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第7章 Memory~二人の記憶~
16 仲間
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「俺はシュレーデル王国からある目的のために旅をしている」
「シュレーデル王国って……、そんなに遠くから?」
「ああ」
アレスからの言葉に私は驚いた。シュレーデル王国はここオルデシア王国やアインフェルト王国と同じく、膨大な国土と人口を誇る大きな国だ。
しかもそのシュレーデル王国からオルデシア王国まで早くとも片道三日はかかる程遠いのだ。
そんな遠くからわざわざここまで旅をしてくる理由って……、一体何?
「目的って何なの?」
私が静かに聞くと彼は意を決した表情で答えた。
「俺の目的はこの戦争を始めた人物を止める事、そしてある事件の犯人を突き止める事だ」
「戦争を始めた人物……?それに、ある事件って……」
「すまない。混乱するのも無理ないよな。順番に話すよ」
私の様子に彼は苦笑いを浮かべる。それを見て何となく彼の心境を察せられたような気がする。
「まず俺はシュレーデル王国の人間なんだ。アレスって言うのも偽名だ。そしてシュレーデル王国にいた頃の俺はそれなりの地位で、王宮魔法士として王族を守っていたんだ」
「貴方、王宮魔法士だったの……っ」
更に驚く事柄が彼の口から飛び出してくる。
王宮魔法士とは言葉のまま、王宮で働く魔法士の事。
そして王宮魔法士になるには並々ならぬ努力が必要とされている。ここオルデシア王国で組織されている魔法士団、そこに所属する優秀な人達ですら王宮魔法士になるのは大変だと言われているのだ。
オルデシア王国では王宮魔法士というものはなく、その代わりが魔法士団だと言っても良い。
それはそうと、アレスが魔法士だって事は分かっていたけれど、まさかそんなに凄い人物だったなんて思いもしなかったわ……。
本人は王宮魔法士がそれなりの地位、何て言っているけれどとんでもないわ。王宮魔法士は、魔法を学ぶものなら誰もが憧れる最上級の役職なのだから。
「隠していて悪かった」
「良いのよ。でも貴方には驚かされる事が多いわね。もう笑ってしまうわ」
罪悪感からかしおらしくなった彼に私は笑みが零れる。
驚いたは驚いたけれど、隠していた事にショックを受けると言うより、どちらかと言うと彼は本当に王国に認められた凄い魔法士なのだと言う事が分かって益々心強いし、とても頼りになるなって思ってしまったくらいだ。
それに真実を話してくれたのだ。これからは自慢するくらい堂々としていれば良い。それほど誇れる事なのだから。
「さあ続きを話して」
まだ何か言いた気だったようだけれど私はそれを言わさず、先の話を促した。
それに彼は小さく頷くと話を続ける。
「さっき言った戦争を始めた人物って言うのは俺の国、シュレーデル王国の国王なんだ」
「えっ!?まさか……」
「驚くのも無理ないよな。この事実はごく一部の人間しか知らない事だからな」
まさかアレスがいた王国の国王が発端だった……?確かに彼の言う通り想像もつかない事だけど。
でも一体どうして……?
