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第5章 学院生活
12 早くも問題発生!?
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「エル様、行きますよ」
「あ、はいっ、今行きます」
いつもと変わらない朝。
学院の制服に身を包んだ私は、先に支度を終わらせて待ってくれているルカの元へと駆けて行く。
馬車で学院まで送り迎えをしてもらっていて、ルカにも付いてきてもらってる。
申し訳ないって思うけどそれを言うとまたルカに、これが僕の仕事ですから、って言われるから言わないけど……。
「お待たせしました!」
乱れた制服を正しながら、呼吸も整えるように歩いて行く。その様子にルカは嫌な顔をする事なく、笑顔で手を貸してくれる。
その手を借りて馬車に乗り込みそっと腰を下ろす。
そしていつもはルカと二人のスペースだけど、今日はもう一人乗客の姿がある。
「お待たせしてしまってすみません、アリンちゃん」
「大丈夫です」
もう一人の乗客、アリンちゃんに待たせてしまった事について謝罪をする。それを彼女も気にした様子はなく、淡々と返事を返してくれて、いつも通りの様子に私はホッとした。
侯爵家でメイドをしてくれているアリンちゃんだけど、実は今日、私の通う魔法学院へ私の傍付けとして転入してくるんです!
最初は私が冗談めいてアリンちゃんも学院来ませんか?なんて話をしたんだけど、それを聞いていたルカが名案だと言い出して、それを私の制止も聞かずに父様に話してしまって……。
それで父様もそれは良いな、なんて納得しちゃって……。
私としても冗談とはいえ本当にそうなれば良いな、と思っていた節があるから嬉しいけど、アリンちゃんがどう思うか、アリンちゃん次第だなって思って、ちゃんと話し合いをしてその上で構わないと言う事になりまして、急遽転入が決まったと言う訳で。
……実はそれがつい昨日の話なのに、翌日には手続きは終わっていて、制服まで届いていると言う完璧さ……。
恐ろしい……。父様、手が早すぎるよ……、でも感謝はしています。
と言う事で急に決まった転入にも動じることなく、届いた制服を着こなして大人しく座っているアリンちゃんに、本人を置いて私の方が嬉しくてはしゃいでいます。朝からワクワク、ウキウキだよ。
「アリンちゃん、緊張とかしてないですか?」
「特には」
「そうですか。それなら良かったです」
そっけなく言うのはいつもの事だけど、でも表情がいつも以上に明るい気がするな。アリンちゃんも楽しみと思ってくれているのかも。そうだと良いな。
「私が通っているAクラスは皆良い人ばかりですから、きっとアリンちゃんも直ぐ仲良くなれますよ」
私が興奮してそう言うとルカは呆れるような、でもホッとした表情をして、アリンちゃんは何処か嬉しそうなのを隠している様な、そんな表情を見せた。
その様子を見て私も益々気分が上がる。ふと窓の外を見れば早くも学院の大きな門が見えてきて、私はその景色を眺めながら、これからの学院生活を思い心が躍ったのだった。
「さぁアリンちゃん、着きましたよ!行きましょう」
「エル様っ、危ないですよっ!」
学院に着くなり飛び出す勢いで私は馬車から降り、振り返って後から続いてくるアリンちゃんとルカを見やる。
慌てているルカに対してアリンちゃんは動じる事ない。静かに降りてくる。単なる馬車を降りるだけの動き。
作法を学んでいるわけでもないけど、それだけの動きでも洗練されていて思わず目を奪われてしまう。
何とも上品さを感じる動きだね。
それに学院の制服が緑色をしているんだけど、アリンちゃんの髪色も緑だからマッチしていてとても似合ってるんだよね。
そうじゃなくても可愛いんだから、もう目の保養だよ~。
「ではエル様、アリン。またお迎えに上がりますので」
「はい、いつもありがとうございます」
声をかけられて見ると、ルカが笑顔で見送ってくれる。毎日交わされる会話。でもお礼はちゃんと心を込めて、ね。
ルカは私とアリンちゃんを交互に見る。そして最後にアリンちゃんに向かい声をかける。
「それからアリン。くれぐれも粗相のないようにお願いしますよ」
「はい」
それにしっかり返事をして会釈をしたアリンちゃんに、ルカは安心したような表情をすると早々に馬車へと戻って行く。
乗り込むと直ぐに馬車は動き出し、程なくすると姿は見えなくなる。
それを見送ってから私達は学院の玄関口へと歩き出した。でもその歩みが直ぐに止まる。
私達の進行を阻む様に一人の生徒が目の前に現れたからだ。
スラっとしていて身長も高く、こちらを見下すような視線を向けてくるその人物。長い髪をサイドに一纏めにして、どれだけ巻いてるの?と思うほど、例えるならツイストマカロニのような、そんな髪型の女性。
あ、今のは馬鹿にしているわけではないので!
