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第7章 Memory~二人の記憶~
36 望まぬ決闘
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「本気なんだな?」
「勿論。さぁ早く剣を取って」
王子の言葉にリカルドは暫く地面に落ちている剣を見つめた後、ゆっくりと剣を手に取る。
そしてその矛先を王子へと向けた。
「待って!やめて二人とも!」
今にも斬りかかろうとする二人を私は必死に止めようと声を張る。その声にリカルドがこちらを振り返らずに答えた。
「俺も出来れば戦いたくはないんだが、そうもいかないみたいなんだ」
「どう言う事…?」
苦しそうに告げるそれは単にこの場から逃げる事が出来ない、と言うだけではなさそうだ。
「リリーシェもおかしいと思っているんだろう?どうしてあいつの傍にリオがいるのか。そしてあいつがいる事に何も違和感を感じていないのか」
「それは…」
確かにその事に関してはおかしいと思っていた。それに王子の命を狙ったと言うリカルドらしい裏切り者。それはきっとあいつがやった事だ。
「それにあいつは俺に化けてリオを殺し、あたかも俺が王子を殺したかのように仕立て上げようとした。リオを殺そうとしたのは俺じゃないって普通に考えれば気が付くはずだ」
それには私も同感する。そうだとすれと全ての辻褄が合う。
だからこそ、この状況は変だ。
剣を向けるべき相手はリカルドじゃないのに、それでもなお決闘をしようとしているの?
それと気になっていたけれど、王子から魔力のように溢れ出る黒いオーラ。あれってもしかして……。
「リオの周りに蔓延る黒いオーラ。あれは負のオーラ。つまり今のリオは負の感情に支配されているんだ。そしてこうなるように仕組んだのはあいつだ」
「操られているって事……?」
私の問いにリカルドは首肯し、今も不気味な笑みを浮かべ様子を楽しんでいる元凶の人物へと目を向けた。
彼の静かな怒りが伝わってくる。
「リド、どうするの?」
「リオは俺に裏切られたと勘違いをしてその事に深い絶望と怒りを抱いていた。その負の感情を利用されているだけだ。それなら誤解を解いてやれば恐らくは正気に戻るはずだ」
「出来るの…?」
「簡単じゃないが俺が何としてでも正気に戻して見せる。…と言っても今のリオには言葉だけじゃ届かないみたいだけどな」
言葉が届かない。そんな相手に剣で向かって行って果たして気持ちは届くのかと不安な気持ちが募る。
しかしリカルドはこちらを振り返って言った。
「心配しなくても大丈夫だ。男には言葉だけじゃなくて時には拳で、剣で語り合う時があるんだよ」
私の心を見透かしたようにそう言うと笑った。どうして彼はいつも言ってもいないのに、私の考えている事が手に取るように分かるのだろう。知らず知らず意思疎通をしているみたい。それとも単に私が分かりやすいだけなのか。
「分かったわ。気を付けて」
どちらにしろ私は彼を信じている。彼が自信に満ち溢れた顔をしているのだから大丈夫なんでしょう。
任せてくれと言うリカルドの覚悟を受け取った私は頷き返し、それを見た彼はもう一度王子に視線を戻した。
ここから先、私が立ち入る事は許されない。これは彼ら二人の戦い。
それでも、出来る事ならどちらも無茶はしないで欲しい。
「話は終わった?じゃあ行くよっ!」
その声と同時に王子は一気に距離を縮め、リカルドに容赦なく剣を振るう。
リカルドはそれを真正面から自分の剣をぶつける事で止め、その衝撃でキィンと剣と剣がぶつかり合う音が反響した。
「目を覚ませ!お前はあいつに利用されているんだ!」
「……」
「俺は敵じゃない!」
「うるさい、うるさいっ、黙れっ!!私の敵はお前だっ!!」
剣だけでなく言葉でも王子に呼びかけるリカルド。けれどそれを拒絶するかのように王子に纏っていた黒いオーラが更に濃くなり、それに比例するように剣を持つ王子の力が強まったような気がする。
そしてその力に押し負けるような形でリカルドは剣ごと弾かれてしまった。
「くっ…!」
その衝撃で大きく後ろへと押し返され、バランスを崩したリカルドは空中で一回転する事で体制を正し、何とか地面へと着地する事に成功する。
魔法に優れているリカルドだけど、彼が優れているのはそれだけじゃない。彼は自身の身体能力も高い。
ルリアーナに匹敵するとまでは行かないが、それでも目を見張る速さ、俊敏さを兼ね備えている。
魔法を使わず剣と自身の動きだけでの決闘にそれが役に立っているようで、負のオーラで力が倍増しているらしい王子とも互角に戦えていた。
信じてはいる。信じてはいるが、それでも見ている側としてはハラハラしてしまうし、森で負った傷ももう治っていると言え、やはり心配してしまうのは仕方のない事だった。
「勿論。さぁ早く剣を取って」
王子の言葉にリカルドは暫く地面に落ちている剣を見つめた後、ゆっくりと剣を手に取る。
そしてその矛先を王子へと向けた。
「待って!やめて二人とも!」
今にも斬りかかろうとする二人を私は必死に止めようと声を張る。その声にリカルドがこちらを振り返らずに答えた。
「俺も出来れば戦いたくはないんだが、そうもいかないみたいなんだ」
「どう言う事…?」
苦しそうに告げるそれは単にこの場から逃げる事が出来ない、と言うだけではなさそうだ。
「リリーシェもおかしいと思っているんだろう?どうしてあいつの傍にリオがいるのか。そしてあいつがいる事に何も違和感を感じていないのか」
「それは…」
確かにその事に関してはおかしいと思っていた。それに王子の命を狙ったと言うリカルドらしい裏切り者。それはきっとあいつがやった事だ。
「それにあいつは俺に化けてリオを殺し、あたかも俺が王子を殺したかのように仕立て上げようとした。リオを殺そうとしたのは俺じゃないって普通に考えれば気が付くはずだ」
それには私も同感する。そうだとすれと全ての辻褄が合う。
だからこそ、この状況は変だ。
剣を向けるべき相手はリカルドじゃないのに、それでもなお決闘をしようとしているの?
