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第7章 Memory~二人の記憶~
5 孤独な少女と少年
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彼との出会いが私の人生を変えた。それは運命の出会いだったのかもしれない。
「今日も変わらず日が昇っていくのね……」
独りそんな事を呟くが、その声は誰にも聞かれる事なく消えて行った。
窓辺で日が昇って行くのを静かに眺め、いつもと変わらず朝を迎えた事を少しばかり憂鬱に感じる。
眩しいほどの朝日、雲一つない青空。景色はどれも美しいものばかりだけど、私の心はいつだって晴れ渡る事はない。
ここはオルデシア王国と呼ばれる王国、そして私がいるのはその王城。
オルデシアの土地はそこまで大きくない、それに裕福だなんて胸を張って言える程でもないけれど、ここに暮らす人々は毎日平和に暮らしている。
いえ、暮らしていた、の方が正しいかな。
戦争。誰もが望んで争いたいわけではないはずなのに、主に他国の土地を奪い自分の物にしようとして争いが起こる。
人の独占欲が引き起こす醜い争い。
それは収まる様子を見せる事なく、日に日に酷くなっている一方だ。
未だ残っているこの平和も後どれくらいもつのだろうか。そんな事を思って日々を過ごす毎日。
「姫様、お食事の準備が出来ております」
窓から外を眺め物思いにふけっていると扉の外から掛けられる声。
その声に考え事をやめ思考を現実へと戻す。
「分かったわ。直ぐに行くから」
声の主は私の返事を聞くとその場を去って行ったようだ。
その事に私はまた憂鬱な気分になり小さくため息を吐く。
……行こう。
そう思い重い足を動かして部屋を出た。
正直、無駄と思える程に広い私の部屋。だけど今はこの部屋の外へ出る事が嫌だった。
昔は外へ遊びに行くのが当たり前で、毎日のように遊びに出ては泥だらけで帰って来て、そんなやんちゃな子ども時代を送っていたと言うのに。
それも今や引きこもりのような生活になっているのだから、昔からの友人がいたら驚くだろう。
まあ私に友人と呼べる人なんていないけれど。
それは私の人格のせいだけじゃなくて、身分の事も関係しているのだと思う。
先程私を呼びに来たのは侍女、そして彼女が『姫様』と私を呼んだけれど全くその通りで、私は正真正銘の姫なのだ。
オルデシア王国の王女、リリーシェ・イル・オルデシア。それが私。そして欲しくもない肩書きなんだ。
そんな事を考えながらも私の足は部屋から少し離れた食堂へと向かった。
こちらも無駄に広い空間、その中央に位置する長いテーブル、そして私しか座らないその席には朝から豪華な食事が並べられていた。
美味しそうだとは思う。それに毎日食べているけれど実際美味しいとも思っているけれど、正直食事はつまらない。毎日一人で食べる食事程つまらなく、寂しいものはないから。
「今日も国王陛下はいらっしゃらないのね」
「はい。陛下はお忙しいのです」
ぽつりと呟いた私のささやきに傍にいた侍女が答えた。
侍女は顔色を変える事もなく淡々と話し、まるで感情がないようだ。
まあそれもここでは当たり前の事で、もう慣れてしまったけれど。
でもいつからこうなってしまったのかは覚えていない……。
それにしても……、お父様……。
私の父であり現国王のお父様。
多忙なお父様だけどそれでも昔は私と一緒に過ごす時間を作ってくれて、大切にしてくれていたし、私もお父様が大好きだった。
それがどうしてしまったのか、今では顔を見る事すらなくなってしまった。
「ごちそうさま。美味しかったわ」
食事を終えた私は一言そう言って早々に席を立つと食堂を後にする。
そしてまた自室へと戻って一日を過ごし夜を迎える。
そう思っていた、今日までは。
その夜――。
窓からは月の光が優しく差し込んでくる穏やかな夜で、外を見てみれば丸く美しい満月が昇っていた。
……綺麗。
少しだけ見に行っても良いかしら。
何だか今日はいつもと違って外に自分から出てみたい気分だった。
それは恐らくあの美しい満月の魔法なのだろう。
浮足立った私は皆が寝静まった頃を見計らい、寝間着に気休め程度の薄い生地の羽織を羽織って外へと向かった。
外へ出ると少し風があるけれど、この薄着でも過ごせるくらいのものだ。
城の中庭。周りを塀と木々に囲まれているため城から切り離されたような雰囲気の場所だ。それにもちろん、誰もいないし私一人の場所。
「綺麗な満月。それに……」
静まり返った中庭に私の独り言だけが響く。
見上げていた視線を下へと移せば足元に広がる花々達が瞳に映った。
どの花々も綺麗だけど、その中でも一際満月の光を受けて光り輝く花があった。
ダリアの花。夜になると自ら光を放つ儚くも可憐な花。
私が一番好きな花だ。
ふふふ、この花を愛でている時だけが幸せかもしれないわね。
そんな事を心の内で思いながらその場所に座り込み、暫くの間一人の時間を楽しむことにした。
「そろそろ戻った方がよさそうね」
名残惜しくも時間だと、私は徐に立ち上がる。そして帰ろうとしたその時、近くの木がガサっと不自然に動いたのを私は見逃さなかった。
「誰っ!」
振り返る前に私の口から叫びに似た声が飛び出していた。
……えっ?
