幸せな人生を目指して

える

文字の大きさ
上 下
130 / 226
第7章 Memory~二人の記憶~

31 裏切りと復讐…エリオットside

しおりを挟む
リカルドの放った言葉に私は唖然とした。息が詰まりそうだった。

……今、なんて?私を……殺す……?そう言った……、どうして……?

「どうしてって顔してるけど、教えないよ。これから死ぬ人間に教えたって時間の無駄だからな」

どうしてだろう。目の前の人物は間違いなくリドの姿をしているのに、普段の口調と少し違うような…。

こんな時だって言うのに、脳が判断を放棄したように、もう考えたくないと言うように場違いな事を思考してしまう。
人間はとてつもない絶望感、その淵に立たされると考えを放棄してしまうのだろうか?
今まさにこの現実から逃げ出そうとしている自分がいるのだから恐らくそうなのだろう。



……それに考えたくないけど、リドは私を殺すと言った。それはつまり………、裏切り……と言う事?
……親友だと…思っていたのに………っ!

「そんな……、どうしてだよっ!リドッ!!」

「だから教えないってば。うるさいから黙って」

私の叫ぶ声はリドの心までは届かなかった。面倒臭そうに彼が言葉を吐き出すと、

「……え?」

次に目を開けた時には世界が歪んでいた。


歪んだ世界でも目の前には変わらずリドがいて、何故か片方の手から魔法が発動された名残があった。

そんな状況に私は困惑するしかなかった。

……何、これ……?

そして自分の目の前に赤い血が花びらのように舞う。

これ…私の…?

そう思い、そっと自分の手を腹の方へ持っていくと、ヌルっとした感触。
…え?と不思議に思いながら見てみると……自分の腹が真っ赤な血で染まっていた。

そしてそれを見た瞬間、今まで感じていなかった痛みが私を襲った。激痛だ。
余りの事に立っていられなくなってその場に倒れ込む。

……痛いっ、痛いっ!!

今までに経験した事のない痛みに悶え、息もまともにする事が出来なくて苦しい。

「あぁ、ごめん。一回で死ねなかったか。でも大丈夫。次で終わりだから」

「………」

何かの壊れる音がした。ガラスが割れて粉々になってしまうように、彼の一言で私の心が粉々に壊されてしまったような音。

「じゃあね」

意識が朦朧として体が動かせない中、彼の死の宣告を告げる声が聞こえて、もう終わりだと重たい瞼を下ろそうとした時、

「殿下っ!!!」

朦朧とした意識の中で微かに、だけど必死に私を呼ぶ声が聞こえた。オーガストの声だ。

そして何故か声がしたのと同時に、直ぐ近くに感じていたリドの禍々しい気配が遠ざかって行った。

「お前…一体これはどう言う事なんだっ!!」

「チッ…。後少しだったのに、面倒なのが来た」

そんなやり取りを遠くなる意識の中、ただただ聞いている事しか出来ない。

「はぁ、ここは一旦引くとしようか。それじゃ、またね。リオ」

「待てっ!!リカルドッ!!」

その会話を最後にリドの声は聞こえなくなり、変わってオーガストが焦った声を上げる。

「くそっ!どうしてこんな事に……」

オーガストの嘆いている声がするが、少しだけ開いているこの瞳でも、その姿がぼやけてしまって良く見えなかった。
私の様子を懸命になって見てくれているようだけど、そんな必死な彼は想像が出来ないなと失礼ながら思ってしまう。

「くそ、腹に穴が…、出血も酷い…っ、急いで治療しなければ……っ!」

その声と同時に体が浮き、私を抱き上げてくれているのだと察した。
私を抱き上げたオーガストはそのままどこかへと向かって走り出したが、私の記憶はそこで途切れ、その先の事は覚えていなかった。


この時私は初めて死の恐怖を間近に感じたのだった。




その後、また命を狙われないためになのか、オーガストによって城の外へと連れ出された私は、外の安全だと彼の言う場所で治療を受け、奇跡的にも命を取り留める事が出来た。

命を取り留めたものの、それを喜んでいる暇はなかった。
傷が自分で思っていたよりも深かったらしく、意識が戻っても暫くの間、思うように体を動かせず辛い日々を過ごしたのだ。
上手く体が動かせないと言うのは本当に苦痛だった。
けれどオーガストが傍にいてくれて、必要な時に手を貸してくれて、その支えのおかげで何とか自力で歩けるまでに回復を果たした。

そこからの回復は目を見張るものがあると言われたが、ついに日常生活を送れるまでになった私は、もう一度王城へと戻った。


城へ戻った時、そこで漸くオーガストはあの日の出来事と現在の状況を口にする。

私の思っていた通りで、城の門はリドの手によって破壊されていて、更にそれに巻き込まれ怪我人も出たとの事。それにその行動は注意を引き付けるための陽動であり、本来の目的は私を亡き者にすると言う事だった。

惜しくもそれが叶わなかったリドは、その後姿を消し、未だにその行方は分かっていないと言う事。

それに父である国王は、私が亡くなったと知らせを受けたようで、その事に父は深く悲しみそして怒り狂ってしまったらしい。
普段は温厚で争いなど好まない父。そんな父がまるでやり場のない怒りをぶつけるかのように争いを、戦争を引き起こしてしまったと言う事も知り、私は酷くショックを受けた。

父が私を失ったと思い込みそうなってしまったのなら、私は生きていると父にこの姿を見せるだけで父は正気に戻ってくれる。
そのはずだった。

そこで私に魔が差さなければ。

父は怒りを誰彼構わずぶつけるよう周りを巻き込んだ戦争を始めた。

それならばこの戦争を利用すれば彼を…あの男を探し出せるかもしれない。そして捕まえた暁には―――。


もう、それを思いついてしまった時点で、私は可笑しくなっていた。


最初は親友に裏切られ、怒りよりも悲しみが勝り、その事で泣いたり、夢だと思って自分の傷を見て現実なんだと苦しみ、本当に辛かったのを覚えている。


でもそれももう終わりだ。私はその全てを捨て、ただ一つの目的の為に生きる事にしたんだ。

そう、リカルドに……、親友だった男に私の受けた痛みを思い知らせ、その復讐を果たす為に――――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

若輩当主と、ひよっこ令嬢

たつみ
恋愛
子爵令嬢アシュリリスは、次期当主の従兄弟の傍若無人ぶりに振り回されていた。 そんなある日、突然「公爵」が現れ、婚約者として公爵家の屋敷で暮らすことに! 屋敷での暮らしに慣れ始めた頃、別の女性が「離れ」に迎え入れられる。 そして、婚約者と「特別な客人(愛妾)」を伴い、夜会に出席すると言われた。 だが、屋敷の執事を意識している彼女は、少しも気に留めていない。 それよりも、執事の彼の言葉に、胸を高鳴らせていた。 「私でよろしければ、1曲お願いできますでしょうか」 ◇◇◇◇◇ 設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。 R-Kingdom_4 他サイトでも掲載しています。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

処理中です...