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第7章 Memory~二人の記憶~
12 襲撃
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「……なあリリーシェ、今更だが本当に俺なんかについて来て良かったのか?」
「何よ、本当に今更ね。別に良いわよ。寧ろあの城から出られた事が嬉しいくらいだわ」
「そ、そうか」
私はアレスの小さい悩みを消し飛ばすように清々しく笑って見せた。
アレスがお父様に戦争を止めると宣言してから数日、私達は彷徨うように生い茂った森の中を歩いていた。
人気が無い事が幸いと、身に着けているマントはそのままに目深にかぶっていたフードだけを取り、周りを警戒しながら先を進む。
人気が無いという事は悪人、賊達が潜伏している可能性がある。
そう言った者達にいつ襲われるか分からない状況な為、出来る限り視界は広く、いつ襲撃を受けても対応が出来た方が良い。
とは思っているけれど、先程からずっと同じ景色が広がっていてどこか憂鬱な気分になってくる。
そんな時はせっかく一緒に行動している彼と話をしていた方が何かと気を紛らわせられて良い。
まあお互い気を紛らわせる為だけじゃないのだろうけれど。
「アレス、後どれくらいでこの森から出られそうなの?」
城周辺の地図を本で見て頭には入っているけれど、地図と実際に見た物とはやはり多少の違いがある。
正確な大きさや、どれくらいで越えられるのかまでは正直分からなかった。
「そうだな、まあ今日中には抜けられるだろう」
アレスもそれは同じようで苦笑いし曖昧な返事を返す。
「俺に任せろって言っていた気がしたのだけど、アレは気のせいだったのかしら?随分と曖昧ね」
「いや言ったが……、この森を実際通ったのはこれが初めてだったから、正直どれ程で抜けられるのか分からない。だが安心しろ。王にも言った通り君は俺が守るから」
彼は本当に心強い。一人ではこんなところまで来られなかったもの。
私は結局誰かに助けてもらわなければ前に進めない。
「ありがとう、アレス」
私は笑って彼に聞こえないくらい小さく言葉を呟いた。
「何か言ったか?」
「何でもないわ。さあ先を急ぎましょう」
不思議そうにこちらを見つめるアレスに私は笑って彼を追い越して先に歩き出した。
呆けていた彼も直ぐに我に返ると私の後を慌てて追いかけて来て、それを見て私はまた笑ってしまった。
そんなこんなで暫く歩いていると、前方から水の流れてくる音が聞こえてきた。
「この音、川かしら?」
「そうだな。ちょうど良い、休憩して行こう。君も疲れているだろうし」
「……そうね。少し休んでいきましょう」
気を張っていた事もあって疲れを感じなかったけれど、そう言われた途端、自覚したからか疲労感がどっと押し寄せてくる。
一度休憩をと言うアレスに私は賛同して音のする方へと足を動かした。
「ここに川があって助かったわね」
「そうだな。漸く一息できる」
川に着くなり水分補給をして、喉の渇きが癒えると体力を回復させるためにその場に二人して腰を下ろした。
一先ず水の確保が出来たのは良かったけれど、ここ数日まともに食べ物を口にしていない為、その空腹感だけは変わらない。
早くこの森を抜けてどこか美味しいご飯を食べられる場所を探さないと。
そうは思っているものの、蓄積された疲労で身体を思うように動かせなかった。
隣を見ればアレスも疲労が溜まっている様子だったけれど、私よりは体力はあるみたいね。
まだ少し余裕がありそうだわ。
……私、足手纏いみたいね。
ふとそんな言葉が頭をよぎり、私ははっと頭を振って考えるのをやめた。
「どうした?大丈夫か?」
私の様子に気が付いたアレスが心配して声を掛けてくる。
「大丈夫よ。何でもないわ」
そんな彼に心配をかけまいと私は笑ってそう返した。
何となく気まずい空気だわ……。
「そ、そろそろ行きましょうか。日が暮れる前に森から出たいもの」
「あ、ああ、そうだな」
暫くその場で休憩をしてから、その空気を振り払うように私はそう言って立ち上がり、それにアレスも続いた。
けれどその時、唐突に周りから視線を感じ、二人して警戒の目を周囲に向けた。
「リリーシェっ!」
「……えっ」
アレスに名前を呼ばれたと思った時には彼に引き寄せられ、守るように私に覆いかぶさっている状態だった。
そしてそれと同時に先程まで私がいた場所に視線を向ければ炎で焼きただれたような跡がそこにはあった。
……これは、襲撃っ!!
