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一章 幻想世界の郵便局

この職場、不安しかない

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「大体、この上に住んでるんだったらこの山さっさと片付けて下さいよ、今日にも人頭税の告知がばらまかれるんでしょ? 冗談じゃない! この積み上がってる荷物、手紙の袋、一体どうしてくれるんですか!」
「営業時間外に親書に触るのはご法度じゃなくて? 大体、何の為に複数人で作業するか知ってる? 相互監視の為でしょ?」
「それはそうですけど、でも局長はそういう責任被る為に高給取りなんでしょ?」
「は? 私が高給取りですって? じょーだんじゃないわ。必要もない使用人の給料と、あなたが作り出すバカみたいな違算金のおかげで、この物価のバカ高い街じゃ給料なんて無いに等しいわ。そもそも、あなたの違算金、どうしてあんなにも発生してるわけ? 料金間違って覚えてるの? それとも私腹を肥やす為?」
「言いがかりはやめろっつってんだよクソ女が!」
 ソーヤが出勤してきた時、扉ごしに響いていたのは女二人の壮絶な言い争いだった。
(ど、どうしよう……)
 ソーヤが扉に手を掛けたまま立ち尽くしていると、その肩を何かが叩く。
「え、あ……あぁああぁ?」
 ソーヤは思わず叫んだ。目の前に居たのは、白くて大きな、しかし確かに顔のある何か。
(き、着ぐるみぃ?)
「あ、驚かせちゃった? ごめん。君は……今日から働く、小僧さん?」
「あ、えっと……」
「僕は雑用係のギモーブ」
「え、あ、あぁ、えっと、はじめまして、ソーヤと申します。その、今日から、お世話になります」
「ソーヤ君かぁ。よろしくね」
 ギモーブは扉に手を掛け、中の言い争いに構わず扉を開けた。
「大体アンタが局長名乗る様になってから、仕分けだ何だ面倒にしたんでしょ? あんなもん、まとめてハルピーに渡せばいいだけじゃない!」
「それでハルピーが手紙を飛ばしたらどうするの」
「大事な手紙は郵便なんて使わずに、自分で配達人雇えばいいだけ。私達に任せようってのが間違いでしょ?」
「王様の書簡ならともかく、役場からの告知書なんて個別に運べるわけないでしょ? なんで郵便局が安く運べるか知ってる?」
「役所は散々税金取ってるんだから出来るわよ!」
「でも役所はハルピーを抱えてないわ」
「それはお金をケチっているからでしょ?」
「ハルピーが欲しいのはお金じゃない」
「は? 嘘つくのも」
「彼等は自由である事を望んでる。ステオーラがそうである様に、彼等はあまり世の中と関りを持たずに生きている。お金よりは縛られない生き方を望んでる以上、お抱えの配達人なんて引き受けないし、私達は彼等を集団のハルピーとしか捉えない。個別に捉えて縛られる事を彼等は嫌うのよ」
「だからあんな連中遣う方がおかしいっつってんだよ! 分かんねぇのか、このバカ女!」
「じゃあ、人間の足でパリエス山に速達が届けられる?」
 喚いていたディージャは黙り込み、女は溜息を吐きながら横目にソーヤとギモーブを見遣る。
「おはよう。早速だけど、ギモーブは配達人が来たら小包の積み込みをお願いするわ。それからソーヤ、あなたはこっちにきてちょうだい」
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