そしてスタイルも良くて、スカートもいくらか短いみたいで、何だかセクシーな感じに見える。
長い睫毛、そして目も強調されない程度に釣り目で、口元は弧を描き、何と言うか気が強そうな人、って言う印象。
カバンを持っている手とは反対の手を腰に当てているのが、更に強気な感じを際立たせている。
「ねぇ貴方」
凛としたような、でも少し棘があるような声で話し掛けられる。
「はいっ」
「名前は何て言うのかしら?」
そう言われて少しえ?って思ってしまう。だって普通相手の名前を聞くならまず自分から自己紹介じゃない?
とは思ったものの、先輩かもしれないからそれは目を瞑りましょう。
それと実は彼女の事は何回か見かけていて、そう言う意味では知っている人。でもこの人、会うたび、すれ違うたびに私を睨んでくるんです……。
「エルシア・シェフィールドと言います。こちらはクラスメイトのアリンちゃんです」
私は名乗った後、隣で大人しくしているアリンちゃんも紹介する。その際、傍付きではなく敢えてクラスメイトと言うのも忘れずに。
決して粗相のない自己紹介のはずだけど、その女性はふ~んと興味がなさそうな表情で私達二人を見やる。
顔には出さないけどちょっと失礼じゃない?人の自己紹介を興味なさそうに聞いているって。
とは思ったけど顔には変わらず笑顔を張り付けたまま、私も女性へと声をかけてみる。
「あの、貴方は?」
そう言った瞬間驚愕する女性。
「えっ、知らないの?」
馬鹿にするような言い方。絶対馬鹿にしてますね、はい。
言いたくてもグッと我慢して申し訳なさそうに謝る。私の方が。
するとどういう訳か、見るからに機嫌の良くなった女性は得意そうに名乗りを上げる。
「仕方ないわね~。私はアンジェリーナ・アーベントよ。名誉あるアーベント伯爵家の娘よ」
……。
正直言う。名前は知ってはいたよ。でもごめんなさい。名誉とか貴方が伯爵家の人間とか知らなかったですよ。
何でそんなに知ってて当たり前、みたいな態度なの?
まずい、笑顔が引きつりそうだよ。頑張れ私!もう少しだから。
「それとね、私は貴方よりも二つも先輩なんだからね」
二つ先輩、と言う事は四年生か。
と言うか私の頑張りを知る由もない、女性改めアンジェリーナ先輩はまるで敬いなさい、と言わんばかりの傲慢な表情とそして視線を送ってくる。
……あの、私達今日が初対面だよ?どうしてそう言う事になるの?そして言っても居ないのに何で私が二年生って知っているの?
それからもう一つ。
自慢とかじゃないし、私そう言うの興味ないからあまり言いたくないけど、私の家は侯爵ですよ?
階級的には伯爵よりも上の位。
この場が学院内だからと言うのと、後は先輩が侯爵家の事を知らないだけかもしれないけど、その態度は処罰されることもある。
私は階級でそう言うのを決めたくないけど、貴族としての常識は抑えてある。
知らない内にやってはいけない態度とか、無礼に当たる事をしていたら嫌だし、処罰を受けないように、そして家族に迷惑を掛けない為にも、ね。
そして言ってしまえば、シェフィールド侯爵家は結構有名らしいから、その娘である私が先輩の事を知らないって事は、墓穴を掘るようで嫌だけど、私が単に世間知らずなのか、或いはそれほど有名な伯爵家ではないって事だよ。
だから本当だったら先輩とか関係なく、彼女の方が私を敬わなくてはいけないんだよね。
まぁそれは気にしないし、敬ってほしいわけじゃないから良いんだけど。本当だったらって話ね。
そう私が頭の中で思い、つっこんでいる事すら分かっていない先輩は、強気な笑みを浮かべたまま先を続ける。
「まぁそれは良いわ。それよりも貴方。さっき一緒に居た男性とはどういう関係なのかしら?」
……男性?
正直、質問の意味が分からなくて一瞬困惑したけど、直ぐに誰の事を言っているのか思い当たり納得する。
ルカの事かな?恐らく。
「えっと、彼は私の従者ですが。彼が何か?」
「ふ~ん、貴方の従者なの」
従者と言った瞬間先輩の目が鋭くなる。見下していたのが更に険しくなるような。な、なんで?私何かした?
