幸せな人生を目指して

える

文字の大きさ
上 下
133 / 227
第7章 Memory~二人の記憶~

34 襲来する魔物

しおりを挟む
「ま、魔物って……、それは伝説上の存在のはずじゃ……っ」

リカルドの言葉に唖然とそう呟く。

だって伝説上の良きものだって言われていた存在よ?まさかここに来てそんな存在とご対面だなんて……。とてもじゃないけれど受け入れられそうにない。


しかも黒く邪悪なオーラを纏ったそれが群れになって、津波のように押し寄せて来ている……。

「信じられないかもしれないがこれが現実だ。魔物は存在している」

理解が追い付かないけど、もうこの光景を見たら信じざるを得ないのもまた事実。彼の言う通りだわ。

「だけどこの数はおかしい。いくら理性がないと言ってもこの数を一つの場所になんて……。誰かの仕業としか考えられない……、まさかっ!」

「リドッ!?」

何かを思いついたのか、一人考え込んでしまっている様子のリカルドに私は必死に呼びかける。

「すまないっ、今は考え事をしている場合じゃなかったな」

ハッと我に返った彼は私に謝ると目の前の脅威へと目を向けた。

「もう、危機感のない坊やね」

そんなリカルドにウルティナも呆れた表情だ。

「悪かったって。それにしてもあいつら数が多いな。逃げ切るのは無理そうだな。それに王国の魔法士達もいるしな」

「面倒だけど迎え撃つしかなさそうね」

未知の脅威に私は足が竦みそうなのに、二人はやっぱり冷静だった。
そして――

「そうと決まれば、行くぞっ!」

「えぇ!」

リカルドの声と共に私は手を引かれて戦場へと飛び出した。
驚いた私の隣では余裕の笑みと可愛らしくウインクを見せるウルティナ。大丈夫よ、そう言われているようで何だかホッとする。


「ここで火は使えないな。なら氷だ。コンジェラシオンッ!」

彼の唱えた魔法は氷結魔法。主に地面を凍らせ、相手の動きを封じる事に使うもの。だけど――

「す、凄い…っ」

氷は真っ直ぐこちらに突進してくる魔物の足元を凍らせるだけでなく、一瞬にしてその体全てを凍らせてしまったのだ。それも目の前にいた数十頭の魔物を一気にだ。

この魔法って足止めだけじゃなくて、相手そのものを凍らせてしまう事も出来るのね…。
本当に圧巻だわ…。

「ウルティナ頼む!」

「任せて頂戴」

凍った魔物達に目を奪われていると、一筋の光が電光石火の如き速さで駆け抜けていく。追撃と言わんばかりのそれは、見事魔物に直撃すると爆発したように光が辺り一面に飛び散っていった。

光を司るウルティナの攻撃。自身でも言って言るように、強力な力を誇る彼女の攻撃は一撃でも凄い威力だ。

「精霊って言うのはこんなにも凄いもんなんだな」

「ふふふ。褒めても何も出ないわよ」

一部始終を見ていたリカルドは称賛の声を上げた。それにウルティナは内心嬉しいだろうにそれを隠す様に、えっへんと胸を張って得意げだった。

「魔物相手なら光を司る私の力は相性抜群なんだから」

確かに彼女の言う通り、本には魔物は光に耐性があまりないと記されていたはず。もしもその通りならばウルティナの光の力が魔物には効果的なのかもしれない。
魔物は瘴気と呼ばれる負のオーラを放ち、それを触ってしまうと病にかかってしまったり、更に瘴気が濃くなればその土地は荒れ果て花も咲かなくなってしまうとまで言われている。

