幸せな人生を目指して

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第3章 魔法の世界

12 アクシデント発生!?

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「お待たせしました」

「来たか」

私達が急いでさっきの部屋へ戻ると、ルリ様は豪華な装飾が施された椅子に腰かけていて、隣にはクラウスさんもいた。

どうやら私たちが部屋を出ていた間に二人も着替えをしたようで、ここへ来た時と服装が変わっていた。

ルリ様は胸元のあいた、髪の色と同じ真紅の美しいドレスを身に纏い、首元に飾られた首飾りが輝きを放っている。

クラウスさんは黒のタキシードを見に纏い、凄く大人っぽくてどこか魅力的な色気を放っていた。

「凄くお似合いです!赤いドレス綺麗ですね」

素直に言うとルリ様はクスッと美しい笑った。

「ありがとう。お前達も良く似合っている。やはり着替えさせて正解だったな」

「ありがとうございます」

「さて、準備が出来たところでダンスパーティーを始めるぞ!」

その声を合図にしたように花びらが会場に降り注いで、とても美しい光景だった。


それに見とれていたけどふと我に返り、大事なことを忘れていたことに気づいた。

「ルリ様、ダンスパーティーと言っていましたが肝心なダンスの相手がいません」

まさか一人で踊ることもないだろうし、そもそも夜会やパーティーのダンスは二人で踊るもの。

ダンスの相手がいなくては踊れない。その事を指摘するとルリ様は自信のある顔で答える。


「そのことなら大丈夫だ。もう呼んである。入れ」

そう言うと扉へ向かって声を掛け、すると程なくして、

「失礼致します」

向こうから声が返ってきて、扉が開かれるとそこから二人の少年が現れた。


一人は緑の髪をした少年にしては背の高い人物。青の燕尾服に顔に仮面をつけていて表情は伺えないけど、身のこなしが優雅で貴族の出なのだろうと想像出来る。

そしてもう一人も緑の髪の少年と同じような体型、身長。

こちらは青い髪で緑の髪の少年とついになるような緑の燕尾服に同じく仮面を付けている。


青髪の彼、何だか見覚えがあるような……。そう思い目を凝らしてみていたらハッとする。私の方を見て良く知っている笑みを浮かべた。

もしかして――

「……ルカっ!?」

どうしてここに!

驚いて声を上げるとその人物は仮面を外し顔を見せた。

「はい、エル様。お待たせして申し訳ありません」

仮面の下にはいつも通りの優しく柔和な笑みを浮かべたルカの姿があって、てっきり会えないままかと思っていた従者との思わぬ再会に喜びが溢れる。

転ばないようにドレスの裾を摘まみながらルカの元へ駆け寄って行く。

「ルカ、どうしてここに?それにその衣装は……」

「落ち着いて下さい」

混乱状態の私を冷静に宥める。それがいつも通りと変わらず酷く安心する。

「その二人は妾が呼んだのだ」

「え?」

「悪いがお前のことを調べさせた。お前には従者がいて、その従者に妾のことを話していたことも。そこで今宵のダンスパーティーにちょうど良いと思い招待した。お前も彼に合いたがっていたようだからな」

「そうだったんですね。ありがとうございます、ルリ様」

事情を聞いてもやっぱり落ち着かない。普段正式な場でない限りは夜会の衣装とか着ない人だから。


あれ?でももう一人の緑の髪の少年は?

「何故貴方まで……」

考え込んでいると、今まで黙っていたユキが戸惑いの声を上げる。見るとその視線はルカと一緒にいるもう一人の少年へと向けられていた。

「私も女王陛下からお呼ばれ致しましたので」

そう言うと少年は仮面を取った。ルカとはまた違った爽やか紳士。

それが彼に抱いた第一印象。穏やかな眼差しの優しそうな印象を受ける少年。

「ユキ、お知り合いですか?」

私が問うと、しかしそれに応えたのはルリ様だった。

「彼はユキの従者だ」

「そうなのですかっ!」

「……ええそうよ。彼は私の従者」

消え入りそうな声でユキが呟いた。

「皆様お初にお目にかかります。ユキ様の従者、レナードと申します。以後お見知りおきを」

ユキとは反対に、滑舌の良い声で名乗りを上げた少年、レナードさん。

「はい。こちらこそよろしくお願いします、レナードさん」

私もドレスの裾をちょこんと摘まみながら挨拶をした。

「貴方がエルシア様ですね。ユキ様からかねがねお話を伺っています」

「そうなんですか?」

「ええ、それはもう嬉しそうに――」

「レナード。余計なことは言わなくていいのよ」

レナードさんの言葉がユキによって途中で遮られる。ユキは笑顔でレナードさんを凝視。

目が笑ってないのが怖いけど、それを目にしてもレナードさんは特に気にした様子もなく楽しそうに笑みを返していた。

ある意味凄い……。



「さて諸君。お互いの挨拶はその辺にして、パーティーを始めるぞ」

ルリ様の声で話は中断。ルリ様はクラウスさんに手を引かれて階段を下りて来る。

「エル様」

呼ばれて振り返り見ると、ルカが手を差し出していて、私はその手をそっととる。

次いでルカの方に手を引かれ、腰に手を添えて私を支えてくれる。遠慮がちに、でもしっかりと添えられた手に私の頬は熱くなる。

これだけ密着すると流石に緊張する。私とは違ってルカは本当に普段通りに、曲に合わせて私をリードしながらステップを踏む。動くたびにドレスがフワッと靡き、床に落ちていた花びらを舞い上がらせる。

私だったら裾を踏んで転ぶのがオチだろうけど、ルカは絶対に踏まないし、寧ろ体力に自信が無い私をずっとリードしてくれる。その心遣いに感謝と共に感心する。


ルカって優しいし、頭良いし、気を利かせてくれるし、本当に紳士の鏡だと思う。本人に言うとそんなことありませんよ。って謙遜するけど。感謝してもしきれないですよ。


「ユキ様、私達も踊りましょうか」

「仕方ないわね。しっかりリードして頂戴ね」

チラッとユキ達を見るとレナードさんがユキをリードしていた。

それにしても二人とも上手。男性がリードするものだけど、ユキはリードしてと言いつつも相手に任せきりにしていない。

お互いが相手に気を使って合わせていて、息もピッタリでお互い信頼しているのが伺えた。

そしてルリ様はと言うとクラウスさんと慣れた動きで楽しそうに踊っていた。

「エル様、こちらに集中して下さいね」

「あっ、すみません」

周りを見ているとルカに注意されてしまい、それで我に返りルカを見上げた。

「ようやく僕を見てくれましたね」

優しくそう言い、甘い笑みを浮かべて見せた。

「ルカ……」

見つめてくる瞳から目が逸らせない。ドキドキしながらそのまま踊り続けて、そして気づけばダンスは終わっていた。

ぼーっとしてしまっていたけど、最後までルカが支えてくれていたから転ぶことなく踊りきることが出来た。


ルカの表情には驚いたけど、何はともあれこのひと時が楽しかったことには変わりなく、忘れられない思い出になると思う。


そして、そのひとときが終わりを告げたその時だった――

「エルちゃんっ!」

何処にいたのか、急にウルティナの切羽詰まった声が私の耳に届いたのと同時に、

パリンッ!

鳴り響いた大きな音。


……えっ!?


「エル様っ!」

次いでルカの叫ぶ声。そして手を引かれた勢いでルカの胸に倒れこみ、私を守るようにルカが私に覆いかぶさる。

え……、一体何が……。


あまりにも一瞬の出来事に言葉が出てこなくて、唖然とするしかない。


瞬きを繰り返し、ようやく少し落ち着いた頃、首だけ動かし辺りを見てみると――


……っ!


目の先には少し前まで私達が立っていた場所があり、そこには鋭利なガラスの破片がまるで私達を狙っていたかのように飛び散っていた。

その様子を目の当たりにした私は途端に蒼褪める。

「……これは」

消え入りそうな声で呟くとそれに答えるように、大きく豪華なシャンデリアの光が息が吹きかけられたように一瞬にして消え、そしてその他の灯っていた光も次々と消えていき、程なくして辺りは真っ暗になってしまった。


「ヒット・ア・ライト」

震えながら小さく唱える。すると静かに小さな灯りが辺りを照らしてくれる。

一人では魔法を唱える余裕がなかっただろうけど、ルカが居てくれたから少しだけ冷静さを取り戻すことが出来て安心する。

それに全体を明るくするまではいかなくてもこの灯だけでユキ達の姿を捉えることはできるはず。

声を出すことは憚れて、何とか灯りだけを周りに漂わせて二人の姿を探していく。

あっ、いた!

するとすぐに二人の姿を確認出来てホッとする。ルカと同じように、レナードさんがユキを庇い辺りを警戒している様子。

とにかく無事なようで本当に良かった。


二人の無事を確認して安心したのも束の間、近くで踊っていたルリ様とクラウスさんの姿が見当たらない。


「皆その場から動くなっ!」

探した方が良いのではと思いルカに声を掛けようとすると、ルリ様の切迫した声が会場に反響した。

「ルリ様、ご無事ですか?」

「ああ、妾もクラウスも無事だ」

灯りが届いていない暗闇の中、思い切って声をかけるとすぐに声が返ってきて、それを聞いてようやく安心した。

「良かった……、待っていて下さい今灯りを――」

「いや、妾は大丈夫だ。それよりルカ、レナード、お前達は二人をしっかり守れっ!」

「「はいっ!」」

冷静な二人はすぐに返事を返す。そしてまた辺りは静寂に包まれた。


さっきのは……、一体何?どうして窓ガラスが割れたの……?

怖くなってルカの服をギュっと握りしめると、それに気づいたルカは私をそっと抱きしめた。



恐怖の中じっと耐えているその間にも、ずっと胸騒ぎがしていて不安な気持ちは一向に晴れる気配はなかった。
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