとはいえ、いくらかは動きが読めると言う事になる。いくら身体能力が上がっていたとしても一瞬でも隙が出来れば勝てる見込みはある。


「悔しそうな顔するなよ。お前は確かに強くなった。だけどな、その剣を教えたのは俺だ。大体分かるんだよ」

それにリオは俺を殺す事が目的のようだが、俺はまだ死ぬわけにはいかないんでな。
師匠と呼ばれる程でもないけど、あいつに剣を教えた俺が負けるわけにはいかないんだ。

まぁ俺は負けず嫌いでもあり、それ以上に男と男の喧嘩で負けるなんて俺のプライドが許さない。


リオの負けず嫌いな節があるが、正気を失っている今もこうして俺の前に立っている。
だとしても負けず嫌いだろうが俺が勝ち、力の差をはっきりと見せつければ正気に戻る可能性がある。

今はその可能性に欠けてみる他ない。

だからと言って長引くのも良くはないな。長く負のオーラに支配されていると、その体にまで害が及ぶと言われているから出来るだけ早急に済ます必要がある。

リオの体がもたなくなる前に止めるには、もう次の攻撃で決めるしかない。

その覚悟で剣を持つ。


「リオ、お前もこの状況がおかしいって本当は思っているんだろう?俺が敵ではないって事を」

怒りを買おうが、拒絶しようが良い。今はとにかくリオに話しかけるんだ。挑発するように、揺さぶるように。一瞬の隙をつくる為に。

「うるさい」

俺の言葉に拒絶ではあるもののリオが反応を示してくれた。

まだ完全ではないにしろ、負のオーラに侵食されつつあるリオは意識が朦朧としているのだろう。そんな中でそれでも俺の言葉に反応を示すと言う事はまだ少し時間がある。

ここで畳みかけるか。

「あの時は傍にいて守ってやれなくてすまなかった。本当に……。でもまたお前とこうして生きて会えて俺は嬉しかった。俺はもうお前と戦いたくはない。だから…もう終わりにしよう」

スラスラと口から出る言葉。でもこれは俺の本心。本当はこんな事になってしまう前にリオに伝えたかった言葉の数々。

「うるさいっ」

それでも拒絶されるのは変わらない。だけどほんの一瞬、言葉が震えた気がした。心が乱れ始めているんだ。
……ここまでくればもうあと一押しか。

「リオッ!お前の敵は直ぐそこにいるだろう!俺と一緒に倒そう。また昔みたいに一緒にっ、だから早く戻ってこいっ!」

「うるさいっ!!」

リオが拒絶し叫ぶ。その時に一瞬だけ隙が出来た。

…今だっ!

その一瞬を逃さないよう間合いを瞬時に詰める、がしかし気配を察したのかリオの振るった剣が迷いなく俺に迫ってくる。

動揺してと言う事もあってか剣に迷いがある。太刀筋がぶれたのを逆手に取り、俺を切り裂く寸でのところで体を捻って交わし、彼の背後へと回り込む。
背中を取った、と思った直後、またも剣が目の前に迫って来ていた。

無駄のない動きで確実に背後に回れたと思っていたが、それ以上にリオの体の動きが早い。その驚くべきスピードに目を疑ってしまったが直ぐに考えを切り替えると、俺も剣を振るってリオの剣を受け止め応戦した。

剣と剣をぶつけ睨み合う。だが長くはもたない。今、力ではリオの方が俺に勝っているんだ。力の限り抑えてはいるものの、徐々に俺の方が押されている。

……このままだと押し負ける。これで負けてしまったらリオは正気に戻ってくれない。それに………また彼女に悲しい顔をさせてしまう。
俺が無茶をすると彼女は決まって泣きそうな悲しい顔をする。そんな顔をさせたいわけではないのに。

俺が守ると言っておきながら守られているのは本当は俺の方だった。


首にかかるペンダント。これも彼女にとって大切な母親の形見のはずなのに、お守りだからと言って俺に渡したんだ。

彼女は自分が足手纏いだと言っていたが、そんな事はない。彼女は俺の心の支えだ。

一人でこの国を出て、旅をして、彼女に会うまでの間、正直のところ心細かった。
リオを守れなかったという罪悪感で助けを乞う事も、そんな俺を助けてくれるような人もいなかった。

