幸せな人生を目指して

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第7章 Memory~二人の記憶~

23 種族を越えた絆

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「精霊……?」

突如現れた幼女は自分の事を光を司る精霊だと言う。精霊なんて書物でしか読んだ事がないし、伝説のようなものだとばかり思っていた。
けれど考えればこの世界には魔法と言った未知の力もある訳で、それを考えたら精霊が本当にいたとしてもおかしくはないのかも?しれない。

とは言ってもこうして目の前にその存在が突然現れるなんて誰も想像しない。今この瞬間の衝撃は大きい。

「そう。こんな見た目でも結構強いのよ、私」

ウルティナと名乗った彼女はくすりと可愛らしく笑い胸を張って見せた。

「それにねずっと傍にいたのよ?まあバレない様に隠れてはいたのだけどね」

「やはりそうだったのか」

「ええ、でも残念。貴方には隠せきれなかったようね、紅のお姫様」

「ふふ、妾の事も知っているか。出会った時からリリーシェについているのであれば当然か」

なんだろう。とても高貴な人達の会話に聞こえて来るんだけど。ルリアーナ目の前の精霊にも動じずに普段通りに話しているし。凄いんだけど……。

それに今の話、私の傍にずっといたって……?

「あの、貴方はさっき私の傍にいたって言っていたけれど、それってどういう……」

「ウルティナで良いわよ」

そう彼女は軽く返す。本当に精霊?そう思わせる程友好的な彼女。
高貴な存在である精霊は勝手な想像だけど、人間が嫌いなのだろうと思っていたからここまで親しくしてくるのは予想外で私の方が唖然としてしまう。
人間には姿を見せないって言うから人間が嫌いなんだとばかり……。

「話を戻すけれど、さっき言った通り、私はずっと貴方の傍にいて見守っていたのよ」

「それっていつから……?」

「ずっと昔から。私は貴方が生まれ育ったあのお城にいたの」

「ずっと昔から……?」

「ええ。守護精霊みたいなものね」

ウルティナは淡々と話した。
彼女の話が本当なら、私の生活にはいつもウルティナがいてくれていたと言う事だ。
ずっと一人だと思っていたから、傍にいてくれる存在がいたと今になって分かったとしてもやはり嬉しかった。
見えていたらもっと話が出来たのにな……。ついそんな風に考えてしまう程に。

「ありがとう。ずっと見守ってくれていたのね。それに城を離れた私について来てくれて……」

「確かにあのお城は美しくて気に入っていたけれど、それよりももっと近くで守りたい存在が出来た。それにその子が何処へ行こうとついて行くって決めたのは私よ。だから気にしなくて良いのよ」

ウルティナは尚も楽しそうに話すけれど、私の何処をそこまで気に入ってくれたんだろう?と不思議に思ってしまう。

「さてと、これで私が敵じゃないって分かってくれたかしら?」

そう言うとウルティナが一番警戒していたアレスに問いかけた。

「ああ、疑ってすまなかった。リリーシェの事になるとつい熱くなってしまう」

「……ちょっとアレスっ」

「ふふふ。愛されてるわねリリちゃん」

アレスの真面目なんだろうけれど恥ずかしいその応えに頬が火照る。そしてそんな私達をからかってくるウルティナに、面白いと言わんばかりににやついているルリアーナ。

もうっ、皆してっ、惚気はやめてよね。
そう叫びたいけれど結局無駄なんだろうなと思い断念するのだった。



「ねえ、私の正体見破ったのだから貴方もそろそろ正体を明かしたらどうかしら?お姫様」

「それもそうだな。ずっと黙っているのも気が引ける」

場が和んだと思ったら唐突にルリアーナに話を振るウルティナ。その途端、急に不穏な雰囲気が醸し出された。

「ルリアーナの正体?」

二人の会話に一早くアレスが訝し気な顔で尋ねた。

ルリアーナが普通の少女ではない事は分かっていたし、本人もそう言っていた。
けれどこちらから聞くものではないと思っていたため、今まで敢えて触れてこなかったのだ。だからこそその話題が上がると思わず食いついてしまう。

「話した事だが妾は見た目通りの人間の少女ではない。妾は吸血鬼と呼ばれる種族なのじゃ。他の血が混ざっていない純血種とも呼ばれる事もある」

「吸血鬼……?」

吸血鬼。精霊と同じく書物には記述があるが伝説だと信じられ、実際にはいないものだと言われてきた存在だ。
その存在がまた目の前にいるなんて最早現実味が感じられなくなってくる。

「種族の中で最強と言われているわ」

「最強、か」

「そっか、アレスと同じって事だね」

最強に反応してぽつりと零したアレスに私はふっと笑ってしまう。種族が違うとしてもそこは共感できるところなんだよね。

「余り驚いていない様じゃな」

「驚いているわ。ただ現実味がないだけ?かしら」

「そうだな。それにあんた達だけじゃなくて俺達も規格外だからな。大した違いはないだろう」

「ははは。可笑しな奴じゃ」

私達の反応にルリアーナは豪快に笑い、ウルティナは微笑ましそうに目を細めていた。

ルリアーナは思ったよりも驚かない私達にどこか安心したのではないか。私達とは違う種族、それに最強と言われるのは彼女の戦闘能力を見ていれば確かに納得してしまう。
それと同時に、普通の人が見たら恐れを抱くのだろうとも思う。特に人間は自分達と違う者達を嫌い、迫害する事がある。
だからルリアーナも人間の私達に正体を明かしても今まで通り接してくれるのか、とか色々考えたんだろうな。
それなのに秘密を教えてくれたのだ。そこまでしてくれたのに恐れたり嫌ったりはしない。寧ろとても頼りにしているのだから。

そんな事を思いながらルリアーナを見てみると、思った通り何処かすっきりしたような表情をしていた。



「さて、話はこれくらいで良いだろう。そろそろお主達は行かねばならないだろう?」

「ああ、先を急ぐ」

話が一段落するとルリアーナにそう言われ、そろそろ時間だと諭される。

「妾はここに残り後始末をするのでな。暫しの別れじゃ」

「分かったわ。駆けつけてくれてありがとう、ルリアーナ」

「友に呼ばれれば何処だろうと駆けつけるぞ」

その言葉に迷いはなく、真っ直ぐな瞳で見つめられ本当に心強く思った。

「ありがとう」

「アレスそしてウルティナ。リリーシェの事は任せるぞ」

「言われるまでもない」

「ええ、任せて頂戴」

結局守られる立ち位置なのね、私。
皆に心配されて申し訳なく思う反面、一人だった時間が長くて友人と呼べる仲間とこうして時間を過ごす事がなかった為、初めての事に喜びと幸せを感じたのだった。

「また何かあれば連絡してくれ」

「分かった」

その言葉を最後に私達三人はルリアーナと別れると、もうじき着くであろう目的地へと向けて歩き出した。
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