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第6章 魔法乱舞

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魔法乱舞開催の前日。

ユキ、アリンちゃん、エミリーさん、そして私の四人は、シェフィールド侯爵邸の私の部屋で、作戦会議、最終確認のために今日は泊まり込みで話し合いをする事になった。

ユキを相手にした特訓は空きがある限り毎日のように行っていて、魔法に自信のなかったエミリーさんも短期間だったけど着実に腕を上げていっていた。
相手をしてくれていたユキは前日になっても変わらず、出来る限りの事を冷静に取り組んでいたし、アリンちゃんは相変わらず近距離戦でも遠距離戦でも強くて、ユキと同じく冷静だから判断を誤る事がほとんどなくて、それがあわてんぼうな私にとってはとても頼りになって、そして心強くもあった。

そんな私はと言うと、ちゃんとユキから指導?を毎日のように受けていたし、魔法のコントロールも特訓をする前と比べれば格段と上がったんじゃないかな?って自覚出来るくらいには成果が出ているはず!
特に防御魔法。これに関しては結構自信がある。
見方を全員守れるくらいの大きさのシールドでも結構持ち堪えられる自信があるよ。
それに防御魔法は相手を傷つける攻撃魔法じゃないから、その分、魔力もそこまで抑えなくて良くて、ある意味一番私に向いている魔法なのかもしれないって思ったり。
だって攻撃魔法となると、私が全力をもって行った場合、魔力の制御次第で死者を出してしまう事も恐ろしながらあり得る話。だから相手に向けての攻撃は、魔力量を調節して尚且つコントロールする能力も必要なわけで……。
魔力量が多いと良い事も勿論大いにあるけど、時々嫌になる事もあるから常にそう言った気持ちと私は格闘をしている訳だよ。

「それじゃ良い?最終確認よ」

「はい」

ユキの真剣な呟きに私も真剣に答える。アリンちゃんとエミリーさんも真剣な眼差しで頷く。
それを見てからユキは先を続ける。

「戦闘になったら私とエルが前衛で攻撃をしつつ、防げるものは防いでいく。そしてアリンとエミリーさんが後衛で私達のサポート。このスタイルで最初は行くわ。良い?」

「はい。それは良いのですけど、私よりもアリンちゃんの方が前衛に向いているんじゃ……?」

「その事なんだけど。まずエルは十分戦力になるわ。でも貴方が言うようにアリンがこのチームでは一番戦闘能力が高いのも確かだわ」

私の言いたい事を事前に想定していたようで、説明をしてくれるユキ。それを私は真摯になって聞く。
その様子に苦笑しつつも先を続けてくれた。

「それで私も最初はアリンを前衛にと思ったの。でもね、最初はやっぱり派手に行きたいじゃない?」

何やら含みのある笑みを浮かべるユキ。悪い顔をしているよ。

「派手、ですか?」

私が聞き返すとユキは力強く頷いた。

「そう。エルの魔力量は私達の学年では承知の事実だけど、他の学年ではまだそこまで知られていないと思うのよ。そこでそれを逆手にとるの。エルの魔力とここ数日特訓してきた魔法のコントロール力、技術を皆に見せつけるの」

「えぇ……、でも」

「エルの実力を知っている人にも知らない人にも、実力の差を見せつける事は大事よ。それに怯んでくれれば尚の事良い。それに派手にする事で皆の視線を釘付けに出来るしね」

なるほど。ユキの言いたい事、何となく理解出来たかも。
つまり、私の力を見せつける事によって、生徒、そして教師の目を引き付ける効果があるのは勿論、勝ち進んで行けば後々当たるでしょう、件の先輩との戦闘が待っている。その際にはエミリーさんを前に出して、皆の視線の中、彼女の成長した姿を公の場で見せつけ、そして先輩にも勝つ。それが目的、って感じ、かな?そんなところ?

エミリーさんは自信がないって自分でも言ってるから、敢えてたくさんの視線のある場で前に出させる事によって気弱な自分に打ち勝って、尚且つ先輩にも勝って欲しいと言うユキの強い願いも感じるね。

ユキは今回の魔法乱舞、エミリーさんと多分私のため?に全力を尽くしてくれようとしているんだと思う。
口ではなんだかんだ言っていても本当は人に優しいって事、私は知っているから。

「分かりました。つまり私は皆の視線を引きつけながらも相手のチームに勝てばいいわけですね」

「そう。それとね先の話にはなるんだけど、暫くの戦闘はさっきも言った通りのスタイルで行くわ。でも途中でエルとアリンは交代してもらうと思うわ。アリンが私と前衛、エルがエミリーさんと一緒に後衛で私達のサポート兼防御をしてくれると助かるわ」

「分かりました!任せてください、ね、エミリーさん」

「は、はい!足を引っ張らないように精一杯頑張ります!」

「分かった」

私に続いて、エミリーさんそしてアリンちゃんもしっかりと頷く。そんな私達を順番に見て行き、真剣なのを確認するとユキは満足そうに笑みを零した。

「さて、それじゃ、そろそろ寝ましょうか。朝から特訓で貴方達も疲れているでしょうし」

「あれ、もうそんな時間だったんですね」

気づけばこの作戦会議を始めてから既に数時間が経過していた。話に集中しすぎてユキに言われるまで全然気が付かなかった。

晩御飯は早い内に済ませて、更に湯浴みも済ませてしまっていたので、皆はもう夜着で後は横になって眠るだけ。
さっきまでは話に夢中だったから眠気なんてなかったけど、それが終わった途端、どこから来たのかと不思議に思う程の眠気に襲われる。
夜遅いわけでもないんだけど、ユキも言っていたけど今日も朝から特訓三昧だったからね。皆も眠そうに眼を擦ったりしている。

話も終わったし、寝ますか。そう思って私はいつもと同じように自分の寝台に潜りこんだ。
私のベッドは一人で使うにしては大きめの、前世で言うキングサイズに匹敵するレベルの大きさなわけで、だから私の他にもう一人、二人で寝ようとも余裕なわけで。
と言うわけで、私の寝台を今日はユキと一緒に使うことになり、そしてアリンちゃんとエミリーさんは二人で一台の、私の寝台と同じサイズのベッドを急遽用意してもらって、そこに今日は二人で寝てもらうことになった。
寝台だけじゃなくて、部屋も無駄に広いからキングサイズのベッドが二台並んでも余裕で入るんだよね。
広い部屋って凄いな、なんてね。自分の事なのに何だか他人事だよ。

「皆、明日から頑張りましょうね」

眠気と闘いながら私は皆に告げる。

「ええ、頑張りましょうね」

「はい!」

ユキとエミリーさんの返事を聞き、アリンちゃんの方を見れば無言で、でも力強く頷いてくれて、それに思わず私は嬉しくて笑ってしまう。

それからおやすみなさいと言ってから程なくして、皆の規則正しい息遣いが聞こえてくる。
私は明日の事でドキドキして中々寝付けなかったけど、目を閉じて色々と考えていたらいつの間にか眠りに落ちてしまっていた。


いよいよ明日から始まる魔法乱舞。
皆それぞれが様々な気持ちを抱えて臨む、魔法を駆使して戦うトーナメント式の伝統行事。

それぞれの思い、目的、そして勝利のための戦いが今始まろうとしていた――――
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