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第6章 魔法乱舞
5 チームの力
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会場へ入るとすぐに目に入るのは緑のケープを羽織った四人の女子生徒。
緑のケープって事は四年生ね。
いきなり六年生とか来なくて良かったと思いながらも、二年も先輩の四年生をこれから相手にするのかと思うと少し不安な気持ちになる。
急に緊張してきた。
緊張を紛らわせるためにも自分のチームメイトへ視線を向けると、エミリーさんは私と同じように緊張気味だけどユキとアリンちゃんは流石、凛々しい表情をして前を見据えていた。
ポーカーフェイスの二人に感心しながらも歩を進め、整列を始めた四年生達と同じように私達も横一列に整列をする。
お互いに礼をしたところで戦闘開始の合図が響き渡り、私達は後方へと下がり、あらかじめ決めていた前衛、後衛へと分かれる。
「さて、まずは貴方達の力量を測らせてもらうわよ」
最初に動いたのはユキ。そう言うや否や片手を前に突き出すと素早く呪文を唱える。
「ウォーターアロー」
唱えると忽ちそれは現象となって現れる。誰もが知っていて案外簡単に使える下位の水魔法。
どこからともなく溢れ出した水が矢状となって相手チームへと矛先を向ける。
「エミリーさん、私が魔法を放った後相手から反撃が来るでしょうから防御して。エル、防御している隙に相手に攻撃魔法をお願い」
「は、はいっ!」
「任せてください!」
ユキは上機嫌にウィンクまですると私とエミリーさんに細かく指示を出すと、前を見据え翳していた手を勢い良く振り下ろす。
それを合図に無数の水の矢が相手チームを襲う。
「ハンナ、ステラ!防御っ!」
横並びに並んでいる四人の真ん中にいた生徒、長い髪を高く結い上げ、きりっとした瞳の気の強そうな少女が両サイドのチームメイトに指示を飛ばす。
どうやら彼女が相手チームのリーダーみたいね。
リーダーの彼女にハンナと呼ばれていた、おさげ髪の大人しそうな少女と、ステラと呼ばれていた短い髪のボーイッシュタイプの少女二人は、指示を聞くなり直ぐに他の二人を守るように前に踊り出た。
「「プロテクション!!」」
そして二人が唱えたのはシールドと同じ防御魔法。同じ部類の魔法だけど、プロテクションの方がシールドよりも防御力は高い。
まぁ防御力が高いって事は使う魔力も多いけど、その分易々破壊される心配も減るし、術者の魔力量によって強力な盾にもなり得る。
あ、ちなみに私も使えるけど、私の場合は魔力量が多いからシールドを使っても制御によってはプロテクションくらい強く強化する事が可能です。
それに魔力があるからって多く消費すれば息切れしたり、酷ければ失神する事だってある。だから魔力の消費が少ないシールドを好んで私は使っているんだよね。
こっちの方が良い事尽くしだし!
そうこう思っている間にも戦況は変わっていく。
無数の水の矢は強固なプロテクションに阻まれ、当たって弾け、水しぶきとなって地へと降り注ぐ。
「ジェシー!」
「はい!」
ユキの攻撃を防ぎつつ、リーダーの少女が隣にいたセミロングの髪の少女を呼ぶ。
ジェシーと呼ばれたセミロングの少女はリーダーの少女と目配せをすると頷く。
「いつでもいいわよ、ソフィア」
「よし、行くわよ!」
ソフィアと呼ばれたリーダーの少女は、ジェシーと共に私達の方へと手を伸ばす。
「「ヴィントホーゼ・アクティベート!!」」
二人の少女が同時に叫び、程なくして二人の周りに強い風が吹き始め、あっという間に渦を巻き、それは巨大な竜巻へと変化していった。
「行け!」
自分達の作り出した竜巻を見上げリーダーのソフィアが声を上げると、竜巻が私達の方へとスピードを上げ襲い掛かってくる。
「エミリーさん!」