負のオーラは前にも話したように人からも出ているもの。だけど魔物の持っている瘴気はそれとは比べ物にならないくらいの害が生じると言う。

つまりウルティナの浄化の炎ならぬ浄化の光を持ってすれば、魔物の放つ瘴気を清められると言う事になる。

「流石光の精霊と言った所だな」

「そんなに褒められたら照れてしまうわね」

彼の褒め言葉に心底嬉しそうにウルティナは微笑んだ。

「とは言ってもまだまだだ。次がもう来ている」

ホッとしたのも束の間、目の前の脅威をリカルドは鋭く睨む。
先程一掃したはずのその場所には、また新たに現れた魔物達が群れになってこちらに押し寄せて来ていた。

まだ終わっていはいない。そう私も表情を引き締めるのだった。



「それにしても数が多いわね。このまま戦っていてもきりがないわよ。それに…」

「きゃあぁぁっ!」

「くそっ、なんなんだっ!こいつらは!!」

周りには未だ判断が追い付いていない様子の魔法士達が、迫ってくる魔物達と対峙をしている。魔物を倒す事に精一杯のようで、私達に構っている余裕はないみたいだ。

しかも使っている魔法が風や水と言ったものばかりで、突進してくる魔物達を少し退けているだけに過ぎない。
これではまた直ぐに体制を整えて襲ってくる。

魔法士と言えども皆が皆とても優れているのではないようだ。

「全く魔法士ともあろう奴があれじゃ戦況は悪くなる一方だな。仕方ない、面倒だがあいつらを先に避難させるか」

「そうね。先程から喚いてやかましいもの」

ウルティナ…それはそんな笑顔を浮かべて言うものじゃないわよ。思わず心の中でそんな突っ込みを入れる程清々しい笑みだった。

「リリーシェ、すまないがここで待っていてくれ」

「え…?」

「不本意だが今からあの魔法士達を助けに行ってくる。大丈夫だ。周りに強力な結界を張っておくから。それにその中にいた方が安全だ」

頼む。そう真剣な顔で言われてしまい、これでは断るにも断れない。それに魔法がろくに使えない私は戦力にはならない。こればかりは仕方がないわ。

「分かったわ。……あっ、リドちょっと待って!」

「どうした?」

その場を離れようとするリカルドを私は慌てて引き留めた。そんな行動に彼は首を傾げる。

「これ…持って行って」

「これは…」

「お母様の形見よ」

そう言って自分の首にかかっていたものを外し見せる。
引き留めてまで渡したかった物、それは私の宝物でもあるお母様から頂いたペンダント。

お母様が亡くなる前に私にくれた物で、頂いたその日から今日まで肌身離さす持っていた。
このペンダントは今はもういないお母様を感じさせてくれる唯一の形見。私のお守りだ。

でも――

「良いのか?そんなに大事なものを俺に渡して」

「えぇ。お守りとして貴方に持っていて欲しいの」

今はリカルドに持っていて欲しい。

魔法がかかっていて何か効果を発揮する、というものではない普通のペンダントだけど、なんだかお母様が守ってくれるような気がするから……。

「分かった。ありがとうな」

そう言い彼はペンダントを受け取り早速首にかけてくれて、アメジストの水晶が首元で輝いていた。

「それじゃ行ってくる」

「えぇ。二人も気を付けて」

「あぁ、直ぐに終わらせて来るよ。ウルティナも頼むな」

「仕方ないわね。リリちゃんごめんなさいね。少し離れるわね」

そう言うと二人は直ぐにその場から離れて行ってしまった。それと同時に私の周りには先程言っていた結界が張られた。

そんな中私は無事を祈りながら二人の背中を見送ったのだった。






それから暫くすると魔物の数が段々減ってきて、きっと二人が頑張ってくれているのだろうと思い心から感謝した。

それに気になっていたんだけど、先程からこの場所にいるのに魔物が襲ってこない。
結界が強力である為壊せないと、もしかしたら本能で感じたのかもしれない。だとしたら私にとっては本当にありがたい事だ。


そんな事を思いながらふと先の方を見たら、そこにリカルドとウルティナ、二人の姿が見えた。その事に心底ホッとして息を吐いた、その直後。

「まだ残っていたのかい?」

面倒臭そうに吐き捨てる声が自分の背後から聞こえてきて、私は反射的に振り返った。
するとそれとほぼ同時に私を守ってくれていた結界がいとも簡単に壊れてる音が聞こえてくる。

…えっ!?

一瞬の出来事に状況を理解する間もなく、体も動かない。まるで地面に足が縫い付けられてしまったかのように。

そして壊れた結界越し、その先に黒い人影が浮かび上がった。
けれど辺りが暗くて顔等は良く見えない。

「運の良いお姫様だ。でもこれで終わりだね」

私の見ている先にいる人物からだと思われる声がした次の瞬間。

「……っ!!」

突然目の前に魔物が現れたのだ。今までいなかった魔物が、何処から現れたのかと思う程一瞬にして目の前に現れた。
それは先程からこの一帯に蔓延っていた魔物と同様、禍々しい瘴気を纏い、今にも私に襲い掛かってこようとしていた。

「君の可愛さに免じて痛くないよう、一瞬で終わらせてあげるね」

また声がして、まるでそれが合図だったかのように魔物が飛び掛かってきた。

その余りの恐怖に声も出ない。

「リリーシェッ!!」

「リリちゃんっ!!」

二人の必死に呼ぶ声が聞こえるけど、もう間に合わないだろう。

そう思い、私は来るであろう衝撃を耐える様に目をぎゅっと瞑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...