そう思い当たった時にはもう既に周囲を大人数の男達に包囲されていて、本当にいつの間にと言いたくなる程の人数で男達は私達を逃がすまいと周りを固めていた。
「こんな誰も入らないような森に二人だけで入ってきちまうとはな」
「しかも一人は女だぜ。それも美人だ」
「もう一人は男か。だが顔は良いな。こりゃ捕まえて売れば高く値が付くんじゃねえか?良い金儲けになるぜ」
そんな会話がそこかしこから聞こえてくる。
物騒な、と言うか女の私はともかく、男であるアレスにまで目をつけるとは……。
何と言うかとても寒気がするわね、この連中……。
「私だけじゃなくて貴方も狙われているみたいよ、アレス」
「俺、男なんだけど。あいつら頭おかしいよな。いや、こんな事する時点で頭はおかしいが」
そんな事を冷静に言い合いながら、アレスは私の上から降り私も彼の手を借りながら起き上がる。
そして改めて周囲の賊達を見れば、全員何かしらの武器を持っていていつ襲い掛かって来てもおかしくはない様子だ。
流石にこの人数を相手にするのは無理がある。
私はそう感じ逃げ道を探した。
けれどそんな私に、まるで離れるなと言うようにアレスが手を強く握りしめて来て、私は驚いて彼を見上げた。
「大丈夫だ。俺が守るって言っただろ」
「でも、この人数相手に……」
「安心しろ。とにかく君は俺の傍から離れるな。俺の手を離すなよ、絶対に」
「……分かったわ」
アレスの言葉に頷くと私は手を強く握り返した。
二人ではとても対抗出来そうにない賊の数。
それでも私を守ると言ってくれた、アレスの言葉を信じて覚悟を決める事にした。
日が落ちる前に森を出られるだろうか。いや、今はただ生きてここを切り抜けられるかどうかだ。
必ず二人で生きて森を出る。
それだけを思い、私は怯える事なく真っ直ぐに前を見据えた。
「何よ、本当に今更ね。別に良いわよ。寧ろあの城から出られた事が嬉しいくらいだわ」
「そ、そうか」
私はアレスの小さい悩みを消し飛ばすように清々しく笑って見せた。
アレスがお父様に戦争を止めると宣言してから数日、私達は彷徨うように生い茂った森の中を歩いていた。
人気が無い事が幸いと、身に着けているマントはそのままに目深にかぶっていたフードだけを取り、周りを警戒しながら先を進む。
人気が無いという事は悪人、賊達が潜伏している可能性がある。
そう言った者達にいつ襲われるか分からない状況な為、出来る限り視界は広く、いつ襲撃を受けても対応が出来た方が良い。
とは思っているけれど、先程からずっと同じ景色が広がっていてどこか憂鬱な気分になってくる。
そんな時はせっかく一緒に行動している彼と話をしていた方が何かと気を紛らわせられて良い。
まあお互い気を紛らわせる為だけじゃないのだろうけれど。
「アレス、後どれくらいでこの森から出られそうなの?」
城周辺の地図を本で見て頭には入っているけれど、地図と実際に見た物とはやはり多少の違いがある。
正確な大きさや、どれくらいで越えられるのかまでは正直分からなかった。
「そうだな、まあ今日中には抜けられるだろう」
アレスもそれは同じようで苦笑いし曖昧な返事を返す。
「俺に任せろって言っていた気がしたのだけど、アレは気のせいだったのかしら?随分と曖昧ね」
「いや言ったが……、この森を実際通ったのはこれが初めてだったから、正直どれ程で抜けられるのか分からない。だが安心しろ。王にも言った通り君は俺が守るから」
彼は本当に心強い。一人ではこんなところまで来られなかったもの。
私は結局誰かに助けてもらわなければ前に進めない。
「ありがとう、アレス」
私は笑って彼に聞こえないくらい小さく言葉を呟いた。
「何か言ったか?」
「何でもないわ。さあ先を急ぎましょう」
不思議そうにこちらを見つめるアレスに私は笑って彼を追い越して先に歩き出した。
呆けていた彼も直ぐに我に返ると私の後を慌てて追いかけて来て、それを見て私はまた笑ってしまった。