迫りくる竜巻を見て、ユキは後衛にいるエミリーさんへ魔法展開を促す。エミリーさんはそれに強く頷くと力強く呪文を唱えた。
「プロテクションっ!」
さっき相手が使っていた防御魔法を同じようにして展開していく。
ただ相手が二人で防御をしているのに対して、こちらはエミリーさん一人で守らなければならない。
同じく後衛のアリンちゃんはまだ動かず、力の温存のために戦況を見守っていた。我慢強いな。私だったら咄嗟に助けに入ってしまいそうだもの。
「エル!」
一瞬逸れた思考はユキの呼びかけと、竜巻とエミリーさんの作り出した盾がぶつかった衝撃の音によって呼び戻された。
見るとエミリーさんは苦しそうにしながらも何とか攻撃を耐え忍んでいた。
でもそれも様子を見る限り長くは続かなそうで、これは急いだ方が良いね。
よし!今度こそ私の出番よ!心の中で意気込み、両手を天高く突き出すと瞬時に大量の魔力を巡らせる。
少し吹き飛んでしまうけど今回ばかりは、ごめんなさい!一応謝りつつ私は叫んだ。
「エストレーモ・テンペストっ!」
相手の二人が作り出した竜巻とは比にならない程の風が巻き上がり、やがて建物の天井を厚く暗い雲が覆いつくし、豪雨と激しい風が会場全体に吹き荒れる。
結構な魔力を使って作り出した大嵐。それもあって、会場の観客席に施されている防御魔法が危険を察知して展開されていった。
それを見て正直安心する。シールドを展開していてもらわないと、この魔法は使えないからね。
さてと、安心したところで――
「アクティベートっ!!」
発動を叫べば渦を巻いた巨大で強力な暴風が相手のチームへと襲い掛かっていく。
「きゃあ!!」
「うわぁ!!」
「皆、防御魔法よ!」
リーダーのソフィアさん以外のメンバー三人は、目の前の大嵐に目を見開いて動けず悲鳴をあげていた。
そんなチームメイトを鼓舞するようにソフィアさんは声を張り上げて、自分でも直ぐにプロテクションを展開させた。
それを見た他の三人も慌てながら同じく魔法を展開させようと動き出す。
でも――。
「それが狙いよ」
相手チーム四人、全員が攻撃魔法を放棄して、防御魔法を展開させようとするその一瞬のインターバルをユキは狙っていた。
狙い通りの相手の動きに笑みを浮かべたユキは追撃とばかりに次の魔法を唱えた。
「ウォーターウェーブ」
ユキが唱えた魔法は威力はそこまで大きくない、波を作り出す水魔法。
でも今の相手にはその威力で十分。混乱している彼女達の足元に波が押し寄せ、それを見届けたユキは更なる魔法を唱える。
「コンジェラシオン」
静かに唱え終えると辺り一帯の温度が一気に下がり、四人の足元に流れる水が凍りついていく。それに気づいた四人は何とか足を引き抜こうとするけど、既に足先は凍っていてそこから抜け出すのはもう不可能だった。
「エル、あれを止めて」
「はいっ」
四人を大いに動揺させて動きを封じる事に成功したため、私の作り出した大嵐は必要なくなる。
実は私の放った大嵐の魔法は攻撃のためじゃなくて、ただの陽動で相手の注意を逸らす為だけに作り出したものだったんだよね。大袈裟かもしれないけど、ユキに派手にお願いって言われていたし、せっかく許されたんだからどうせやるならド派手にやろう!って思っちゃって。
久々に思いっきり魔法を使えてスッキリしたよ。
とは思ってみたけど、この魔法は相手に宛てたら本当に洒落にならないからね。早く止めないと。
「コントラクションッ!」
大きくなってしまった嵐を新たに唱えた圧縮の魔法で収束させる。直ぐには消えないけど、少しすれば嵐は小さく圧縮されていってやがて消え去った。
「ありがとう。よし、これで終わりね。アリン、お願い」
「はい」
私が嵐を鎮めるのを待ち、ユキは頼むわねと言うようにアリンちゃんへと想いを託す。
それを受け取ったアリンちゃんは頷き、一歩前へと進んでいく。そして未だ動けずにいる四人へと片手を向けた。
……っ!
アリンちゃんの魔法。一体どれ程の威力があるんだろう……?