「シュレーデルは大きな国だ。人も良い奴ばかりで活気もあって、国王も争いを嫌う人間なんだ。だから戦争なんて望まない国だった。だけどある日その平和は当然終わってしまった」
そこまで話したアレスは顔を歪ませて今にも泣き出しそうな表情を見せる。その様子に私まで胸が苦しい気がしてくる。
「王国の王太子が何者かに殺害されたんだ」
「……っ!!」
「今でも殺された理由は分からないし、犯人も捕まえられていない」
「そんな……」
「俺は王宮魔法士として王族を守っていたのに一番守るべき王子を助ける事が出来なかったんだよ」
「……。それで貴方はその犯人を捜すためにここまで来た、と言う事なのね」
そう聞けばアレスは力なく頷いた。想像していたものよりも残酷な話に私はなんて返せば良いのか分からなくなってしまう。
こんな時、アレスなら慰めの言葉が出てくるのだろうか。
「それにな。王子は俺の数少ない友人だったんだ」
「え……?」
「俺は結構自分勝手なところがあるからさ、周りから面倒な奴って思われていたんだよ。でもそんな俺に声を掛けてくれたんだ、あいつは。俺の話を聞いてくれて、一緒に笑ってくれてさ。あいつも立場上友人なんていなかったんだろうな。だから境遇が似ていた俺に共感してくれたんだと思う」
泣き出しそうなのに当時の事を懐かしそうに話すアレスに私もどこか共感してしまう。
アレスの気持ちもその王子の気持ちも今は良く分かるから。私も王女という立場上友人なんて呼べる人はいない。
だから少し二人が楽しそうに話している姿が想像出来て、それが眩しくてとても羨ましく感じてしまうのだ。
「ねえ、その人名前なんて言うの?」
こんな時に何を聞いているんだと思われるかもしれないけれど、私は聞かずにはいられなかった。私もアレスの自慢である友人の事を知りたいと思ってしまったから。
「……エリオットだ」
「エリオット……、とても良い名前ね」
「ああ」
大切な友人の名前を教えてくれたアレスに、私は今できる精一杯の気持ちを伝えた。
そうしてその時私の心は決まった。
「アレス、ここから先は私も貴方の目的のために協力するわ」
「え……、良いのか?」
「ええ。えっと、その事件を起こした犯人を捕まえる事、そして最終的に戦争を、国王を止めるって事で良いのよね?」
「あ、ああ。そうだが」
アレスは国王が戦争を始めたと言っていた。きっと理由も分からず、息子を理不尽に殺されてしまった怒りが収まらなかったんだ。その怒りが冷静な判断力を欠かせ、一人の人間から世界を敵に回してしまった。
だからアレスはそんな国王を止めたいんだと思う。その気持ち、私には痛いほど分かるよ。
私は未だにちゃんと向き合う事が出来ていないけれど、いつかはお父様と面と向かって私の気持ちを伝えて、また昔みたいに仲良くしたいと思っているから。
アレスは本当に強い。一人になっても決して諦める事なく、目的のために真っ直ぐに突き進む。私も彼のようになれたらとつくづく思う。
「そうと決まれば、早速明日から行動開始よ。アレス、犯人について何か情報はない?何でも良いの」
「……そう言えば目撃者がいたんだが、そいつの話によると犯人は全身黒ずくめでマントを被り顔は分からなかったらしいが、一瞬マントから覗いた手首に青白く光る腕輪が見えたと言っていたな」
「ブレスレットね」
「ああ、だがそれしか情報がないんだ」
「大丈夫。これだけでも十分な情報よ。教えてくれてありがとう」
「さて」
漸く話が一段落着いた。それを見計らったかのようにしてルリアーナが静かに立ち上がった。
「話は済んだようじゃな。これから先の事も決まったようで何よりじゃ」
「ええ。ねえルリアーナはこの事知っていたの?」
「ああ、知っていた」
「そっか」
ルリアーナも私と同じ王女であるのに私が知らなかった事を知っている。それに比べ私は本当に何も知らない。無知だ。今はそれが本当に悔しい。
「だがこれでリリーシェも情報を共有した仲間だ。この先協力して戦争を止めようではないか」
彼女の言葉に一瞬考えている事を読まれたのかと思い驚いてしまった。
「あんたも協力してくれるのか?」
「ああ、勿論。だがすまない、ずっと傍にいる事は出来ないのじゃ」
「いいえ、賊から助けてもらっただけでも十分なのに、この先も協力体制でいてくれるなんてこちらの方こそ感謝しているわ、ありがとう」
「では今夜はこれくらいにしよう。もう夜も遅い、お主等も疲れが溜まっているはずじゃ」
この話は終わりと言われ、場が和んだ途端、意識していなかったからか睡魔が唐突に襲ってきた。
彼女の言う通り疲れが溜まっていたのだろう。そしてそれはアレスも同じだったようで眠そうにうつらうつらと舟を漕ぎ出しているところだった。
まるで魔法をかけられたかのようにもう動くのも億劫に感じて、私はその場で身体を楽にして目を閉じようとした。
目を閉じる直前、窓の外を見つめるルリアーナの姿が淡く映し出されて、差し込む月の光に照らされた彼女の紅の瞳が怪しく光っていたのがやけに記憶に残ったのだった。
「シュレーデル王国って……、そんなに遠くから?」
「ああ」
アレスからの言葉に私は驚いた。シュレーデル王国はここオルデシア王国やアインフェルト王国と同じく、膨大な国土と人口を誇る大きな国だ。
しかもそのシュレーデル王国からオルデシア王国まで早くとも片道三日はかかる程遠いのだ。
そんな遠くからわざわざここまで旅をしてくる理由って……、一体何?