悪い事をした覚えもないのに何故か冷たい視線を向けられ、ついに保っていた笑顔が崩れ顔が引きつってしまった。
「で、名前は?」
言葉遣いだけは丁寧だったのについに雑になってしまわれたよ。それに何か怒っていらっしゃるようだし?
「ルーカスです」
「そう、ルーカスさんって言うのね。良い名前だわ」
へ?何て言ったら良いのか分からないけど、それはルカに対して言う言葉としてはおかしくない?
しかも含みのある笑みが戻ってきているし。
「あの……」
「あぁ、聞きたい事はそれだけよ。じゃあね」
「は、はぁ」
結局のところ、先輩が何を知りたかったのか最後まで分からずじまいで、その本人はもう用はない、と言うように早々に立ち去ってしまうし。
残された私達、いえ恐らく私だけかな?アリンちゃんとの初登校でワクワク、ウキウキだった気分が急下降してしまった。
本当に何だったの……?
先輩、確かにスタイル良くて、美人で、それに伯爵家の令嬢って言うだけあって自信家なのは分かるけど。
あの人を見下すようなそう言う性格は宜しくないね。それがなければさぞかし出来た令嬢でしょうに。
何と言うか、嵐?まぁとにかく急な脅威が去った事により、沈んだ気持ちを吹っ切る様に、あからさまに大きなため息を吐いた。
すると隣からひょっこりと様子を伺うように顔を覗かせたアリンちゃんに、私は心配させまいと意識して笑みを作る。
「行きましょうか」
アリンちゃんも流石にさっきの先輩の態度は気に障ったのか、私を心配するような優しい眼差しと、怒りを含めたような表情をしている。
でも私が声をかけると黙って頷き、何を言う事もなく静かに、歩き出した私の一歩後ろを付いてくる。
何事もなくて良かった。アリンちゃんを怒らせたら大変だからね。私でも止められるかどうか……。
それにしても、これから先の学院生活、私普通に送れるのかな……?
さっきまで心躍っていたのにたちまち沈む気持ち。気が滅入っちゃうよ……。
少し前に言っていた気になる人の話。一人はレヴィ君の事だったけど、もう一人がこのアンジェリーナ・アーベント先輩の事。
何やらルカの事を気にしているようだし、何故か私に敵対心?持ってるみたいだし……、もう疲れるよ……。
私の人生って波乱万丈……?何て、ね。
「あ、はいっ、今行きます」
いつもと変わらない朝。
学院の制服に身を包んだ私は、先に支度を終わらせて待ってくれているルカの元へと駆けて行く。
馬車で学院まで送り迎えをしてもらっていて、ルカにも付いてきてもらってる。
申し訳ないって思うけどそれを言うとまたルカに、これが僕の仕事ですから、って言われるから言わないけど……。
「お待たせしました!」
乱れた制服を正しながら、呼吸も整えるように歩いて行く。その様子にルカは嫌な顔をする事なく、笑顔で手を貸してくれる。
その手を借りて馬車に乗り込みそっと腰を下ろす。
そしていつもはルカと二人のスペースだけど、今日はもう一人乗客の姿がある。
「お待たせしてしまってすみません、アリンちゃん」
「大丈夫です」
もう一人の乗客、アリンちゃんに待たせてしまった事について謝罪をする。それを彼女も気にした様子はなく、淡々と返事を返してくれて、いつも通りの様子に私はホッとした。
侯爵家でメイドをしてくれているアリンちゃんだけど、実は今日、私の通う魔法学院へ私の傍付けとして転入してくるんです!