エルフって魔法を使うのが得意って言うよね?それは家にある本でも読んだ事があるし。
勝手に想像しちゃってたけど、こうして目の前で見る事が出来る事を私は今凄く嬉しく思う、そして凄く興奮しています!
一人で勝手にテンションが上がる私。でもアリンちゃんはそれには気づかずに続ける。そして唱えた呪文は――。
「アブソリュートヒート」
本当に凄い奴だった……。
彼女の唱えたその一言は会場へと響き渡り、それを聞いたこの場の誰もが驚愕の表情を浮かべ固まってしまった。
静まり返ったその場に新たに作り出された魔法。
アブソリュートゼロって言う魔法があってそれと対になる絶対魔法って言われるもの。
アブソリュートゼロはあらゆる物質を氷漬けにしてしまう超強力な魔法。
それに対してアブソリュートヒートは物質を燃やし尽くし、辺り一面を火の海へと変えてしまう程の威力を持った同じく超絶強力な魔法で……。使い方を誤ったりしたら本当に大変な事になる事間違いなしの魔法だよ。
伝説と言っても過言ではないレベルの魔法で、だけど本にはちゃんと書いてあるから、皆知ってはいるだろうけどまさかそれをこの場で使うものが現れるなんて、ね……。
そのレベルの魔法だけあって、まだ展開しきれていないにも関わらず、既に会場全体が熱を帯びていて、その場にいるだけなのに頭から熱湯でも浴びているかのような気分になる。蒸し暑いなんてレベルじゃない!
その感覚に恐怖すら覚えるよ。
「あ、アリンちゃんっ!」
恐怖を感じつつも咄嗟に私は叫んでいた。
その魔法はこんなところで使っちゃ絶対駄目なやつだよ!会場が無くなっちゃうよっ!
観客席の人達も驚きのあまりまだ固まったままなんだけど!誰か止めてっ!!
私は青褪めながら必死に呼びかける。それに反応して彼女が振り返りそして一言、
「大丈夫です」
「……え?」
そう言って珍しくも微笑を浮かべるアリンちゃん。でも直ぐに相手の方へと向き直ると、ついにその魔法を発動させてしまう。
アリンちゃんを信じていなわけじゃないんだけど、正直どうなる事やらと心配はあった。
でもそれは直ぐに杞憂だったと、思い知らされる事になったんだけどね。
彼女が力を放った瞬間、地面が赤く光りだし、まるで火山ガスのように蒸気が噴出し出す。
そして四人の氷漬けされていた足元の氷をその熱が溶かしていった。
どうやらアリンちゃんは魔法を最小限の威力に抑えて発動させて、彼女達の氷を溶かすのが狙いだったみたい。
だけどね、それにしては私以上のド派手な演出と魔法だったよ……。
魔法を使った本人はしれっとしているし、ユキは笑みまで浮かべているから想定内だったようですね。
そう思っている内にも全ての氷をみるみる内に溶かしていき、会場全体をサウナ状態にさせていた魔法も暫くして消え去った。
そして残ったのは私達と腰が抜けてしまったのか、その場に座り込み唖然としている、戦意喪失状態の相手チームの四人。
静まり返ってしまった会場。でもその静寂を切り裂くように戦闘終了の銅鑼の音が響き渡る。
そして告げられる私達、二年生チームの勝利宣言。それを聞いてようやく我に返ったようで、会場の皆から凄い歓声が上がった。
やったっ、勝ったよ!!
