幸せな人生を目指して

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第5章 学院生活

17 かつての親友

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「エミリーさん。もしかして貴方の友人って、アンジェリーナ先輩の事だったんですか?」

「はい、そうです」

そう言った彼女はこちらを今だ睨んでいる先輩を悲しそうに見つめ返す。

まさかの事実……。
見た目で判断はいけないけど、先輩とエミリーさんのタイプは正反対でそこに友人と言う繋がりがある事に失礼ながらも驚いてしまった。

エミリーさんの今日の服装、そして話しをしてみて、性格的にも大人しめの人なんだって印象。
対して先輩は一人でいるどころか男子に囲まれて逆ハーレム状態になっているし……。
周りの男の子達を誘惑するような、腿と胸元が開いた真っ赤なドレスを身に着けて、元から大人っぽい人とは思っていたけど、ドレスアップもあって更に魅力が出ていた。

あのドレスって確かスリットドレスって言うんじゃなかったっけ?
あれを着る勇気は私にはないな。先輩だから似合うんだろうね。美人でスタイルも良いから。

……何だろう、羨ましいみたいな感じになっちゃったけど、別に羨ましくなんてないけどね、胸が羨ましいなんて……。


「本当はあんな子じゃなかったのに……」

「えっ?」

彼女の悲しそうな呟きに妄想から我に返る。咄嗟に声を上げるとそれに彼女は眉を下げて困った顔をした。

「私達の仲がまだ良かった頃、今の彼女からは考えられないほど大人しい子だったんです。傲慢な性格でもなくて、誰にでも優しく、いつも笑顔で分け隔てなく人に接していたんです」

それは想像がつかない。けど彼女がそう言うのなら疑う理由もない。
それが本当だとして、どうしてここまで変わってしまったのか。そしてエミリーさんと距離を置くようになった理由は一体何なのか。気になるけど、それを一番知りたがっているのはエミリーさんだよね。

「あの子は皆から好かれていて、憧れる子も沢山いたんです。私もその一人でした。でも……」

思い出を楽しそうに話していたエミリーさんの顔が曇る。

「彼女は変わってしまったんです。理由は分かりませんが、二年生になって急に。それからは先ほど話した通り、私を避けるようになって、男の子達と今みたいに話したりするようになってしまって……」

エミリーさんが語る過去の先輩が居れば、二人は今でも仲が良かったんだよね。そんなに皆に優しい先輩だったなんて初耳だけど、それなら私も会ってみたいと思ってしまう。

「こそこそと私の話でもしているみたいじゃない?」

良く通る色気のある声が響いて、私達は目の前の人物を見つめた。
女王様が座るような豪華な椅子に腰かけ、周りを男子に囲まれていた先輩がゆっくりと立ち上がる。
そのまま優雅な動きでこちらに近づいて来る。睨んでいた表情は打って変わって口元は弧を描いている。

「アンジェ……」

「久しぶりじゃない、エミリー」

お互いに名前を呼び合う。それを聞いただけで、一目で仲が良かった事が分かる。

「相変わらず地味ね、貴方は。それにこの子に私の話をするなんて」

私にするような態度でかつての友人を罵倒する先輩。エミリーさんを一瞥すると今度は標的を私に変えて睨んでくる。

「まぁ良いわ。それよりエミリー、貴方魔法の腕は上がったのかしら?」

「それは……」

唐突な質問にエミリーさんは口籠る。その問いには何の意味が?

「やっぱりね。クラスが離れてから私と貴方の力の差は広がる一方ね」

「先輩っ、そんな言い方って……」

余りの言い草につい私も口を出してしまい、案の定不機嫌な顔をする先輩。

「何よ、本当の事なんだから仕方ないじゃない。私はAクラスでエミリーは確かCクラスだったかしら?」

顔を近づけて、わざと嫌みっぽく呟く先輩に、エミリーさんは悔しそうに唇を噛みしめて静かに頷いた。

「先輩、それが何だって言うんですか?」

「だから優秀な私とは釣り合わないわねって話よ」

「どうしてそんな酷い事言うんですか?昔は仲が良かったんでしょう」

「そんなの昔の話よ。私は貴方を友人なんてもう思っていないから」

本当に酷い。何なのこの人は!それに話しかけてきたのは先輩だけど、私にするようにエミリーさんにも言葉の暴力を振るって。ただ馬鹿にしに来ただけなの?
そうそう怒る事がない私ですら先輩の態度、言葉には怒りが込み上げてくるよ。

「貴方は一体何が言いたいのかしら?」

私とエミリーさんに代わって今度はユキが問いかける。すると一瞬顔色を変えた気がした。

「私とその子の関係を勘違いされたくなかっただけよ。昔は仲が良かったことは認めるわ。でも今は違う。私と貴方じゃとてもじゃないけど釣り合わないわ。だからその事は勘違いしないように言っているだけよ」

「友情は釣り合う釣り合わないで成り立つものではないわ。その言い方気に入らないわ」

「あら、いつでも冷静であまり表情を表に出さないって聞いていたけど、そんな顔もするのね」

ユキのはっきりとしたもの言いにも臆さず、それに対抗するように言葉を並べる先輩。

「そう言えば先輩、その態度エミリーさんだけじゃなくて、エルにもしていたんですって?」

「それが何?だってその子気に入らないんだもの」

そう言って先輩は私を忌々しそうに見る。でもそんな視線から私を守るようにユキが間に入った。

「気に入らないって理由だけで私の親友に酷い事言わないでもらえるかしら」

前に立つユキの表情は見えないけど、声で分かる。凄く怒っているって事が。庇われている私でもヒヤッとしたからね。
先輩もユキの本気の怒りには流石に言い返せない様子。若干怯んでいるみたいだった。

「貴方の周りには貴方を慕う人が沢山いるみたいじゃない。女王でもないのに女王様気どり?実に滑稽ね」

「な、何ですってっ」

私でも分かるユキの挑発にまんまと先輩は乗ってしまう。それはもう鬼の形相で。
それを見てユキが笑ったのが分かる。

「だってそうじゃない。貴方の過去に何があったかなんて知らないし、知りたくもない。それに今の自分に満足している様に見えたけど。エルに嫉妬する事なんてあるの?」

「あんた達みたいな何一つ不自由をしていない人間に私の気持ちは分からないわよ」

声を上げて怒るかと思っていたけど、拍子抜けしてしまうほど静かな声。さっきまでの勢いはどこへ行ったのか思ってしまうくらい。

「分からないわ。でもそれが何?」

「ユキ、流石にもう……、言い過ぎですよ」

見守っていたけど先輩の落ち込み?具合を見てもう良いのでは?と思い止めに入る。

「そうね。私とした事が、つい言い過ぎてしまったわ。それについては謝るわ。ごめんなさい」

素直に言い過ぎた事を認めて謝るユキ。だけどそれに返事はない。

「さぁもう行きましょう。せっかくのパーティーなんだから私達も楽しみましょう」

「は、はい……」

「アンジェ……。もうあの頃の様に友人には戻れないの……?」

去り際、エミリーさんは先輩にもう一度向き直ると真摯に問いかけた。

「無理よ。言ったでしょう、私と貴方じゃ釣り合わないって」

「……そっか」

そう一言だけ呟くとエミリーさんはその場を去ってしまう。

「エミリーさんっ!」

逃げるように走って行く彼女を私とユキも追いかける。

……ごめんなさい……。

……えっ?

突然声が聞こえた気がして私は咄嗟に振り返った。でもそれを呟いたであろう先輩はこちらに背を向け男の子達の待つ方へと戻って行ってしまい、確認する事は出来なかった。
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