最初は私が冗談めいてアリンちゃんも学院来ませんか?なんて話をしたんだけど、それを聞いていたルカが名案だと言い出して、それを私の制止も聞かずに父様に話してしまって……。
それで父様もそれは良いな、なんて納得しちゃって……。
私としても冗談とはいえ本当にそうなれば良いな、と思っていた節があるから嬉しいけど、アリンちゃんがどう思うか、アリンちゃん次第だなって思って、ちゃんと話し合いをしてその上で構わないと言う事になりまして、急遽転入が決まったと言う訳で。
……実はそれがつい昨日の話なのに、翌日には手続きは終わっていて、制服まで届いていると言う完璧さ……。
恐ろしい……。父様、手が早すぎるよ……、でも感謝はしています。
と言う事で急に決まった転入にも動じることなく、届いた制服を着こなして大人しく座っているアリンちゃんに、本人を置いて私の方が嬉しくてはしゃいでいます。朝からワクワク、ウキウキだよ。
「アリンちゃん、緊張とかしてないですか?」
「特には」
「そうですか。それなら良かったです」
そっけなく言うのはいつもの事だけど、でも表情がいつも以上に明るい気がするな。アリンちゃんも楽しみと思ってくれているのかも。そうだと良いな。
「私が通っているAクラスは皆良い人ばかりですから、きっとアリンちゃんも直ぐ仲良くなれますよ」
私が興奮してそう言うとルカは呆れるような、でもホッとした表情をして、アリンちゃんは何処か嬉しそうなのを隠している様な、そんな表情を見せた。
その様子を見て私も益々気分が上がる。ふと窓の外を見れば早くも学院の大きな門が見えてきて、私はその景色を眺めながら、これからの学院生活を思い心が躍ったのだった。
「さぁアリンちゃん、着きましたよ!行きましょう」
「エル様っ、危ないですよっ!」
学院に着くなり飛び出す勢いで私は馬車から降り、振り返って後から続いてくるアリンちゃんとルカを見やる。
慌てているルカに対してアリンちゃんは動じる事ない。静かに降りてくる。単なる馬車を降りるだけの動き。
作法を学んでいるわけでもないけど、それだけの動きでも洗練されていて思わず目を奪われてしまう。
何とも上品さを感じる動きだね。
それに学院の制服が緑色をしているんだけど、アリンちゃんの髪色も緑だからマッチしていてとても似合ってるんだよね。
そうじゃなくても可愛いんだから、もう目の保養だよ~。
「ではエル様、アリン。またお迎えに上がりますので」
「はい、いつもありがとうございます」
声をかけられて見ると、ルカが笑顔で見送ってくれる。毎日交わされる会話。でもお礼はちゃんと心を込めて、ね。
ルカは私とアリンちゃんを交互に見る。そして最後にアリンちゃんに向かい声をかける。
「それからアリン。くれぐれも粗相のないようにお願いしますよ」
「はい」
それにしっかり返事をして会釈をしたアリンちゃんに、ルカは安心したような表情をすると早々に馬車へと戻って行く。
乗り込むと直ぐに馬車は動き出し、程なくすると姿は見えなくなる。
それを見送ってから私達は学院の玄関口へと歩き出した。でもその歩みが直ぐに止まる。
私達の進行を阻む様に一人の生徒が目の前に現れたからだ。
スラっとしていて身長も高く、こちらを見下すような視線を向けてくるその人物。長い髪をサイドに一纏めにして、どれだけ巻いてるの?と思うほど、例えるならツイストマカロニのような、そんな髪型の女性。
あ、今のは馬鹿にしているわけではないので!
そしてスタイルも良くて、スカートもいくらか短いみたいで、何だかセクシーな感じに見える。
長い睫毛、そして目も強調されない程度に釣り目で、口元は弧を描き、何と言うか気が強そうな人、って言う印象。
カバンを持っている手とは反対の手を腰に当てているのが、更に強気な感じを際立たせている。
「ねぇ貴方」
凛としたような、でも少し棘があるような声で話し掛けられる。
「はいっ」
「名前は何て言うのかしら?」
そう言われて少しえ?って思ってしまう。だって普通相手の名前を聞くならまず自分から自己紹介じゃない?
とは思ったものの、先輩かもしれないからそれは目を瞑りましょう。
それと実は彼女の事は何回か見かけていて、そう言う意味では知っている人。でもこの人、会うたび、すれ違うたびに私を睨んでくるんです……。
「エルシア・シェフィールドと言います。こちらはクラスメイトのアリンちゃんです」
私は名乗った後、隣で大人しくしているアリンちゃんも紹介する。その際、傍付きではなく敢えてクラスメイトと言うのも忘れずに。
決して粗相のない自己紹介のはずだけど、その女性はふ~んと興味がなさそうな表情で私達二人を見やる。
顔には出さないけどちょっと失礼じゃない?人の自己紹介を興味なさそうに聞いているって。
とは思ったけど顔には変わらず笑顔を張り付けたまま、私も女性へと声をかけてみる。
「あの、貴方は?」
そう言った瞬間驚愕する女性。
「えっ、知らないの?」
馬鹿にするような言い方。絶対馬鹿にしてますね、はい。
言いたくてもグッと我慢して申し訳なさそうに謝る。私の方が。
するとどういう訳か、見るからに機嫌の良くなった女性は得意そうに名乗りを上げる。
「仕方ないわね~。私はアンジェリーナ・アーベントよ。名誉あるアーベント伯爵家の娘よ」
……。
正直言う。名前は知ってはいたよ。でもごめんなさい。名誉とか貴方が伯爵家の人間とか知らなかったですよ。
何でそんなに知ってて当たり前、みたいな態度なの?
