幸せな人生を目指して

える

文字の大きさ
上 下
64 / 227
第5章 学院生活

2 穏やかな日

しおりを挟む
「そういえばお前――」

「お前ではありませんよ。ちゃんと名前で呼んで下さい」

授業が終わり、お昼休み。私は早速レヴィ君を追いかけて外に出て行き、声をかけてみた。

ユキにも声を掛けたけど、「私がいると邪魔になると思うから二人で話してらっしゃい」と言い残して教室を後にしてしまった。

私は邪魔なんて思わないのに。ユキなりに気を使ってくれたんでしょうね。


「……エルシア」

「はい。エルで良いですよ。皆そう呼ぶので。それで何か言いかけてましたね」

「前から気になっていたんだが、何で敬語なんだ?」

「はぃっ?」

思いがけない質問の内容に変な声が出てしまう。

「えっと、何でと言われても……」

「誰に対してもその話し方なのか?」

「はい。これは元からこういう話し方なだけで、特にそうしろと言われたわけではないので。基本誰に対してもこの話し方ですよ?」

「そうなのか」

「何です?何か言いたいことでも?」

わざと頬を膨らませて怒っているアピールをしてみる。すると思った通り、焦ったような表情を彼がして、少し悪戯心が芽生えそうになるのをどうにかして抑え込む。

笑顔笑顔。

「いや、その家柄のわりに変わっているなと思っただけだ」

「家は関係ありませんよ。私は周りの人達と良好な関係を築きたいだけです。それにはまず挨拶や言葉遣いからでしょうと思ったまでです」

「そんなものか。考えたこともないがな」

「良いんですよ。私は好きでしている事ですから」

「やっぱり変わってるな」

あ、バカにされた。

さらっとバカにされた私はこれ以上は不利になると思い、話題を変えることにした。

「もう、私の話は良いです。それより、レヴィ君は侯爵家のご子息ですよね?」

「ああ。次男だがな。兄が一人いる」

「えっ!お兄様がいるのですか?初耳です」

勝手にレヴィ君って一人っ子だと思っていたから結構衝撃を受けた。

「知らなかったのか?兄は騎士団にも所属している優秀な人だ。まあローレンス家は騎士の家系だしな」

……まさかの騎士の家系。

ローレンス侯爵家が有名と言うのは騎士の家系であり、優秀な人材を送り出していたからという訳ね。

それを知らなかった私って、明らかに勉強不足……。世間を知らなすぎる……かな。

「そうだったんですね。お兄様が騎士団所属の騎士なんて、凄い事です」

思ったままを伝えてみたら何故かレヴィ君は俯いてしまう。

「……レヴィ君?」

何かまずいことでも言ってしまったのかと私は焦った。そして謝ろうと思い声を掛けようとしたら、それを遮るように彼が口を開いた。

「……すまない。何でもないんだ」

少しトーンの下がった声が返ってきて、様子がおかしいのは明らかなのに、その場の雰囲気に私が声を上げることを阻止されているようだった。


「そろそろ戻るか」

黙ってしまった私の代わりにレヴィ君が声をかけてくれた。

「えっ、あ、はいっ。そうですね」

さっきと違い、発せられた声はもういつも通りに戻っていて、そっと顔を上げると立ち上がった彼の横顔が見えた。声とは反対に悲しそうに見える。

何も言えないまま、ちょうどお昼休みの終わりを告げる鐘の音が響く。
それを聞いて慌てて立ち上がろうとしたら、横からレヴィ君が手を差し伸べてくれて、私はその手を素直に取った。

教室へと戻る最中、さっきの一瞬だけ寂しそうに見えたのは気のせいだったのか。そればかりが頭に浮かんではなれなかった。

結局その後はレヴィ君と話すことが出来ず、彼がどうしてあんな顔をしたのか分からなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

悪役令嬢の中身が私になった。

iBuKi
恋愛
目覚めたら綺麗な女性が見つめていた。 白い空間に白い衣装を着た女性。 重たい体をベッドに横たえていた私は、彼女を医者だと思った。 会話するうち医者ではなく女神様で。 女神様のお気に入りの魂を持つ私は、特別な転生をさせて貰えるようだ。 神様だというのに、ちょっと思考が過激な女神様。 「ヒロインがヒロインの扱いを受けなかったらどうなるのかしら?」 妙な実験を私の転生先でしないで欲しいんですけど…… 私を愛し子と呼ぶ女神様は、加護の他に色んな能力を授けてくれるらしい。 護衛は聖獣様。 白いモフモフ一体の予定が、いつの間にか二体授けてくれることになる。 転生先ではモフモフパラダイスかしら!? 前世でペットが飼いたくても飼えなかった私は、その事だけでも大満足だ。 魂をゆっくり休めなさいと女神様の言葉に目を閉じると――― 七歳になったその当日に、やっと記憶が蘇る。 どんな能力が私に授けられたんでしょう? 怖いもの見たさでステータスを調べると・・・? 「女神様、これはやり過ぎです!」 女神様に思わず強めに注意してしまった。 女神様は「愛しい子が学園に行くのが今から楽しみなの。ヒロインは学園で出会う事になるわ。」 傍観者の立場にすると仰った言葉に二言はありませんよね? 女神様までがヤバイという性格のヒロインは、私に関わり合いにならないようお願いします。 悪役令嬢らしいけど、一切悪役令嬢しない私の物語。 ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨ 恋愛モードには年齢的にすぐ始まら無さそうです。 なので、ファンタジー色強めの恋愛小説として読んで頂ければ(*- -)(*_ _)ペコリ 幼い時期がかなり長くなっています、恋愛になるまで果てしない… カクヨム様、なろう様にも連載しています。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...