けれど叫んだ声とは裏腹に心の中では戸惑いの声が上がる事になった。
何故なら私の目の前に見知らぬ格好をした見知らぬ少年がいたからだ。
私が驚いて少年から目が離せないのと同じで、少年の方も微動だにせず私を見つめるばかりだった。
そんな私達の間を人吹きの風が吹き抜けていった。
月夜が照らす静寂の中庭。
これが私の運命を変える出会いとなり、そして孤独な王女と少年の出会いの瞬間だった。
「今日も変わらず日が昇っていくのね……」
独りそんな事を呟くが、その声は誰にも聞かれる事なく消えて行った。
窓辺で日が昇って行くのを静かに眺め、いつもと変わらず朝を迎えた事を少しばかり憂鬱に感じる。
眩しいほどの朝日、雲一つない青空。景色はどれも美しいものばかりだけど、私の心はいつだって晴れ渡る事はない。
ここはオルデシア王国と呼ばれる王国、そして私がいるのはその王城。
オルデシアの土地はそこまで大きくない、それに裕福だなんて胸を張って言える程でもないけれど、ここに暮らす人々は毎日平和に暮らしている。
いえ、暮らしていた、の方が正しいかな。
戦争。誰もが望んで争いたいわけではないはずなのに、主に他国の土地を奪い自分の物にしようとして争いが起こる。
人の独占欲が引き起こす醜い争い。
それは収まる様子を見せる事なく、日に日に酷くなっている一方だ。
未だ残っているこの平和も後どれくらいもつのだろうか。そんな事を思って日々を過ごす毎日。
「姫様、お食事の準備が出来ております」
窓から外を眺め物思いにふけっていると扉の外から掛けられる声。
その声に考え事をやめ思考を現実へと戻す。
「分かったわ。直ぐに行くから」
声の主は私の返事を聞くとその場を去って行ったようだ。
その事に私はまた憂鬱な気分になり小さくため息を吐く。
……行こう。
そう思い重い足を動かして部屋を出た。
正直、無駄と思える程に広い私の部屋。だけど今はこの部屋の外へ出る事が嫌だった。
昔は外へ遊びに行くのが当たり前で、毎日のように遊びに出ては泥だらけで帰って来て、そんなやんちゃな子ども時代を送っていたと言うのに。
それも今や引きこもりのような生活になっているのだから、昔からの友人がいたら驚くだろう。
まあ私に友人と呼べる人なんていないけれど。
それは私の人格のせいだけじゃなくて、身分の事も関係しているのだと思う。
先程私を呼びに来たのは侍女、そして彼女が『姫様』と私を呼んだけれど全くその通りで、私は正真正銘の姫なのだ。
オルデシア王国の王女、リリーシェ・イル・オルデシア。それが私。そして欲しくもない肩書きなんだ。
そんな事を考えながらも私の足は部屋から少し離れた食堂へと向かった。
こちらも無駄に広い空間、その中央に位置する長いテーブル、そして私しか座らないその席には朝から豪華な食事が並べられていた。
美味しそうだとは思う。それに毎日食べているけれど実際美味しいとも思っているけれど、正直食事はつまらない。毎日一人で食べる食事程つまらなく、寂しいものはないから。
「今日も国王陛下はいらっしゃらないのね」
「はい。陛下はお忙しいのです」
ぽつりと呟いた私のささやきに傍にいた侍女が答えた。
侍女は顔色を変える事もなく淡々と話し、まるで感情がないようだ。
まあそれもここでは当たり前の事で、もう慣れてしまったけれど。
でもいつからこうなってしまったのかは覚えていない……。
それにしても……、お父様……。
私の父であり現国王のお父様。
多忙なお父様だけどそれでも昔は私と一緒に過ごす時間を作ってくれて、大切にしてくれていたし、私もお父様が大好きだった。
それがどうしてしまったのか、今では顔を見る事すらなくなってしまった。
「ごちそうさま。美味しかったわ」
食事を終えた私は一言そう言って早々に席を立つと食堂を後にする。
そしてまた自室へと戻って一日を過ごし夜を迎える。
そう思っていた、今日までは。
その夜――。
窓からは月の光が優しく差し込んでくる穏やかな夜で、外を見てみれば丸く美しい満月が昇っていた。
……綺麗。
少しだけ見に行っても良いかしら。
何だか今日はいつもと違って外に自分から出てみたい気分だった。
それは恐らくあの美しい満月の魔法なのだろう。
浮足立った私は皆が寝静まった頃を見計らい、寝間着に気休め程度の薄い生地の羽織を羽織って外へと向かった。
外へ出ると少し風があるけれど、この薄着でも過ごせるくらいのものだ。
城の中庭。周りを塀と木々に囲まれているため城から切り離されたような雰囲気の場所だ。それにもちろん、誰もいないし私一人の場所。
「綺麗な満月。それに……」
静まり返った中庭に私の独り言だけが響く。
見上げていた視線を下へと移せば足元に広がる花々達が瞳に映った。
どの花々も綺麗だけど、その中でも一際満月の光を受けて光り輝く花があった。
ダリアの花。夜になると自ら光を放つ儚くも可憐な花。
私が一番好きな花だ。
ふふふ、この花を愛でている時だけが幸せかもしれないわね。
そんな事を心の内で思いながらその場所に座り込み、暫くの間一人の時間を楽しむことにした。
「そろそろ戻った方がよさそうね」
名残惜しくも時間だと、私は徐に立ち上がる。そして帰ろうとしたその時、近くの木がガサっと不自然に動いたのを私は見逃さなかった。
「誰っ!」
振り返る前に私の口から叫びに似た声が飛び出していた。
……えっ?
けれど叫んだ声とは裏腹に心の中では戸惑いの声が上がる事になった。
何故なら私の目の前に見知らぬ格好をした見知らぬ少年がいたからだ。
私が驚いて少年から目が離せないのと同じで、少年の方も微動だにせず私を見つめるばかりだった。
そんな私達の間を人吹きの風が吹き抜けていった。
月夜が照らす静寂の中庭。
これが私の運命を変える出会いとなり、そして孤独な王女と少年の出会いの瞬間だった。
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