55 / 226
第4章 追憶~過ぎ去った日~
3 少年と少女
しおりを挟む
傘もささずに立ち尽くす二人。でもそれを怪しく思う人は周りには誰も居ない。
「そうかクラウスというのか。良い名だな。それはそうとクラウス。少し雨宿りをしたいのだがどこか良い場所はないか?」
少女、ルリアーナはどうやら雨宿り出来る場所を探して僕に話しかけたらしい。もうずぶ濡れなのだが。
「なら僕の家に来る?今は誰もいないし。君が良ければだけど」
他に言い馬車が思いつかなくてつい自分の家を進めてしまうけど、すぐに後悔した。いきなり女の子を見知らぬ者の家に招くなど失礼な事だったと。
変に思われただろうか……?そう思い彼女の様子を伺う。
「そうか。それなら行くとしよう。感謝するぞ」
僕の提案に彼女は特に気にする様子もなく、寧ろ早く行こうと催促する口ぶりをみせた。そして道も分からないのに踵を返してさっさと歩き出そうとする。
「あっ、待って」
予想だにしない反応に呆気に取られていた僕ははっと我に返ると、反対方向へと向かって行く彼女のあとを急いで追う。
「何だ、早くしないとびしょ濡れだ」
「僕の家知らないでしょ。反対方向だよ。案内するからついてきて」
「そうだったか。すまない、よろしく頼む」
僕の後を彼女は大人しくついてきた。そして僕は見ず知らずの彼女と雨の中、家まで一緒に帰って行った。
「どうぞ入って」
「ほう。ここがお前の家か、中々良いところに住んでいるではないか」
家の中に入ると彼女は興味津々な様子で周りを見回していた。こういった家に初めて入ったかのような反応を見せるあたり、やはりどこかのお嬢様なのだろうと僕は思った。
「何もないけどね。そこの暖炉で温まってて、今タオルを持ってくるから」
「ああ、助かる」
勧めると彼女は暖炉の前にゆっくりと腰を下ろした。帰って一番に付けた暖炉の火はあっという間に大きくなり、冷えきった体と、この家を温めてくれる。彼女が温まっている間、僕は店の奥へ行きまだ使っていない新しいタオルを二つ持つと来た道を戻って行き、温まっている彼女にタオルを手渡す。
「これ使って」
「ありがとう」
タオルで冷たくなった体を伝う水滴を拭い、冷えた体を温めるため、僕は彼女の隣に少し間を開けて座る。
不思議なものだな。誰かと暖炉で温まるなんていつぶりだろう。
僕が小さかった時なんかは暖炉の前で家族三人仲良く座って温まったりもした。僕は真ん中で両親が両隣に座り、包み込むように寄り添っていた。とても温かかったのを昨日の事のように覚えている。
「どうした?」
「え……?」
懐かしむように過去の思い出に浸っていたが、彼女の戸惑った声に我に返り、横を向くと困惑した表情で僕を見つめる彼女が居た。
「何故泣いているんだ?」
「えっ、……泣い……てる?」
何を言われているのか分からず僕は戸惑う。そして彼女に言われて初めて気がついた。瞳からは知らず知らずの内に涙の雫が零れ落ちていた。
「ご、ごめん。昔のことを思い出しちゃったからかな」
「そうか。先ほども泣いていたな」
気づいていたのか。僕でも雨なのか涙なのか良く分からなかったと言うのに。それに何だか恥ずかしさと、女の子の前で泣いてそれを見られてしまった情けなさに、これ以上は見せまいと顔を俯かせる。
「気にすることはない。泣きたいなら泣けばいい。泣けるときに泣いておかないと後で後悔するぞ。初対面の、こんな小さいなりの少女で申し訳ないが、妾が傍にいるから。今だけは意地を張らなくて良い」
その言葉にゆっくりと顔を上げると、彼女は美しい笑みを浮かべてそっと僕を抱きしめる。そしてまるで母親のように優しい手つきで頭を撫でてくれた。
それもあってか更に昔を思い出してしまって僕はみっともなく泣いてしまった。恥ずかしいと思うけどどうしても止まらなかった。それでも彼女は何も言わずに、ただずっと僕を抱きしめ続けてくれていた。
「……ごめん。情けないな……、僕」
それから暫くしてようやく泣き止むと僕は彼女の腕の中からそっと抜け出し、溢れた涙を拭った。
「気にするな。少しはすっきりしたか?」
本当に気にした様子もなく優しい声色でたずねてくて、それにどこかホッとする。
「うん。ありがとう」
「そうか、良かった」
