25 / 227
第2章 過去と現在
2 疑念
しおりを挟む
最近ルカが変。おかしいのです。
細かく言うと行動がもどかしいと言うか。
今日だって、いつも通り挨拶をして話をする流れだったのに、どうしてかさっさと行ってしまったり、ルカを見かけたけど妙にソワソワと落ち着きのない様子。
怪しい……。
昨日気になったから父様に聞きに行ったのだけど――
「父様。少し良いですか?」
「何だい?入っておいで」
言われて中に入ると父様の部屋は変わらず静寂に包まれていて静か。
書類も沢山あるのに綺麗に整理整頓されていて相変わらずの綺麗さ。
部屋の両壁には父様が仕事で使うものでしょう、綺麗に並べられた本がズラリと並んでいる。
本棚に挟まれるように置かれている仕事机で、父様は何かの書類に目を通しているところだった。
その書類から顔を上げ私を見る。
「どうしたんだい?」
「あの、最近ルカの様子が変なんです。父様はルカから何か聞いているのではありませんか?何か困っていることがあるとか」
その問いかけに父様は顔色を変えずに口を開いた。
「そうだね。でもそれは私からは教えてあげられない」
それを聞いて先日のテラスで何か話しているルカと父様の姿が頭に浮かんだ。
「やっぱり何かあったのですね。どうして教えてくれないんですか……」
独り言のように呟く。最後の言葉はここにはいないルカに向けて。
「私からは言えないが、気になるなら直接本人に聞いてみたらどうだい?」
俯く私に父様は柔らかく微笑んでそう言った。
「でも、話してくれるか……、わかりませんよ」
「大丈夫だ。エルにならきっと話してくれるよ」
「どうして分かるんですか…?」
「ルカがエルのことを信頼しているからだよ。真剣に向き合ってあげればルカも素直になるだろう」
信頼……。
ルカと出会って一年。
誰よりも一緒に過ごすことが多かった私の従者。
前に私が誘拐された時、ルカは必死に探して助けてくれた。
なら今度は私がルカを助ける番と言うことね。
いつも助けられている分恩返しをしたい。
「分かりました。私頑張りますね」
そう言い残して父様の部屋を後にした。
ルカを探して奔走していると廊下を歩いているところを発見。
すぐさま駆け寄って行き、逃がすまいと手を掴んだ。
「ルカっ!話があります」
「……エル様?」
反射で身体を引こうとしたけど、手をがっしりと掴んでいるから逃げられませんよ。
「あの、最近何かありましたよね?私に話してください」
回りくどい言い方は無しで、単刀直入に聞いてみた。
真剣な私の様子を見て、ルカは話すかどうかを考えている。
「エル様……、あの、手を……」
言われてずっと握りしめていたルカの手。
若干熱を帯びているような感じがするけど。
動揺しているってことかな?
あのいつも冷静なルカが。
ついからかいたくなってしまう気持ちを抑える。
今はふざけている場合ではありませんから。
手に力を入れて更に強く握りしめる。
「駄目です。離したら逃げるでしょう?」
「……」
図星のようね。
私はいつまでも握っていてあげますよ?
ルカが話してくれるまで離してあげないんですからね。
「話してくれるまで手は繋いだままです」
そこまで言うと少しの間の後、諦めたようにため息をつくとこちらを向くルカ。
「分かりました。お話しします。でもやっぱり手は……」
「もうしょうがないですね。逃げないでくださいよ」
「はい……」
覚悟を決めたようだけど、手は話してほしいと言うルカに仕方なく手を離してあげた。
「お話はしますがここでは何なので、部屋へ行きましょう」
「はい」
廊下で立ったままでは誰かに聞かれる可能性もあるということで、部屋を移動することに。
そうして入ったのは近くの誰も居ない客室。
それぞれ置いてある椅子にお互い向かい合うようにして座る。
聞ける状態になってから私は改めて聞く。
「それで何があったんですか?」
ルカは私の目を見てからゆっくりと口を開いた。
「その前に、エル様。僕の本名はご存知ですか?」
「え?ルカ、ルーカスでしょ?下の名前は聞いたことがありませんけど」
唐突に意味深な質問をされて戸惑う。
どうして名前?それもフルネームでって。
あ、でもルカの下の名前って聞いたことがなかったような。
ルカが悩んでいることに関係があるの……?
