幸せな人生を目指して

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第2章 過去と現在

2 疑念

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最近ルカが変。おかしいのです。

細かく言うと行動がもどかしいと言うか。

今日だって、いつも通り挨拶をして話をする流れだったのに、どうしてかさっさと行ってしまったり、ルカを見かけたけど妙にソワソワと落ち着きのない様子。

怪しい……。



昨日気になったから父様に聞きに行ったのだけど――



「父様。少し良いですか?」

「何だい?入っておいで」

言われて中に入ると父様の部屋は変わらず静寂に包まれていて静か。

書類も沢山あるのに綺麗に整理整頓されていて相変わらずの綺麗さ。

部屋の両壁には父様が仕事で使うものでしょう、綺麗に並べられた本がズラリと並んでいる。

本棚に挟まれるように置かれている仕事机で、父様は何かの書類に目を通しているところだった。

その書類から顔を上げ私を見る。

「どうしたんだい?」

「あの、最近ルカの様子が変なんです。父様はルカから何か聞いているのではありませんか?何か困っていることがあるとか」

その問いかけに父様は顔色を変えずに口を開いた。

「そうだね。でもそれは私からは教えてあげられない」

それを聞いて先日のテラスで何か話しているルカと父様の姿が頭に浮かんだ。

「やっぱり何かあったのですね。どうして教えてくれないんですか……」

独り言のように呟く。最後の言葉はここにはいないルカに向けて。

「私からは言えないが、気になるなら直接本人に聞いてみたらどうだい?」

俯く私に父様は柔らかく微笑んでそう言った。

「でも、話してくれるか……、わかりませんよ」

「大丈夫だ。エルにならきっと話してくれるよ」

「どうして分かるんですか…?」

「ルカがエルのことを信頼しているからだよ。真剣に向き合ってあげればルカも素直になるだろう」

信頼……。

ルカと出会って一年。

誰よりも一緒に過ごすことが多かった私の従者。

前に私が誘拐された時、ルカは必死に探して助けてくれた。

なら今度は私がルカを助ける番と言うことね。

いつも助けられている分恩返しをしたい。



「分かりました。私頑張りますね」

そう言い残して父様の部屋を後にした。



ルカを探して奔走していると廊下を歩いているところを発見。

すぐさま駆け寄って行き、逃がすまいと手を掴んだ。


「ルカっ!話があります」

「……エル様?」

反射で身体を引こうとしたけど、手をがっしりと掴んでいるから逃げられませんよ。


「あの、最近何かありましたよね?私に話してください」

回りくどい言い方は無しで、単刀直入に聞いてみた。

真剣な私の様子を見て、ルカは話すかどうかを考えている。




「エル様……、あの、手を……」

言われてずっと握りしめていたルカの手。

若干熱を帯びているような感じがするけど。

動揺しているってことかな?

あのいつも冷静なルカが。

ついからかいたくなってしまう気持ちを抑える。

今はふざけている場合ではありませんから。


手に力を入れて更に強く握りしめる。

「駄目です。離したら逃げるでしょう?」

「……」

図星のようね。

私はいつまでも握っていてあげますよ?

ルカが話してくれるまで離してあげないんですからね。

「話してくれるまで手は繋いだままです」

そこまで言うと少しの間の後、諦めたようにため息をつくとこちらを向くルカ。

「分かりました。お話しします。でもやっぱり手は……」

「もうしょうがないですね。逃げないでくださいよ」

「はい……」

覚悟を決めたようだけど、手は話してほしいと言うルカに仕方なく手を離してあげた。


「お話はしますがここでは何なので、部屋へ行きましょう」

「はい」

廊下で立ったままでは誰かに聞かれる可能性もあるということで、部屋を移動することに。

そうして入ったのは近くの誰も居ない客室。

それぞれ置いてある椅子にお互い向かい合うようにして座る。


聞ける状態になってから私は改めて聞く。

「それで何があったんですか?」

ルカは私の目を見てからゆっくりと口を開いた。



「その前に、エル様。僕の本名はご存知ですか?」

「え?ルカ、ルーカスでしょ?下の名前は聞いたことがありませんけど」

唐突に意味深な質問をされて戸惑う。

どうして名前?それもフルネームでって。

あ、でもルカの下の名前って聞いたことがなかったような。

ルカが悩んでいることに関係があるの……?

「……僕の本名はルーカス・アシェンバート。この名前聞いたことありませんか?」

「アシェンバート……、どこかで聞いたことがあるような……」

私が言おうとしていたことが分かったのか続きを話してくれる。

「アシェンバートは伯爵の爵位を持つ、それなりに名の知られている家です」

「と言うことはルカは伯爵家の人間?」

「はい。そうです、いえ、そうだったの方が正しいですね。僕はもう伯爵ではありませんから……」

「ルカ……」

そう話すルカの表情は段々と暗くなっていく。

「すみません。話を戻しますね。先ほど名の知れた家と言いましたけど、それは良い意味ではなく悪い意味で有名なのです」

「悪い意味……。一体、それはどういう……」

「順番に話していきますね。まずは僕の過去からお話しします」

そう言って心を落ち着かせるように息をつき、それからゆっくりと続きを話し始めた。
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