それからは暫く沈黙し、お互いに話す事もなく気まずい空気になり、唯々時間だけが流れていった。
……何を話せば。思い返せば聞きたいことはあるだろうに、今の僕には何も言葉が思い浮かばなかった。
すると唐突に彼女の方から話し掛けられる。
「お前、今辛いのか?」
「え?」
沈黙を破り凛とした彼女の声が響く。
「少しお前の話を聞いても良いか?何があったのか。話したくなければ話さなくてもいいが」
そう言った彼女は何故か悲しそうに微笑んだ。
その時僕は悟った。彼女は何となくでも偶然でもなく、何か理由があって僕に話しかけてくれたのではないか、と。
自分の勝手な想像だが、もしもそうなら今のこの気持ちを彼女に聞いてほしいと思った。言葉をかけて欲しいわけじゃない。ただ聞いてほしいんだ。一人で悩むのにはこの気持ちは辛すぎるから。
「君になら、いや君に聞いてほしい。僕の今の気持ち、そして少しの間の思い出話しを」
「分かった」
彼女の返事聞いてから僕はゆっくりと話し始めた。話している間、彼女は寄り添い、時々相槌を打って話しに耳を傾けてくれていた。
両親との生活、この家で商人として両親の仕事の手伝いをしていたこと、そして事故のこと……。
途中で何度も泣きだしそうになったり、歯切れが悪くなってしまったりしたけど、それでも先を急かす事なく、ただ静かに隣に居てくれたのだった。
「そうかクラウスというのか。良い名だな。それはそうとクラウス。少し雨宿りをしたいのだがどこか良い場所はないか?」
少女、ルリアーナはどうやら雨宿り出来る場所を探して僕に話しかけたらしい。もうずぶ濡れなのだが。
「なら僕の家に来る?今は誰もいないし。君が良ければだけど」
他に言い馬車が思いつかなくてつい自分の家を進めてしまうけど、すぐに後悔した。いきなり女の子を見知らぬ者の家に招くなど失礼な事だったと。
変に思われただろうか……?そう思い彼女の様子を伺う。
「そうか。それなら行くとしよう。感謝するぞ」
僕の提案に彼女は特に気にする様子もなく、寧ろ早く行こうと催促する口ぶりをみせた。そして道も分からないのに踵を返してさっさと歩き出そうとする。
「あっ、待って」
予想だにしない反応に呆気に取られていた僕ははっと我に返ると、反対方向へと向かって行く彼女のあとを急いで追う。
「何だ、早くしないとびしょ濡れだ」
「僕の家知らないでしょ。反対方向だよ。案内するからついてきて」
「そうだったか。すまない、よろしく頼む」
僕の後を彼女は大人しくついてきた。そして僕は見ず知らずの彼女と雨の中、家まで一緒に帰って行った。
「どうぞ入って」
「ほう。ここがお前の家か、中々良いところに住んでいるではないか」
家の中に入ると彼女は興味津々な様子で周りを見回していた。こういった家に初めて入ったかのような反応を見せるあたり、やはりどこかのお嬢様なのだろうと僕は思った。
「何もないけどね。そこの暖炉で温まってて、今タオルを持ってくるから」
「ああ、助かる」
勧めると彼女は暖炉の前にゆっくりと腰を下ろした。帰って一番に付けた暖炉の火はあっという間に大きくなり、冷えきった体と、この家を温めてくれる。彼女が温まっている間、僕は店の奥へ行きまだ使っていない新しいタオルを二つ持つと来た道を戻って行き、温まっている彼女にタオルを手渡す。
「これ使って」
「ありがとう」
タオルで冷たくなった体を伝う水滴を拭い、冷えた体を温めるため、僕は彼女の隣に少し間を開けて座る。
不思議なものだな。誰かと暖炉で温まるなんていつぶりだろう。
僕が小さかった時なんかは暖炉の前で家族三人仲良く座って温まったりもした。僕は真ん中で両親が両隣に座り、包み込むように寄り添っていた。とても温かかったのを昨日の事のように覚えている。
「どうした?」
「え……?」
懐かしむように過去の思い出に浸っていたが、彼女の戸惑った声に我に返り、横を向くと困惑した表情で僕を見つめる彼女が居た。
「何故泣いているんだ?」
「えっ、……泣い……てる?」
何を言われているのか分からず僕は戸惑う。そして彼女に言われて初めて気がついた。瞳からは知らず知らずの内に涙の雫が零れ落ちていた。
「ご、ごめん。昔のことを思い出しちゃったからかな」
「そうか。先ほども泣いていたな」
気づいていたのか。僕でも雨なのか涙なのか良く分からなかったと言うのに。それに何だか恥ずかしさと、女の子の前で泣いてそれを見られてしまった情けなさに、これ以上は見せまいと顔を俯かせる。
「気にすることはない。泣きたいなら泣けばいい。泣けるときに泣いておかないと後で後悔するぞ。初対面の、こんな小さいなりの少女で申し訳ないが、妾が傍にいるから。今だけは意地を張らなくて良い」
その言葉にゆっくりと顔を上げると、彼女は美しい笑みを浮かべてそっと僕を抱きしめる。そしてまるで母親のように優しい手つきで頭を撫でてくれた。
それもあってか更に昔を思い出してしまって僕はみっともなく泣いてしまった。恥ずかしいと思うけどどうしても止まらなかった。それでも彼女は何も言わずに、ただずっと僕を抱きしめ続けてくれていた。
「……ごめん。情けないな……、僕」
それから暫くしてようやく泣き止むと僕は彼女の腕の中からそっと抜け出し、溢れた涙を拭った。
「気にするな。少しはすっきりしたか?」
本当に気にした様子もなく優しい声色でたずねてくて、それにどこかホッとする。
「うん。ありがとう」
「そうか、良かった」
それからは暫く沈黙し、お互いに話す事もなく気まずい空気になり、唯々時間だけが流れていった。
……何を話せば。思い返せば聞きたいことはあるだろうに、今の僕には何も言葉が思い浮かばなかった。
すると唐突に彼女の方から話し掛けられる。
「お前、今辛いのか?」
「え?」
沈黙を破り凛とした彼女の声が響く。
「少しお前の話を聞いても良いか?何があったのか。話したくなければ話さなくてもいいが」
そう言った彼女は何故か悲しそうに微笑んだ。
その時僕は悟った。彼女は何となくでも偶然でもなく、何か理由があって僕に話しかけてくれたのではないか、と。
自分の勝手な想像だが、もしもそうなら今のこの気持ちを彼女に聞いてほしいと思った。言葉をかけて欲しいわけじゃない。ただ聞いてほしいんだ。一人で悩むのにはこの気持ちは辛すぎるから。
「君になら、いや君に聞いてほしい。僕の今の気持ち、そして少しの間の思い出話しを」
「分かった」
彼女の返事聞いてから僕はゆっくりと話し始めた。話している間、彼女は寄り添い、時々相槌を打って話しに耳を傾けてくれていた。
両親との生活、この家で商人として両親の仕事の手伝いをしていたこと、そして事故のこと……。
途中で何度も泣きだしそうになったり、歯切れが悪くなってしまったりしたけど、それでも先を急かす事なく、ただ静かに隣に居てくれたのだった。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
若輩当主と、ひよっこ令嬢
たつみ
恋愛
子爵令嬢アシュリリスは、次期当主の従兄弟の傍若無人ぶりに振り回されていた。
そんなある日、突然「公爵」が現れ、婚約者として公爵家の屋敷で暮らすことに!
屋敷での暮らしに慣れ始めた頃、別の女性が「離れ」に迎え入れられる。
そして、婚約者と「特別な客人(愛妾)」を伴い、夜会に出席すると言われた。
だが、屋敷の執事を意識している彼女は、少しも気に留めていない。
それよりも、執事の彼の言葉に、胸を高鳴らせていた。
「私でよろしければ、1曲お願いできますでしょうか」
◇◇◇◇◇
設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。
R-Kingdom_4
他サイトでも掲載しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
今日も聖女は拳をふるう
こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。
その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。
そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。
女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。
これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる