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第5章 学院生活

9 杞憂

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「レヴィ君、あれから大丈夫だったのでしょうか……」

「相変わらずエルは心配性ね。彼の事だからもう大丈夫でしょう」

放課後の誰も居ない教室で、私の呟きを拾ったユキがそう返す。

家柄の付き合いがあったらしいユキは、レヴィ君の性格を少なからず分かっているみたいで。
まあユキがそう言うなら大丈夫なのかな、って思うけど。


先日の事故から数日経ち、私達は普段通りの学院生活を送っていた。
あの事故の翌日から学院は通常通り授業を行っていたけど、私は家で療養中だったレヴィ君に付き添っていたため、学院を休んでいて授業には顔を出せていなかった。
その日の事は後からユキに聞いたけど、人に被害は出ていないのが幸いだけど、建物の損傷が激しく、その事を生徒に説明しない訳にはいかないと言う事で、その日は生徒全員、そして職員を集めて、学院長が直々にその経緯を上手い事説明したらしい。
これも後で聞いた話だけど、学院長は大事にしないよう上手く説明してほしいと父様からお願いされていたらしく、それを聞いて私は本当に申し訳なくなりました。そして父様、手が早いなって単純に感心したのを覚えている。

そしてさっき言っていた損傷した建物の事だけど、そっちはもう大丈夫。修復魔法を使って瞬時に元通りになりました!
やっぱり魔法って凄い。そしてありがたい。

と言う感じで数日経ち、学院の方はもう落ち着いたんだけど、当の本人がまだ一度も学院に来ていなくて、私は心配で落ち着かない日々を過ごしていた。

私の家で療養していたレヴィ君は治癒魔法のお陰もあってか、魔力も体力も思ったよりも早く回復して、二日程で動けるようになっていた。とは言っても休んでいなければ行けないのに、回復した途端、これ以上迷惑はかけられないって言って、早々に自分の家へと帰ってしまい、それから今日まで一度も会っていないと言う状況。

う~ん、ユキに心配ないって言われてもやっぱり心配しちゃうな。

何を話しているのかは分からなかったけど、レヴィ君とルカが何かを言い争っている様な、そんな声が部屋の外にまで聞こえてきたし、父様がそれを止めていたようだけど、何だか険悪な雰囲気だった様な、そんな気がするし。

それと前にレヴィ君が騎士団に所属しているお兄様の事を教えてくれた時の事だけど、私は純粋に凄いと思ってそれを口にしたけど、そうしたらレヴィ君、顔を曇らせていて、何かまずい事を言ったのかな?って思った時があったけど……。

それから今回の事で、レヴィ君には何やら焦りがあったみたいで。
あんなに難易度の高い上位魔法を、すぐにでも完成させないといけない、そんな理由でもあったのかなって。

憶測になっちゃうけど、もしかして彼、家族とその、あまり仲が良くないのかも。そして反応を見た限りだけど、彼はお兄さんに憧れの感情、それとは反対の、妬みと言う気持ちを同時に抱いているんじゃないかって思うの。
上位魔法を完成させたかったのは、家族に自分の実力を見て欲しいから。自分をちゃんと見て欲しいと思う気持ちから。だから一刻も早くって焦っていたんじゃないのかな、って私は思うけど。

私の憶測じゃなくて、仮にもしそれが本当だとしても、家族の事に私が口を挟むわけにはいかないのが現状で。
それに今回の件はローレンス家にも既に伝わっているだろうからそれが更に心配。
何日も学院に来ないのはその事で家族に言われているからなのかな、って勝手に想像しちゃうよ。

父様、ローレンス侯爵とは仲が良いって言っていたから、その事で手を打ってくれてはいるんだろうけど……。

そんな思いでここ数日の間、私は心ここにあらずって感じで。
その事でユキにも心配をかけてしまい、励ましてもくれるのに、どうしても一向に気分は晴れないでいる。

「大丈夫よ。彼もそろそろ来るわよ。きっと」

「そう、ですよね。すみません、私まで落ち込んで、ユキに心配をかけてしまって」

「気にしてないわ。それより彼が来た時にそんな悲しい顔で迎えたら彼にも心配させちゃうわよ」

「……そうですね。私らしくないですよね」

私今どんな顔しているんだろう?ユキに言われる程酷いのかな?
自分でも気分が落ちている事は分かっているけど、レヴィ君がいないこの教室は何だか寂しくて……。

でもそうだよね。こういう時こそしっかりしないとだよね。

「そうよ。エルはいつも笑顔でしょ?こういう時こそ笑っていないとね」

中々笑顔になれない私にユキは尚も励ましの言葉をくれる。笑いかけながらまだ不愛想な私の頬を指で軽く突ついてくる。
初めてそんな事をされて驚いて反射的に顔を上げると、悪戯が成功した時のような表情でユキが笑っているのが目に入り、何だか可笑しくなってきてつられた私も最後には一緒になって笑ってしまっていた。

「いつものエルに戻ったわね」

「はい。ありがとうございました、ユキ」

ユキに胸の内を聞いて貰ったらなんかスッキリした。気持ちが楽になって、調子も出てきた。
その気持ちを感謝と共に伝えたら、ユキは更に笑みを深めた。

「さて、それじゃそろそろ帰りましょうか」

「そうですね。何だか長話をしてしまいました」

夕日が照らす教室。窓からちょうど日の光が差し込んでいて、眩しいけど目を奪われる程美しいその光景。
それを名残惜しく思いながらも、遅くなったらまたルカに心配されると思い、私は踵を返して歩き出す。

教室の外へ向かっていた足はしかし一歩を踏み出すことなく止まってしまう。

開けられたままの扉に人影がある。私達は驚いてその人物を凝視した。
日の光が眩しいが、不思議なくらいに顔ははっきりと見えるのだ。

「……レヴィ君っ」

私が咄嗟に声を上げるとレヴィ君は一瞬驚いた顔をして、でもすぐに柔らかい表情へと変わった。
そして彼から自然な笑みが零れた。
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