歓声を受けようやく実感出来る。勝利を勝ち取ったという現実。
これは優勝するための第一歩に過ぎないけど、でも涙が出そうな程嬉しいな。
きっとチームの皆で勝ち取った一勝だからなんだろうね。
涙が出そうだけどここは敢えて笑顔。そして勝利を心から喜ぼう。
その思いは三人も同じようで、笑顔で会場の皆に手を振っていた。
そして次の一戦が始まるまでの間、私達はこの一勝に酔いしれる事にした。
何だかもうこの一勝が大きすぎて、他の事が気にならなくなってしまうよ、私。
そんな能天気な私とは裏腹に、観客席でこの戦闘を見ていた誰もが、『あの子何者!?』と思っていたなんて事、今の私には知る由もなかった。まぁそれどころじゃなかったんだけどね。
緑のケープって事は四年生ね。
いきなり六年生とか来なくて良かったと思いながらも、二年も先輩の四年生をこれから相手にするのかと思うと少し不安な気持ちになる。
急に緊張してきた。
緊張を紛らわせるためにも自分のチームメイトへ視線を向けると、エミリーさんは私と同じように緊張気味だけどユキとアリンちゃんは流石、凛々しい表情をして前を見据えていた。
ポーカーフェイスの二人に感心しながらも歩を進め、整列を始めた四年生達と同じように私達も横一列に整列をする。
お互いに礼をしたところで戦闘開始の合図が響き渡り、私達は後方へと下がり、あらかじめ決めていた前衛、後衛へと分かれる。
「さて、まずは貴方達の力量を測らせてもらうわよ」
最初に動いたのはユキ。そう言うや否や片手を前に突き出すと素早く呪文を唱える。
「ウォーターアロー」
唱えると忽ちそれは現象となって現れる。誰もが知っていて案外簡単に使える下位の水魔法。
どこからともなく溢れ出した水が矢状となって相手チームへと矛先を向ける。
「エミリーさん、私が魔法を放った後相手から反撃が来るでしょうから防御して。エル、防御している隙に相手に攻撃魔法をお願い」
「は、はいっ!」
「任せてください!」
ユキは上機嫌にウィンクまですると私とエミリーさんに細かく指示を出すと、前を見据え翳していた手を勢い良く振り下ろす。
それを合図に無数の水の矢が相手チームを襲う。
「ハンナ、ステラ!防御っ!」
横並びに並んでいる四人の真ん中にいた生徒、長い髪を高く結い上げ、きりっとした瞳の気の強そうな少女が両サイドのチームメイトに指示を飛ばす。
どうやら彼女が相手チームのリーダーみたいね。
リーダーの彼女にハンナと呼ばれていた、おさげ髪の大人しそうな少女と、ステラと呼ばれていた短い髪のボーイッシュタイプの少女二人は、指示を聞くなり直ぐに他の二人を守るように前に踊り出た。
「「プロテクション!!」」
そして二人が唱えたのはシールドと同じ防御魔法。同じ部類の魔法だけど、プロテクションの方がシールドよりも防御力は高い。
まぁ防御力が高いって事は使う魔力も多いけど、その分易々破壊される心配も減るし、術者の魔力量によって強力な盾にもなり得る。
あ、ちなみに私も使えるけど、私の場合は魔力量が多いからシールドを使っても制御によってはプロテクションくらい強く強化する事が可能です。
それに魔力があるからって多く消費すれば息切れしたり、酷ければ失神する事だってある。だから魔力の消費が少ないシールドを好んで私は使っているんだよね。
こっちの方が良い事尽くしだし!
そうこう思っている間にも戦況は変わっていく。
無数の水の矢は強固なプロテクションに阻まれ、当たって弾け、水しぶきとなって地へと降り注ぐ。
「ジェシー!」
「はい!」
ユキの攻撃を防ぎつつ、リーダーの少女が隣にいたセミロングの髪の少女を呼ぶ。
ジェシーと呼ばれたセミロングの少女はリーダーの少女と目配せをすると頷く。
「いつでもいいわよ、ソフィア」
「よし、行くわよ!」
ソフィアと呼ばれたリーダーの少女は、ジェシーと共に私達の方へと手を伸ばす。
「「ヴィントホーゼ・アクティベート!!」」
二人の少女が同時に叫び、程なくして二人の周りに強い風が吹き始め、あっという間に渦を巻き、それは巨大な竜巻へと変化していった。
「行け!」