「目的って何なの?」
私が静かに聞くと彼は意を決した表情で答えた。
「俺の目的はこの戦争を始めた人物を止める事、そしてある事件の犯人を突き止める事だ」
「戦争を始めた人物……?それに、ある事件って……」
「すまない。混乱するのも無理ないよな。順番に話すよ」
私の様子に彼は苦笑いを浮かべる。それを見て何となく彼の心境を察せられたような気がする。
「まず俺はシュレーデル王国の人間なんだ。アレスって言うのも偽名だ。そしてシュレーデル王国にいた頃の俺はそれなりの地位で、王宮魔法士として王族を守っていたんだ」
「貴方、王宮魔法士だったの……っ」
更に驚く事柄が彼の口から飛び出してくる。
王宮魔法士とは言葉のまま、王宮で働く魔法士の事。
そして王宮魔法士になるには並々ならぬ努力が必要とされている。ここオルデシア王国で組織されている魔法士団、そこに所属する優秀な人達ですら王宮魔法士になるのは大変だと言われているのだ。
オルデシア王国では王宮魔法士というものはなく、その代わりが魔法士団だと言っても良い。
それはそうと、アレスが魔法士だって事は分かっていたけれど、まさかそんなに凄い人物だったなんて思いもしなかったわ……。
本人は王宮魔法士がそれなりの地位、何て言っているけれどとんでもないわ。王宮魔法士は、魔法を学ぶものなら誰もが憧れる最上級の役職なのだから。
「隠していて悪かった」
「良いのよ。でも貴方には驚かされる事が多いわね。もう笑ってしまうわ」
罪悪感からかしおらしくなった彼に私は笑みが零れる。
驚いたは驚いたけれど、隠していた事にショックを受けると言うより、どちらかと言うと彼は本当に王国に認められた凄い魔法士なのだと言う事が分かって益々心強いし、とても頼りになるなって思ってしまったくらいだ。
それに真実を話してくれたのだ。これからは自慢するくらい堂々としていれば良い。それほど誇れる事なのだから。
「さあ続きを話して」
まだ何か言いた気だったようだけれど私はそれを言わさず、先の話を促した。
それに彼は小さく頷くと話を続ける。
「さっき言った戦争を始めた人物って言うのは俺の国、シュレーデル王国の国王なんだ」
「えっ!?まさか……」
「驚くのも無理ないよな。この事実はごく一部の人間しか知らない事だからな」
まさかアレスがいた王国の国王が発端だった……?確かに彼の言う通り想像もつかない事だけど。
でも一体どうして……?