それと気になっていたけれど、王子から魔力のように溢れ出る黒いオーラ。あれってもしかして……。
「リオの周りに蔓延る黒いオーラ。あれは負のオーラ。つまり今のリオは負の感情に支配されているんだ。そしてこうなるように仕組んだのはあいつだ」
「操られているって事……?」
私の問いにリカルドは首肯し、今も不気味な笑みを浮かべ様子を楽しんでいる元凶の人物へと目を向けた。
彼の静かな怒りが伝わってくる。
「リド、どうするの?」
「リオは俺に裏切られたと勘違いをしてその事に深い絶望と怒りを抱いていた。その負の感情を利用されているだけだ。それなら誤解を解いてやれば恐らくは正気に戻るはずだ」
「出来るの…?」
「簡単じゃないが俺が何としてでも正気に戻して見せる。…と言っても今のリオには言葉だけじゃ届かないみたいだけどな」
言葉が届かない。そんな相手に剣で向かって行って果たして気持ちは届くのかと不安な気持ちが募る。
しかしリカルドはこちらを振り返って言った。
「心配しなくても大丈夫だ。男には言葉だけじゃなくて時には拳で、剣で語り合う時があるんだよ」
私の心を見透かしたようにそう言うと笑った。どうして彼はいつも言ってもいないのに、私の考えている事が手に取るように分かるのだろう。知らず知らず意思疎通をしているみたい。それとも単に私が分かりやすいだけなのか。
「分かったわ。気を付けて」
どちらにしろ私は彼を信じている。彼が自信に満ち溢れた顔をしているのだから大丈夫なんでしょう。
任せてくれと言うリカルドの覚悟を受け取った私は頷き返し、それを見た彼はもう一度王子に視線を戻した。
ここから先、私が立ち入る事は許されない。これは彼ら二人の戦い。
それでも、出来る事ならどちらも無茶はしないで欲しい。
「話は終わった?じゃあ行くよっ!」
その声と同時に王子は一気に距離を縮め、リカルドに容赦なく剣を振るう。
リカルドはそれを真正面から自分の剣をぶつける事で止め、その衝撃でキィンと剣と剣がぶつかり合う音が反響した。
「目を覚ませ!お前はあいつに利用されているんだ!」
「……」
「俺は敵じゃない!」
「うるさい、うるさいっ、黙れっ!!私の敵はお前だっ!!」
剣だけでなく言葉でも王子に呼びかけるリカルド。けれどそれを拒絶するかのように王子に纏っていた黒いオーラが更に濃くなり、それに比例するように剣を持つ王子の力が強まったような気がする。
そしてその力に押し負けるような形でリカルドは剣ごと弾かれてしまった。
「くっ…!」
その衝撃で大きく後ろへと押し返され、バランスを崩したリカルドは空中で一回転する事で体制を正し、何とか地面へと着地する事に成功する。
魔法に優れているリカルドだけど、彼が優れているのはそれだけじゃない。彼は自身の身体能力も高い。
ルリアーナに匹敵するとまでは行かないが、それでも目を見張る速さ、俊敏さを兼ね備えている。
魔法を使わず剣と自身の動きだけでの決闘にそれが役に立っているようで、負のオーラで力が倍増しているらしい王子とも互角に戦えていた。
信じてはいる。信じてはいるが、それでも見ている側としてはハラハラしてしまうし、森で負った傷ももう治っていると言え、やはり心配してしまうのは仕方のない事だった。
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