まずい、笑顔が引きつりそうだよ。頑張れ私!もう少しだから。
「それとね、私は貴方よりも二つも先輩なんだからね」
二つ先輩、と言う事は四年生か。
と言うか私の頑張りを知る由もない、女性改めアンジェリーナ先輩はまるで敬いなさい、と言わんばかりの傲慢な表情とそして視線を送ってくる。
……あの、私達今日が初対面だよ?どうしてそう言う事になるの?そして言っても居ないのに何で私が二年生って知っているの?
それからもう一つ。
自慢とかじゃないし、私そう言うの興味ないからあまり言いたくないけど、私の家は侯爵ですよ?
階級的には伯爵よりも上の位。
この場が学院内だからと言うのと、後は先輩が侯爵家の事を知らないだけかもしれないけど、その態度は処罰されることもある。
私は階級でそう言うのを決めたくないけど、貴族としての常識は抑えてある。
知らない内にやってはいけない態度とか、無礼に当たる事をしていたら嫌だし、処罰を受けないように、そして家族に迷惑を掛けない為にも、ね。
そして言ってしまえば、シェフィールド侯爵家は結構有名らしいから、その娘である私が先輩の事を知らないって事は、墓穴を掘るようで嫌だけど、私が単に世間知らずなのか、或いはそれほど有名な伯爵家ではないって事だよ。
だから本当だったら先輩とか関係なく、彼女の方が私を敬わなくてはいけないんだよね。
まぁそれは気にしないし、敬ってほしいわけじゃないから良いんだけど。本当だったらって話ね。
そう私が頭の中で思い、つっこんでいる事すら分かっていない先輩は、強気な笑みを浮かべたまま先を続ける。
「まぁそれは良いわ。それよりも貴方。さっき一緒に居た男性とはどういう関係なのかしら?」
……男性?
正直、質問の意味が分からなくて一瞬困惑したけど、直ぐに誰の事を言っているのか思い当たり納得する。
ルカの事かな?恐らく。
「えっと、彼は私の従者ですが。彼が何か?」
「ふ~ん、貴方の従者なの」
従者と言った瞬間先輩の目が鋭くなる。見下していたのが更に険しくなるような。な、なんで?私何かした?
悪い事をした覚えもないのに何故か冷たい視線を向けられ、ついに保っていた笑顔が崩れ顔が引きつってしまった。
「で、名前は?」
言葉遣いだけは丁寧だったのについに雑になってしまわれたよ。それに何か怒っていらっしゃるようだし?
「ルーカスです」
「そう、ルーカスさんって言うのね。良い名前だわ」
へ?何て言ったら良いのか分からないけど、それはルカに対して言う言葉としてはおかしくない?
しかも含みのある笑みが戻ってきているし。
「あの……」
「あぁ、聞きたい事はそれだけよ。じゃあね」
「は、はぁ」
結局のところ、先輩が何を知りたかったのか最後まで分からずじまいで、その本人はもう用はない、と言うように早々に立ち去ってしまうし。
残された私達、いえ恐らく私だけかな?アリンちゃんとの初登校でワクワク、ウキウキだった気分が急下降してしまった。
本当に何だったの……?
先輩、確かにスタイル良くて、美人で、それに伯爵家の令嬢って言うだけあって自信家なのは分かるけど。
あの人を見下すようなそう言う性格は宜しくないね。それがなければさぞかし出来た令嬢でしょうに。
何と言うか、嵐?まぁとにかく急な脅威が去った事により、沈んだ気持ちを吹っ切る様に、あからさまに大きなため息を吐いた。
すると隣からひょっこりと様子を伺うように顔を覗かせたアリンちゃんに、私は心配させまいと意識して笑みを作る。
「行きましょうか」
アリンちゃんも流石にさっきの先輩の態度は気に障ったのか、私を心配するような優しい眼差しと、怒りを含めたような表情をしている。
でも私が声をかけると黙って頷き、何を言う事もなく静かに、歩き出した私の一歩後ろを付いてくる。
何事もなくて良かった。アリンちゃんを怒らせたら大変だからね。私でも止められるかどうか……。
それにしても、これから先の学院生活、私普通に送れるのかな……?
さっきまで心躍っていたのにたちまち沈む気持ち。気が滅入っちゃうよ……。
少し前に言っていた気になる人の話。一人はレヴィ君の事だったけど、もう一人がこのアンジェリーナ・アーベント先輩の事。
何やらルカの事を気にしているようだし、何故か私に敵対心?持ってるみたいだし……、もう疲れるよ……。
私の人生って波乱万丈……?何て、ね。
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