そんなこんなで暫く歩いていると、前方から水の流れてくる音が聞こえてきた。
「この音、川かしら?」
「そうだな。ちょうど良い、休憩して行こう。君も疲れているだろうし」
「……そうね。少し休んでいきましょう」
気を張っていた事もあって疲れを感じなかったけれど、そう言われた途端、自覚したからか疲労感がどっと押し寄せてくる。
一度休憩をと言うアレスに私は賛同して音のする方へと足を動かした。
「ここに川があって助かったわね」
「そうだな。漸く一息できる」
川に着くなり水分補給をして、喉の渇きが癒えると体力を回復させるためにその場に二人して腰を下ろした。
一先ず水の確保が出来たのは良かったけれど、ここ数日まともに食べ物を口にしていない為、その空腹感だけは変わらない。
早くこの森を抜けてどこか美味しいご飯を食べられる場所を探さないと。
そうは思っているものの、蓄積された疲労で身体を思うように動かせなかった。
隣を見ればアレスも疲労が溜まっている様子だったけれど、私よりは体力はあるみたいね。
まだ少し余裕がありそうだわ。
……私、足手纏いみたいね。
ふとそんな言葉が頭をよぎり、私ははっと頭を振って考えるのをやめた。
「どうした?大丈夫か?」
私の様子に気が付いたアレスが心配して声を掛けてくる。
「大丈夫よ。何でもないわ」
そんな彼に心配をかけまいと私は笑ってそう返した。
何となく気まずい空気だわ……。
「そ、そろそろ行きましょうか。日が暮れる前に森から出たいもの」
「あ、ああ、そうだな」
暫くその場で休憩をしてから、その空気を振り払うように私はそう言って立ち上がり、それにアレスも続いた。
けれどその時、唐突に周りから視線を感じ、二人して警戒の目を周囲に向けた。
「リリーシェっ!」
「……えっ」
アレスに名前を呼ばれたと思った時には彼に引き寄せられ、守るように私に覆いかぶさっている状態だった。
そしてそれと同時に先程まで私がいた場所に視線を向ければ炎で焼きただれたような跡がそこにはあった。
……これは、襲撃っ!!
そう思い当たった時にはもう既に周囲を大人数の男達に包囲されていて、本当にいつの間にと言いたくなる程の人数で男達は私達を逃がすまいと周りを固めていた。
「こんな誰も入らないような森に二人だけで入ってきちまうとはな」
「しかも一人は女だぜ。それも美人だ」
「もう一人は男か。だが顔は良いな。こりゃ捕まえて売れば高く値が付くんじゃねえか?良い金儲けになるぜ」
そんな会話がそこかしこから聞こえてくる。
物騒な、と言うか女の私はともかく、男であるアレスにまで目をつけるとは……。
何と言うかとても寒気がするわね、この連中……。
「私だけじゃなくて貴方も狙われているみたいよ、アレス」
「俺、男なんだけど。あいつら頭おかしいよな。いや、こんな事する時点で頭はおかしいが」
そんな事を冷静に言い合いながら、アレスは私の上から降り私も彼の手を借りながら起き上がる。
そして改めて周囲の賊達を見れば、全員何かしらの武器を持っていていつ襲い掛かって来てもおかしくはない様子だ。
流石にこの人数を相手にするのは無理がある。
私はそう感じ逃げ道を探した。
けれどそんな私に、まるで離れるなと言うようにアレスが手を強く握りしめて来て、私は驚いて彼を見上げた。
「大丈夫だ。俺が守るって言っただろ」
「でも、この人数相手に……」
「安心しろ。とにかく君は俺の傍から離れるな。俺の手を離すなよ、絶対に」
「……分かったわ」
アレスの言葉に頷くと私は手を強く握り返した。
二人ではとても対抗出来そうにない賊の数。
それでも私を守ると言ってくれた、アレスの言葉を信じて覚悟を決める事にした。
日が落ちる前に森を出られるだろうか。いや、今はただ生きてここを切り抜けられるかどうかだ。
必ず二人で生きて森を出る。
それだけを思い、私は怯える事なく真っ直ぐに前を見据えた。
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