「……僕の本名はルーカス・アシェンバート。この名前聞いたことありませんか?」
「アシェンバート……、どこかで聞いたことがあるような……」
私が言おうとしていたことが分かったのか続きを話してくれる。
「アシェンバートは伯爵の爵位を持つ、それなりに名の知られている家です」
「と言うことはルカは伯爵家の人間?」
「はい。そうです、いえ、そうだったの方が正しいですね。僕はもう伯爵ではありませんから……」
「ルカ……」
そう話すルカの表情は段々と暗くなっていく。
「すみません。話を戻しますね。先ほど名の知れた家と言いましたけど、それは良い意味ではなく悪い意味で有名なのです」
「悪い意味……。一体、それはどういう……」
「順番に話していきますね。まずは僕の過去からお話しします」
そう言って心を落ち着かせるように息をつき、それからゆっくりと続きを話し始めた。
細かく言うと行動がもどかしいと言うか。
今日だって、いつも通り挨拶をして話をする流れだったのに、どうしてかさっさと行ってしまったり、ルカを見かけたけど妙にソワソワと落ち着きのない様子。
怪しい……。
昨日気になったから父様に聞きに行ったのだけど――
「父様。少し良いですか?」
「何だい?入っておいで」
言われて中に入ると父様の部屋は変わらず静寂に包まれていて静か。
書類も沢山あるのに綺麗に整理整頓されていて相変わらずの綺麗さ。
部屋の両壁には父様が仕事で使うものでしょう、綺麗に並べられた本がズラリと並んでいる。
本棚に挟まれるように置かれている仕事机で、父様は何かの書類に目を通しているところだった。
その書類から顔を上げ私を見る。
「どうしたんだい?」
「あの、最近ルカの様子が変なんです。父様はルカから何か聞いているのではありませんか?何か困っていることがあるとか」
その問いかけに父様は顔色を変えずに口を開いた。
「そうだね。でもそれは私からは教えてあげられない」
それを聞いて先日のテラスで何か話しているルカと父様の姿が頭に浮かんだ。
「やっぱり何かあったのですね。どうして教えてくれないんですか……」
独り言のように呟く。最後の言葉はここにはいないルカに向けて。
「私からは言えないが、気になるなら直接本人に聞いてみたらどうだい?」
俯く私に父様は柔らかく微笑んでそう言った。
「でも、話してくれるか……、わかりませんよ」
「大丈夫だ。エルにならきっと話してくれるよ」
「どうして分かるんですか…?」
「ルカがエルのことを信頼しているからだよ。真剣に向き合ってあげればルカも素直になるだろう」
信頼……。
ルカと出会って一年。
誰よりも一緒に過ごすことが多かった私の従者。
前に私が誘拐された時、ルカは必死に探して助けてくれた。
なら今度は私がルカを助ける番と言うことね。
いつも助けられている分恩返しをしたい。
「分かりました。私頑張りますね」
そう言い残して父様の部屋を後にした。
ルカを探して奔走していると廊下を歩いているところを発見。
すぐさま駆け寄って行き、逃がすまいと手を掴んだ。
「ルカっ!話があります」
「……エル様?」
反射で身体を引こうとしたけど、手をがっしりと掴んでいるから逃げられませんよ。
「あの、最近何かありましたよね?私に話してください」
回りくどい言い方は無しで、単刀直入に聞いてみた。
真剣な私の様子を見て、ルカは話すかどうかを考えている。
「エル様……、あの、手を……」
言われてずっと握りしめていたルカの手。
若干熱を帯びているような感じがするけど。
動揺しているってことかな?
あのいつも冷静なルカが。
ついからかいたくなってしまう気持ちを抑える。
今はふざけている場合ではありませんから。
手に力を入れて更に強く握りしめる。
「駄目です。離したら逃げるでしょう?」
「……」
図星のようね。
私はいつまでも握っていてあげますよ?
ルカが話してくれるまで離してあげないんですからね。
「話してくれるまで手は繋いだままです」
そこまで言うと少しの間の後、諦めたようにため息をつくとこちらを向くルカ。
「分かりました。お話しします。でもやっぱり手は……」
「もうしょうがないですね。逃げないでくださいよ」
「はい……」
覚悟を決めたようだけど、手は話してほしいと言うルカに仕方なく手を離してあげた。
「お話はしますがここでは何なので、部屋へ行きましょう」
「はい」
廊下で立ったままでは誰かに聞かれる可能性もあるということで、部屋を移動することに。
そうして入ったのは近くの誰も居ない客室。
それぞれ置いてある椅子にお互い向かい合うようにして座る。
聞ける状態になってから私は改めて聞く。
「それで何があったんですか?」
ルカは私の目を見てからゆっくりと口を開いた。
「その前に、エル様。僕の本名はご存知ですか?」
「え?ルカ、ルーカスでしょ?下の名前は聞いたことがありませんけど」
唐突に意味深な質問をされて戸惑う。
どうして名前?それもフルネームでって。
あ、でもルカの下の名前って聞いたことがなかったような。
ルカが悩んでいることに関係があるの……?
「……僕の本名はルーカス・アシェンバート。この名前聞いたことありませんか?」
「アシェンバート……、どこかで聞いたことがあるような……」
私が言おうとしていたことが分かったのか続きを話してくれる。
「アシェンバートは伯爵の爵位を持つ、それなりに名の知られている家です」
「と言うことはルカは伯爵家の人間?」
「はい。そうです、いえ、そうだったの方が正しいですね。僕はもう伯爵ではありませんから……」
「ルカ……」
そう話すルカの表情は段々と暗くなっていく。
「すみません。話を戻しますね。先ほど名の知れた家と言いましたけど、それは良い意味ではなく悪い意味で有名なのです」
「悪い意味……。一体、それはどういう……」
「順番に話していきますね。まずは僕の過去からお話しします」
そう言って心を落ち着かせるように息をつき、それからゆっくりと続きを話し始めた。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~
丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月
働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。
いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震!
悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。
対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。
・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。
もう少しマシな奴いませんかね?
あっ、出てきた。
男前ですね・・・落ち着いてください。
あっ、やっぱり神様なのね。
転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。
ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。
不定期更新
誤字脱字
理解不能
読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~
柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。
想像と、違ったんだけど?神様!
寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。
神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗
もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。
とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗
いくぞ、「【【オー❗】】」
誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。
「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。
コメントをくれた方にはお返事します。
こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。
2日に1回更新しています。(予定によって変更あり)
小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。
少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる