幸せな人生を目指して

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第3章 魔法の世界

15 オッドアイの少女

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さっきから上の方で何かがぶつかり合う音がしているけど、一体何が起こっているの……?

それに向こうにはルリ様がいる。無事だと良いけど……。

「大丈夫よ、エルちゃん。彼女は強いから」

「ウル……」

いつの間にか傍に居たウルが心配ないわと言う顔でルリ様がいる方を見上げた。

神出鬼没なウルの登場で私達のいた階に光が戻った。少し離れていても見えるほど視界が開ける。



「皆様ご無事ですか?」

程なくしてクラウスさんの声が聞こえてそちらを振り返る。ちょうどクラウスさんが駆け寄って来るところだった。

「クラウスさんっ、良かった無事だったんですね。ルリ様は一緒ではないのですか?」

「安心して下さい。姫様はご無事ですよ」

「そうですか、良かった……」

「それで申し訳ないのですが、姫様が皆様をお呼びするようにと」

「……?はい、分かりました」

事情は良く分からないけど私達が動く前に事は解決したようで、 ひとまず安心。

それから私達はクラウスさんと共に急いでルリ様の元へ向かった。





「ルリ様っ!」

階段を上がった先に背中を向けて立つルリ様を見つけて思わず名前を叫んだ。

その声に振り返ったルリ様は大丈夫だと言うように微笑んで見せる。

「エル、無事で良かった。皆も怪我はないか?」

「皆様ご無事です」

「そうか」

ルリ様の元へと戻って行くクラウスさんに続き私も二人の元へ歩み寄る。

え……?

しかしそこには思わぬ人物の姿が。

あの子は確か――。

壁に寄りかかるようにして項垂れている一人の少女。

身に覚えのある短く揃えられた緑の髪。黒ずくめの服装。間違いなくあの時の――。


「……ルリ様、その子……」

「侵入者だ。それも妾を狙ってきた暗殺者」

「……っ!」

その言葉を聞き息を呑む。

暗殺者……?この子が……?そんなことがあるの。こんなに幼い子どもがそんなこと……。


見つめていると顔を上げた少女と目が合った。

憎々しそうにこちらを睨みつけてくるオッドアイの瞳。あんなに吊り上げていないで笑っていたらとても綺麗な瞳なのに。何だか少し寂しいなと思ってしまう。

あの瞳で睨まれても私はあの子を憎めない。憎しみに満ちた目だけど、私には助けを求めているように見えたから。


「ルリ様。あの子と話しをさせて下さい」

「エル様っ」

ルカの制する声がするけど私は構わずもう一度ルリ様にお願いする。

「お願いします」

そう言うと顔を強張らせ、困った表情を見せるルリ様。程なくして呆れたように息を吐く音。

「仕方ない、良いだろう。だが気を抜くなよ」

「はい、ありがとうございます」

ルリ様に感謝を述べ、ルカに止められる前にと少女の方へと駆けて行く。ジーっとこちらの様子を注意深く見てくる少女に、私は膝をつき目線を合わせた。

「貴方はあの時森で会った子ですよね?」

「……」

優しく話しかけてみたものの、少女は口は閉ざしたまま。

「名前は何て言うんですか?」

「……」

「大丈夫です。貴方が何者でもどうこうしようというわけではありません。ただ貴方と話がしたいだけです。だから名前だけでも教えて欲しいです」

そこまで言ったら後は辛抱強く見守るのみ。彼女から話してくれるのを暫く待つことに。

沈黙がその場を支配する。私は静かに彼女を黙って見つめる。


そうして暫く経った頃ようやく沈黙が破られる。

「……アリン」

ただ一言、消え入りそうな声で名前を言う彼女に私は笑みを浮かべた。

「アリンちゃん……。可愛い名前ですね」

そう言うと驚きと戸惑いの入り混じった表情がアリンちゃんの顔に浮かぶ。私の反応が意外だったかな?

「私はエルシア・シェフィールドです。よろしくお願いします、アリンちゃん」

「……はい」

笑顔で自分を名乗りを上げると案外素直にアリンちゃんも反応を返してくれて、またそれに嬉しくなる。


「アリンちゃん。ちょっと聞きたいことがあるのですが」

「……?」

首を傾げているけどさっきよりは警戒心が解けた気がする。そう思い私は言葉を続けた。

「アリンちゃんは何者なんですか?どうしてここへ?」

問うと聞かれたくない事なのか俯いてしまうアリンちゃん。失敗したと思い、私が慌てて次の言葉を探していたら、俯いていた顔を上げ、開かれたオッドアイが意を決したように真っすぐと私を見据えた。

「……ワタシは暗殺者。ここへは女王の暗殺のために来た」

ゆっくりと話し始める彼女から私は目が離せなかった。
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