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第2章 過去と現在
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私が見てきた魔法士は魔力を巡らせるのと呪文を同時に行い、相手に隙を与えず、相手より早く魔法を放つ。
それができる人は世間一般で優秀な人達。
でも魔力を巡らせてから呪文を唱えるというのが普通。
少し効率が悪いけどそれは魔力量にも影響されるのから個人差がある。
伯爵は後者。魔力はそこそこの並大抵。
私は毎日のように魔法の腕トップクラスのルカを相手に訓練してきた。
伯爵には負けない。でもさっき言ったように相手をなめてかかってはいけない。
本当のところ、この間にも伯爵に攻撃を仕掛けるというのも手だけど、まだこの場にセレーナさんがいるため下手な事は出来ない。
それに伯爵は私をただの小娘だとなめてくれているから、もう少し油断させる。
「俺の力を見せてあげるよ。ファイアーボール・アクティベート!」
無数の火の玉が現れ、伯爵がその手を払うと同時にこちらに目掛けて飛んできた。
顔に傷つけないようにとか言いながら当たったら傷つきますよ?これ。
「シールド」
攻撃ではなく防御の魔法を素早く展開する。最も簡単な防御の魔法。
目には見えない壁が現れ、飛んできた火の玉を消滅させる。
「今です。外へ!」
私が振り返らず叫ぶとセレーナさんは外へ一直線に走り出した。
よし、これで安心して対峙できる。
「くっ!」
彼女が逃げ出したことを気にする余裕がないのか歯を食いしばる伯爵。
私のシールドを壊すために威力を強めたようだけど、それでも私のシールドはびくともしなかった。
それを見て、ほんの少し前は自信満々だった伯爵の顔が見る見るうちに蒼白になっていった。
ではそろそろこちらも反撃と行きましょうか!
私は素早く魔力を巡らせ、手を前に出し呪文を唱える。
「お返しです。ファイアーボール・アクティベート」
殺傷能力は抑えているけど、今までの行いを反省してもらうため、そして二度と私達に会いたくないと思わせるくらいにはしておきたいから少々威力を込めたファイアーボールを発射した。
伯爵のものとは違いスピードも桁違いですよ。あっと思う間には直撃。
足と腕に少し怪我があるようだけど、命に別状はない。
伯爵は顔を青ざめながらその場に座り込んでしまった。
「レイン・アクティベート」
それから一応追加で水魔法も唱えておくことに。こんなところで火を放っていたのだから間違って火事でも起きたら大変ですし。
「はぁ、終わりました」
一瞬の出来事。全て終わって私が一息ついたところでようやく伯爵も震えながら立ち上がり、それから私を見て、
「き、君はどうして無傷なんだ……?」
なんて間の抜けたことを言ってくるから私は笑って、
「どうしてって、それはシールドで守られてましたからね」
と言ってやりました!
「そ、そんなばかな……ありえない!あの時俺はずっと火を放っていた。反撃できるわけ……」
そんなことを言ってくるので少し呆れた。
「だから同時にやったんです。あなたの攻撃をシールドで防ぎながら。シールドを発動しながらファイアーボールを放っただけの事」
「そんな……」
まぁ二つの魔法を同時に維持するのは難しいからね。
伯爵が驚いても無理ないのかな?
こんな九歳の子どもが出来ちゃっているわけだしね。
「なめない方がいいって言ったでしょう?」
そう言うと伯爵は言葉無く項垂れた。
「では伯爵、行きましょうか」
放心状態になった伯爵に声をかけて促す。
「わ、わかった……」
「先に言っておきますが逃げようなどとは思わないでくださいね。次はこんなものでは済ましませんから」
一応釘を刺しておきます。満面の笑顔を添えて。
それに伯爵は震えながら頷き、さっきの勢いはどこに行ったのやら、とてもおとなしく私の後を黙って付いてくるのでした。
外へ出ると、ルカが呼んでいたのか、王城の騎士団が倒れている誘拐犯達を取り押さえているところだった。
「ルカ!無事ですか?」
私はその中にいたルカに駆け寄る。
「はい大丈夫です。エル様こそご無事ですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
お互いの無事を確認してやっとほっとすること出来た。
それからのことは騎士団の方達が請け負ってくれて、伯爵も彼らに連行されて行った。
「あれ?そういえばセレーナさんは?さっき出てきましたよね?」
私はふと気づいてあたりを見回した。
「……あちらに」
ルカに言われてそっちを見ると木の影にセレーナさんの長い髪が見えた。
良かった。ルカはもう話したのかな?
そう思ってそっとルカを見ると戸惑いの表情をしていた。
まだ話していない様子。
ルカはセレーナさんだと気づいているけど何て声をかけたら良いのか分からないのでしょうね。
セレーナさんも同じで、愛しい息子に会えて嬉しいけど、やっぱりどうしたら良いのか分からない。
やっぱり親子ですね。考えが同じて、とても人思い。
性格も似ているけど、外見も似てて親子だなって分かる。
ルカは青空を思わせる澄みきった青い髪と瞳。セレーナさんは色素が薄い、海を思わせるような水色の髪と瞳。
特に目の形なんか二人共そっくり。もしルカが女の子だったらセレーナさんのような可愛い女の子だったのかな、なんてね。
まぁそれはさておき――。
「ほらルカ。早く行ってあげてくださいよ!」
私はそう言いルカの背中を軽く叩いた。
「……はい」
自信なさげに言うルカを見てらしくないなと思ったけど、今日の所は仕方が無いなと目を瞑り、自分の従者が大切な人に逢いに行くのを笑顔で見送った。
どうか上手く行きますように。そう願いを込めながら――
それができる人は世間一般で優秀な人達。
でも魔力を巡らせてから呪文を唱えるというのが普通。
少し効率が悪いけどそれは魔力量にも影響されるのから個人差がある。
伯爵は後者。魔力はそこそこの並大抵。
私は毎日のように魔法の腕トップクラスのルカを相手に訓練してきた。
伯爵には負けない。でもさっき言ったように相手をなめてかかってはいけない。
本当のところ、この間にも伯爵に攻撃を仕掛けるというのも手だけど、まだこの場にセレーナさんがいるため下手な事は出来ない。
それに伯爵は私をただの小娘だとなめてくれているから、もう少し油断させる。
「俺の力を見せてあげるよ。ファイアーボール・アクティベート!」
無数の火の玉が現れ、伯爵がその手を払うと同時にこちらに目掛けて飛んできた。
顔に傷つけないようにとか言いながら当たったら傷つきますよ?これ。
「シールド」
攻撃ではなく防御の魔法を素早く展開する。最も簡単な防御の魔法。
目には見えない壁が現れ、飛んできた火の玉を消滅させる。
「今です。外へ!」
私が振り返らず叫ぶとセレーナさんは外へ一直線に走り出した。
よし、これで安心して対峙できる。
「くっ!」
彼女が逃げ出したことを気にする余裕がないのか歯を食いしばる伯爵。
私のシールドを壊すために威力を強めたようだけど、それでも私のシールドはびくともしなかった。
それを見て、ほんの少し前は自信満々だった伯爵の顔が見る見るうちに蒼白になっていった。
ではそろそろこちらも反撃と行きましょうか!
私は素早く魔力を巡らせ、手を前に出し呪文を唱える。
「お返しです。ファイアーボール・アクティベート」
殺傷能力は抑えているけど、今までの行いを反省してもらうため、そして二度と私達に会いたくないと思わせるくらいにはしておきたいから少々威力を込めたファイアーボールを発射した。
伯爵のものとは違いスピードも桁違いですよ。あっと思う間には直撃。
足と腕に少し怪我があるようだけど、命に別状はない。
伯爵は顔を青ざめながらその場に座り込んでしまった。
「レイン・アクティベート」
それから一応追加で水魔法も唱えておくことに。こんなところで火を放っていたのだから間違って火事でも起きたら大変ですし。
「はぁ、終わりました」
一瞬の出来事。全て終わって私が一息ついたところでようやく伯爵も震えながら立ち上がり、それから私を見て、
「き、君はどうして無傷なんだ……?」
なんて間の抜けたことを言ってくるから私は笑って、
「どうしてって、それはシールドで守られてましたからね」
と言ってやりました!
「そ、そんなばかな……ありえない!あの時俺はずっと火を放っていた。反撃できるわけ……」
そんなことを言ってくるので少し呆れた。
「だから同時にやったんです。あなたの攻撃をシールドで防ぎながら。シールドを発動しながらファイアーボールを放っただけの事」
「そんな……」
まぁ二つの魔法を同時に維持するのは難しいからね。
伯爵が驚いても無理ないのかな?
こんな九歳の子どもが出来ちゃっているわけだしね。
「なめない方がいいって言ったでしょう?」
そう言うと伯爵は言葉無く項垂れた。
「では伯爵、行きましょうか」
放心状態になった伯爵に声をかけて促す。
「わ、わかった……」
「先に言っておきますが逃げようなどとは思わないでくださいね。次はこんなものでは済ましませんから」
一応釘を刺しておきます。満面の笑顔を添えて。
それに伯爵は震えながら頷き、さっきの勢いはどこに行ったのやら、とてもおとなしく私の後を黙って付いてくるのでした。
外へ出ると、ルカが呼んでいたのか、王城の騎士団が倒れている誘拐犯達を取り押さえているところだった。
「ルカ!無事ですか?」
私はその中にいたルカに駆け寄る。
「はい大丈夫です。エル様こそご無事ですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
お互いの無事を確認してやっとほっとすること出来た。
それからのことは騎士団の方達が請け負ってくれて、伯爵も彼らに連行されて行った。
「あれ?そういえばセレーナさんは?さっき出てきましたよね?」
私はふと気づいてあたりを見回した。
「……あちらに」
ルカに言われてそっちを見ると木の影にセレーナさんの長い髪が見えた。
良かった。ルカはもう話したのかな?
そう思ってそっとルカを見ると戸惑いの表情をしていた。
まだ話していない様子。
ルカはセレーナさんだと気づいているけど何て声をかけたら良いのか分からないのでしょうね。
セレーナさんも同じで、愛しい息子に会えて嬉しいけど、やっぱりどうしたら良いのか分からない。
やっぱり親子ですね。考えが同じて、とても人思い。
性格も似ているけど、外見も似てて親子だなって分かる。
ルカは青空を思わせる澄みきった青い髪と瞳。セレーナさんは色素が薄い、海を思わせるような水色の髪と瞳。
特に目の形なんか二人共そっくり。もしルカが女の子だったらセレーナさんのような可愛い女の子だったのかな、なんてね。
まぁそれはさておき――。
「ほらルカ。早く行ってあげてくださいよ!」
私はそう言いルカの背中を軽く叩いた。
「……はい」
自信なさげに言うルカを見てらしくないなと思ったけど、今日の所は仕方が無いなと目を瞑り、自分の従者が大切な人に逢いに行くのを笑顔で見送った。
どうか上手く行きますように。そう願いを込めながら――
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