その弱い心を誰にも悟られないように奥深くに沈めて一人歩き続けた。その顔に笑顔を浮かべて。

そんな時に偶然出会ったのがリリーシェだった。
彼女は一人ぼっちで月が昇る夜空を見上げていた。珍しいアメジスト色をした瞳が少し揺らいで儚く見えた。

彼女はどこか俺と似ているような気がして。そんな彼女と話がして見たくなった。
と言っても俺の気配を察した彼女の方が先に話しかけてきてしまったんだけど。

彼女は思っていたよりも明るく、起こる事も有ったが何かと優しかった。その彼女に俺は一目惚れをしたと告白をしたが、彼女は疑いの目で俺を見た。

一目惚れなんて俺でもにわかには信じがたいものだけど、それでもこれは本当に一目惚れだったんだと今でも思う。

それと同時に彼女を守りたいと、この先も傍に寄り添い一緒にこの世界を生きて行きたいと強く思った。

その為に実の父である国王にまで喧嘩を仕掛け、代償はあったものの彼女を自由にする事が出来た。

俺の勝手なお願いにも彼女は快く頷いてついて来てくれて、そして俺の気持ちにもこたえてくれた。

俺の話を聞いても力になろうとしてくれた。そして今もこうして傍にいてくれる。
彼女は何もしなくて良い。ただ傍にいてくれるだけで俺にとっては十分だった。


ずっと幸せそうに楽しそうに笑っていてほしい大切な人。彼女が悲しそうに泣くのは見たくない。


だから、この決闘も負けるわけにはいかない!



力強い剣に押される。

リオの気持ちも力も強いって事はもう十分に分かった。受け止める。
だからもう終わりだ。

深呼吸をし呼吸を整え、腕に力を入れる。片足で踏ん張り、そしてもう片方の足を一歩踏み出す。


「リオ、俺はお前には絶対に負けない!!」

その言葉と共に体を鼓舞し気持ちの勢いで対抗する。


どこから沸くのか自分でも不思議だが、これが世に言う火事場の馬鹿力と言うものかもしれない。彼女の事を思ったら力が湧くんだ。

「はああぁぁぁっ!!!」

その力でリオを押し返し、そして思い切り、勢い良くリオの剣を弾く。衝撃でリオの手から剣を弾き飛ばす事に成功し、剣は宙を舞いそのまま落ち地面へと深々と突き刺さった。


「はぁ…はぁ…」


上手くいった…後は……。


驚愕の表情を浮かべるリオ。俺は息も絶え絶えでその様子を伺い見た。

だが、まだ終わりではない。


今起きた出来事にリオはまだ対応が出来ていない。
今の内に彼に纏わりついている負のオーラをどうにかしなければならない。

ウルティナがしていたように光を使えば浄化が出来るのか定かではないし、精霊が使うものほど強力ではないが一つ試してみる価値はある。精霊の力に一番近いであろう魔法を。


固まったまま立ち尽くすリオの肩に構う事なく自分の手を置き、一度深呼吸をしてからその呪文を唱えた。

「セイクリッド・リュミエール」

光の魔法。或いは浄化の魔法。どちらにしろ高度で繊細な魔法だ。

その効果は使い手によって変わり、正しく使うことが出来たならば、その効果は強大なものとなる。

俺はどうやら正しく唱え、正しく使えているらしい。その証拠に発動した途端、目が眩むほどの光が溢れだしたのだから。

これは神聖な光だ。その光がこの場の邪悪で禍々しいオーラを瞬く間に浄化していく。



その光は全ての負のオーラを浄化すると段々と弱まり、やがて跡形もなく消えていった。


負のオーラから解放され、穏やかな顔をしたリオがそこにいた。

「リ、ド……ごめん……」

掠れた声で呟いたリオの身体が傾いた。

「リオッ!」

咄嗟に手を出し地面に倒れる前に抱き留める。

「ご…めん……。ちから…はい、らなく…て……」

苦しそうなのに謝るリオに俺は首を振った。

「今まで力入れすぎてたんだ。少しくらい力抜いても良いだろ?だから謝るなよ」

息も絶え絶えにこちらを見つめるリオに安心させるように笑う。

命に別状はないようだが、あの負のオーラに長く憑かれていたせいで肉体的にも精神的にも疲労が大きいようだ。
リオの言う通り指の一本すら今の彼には動かせないようだった。

だけど……。俺は嬉しいと思ってしまうんだ。

ようやく友人に会えた。俺の唯一の親友が戻って来てくれたのだから。


俺も先程使った高難度の魔法で魔力があまり残っていないし、お互いもうボロボロだったが。



「…殿下……」

そんな中小さな声が聞こえてみてみれば、傍観を決め込んでいたオーガストが苦悶に表情を浮かべ、今にも倒れそうになりながらも俺に抱えられたリオを心配していた。

どうやらあいつも憑かれていたようだな。道理で王宮魔法士である彼まで話を聞いてくれないわけだ。

だとしても彼ほどの者を負のオーラを利用していたと言っても操る事が出来た謎の黒ずくめの人物。
あいつは何者なんだ。

辺りを見回してもいつの間にかそいつの姿は見られない。一体どこへ……?

終わったのか…?


「リド!」

ふわりとした声が俺を呼ぶ。その声に俺は彼女へと顔を向けた。

「リリーシェ…」

そして俺も彼女の名前を呼ぶと、彼女は花が咲き誇ったような笑みを浮かべたのだった。
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