自分達の作り出した竜巻を見上げリーダーのソフィアが声を上げると、竜巻が私達の方へとスピードを上げ襲い掛かってくる。
「エミリーさん!」
迫りくる竜巻を見て、ユキは後衛にいるエミリーさんへ魔法展開を促す。エミリーさんはそれに強く頷くと力強く呪文を唱えた。
「プロテクションっ!」
さっき相手が使っていた防御魔法を同じようにして展開していく。
ただ相手が二人で防御をしているのに対して、こちらはエミリーさん一人で守らなければならない。
同じく後衛のアリンちゃんはまだ動かず、力の温存のために戦況を見守っていた。我慢強いな。私だったら咄嗟に助けに入ってしまいそうだもの。
「エル!」
一瞬逸れた思考はユキの呼びかけと、竜巻とエミリーさんの作り出した盾がぶつかった衝撃の音によって呼び戻された。
見るとエミリーさんは苦しそうにしながらも何とか攻撃を耐え忍んでいた。
でもそれも様子を見る限り長くは続かなそうで、これは急いだ方が良いね。
よし!今度こそ私の出番よ!心の中で意気込み、両手を天高く突き出すと瞬時に大量の魔力を巡らせる。
少し吹き飛んでしまうけど今回ばかりは、ごめんなさい!一応謝りつつ私は叫んだ。
「エストレーモ・テンペストっ!」
相手の二人が作り出した竜巻とは比にならない程の風が巻き上がり、やがて建物の天井を厚く暗い雲が覆いつくし、豪雨と激しい風が会場全体に吹き荒れる。
結構な魔力を使って作り出した大嵐。それもあって、会場の観客席に施されている防御魔法が危険を察知して展開されていった。
それを見て正直安心する。シールドを展開していてもらわないと、この魔法は使えないからね。
さてと、安心したところで――
「アクティベートっ!!」
発動を叫べば渦を巻いた巨大で強力な暴風が相手のチームへと襲い掛かっていく。
「きゃあ!!」
「うわぁ!!」
「皆、防御魔法よ!」
リーダーのソフィアさん以外のメンバー三人は、目の前の大嵐に目を見開いて動けず悲鳴をあげていた。
そんなチームメイトを鼓舞するようにソフィアさんは声を張り上げて、自分でも直ぐにプロテクションを展開させた。
それを見た他の三人も慌てながら同じく魔法を展開させようと動き出す。
でも――。
「それが狙いよ」
相手チーム四人、全員が攻撃魔法を放棄して、防御魔法を展開させようとするその一瞬のインターバルをユキは狙っていた。
狙い通りの相手の動きに笑みを浮かべたユキは追撃とばかりに次の魔法を唱えた。
「ウォーターウェーブ」
ユキが唱えた魔法は威力はそこまで大きくない、波を作り出す水魔法。
でも今の相手にはその威力で十分。混乱している彼女達の足元に波が押し寄せ、それを見届けたユキは更なる魔法を唱える。
「コンジェラシオン」
静かに唱え終えると辺り一帯の温度が一気に下がり、四人の足元に流れる水が凍りついていく。それに気づいた四人は何とか足を引き抜こうとするけど、既に足先は凍っていてそこから抜け出すのはもう不可能だった。
「エル、あれを止めて」
「はいっ」
四人を大いに動揺させて動きを封じる事に成功したため、私の作り出した大嵐は必要なくなる。
実は私の放った大嵐の魔法は攻撃のためじゃなくて、ただの陽動で相手の注意を逸らす為だけに作り出したものだったんだよね。大袈裟かもしれないけど、ユキに派手にお願いって言われていたし、せっかく許されたんだからどうせやるならド派手にやろう!って思っちゃって。
久々に思いっきり魔法を使えてスッキリしたよ。
とは思ってみたけど、この魔法は相手に宛てたら本当に洒落にならないからね。早く止めないと。
「コントラクションッ!」
大きくなってしまった嵐を新たに唱えた圧縮の魔法で収束させる。直ぐには消えないけど、少しすれば嵐は小さく圧縮されていってやがて消え去った。
「ありがとう。よし、これで終わりね。アリン、お願い」
「はい」
私が嵐を鎮めるのを待ち、ユキは頼むわねと言うようにアリンちゃんへと想いを託す。
それを受け取ったアリンちゃんは頷き、一歩前へと進んでいく。そして未だ動けずにいる四人へと片手を向けた。
……っ!
アリンちゃんの魔法。一体どれ程の威力があるんだろう……?
