幸せな人生を目指して

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第7章 Memory~二人の記憶~

20 魔法士の闘い…アレスside

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「お前まさか異端の宮廷魔法士か」

そう口にしたのは目の前に佇む八人の人物の中の一人。その声からして男だ。
と言うかそもそもこの場に女はいないようだが。マントを羽織ってはいても身長体格からして男のそれだ。しかも面倒な事に全員が魔法士。

「おいおい、その呼び方はないだろう?異端じゃなくて天才、な?周りの奴等より秀でていたからそう言われたってだけだぞ」

地面気に軽く返す。と言ってもこんなに陽気な性格になったのは城を追い出されてからなんだが。
当時俺がまだ城にいた頃、今も言ったように周りの奴等と比べて俺は明らかに違っていた。自分で言うのもなんだが才能が群を抜いていたと言う事だ。
その状態になるために努力をしていなかったと言う訳ではないが、周りはその努力を知らない訳で当然その事を気に入らないやつは出てくるものだ。妬み、嫉妬そんな感情で俺に冷ややかな目を向けてくる。
そんな事は日常茶飯事だった。自分でもいつかはそういった対象として見られるだろうことは想像出来ていたしな。しかもその頃の俺はいくらか尖っていて、愛想もなく不愛想だったって言うのも嫌悪の目で見られる要因だったんだろうが。
まあとにかく人に心を開かない人間だったんだよな、俺は。

そんな時だ。俺を一人の人間として見てくれたエリオットと出会ったのは。


「こんなところで宮廷最強の魔法士に出くわすなんて俺達はついているな。ここでお前を殺せば俺達の評価も上がるってもんだ」

男は口元をにやりと歪め、人数が勝っているからか余裕な口調で話しだす。全く人がせっかく思い出に思いを馳せていたと言うのに。むかっとする気持ちを抑えつつも男を冷ややかな目で見返した。

「はあ、そんな事はどうでも良いから。とっととやろうか。さあかかって来な」

舐めているわけでも挑発しているわけでもないが、早くこの茶番を終わらせたかった。
だがそれを挑発と取ったようで余裕ぶっていたこいつ等から一瞬殺気が放たれたのを感じ取る。

「最強って言われているからって調子に乗るなよ!この人数に一人で勝てるはずがないんだよ!!」

動揺を隠す気もなく男は声を上げて叫ぶと手を翳し早口に呪文を唱えた。

「ウォーターストリーム」

水の魔法。簡単に言うと水を伴った竜巻だ。

「……っ!」

普通はそうなるはずなんだが、どうやらこいつは違うらしい。攻撃するどころか俺を中心に水と風の障壁が出来ているのだ。
つまりは俺を中心に竜巻が形成されているって状況。ありえない。
そもそも人間が竜巻の中に立っていられるわけがないのだから。と言ってもこうして現実にその現象が起きているって事はその辺は敵側の緻密なコントロールの賜物って事だ。そう考えるとこいつ等中々やるな。

「コンジェラシオン」

「なるほど、そう来るか」

二人目が唱えたのは氷結魔法。その名の通り水を凍らせ、相手の動きを封じるために使う事が多い魔法。
こちらはその用途で発動させたようだ。竜巻の中で俺の動きを一時的に封じたと言ってもそれは本当に一時的なものに過ぎない。使い手の魔力が無くなれば魔法も自ずと消え去る。だが水を凍らせてしまえば例え魔力が尽きても魔法は暫くの間だが消えずに残る。
日の光で溶けるか、自力で壊すかのどちらかになるだろう。

つまり俺を閉じ込めるには良い手って事だな。

「アイシクル」

そして間髪入れず三人目が二人目と同じく氷属性の魔法を唱え氷柱を作り出す。

「容赦ないな。普通の人間なら死んでるぜ」

そう言って俺は自身の真上を見上げる。
そこには今発動させた氷柱の鋭い切っ先が、今にも俺目掛けて落下してこようとしているところだった。

「ふむ」

八人中三人からの集中攻撃。しかも中々の連携魔法。魔力もそこら辺の魔法士より高く、制御が難しい魔法をコントロールする技術も併せ持っている。

だが――

「そろそろ反撃に出るか」

誰に聞かせるでもない俺の呟きはこの竜巻の音にかき消された。

そして同時に頭上の氷柱が俺を串刺しにする勢いで落下してくる。それはまるで雨が降り注いでいるようでもあり、槍の雨、槍の応酬とも言える光景だった。
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