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一章 幻想世界の郵便局

お仕着せ局員、誕生

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(随分太っ腹な局長さんだな……しかし、こんなに好待遇でいいんだろうか。大体こういう待遇のいい仕事って、何か裏が有りそうなんだけど……)
「此処よ」
 歩きながら考え事をしていたソーヤは顔を上げ、立ち止まる。
「そこら辺の店で売れ残った物を集めてる店だから、新品だけど値段は気にしなくていいわ。身の丈に合う物を探してちょうだい」
「は、はぁ……」
 言われるまま、ソーヤは店に入る。
(チェーンの量販店って感じだなぁ……色や形がバラバラで、ファストファッションみたいな統一性はないし、売れ残りって事は、バッタ屋みたいな感じかな)
「その辺のシャツを二、三枚と、ジャケットとベスト、パンツも二枚くらい探しておくといいわ。下着の類はその奥のワゴンね」
「分かりました」
 女に案内されるまま、ソーヤは棚の間へと潜り込む。
(サイズ表記みたいなのは無いんだ……多分統一された規格は無くて、メーカーがそれぞれに寸法を持ってるんだろうな……一応、寸法の順に棚があるみたいだ……大体サイズはこの辺だろうけど、大きめとか小さ目とかいろいろで選ぶの大変そう)
 ソーヤは服を手にとっては体に合わせる事を繰り返し、生成り色の様なシャツを三枚選んだあと、パンツやジャケットも同じ様にして探す。
「裾と袖の丈は直せるから、肩幅や腰回りに合わせて選べばいいわ。ポケットが無い物もあるかもしれないけど、ポーチは仕事用に貸し出すものを用意してあるから気にしなくていいわ。私物用の鞄が必要なら、向こうの棚から探して」
「はーい……」
 ソーヤが当座必要になる衣類を一通り手に取ったところで、その山を女が引き受ける。
「あ」
「これで全部かしら?」
「は、はい」
「じゃ、清算してくるから、外で待ってて」
 外に出されたソーヤは女がいくら支払ったのかを見ていないが、女は銀色の硬貨を複数枚店主に渡している。
 店番の女性は粗末な紙で大雑把に品物を梱包師ながら口を開いた。
「お仕着せとはいえ、下着まで買ってやるのかい?」
「雑用係は無一文の着の身着のままだったのよ」
「よくそんなの雇うわね」
「追剥されたそうよ」
「あぁ、そりゃあ災難だったねぇ」
 店番の女性は女に包みを手渡す。
「今度はおたくさんの服も買っておくれよ。秋冬の在庫がどっさり入ってくる予定でね」
「そう……帽子でも買っておこうかしら」
「そうしておくれ」
 三つ分の包みを持ち、女は店の外に出る。
「はい、これ持って」
 殊の外重い包みを抱え、ソーヤは女に付き従う。
「この先に郵便局が有るわ。看板が有るし、すぐわかるはず。宿はその裏手よ」
 馬車通りに沿って続く歩道を進み、信号に従って対岸へと渡る。そして通りに面した事務所街の裏へ進むと、其処にも数件の食堂や宿が並ぶ。
「宿は此処にするといいわ」
 ソーヤは宿の看板に目をやり、目を丸くした。
「え、あ……あの、此処」
「当座五日分は払っておくから、今日のところは体を洗ってゆっくり休むといいわ」
「で、でも」
 看板に記されていたのは、この宿が一泊に銅貨十五枚の宿であり、其処に食事代は含まれていないという料金の詳細だった。
「石鹸代までは出すけど、食事代は勘弁してね。明日の昼ごはんは何か出前でも頼むから。あぁ、それと、着替えの片付けに使う鞄が必要ならさっきのお店で探せばいいわ。ちょっと傷が入っているけれど、お古じゃないものが店の奥にあるんじゃないかしら」
「は、はぁ……って、それより、良いんですか、この宿結構高いですよ?」
「外れの安宿がおかしいだけよ。此処でさえ、籠と水洗いした上掛けくらいしか貸してくれない木賃宿よ」
「いや、それでも」
「鍵も無い様な宿には泊まれないでしょ?」
 ソーヤは黙り込んだ。
「まともな住まいが見つかるまでは此処に居なさい。もし手持ちのお金がもう少し欲しいのなら、洗濯室を借りてその薄汚い服を洗って屑物屋にでも持って行くといいわ。それじゃあ、後はゆっくり休んで」
 女は番台に当面の宿泊費を預け、郵便局へと引き返す。
(暫くは……甘えるしかないか……)
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