「シュレーデルは大きな国だ。人も良い奴ばかりで活気もあって、国王も争いを嫌う人間なんだ。だから戦争なんて望まない国だった。だけどある日その平和は当然終わってしまった」
そこまで話したアレスは顔を歪ませて今にも泣き出しそうな表情を見せる。その様子に私まで胸が苦しい気がしてくる。
「王国の王太子が何者かに殺害されたんだ」
「……っ!!」
「今でも殺された理由は分からないし、犯人も捕まえられていない」
「そんな……」
「俺は王宮魔法士として王族を守っていたのに一番守るべき王子を助ける事が出来なかったんだよ」
「……。それで貴方はその犯人を捜すためにここまで来た、と言う事なのね」
そう聞けばアレスは力なく頷いた。想像していたものよりも残酷な話に私はなんて返せば良いのか分からなくなってしまう。
こんな時、アレスなら慰めの言葉が出てくるのだろうか。
「それにな。王子は俺の数少ない友人だったんだ」
「え……?」
「俺は結構自分勝手なところがあるからさ、周りから面倒な奴って思われていたんだよ。でもそんな俺に声を掛けてくれたんだ、あいつは。俺の話を聞いてくれて、一緒に笑ってくれてさ。あいつも立場上友人なんていなかったんだろうな。だから境遇が似ていた俺に共感してくれたんだと思う」
泣き出しそうなのに当時の事を懐かしそうに話すアレスに私もどこか共感してしまう。
アレスの気持ちもその王子の気持ちも今は良く分かるから。私も王女という立場上友人なんて呼べる人はいない。
だから少し二人が楽しそうに話している姿が想像出来て、それが眩しくてとても羨ましく感じてしまうのだ。
「ねえ、その人名前なんて言うの?」
こんな時に何を聞いているんだと思われるかもしれないけれど、私は聞かずにはいられなかった。私もアレスの自慢である友人の事を知りたいと思ってしまったから。
「……エリオットだ」
「エリオット……、とても良い名前ね」
「ああ」
大切な友人の名前を教えてくれたアレスに、私は今できる精一杯の気持ちを伝えた。
そうしてその時私の心は決まった。
「アレス、ここから先は私も貴方の目的のために協力するわ」
「え……、良いのか?」
「ええ。えっと、その事件を起こした犯人を捕まえる事、そして最終的に戦争を、国王を止めるって事で良いのよね?」
「あ、ああ。そうだが」
アレスは国王が戦争を始めたと言っていた。きっと理由も分からず、息子を理不尽に殺されてしまった怒りが収まらなかったんだ。その怒りが冷静な判断力を欠かせ、一人の人間から世界を敵に回してしまった。
だからアレスはそんな国王を止めたいんだと思う。その気持ち、私には痛いほど分かるよ。
私は未だにちゃんと向き合う事が出来ていないけれど、いつかはお父様と面と向かって私の気持ちを伝えて、また昔みたいに仲良くしたいと思っているから。
アレスは本当に強い。一人になっても決して諦める事なく、目的のために真っ直ぐに突き進む。私も彼のようになれたらとつくづく思う。
「そうと決まれば、早速明日から行動開始よ。アレス、犯人について何か情報はない?何でも良いの」
「……そう言えば目撃者がいたんだが、そいつの話によると犯人は全身黒ずくめでマントを被り顔は分からなかったらしいが、一瞬マントから覗いた手首に青白く光る腕輪が見えたと言っていたな」
「ブレスレットね」
「ああ、だがそれしか情報がないんだ」
「大丈夫。これだけでも十分な情報よ。教えてくれてありがとう」
「さて」
漸く話が一段落着いた。それを見計らったかのようにしてルリアーナが静かに立ち上がった。
「話は済んだようじゃな。これから先の事も決まったようで何よりじゃ」
「ええ。ねえルリアーナはこの事知っていたの?」
「ああ、知っていた」
「そっか」
ルリアーナも私と同じ王女であるのに私が知らなかった事を知っている。それに比べ私は本当に何も知らない。無知だ。今はそれが本当に悔しい。
「だがこれでリリーシェも情報を共有した仲間だ。この先協力して戦争を止めようではないか」
彼女の言葉に一瞬考えている事を読まれたのかと思い驚いてしまった。
「あんたも協力してくれるのか?」
「ああ、勿論。だがすまない、ずっと傍にいる事は出来ないのじゃ」
「いいえ、賊から助けてもらっただけでも十分なのに、この先も協力体制でいてくれるなんてこちらの方こそ感謝しているわ、ありがとう」
「では今夜はこれくらいにしよう。もう夜も遅い、お主等も疲れが溜まっているはずじゃ」
この話は終わりと言われ、場が和んだ途端、意識していなかったからか睡魔が唐突に襲ってきた。
彼女の言う通り疲れが溜まっていたのだろう。そしてそれはアレスも同じだったようで眠そうにうつらうつらと舟を漕ぎ出しているところだった。
まるで魔法をかけられたかのようにもう動くのも億劫に感じて、私はその場で身体を楽にして目を閉じようとした。
目を閉じる直前、窓の外を見つめるルリアーナの姿が淡く映し出されて、差し込む月の光に照らされた彼女の紅の瞳が怪しく光っていたのがやけに記憶に残ったのだった。
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