エルフって魔法を使うのが得意って言うよね?それは家にある本でも読んだ事があるし。
勝手に想像しちゃってたけど、こうして目の前で見る事が出来る事を私は今凄く嬉しく思う、そして凄く興奮しています!
一人で勝手にテンションが上がる私。でもアリンちゃんはそれには気づかずに続ける。そして唱えた呪文は――。
「アブソリュートヒート」
本当に凄い奴だった……。
彼女の唱えたその一言は会場へと響き渡り、それを聞いたこの場の誰もが驚愕の表情を浮かべ固まってしまった。
静まり返ったその場に新たに作り出された魔法。
アブソリュートゼロって言う魔法があってそれと対になる絶対魔法って言われるもの。
アブソリュートゼロはあらゆる物質を氷漬けにしてしまう超強力な魔法。
それに対してアブソリュートヒートは物質を燃やし尽くし、辺り一面を火の海へと変えてしまう程の威力を持った同じく超絶強力な魔法で……。使い方を誤ったりしたら本当に大変な事になる事間違いなしの魔法だよ。
伝説と言っても過言ではないレベルの魔法で、だけど本にはちゃんと書いてあるから、皆知ってはいるだろうけどまさかそれをこの場で使うものが現れるなんて、ね……。
そのレベルの魔法だけあって、まだ展開しきれていないにも関わらず、既に会場全体が熱を帯びていて、その場にいるだけなのに頭から熱湯でも浴びているかのような気分になる。蒸し暑いなんてレベルじゃない!
その感覚に恐怖すら覚えるよ。
「あ、アリンちゃんっ!」
恐怖を感じつつも咄嗟に私は叫んでいた。
その魔法はこんなところで使っちゃ絶対駄目なやつだよ!会場が無くなっちゃうよっ!
観客席の人達も驚きのあまりまだ固まったままなんだけど!誰か止めてっ!!
私は青褪めながら必死に呼びかける。それに反応して彼女が振り返りそして一言、
「大丈夫です」
「……え?」
そう言って珍しくも微笑を浮かべるアリンちゃん。でも直ぐに相手の方へと向き直ると、ついにその魔法を発動させてしまう。
アリンちゃんを信じていなわけじゃないんだけど、正直どうなる事やらと心配はあった。
でもそれは直ぐに杞憂だったと、思い知らされる事になったんだけどね。
彼女が力を放った瞬間、地面が赤く光りだし、まるで火山ガスのように蒸気が噴出し出す。
そして四人の氷漬けされていた足元の氷をその熱が溶かしていった。
どうやらアリンちゃんは魔法を最小限の威力に抑えて発動させて、彼女達の氷を溶かすのが狙いだったみたい。
だけどね、それにしては私以上のド派手な演出と魔法だったよ……。
魔法を使った本人はしれっとしているし、ユキは笑みまで浮かべているから想定内だったようですね。
そう思っている内にも全ての氷をみるみる内に溶かしていき、会場全体をサウナ状態にさせていた魔法も暫くして消え去った。
そして残ったのは私達と腰が抜けてしまったのか、その場に座り込み唖然としている、戦意喪失状態の相手チームの四人。
静まり返ってしまった会場。でもその静寂を切り裂くように戦闘終了の銅鑼の音が響き渡る。
そして告げられる私達、二年生チームの勝利宣言。それを聞いてようやく我に返ったようで、会場の皆から凄い歓声が上がった。
やったっ、勝ったよ!!
歓声を受けようやく実感出来る。勝利を勝ち取ったという現実。
これは優勝するための第一歩に過ぎないけど、でも涙が出そうな程嬉しいな。
きっとチームの皆で勝ち取った一勝だからなんだろうね。
涙が出そうだけどここは敢えて笑顔。そして勝利を心から喜ぼう。
その思いは三人も同じようで、笑顔で会場の皆に手を振っていた。
そして次の一戦が始まるまでの間、私達はこの一勝に酔いしれる事にした。
何だかもうこの一勝が大きすぎて、他の事が気にならなくなってしまうよ、私。
そんな能天気な私とは裏腹に、観客席でこの戦闘を見ていた誰もが、『あの子何者!?』と思っていたなんて事、今の私には知る由もなかった。まぁそれどころじゃなかったんだけどね。
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