48 / 227
第3章 魔法の世界
15 オッドアイの少女
しおりを挟む
さっきから上の方で何かがぶつかり合う音がしているけど、一体何が起こっているの……?
それに向こうにはルリ様がいる。無事だと良いけど……。
「大丈夫よ、エルちゃん。彼女は強いから」
「ウル……」
いつの間にか傍に居たウルが心配ないわと言う顔でルリ様がいる方を見上げた。
神出鬼没なウルの登場で私達のいた階に光が戻った。少し離れていても見えるほど視界が開ける。
「皆様ご無事ですか?」
程なくしてクラウスさんの声が聞こえてそちらを振り返る。ちょうどクラウスさんが駆け寄って来るところだった。
「クラウスさんっ、良かった無事だったんですね。ルリ様は一緒ではないのですか?」
「安心して下さい。姫様はご無事ですよ」
「そうですか、良かった……」
「それで申し訳ないのですが、姫様が皆様をお呼びするようにと」
「……?はい、分かりました」
事情は良く分からないけど私達が動く前に事は解決したようで、 ひとまず安心。
それから私達はクラウスさんと共に急いでルリ様の元へ向かった。
「ルリ様っ!」
階段を上がった先に背中を向けて立つルリ様を見つけて思わず名前を叫んだ。
その声に振り返ったルリ様は大丈夫だと言うように微笑んで見せる。
「エル、無事で良かった。皆も怪我はないか?」
「皆様ご無事です」
「そうか」
ルリ様の元へと戻って行くクラウスさんに続き私も二人の元へ歩み寄る。
え……?
しかしそこには思わぬ人物の姿が。
あの子は確か――。
壁に寄りかかるようにして項垂れている一人の少女。
身に覚えのある短く揃えられた緑の髪。黒ずくめの服装。間違いなくあの時の――。
「……ルリ様、その子……」
「侵入者だ。それも妾を狙ってきた暗殺者」
「……っ!」
その言葉を聞き息を呑む。
暗殺者……?この子が……?そんなことがあるの。こんなに幼い子どもがそんなこと……。
見つめていると顔を上げた少女と目が合った。
憎々しそうにこちらを睨みつけてくるオッドアイの瞳。あんなに吊り上げていないで笑っていたらとても綺麗な瞳なのに。何だか少し寂しいなと思ってしまう。
あの瞳で睨まれても私はあの子を憎めない。憎しみに満ちた目だけど、私には助けを求めているように見えたから。
「ルリ様。あの子と話しをさせて下さい」
「エル様っ」
ルカの制する声がするけど私は構わずもう一度ルリ様にお願いする。
「お願いします」
そう言うと顔を強張らせ、困った表情を見せるルリ様。程なくして呆れたように息を吐く音。
「仕方ない、良いだろう。だが気を抜くなよ」
「はい、ありがとうございます」
ルリ様に感謝を述べ、ルカに止められる前にと少女の方へと駆けて行く。ジーっとこちらの様子を注意深く見てくる少女に、私は膝をつき目線を合わせた。
「貴方はあの時森で会った子ですよね?」
「……」
優しく話しかけてみたものの、少女は口は閉ざしたまま。
「名前は何て言うんですか?」
「……」
「大丈夫です。貴方が何者でもどうこうしようというわけではありません。ただ貴方と話がしたいだけです。だから名前だけでも教えて欲しいです」
そこまで言ったら後は辛抱強く見守るのみ。彼女から話してくれるのを暫く待つことに。
沈黙がその場を支配する。私は静かに彼女を黙って見つめる。
そうして暫く経った頃ようやく沈黙が破られる。
「……アリン」
ただ一言、消え入りそうな声で名前を言う彼女に私は笑みを浮かべた。
「アリンちゃん……。可愛い名前ですね」
そう言うと驚きと戸惑いの入り混じった表情がアリンちゃんの顔に浮かぶ。私の反応が意外だったかな?
「私はエルシア・シェフィールドです。よろしくお願いします、アリンちゃん」
「……はい」
笑顔で自分を名乗りを上げると案外素直にアリンちゃんも反応を返してくれて、またそれに嬉しくなる。
「アリンちゃん。ちょっと聞きたいことがあるのですが」
「……?」
首を傾げているけどさっきよりは警戒心が解けた気がする。そう思い私は言葉を続けた。
「アリンちゃんは何者なんですか?どうしてここへ?」
問うと聞かれたくない事なのか俯いてしまうアリンちゃん。失敗したと思い、私が慌てて次の言葉を探していたら、俯いていた顔を上げ、開かれたオッドアイが意を決したように真っすぐと私を見据えた。
「……ワタシは暗殺者。ここへは女王の暗殺のために来た」
ゆっくりと話し始める彼女から私は目が離せなかった。
それに向こうにはルリ様がいる。無事だと良いけど……。
「大丈夫よ、エルちゃん。彼女は強いから」
「ウル……」
いつの間にか傍に居たウルが心配ないわと言う顔でルリ様がいる方を見上げた。
神出鬼没なウルの登場で私達のいた階に光が戻った。少し離れていても見えるほど視界が開ける。
「皆様ご無事ですか?」
程なくしてクラウスさんの声が聞こえてそちらを振り返る。ちょうどクラウスさんが駆け寄って来るところだった。
「クラウスさんっ、良かった無事だったんですね。ルリ様は一緒ではないのですか?」
「安心して下さい。姫様はご無事ですよ」
「そうですか、良かった……」
「それで申し訳ないのですが、姫様が皆様をお呼びするようにと」
「……?はい、分かりました」
事情は良く分からないけど私達が動く前に事は解決したようで、 ひとまず安心。
それから私達はクラウスさんと共に急いでルリ様の元へ向かった。
「ルリ様っ!」
階段を上がった先に背中を向けて立つルリ様を見つけて思わず名前を叫んだ。
その声に振り返ったルリ様は大丈夫だと言うように微笑んで見せる。
「エル、無事で良かった。皆も怪我はないか?」
「皆様ご無事です」
「そうか」
ルリ様の元へと戻って行くクラウスさんに続き私も二人の元へ歩み寄る。
え……?
しかしそこには思わぬ人物の姿が。
あの子は確か――。
壁に寄りかかるようにして項垂れている一人の少女。
身に覚えのある短く揃えられた緑の髪。黒ずくめの服装。間違いなくあの時の――。
「……ルリ様、その子……」
「侵入者だ。それも妾を狙ってきた暗殺者」
「……っ!」
その言葉を聞き息を呑む。
暗殺者……?この子が……?そんなことがあるの。こんなに幼い子どもがそんなこと……。
見つめていると顔を上げた少女と目が合った。
憎々しそうにこちらを睨みつけてくるオッドアイの瞳。あんなに吊り上げていないで笑っていたらとても綺麗な瞳なのに。何だか少し寂しいなと思ってしまう。
あの瞳で睨まれても私はあの子を憎めない。憎しみに満ちた目だけど、私には助けを求めているように見えたから。
「ルリ様。あの子と話しをさせて下さい」
「エル様っ」
ルカの制する声がするけど私は構わずもう一度ルリ様にお願いする。
「お願いします」
そう言うと顔を強張らせ、困った表情を見せるルリ様。程なくして呆れたように息を吐く音。
「仕方ない、良いだろう。だが気を抜くなよ」
「はい、ありがとうございます」
ルリ様に感謝を述べ、ルカに止められる前にと少女の方へと駆けて行く。ジーっとこちらの様子を注意深く見てくる少女に、私は膝をつき目線を合わせた。
「貴方はあの時森で会った子ですよね?」
「……」
優しく話しかけてみたものの、少女は口は閉ざしたまま。
「名前は何て言うんですか?」
「……」
「大丈夫です。貴方が何者でもどうこうしようというわけではありません。ただ貴方と話がしたいだけです。だから名前だけでも教えて欲しいです」
そこまで言ったら後は辛抱強く見守るのみ。彼女から話してくれるのを暫く待つことに。
沈黙がその場を支配する。私は静かに彼女を黙って見つめる。
そうして暫く経った頃ようやく沈黙が破られる。
「……アリン」
ただ一言、消え入りそうな声で名前を言う彼女に私は笑みを浮かべた。
「アリンちゃん……。可愛い名前ですね」
そう言うと驚きと戸惑いの入り混じった表情がアリンちゃんの顔に浮かぶ。私の反応が意外だったかな?
「私はエルシア・シェフィールドです。よろしくお願いします、アリンちゃん」
「……はい」
笑顔で自分を名乗りを上げると案外素直にアリンちゃんも反応を返してくれて、またそれに嬉しくなる。
「アリンちゃん。ちょっと聞きたいことがあるのですが」
「……?」
首を傾げているけどさっきよりは警戒心が解けた気がする。そう思い私は言葉を続けた。
「アリンちゃんは何者なんですか?どうしてここへ?」
問うと聞かれたくない事なのか俯いてしまうアリンちゃん。失敗したと思い、私が慌てて次の言葉を探していたら、俯いていた顔を上げ、開かれたオッドアイが意を決したように真っすぐと私を見据えた。
「……ワタシは暗殺者。ここへは女王の暗殺のために来た」
ゆっくりと話し始める彼女から私は目が離せなかった。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる