6 / 23
序章 転生先は寄せ植えの世界
フーニスの食堂でまともな食事をする
しおりを挟む
酒場での皿洗いを終えた後、店の長椅子で一夜を明かしたソーヤは再び口利き屋に向かった。
「あぁ、昨日の方。酒場の仕事はいかがでした?」
「思っていたよりは楽でした」
「そうですか。それで、今日は」
「昨日お聞きした、フーニス、でしたっけ、そっちに行きたいんですけど」
「あぁ、荷車の。あれでしたらまだ募集してますよ、行きますか?」
「はい」
「じゃあ、紹介状を書きましょう」
前日と同じく店主の書いた紹介状を持ち、ソーヤはフーニスへと続く町の出入り口へ向かう。
指定された荷物置き場には、数人の男性が既に集まっていた。ソーヤが到着して少しすると責任者らしき若い男が紹介状を見せるようにと指示を始める。
若い男は紹介状を元に荷車に人員を割り振りし、ソーヤに回されたのは手紙と小包の荷台だった。
「くれぐれも荷物は開封しないように! 野盗の気配が有ればすぐに知らせてくれ!」
若い男を先頭に、槍を手にした男達の指図で荷車が車列を成す。ソーヤの台車は最後尾に配置され、前後には武装した男が同行する。
鋭く砥がれた槍の穂の輝きに息を呑みながら、ソーヤは車列の一部となって進んだ。
出発から一時間半ほどが過ぎた頃、町はずれの景色が広がる場所へと一行は到着する。
「帰りの便で戻る者は昼二時までに集合だ」
先頭を歩いていた若者は往復する者に指示を出すとともに、片道だけの荷役夫に日当を渡す。
ソーヤは日当をうけ取り、荷物置き場から市街地を目指して歩くことにした。
(凄い、街だあ……)
荷物置き場を離れて広い通りに出ると、其処は舗装されたフーニスの中央通りだった。中央通りには分離帯が設置されており、舗装された路面の終点には馬車を切り返す為の広場が用意されている。それだけではなく、信号機も設置されており、馬車の通行の合間に人間や荷車が往来する余地も残されている。
(口利き屋に行って仕事を探そうか……その前に、お昼ご飯食べようかな)
中央通りに面しているのは荷物を扱う商社の事務所らしく、事務所の階上は貸家になっている建物が多い。
(多分、此処は国道沿いのビジネス街ってところで、道の向こうが市街地ってところかな?)
信号機の設置された分離帯の切れ間を目指すと、簡単な道案内が設置されていた。
(やっぱり、向こうが街か……)
信号機の看板が音を立てて表示を変えると、待機していた歩行者や荷車が続々と市街地方向へ動く。ソーヤはその雑踏に任せて大通りを抜けた。
賃貸住宅の乗った事務所の裏側には、幾つかの食堂が並んでいる。
(宿代も要るし、あんまり高いものは食べられないな……)
店構えの良い食堂はおそらく高いだろうとソーヤは通りを歩きながら考えていた。すると、簡素な店構えの食堂が目に留まる。
(立ち食い蕎麦みたいな物かな?)
客席には背の高い机が有るだけで椅子は無く、客層は旅人や労働者らしき男が多い。
「鶏肉のポリッジ」
「悪いね、鶏肉はさっきので売り切れだよ」
「じゃあ、卵を入れてくれ」
「あいよ、そっちで待ってな」
台所に直結してるらしいカウンターの奥で中年の女性が注文を取っている。物音からして台所には別の料理人も居るようだが、基本的にはカウンターの向こうに据えた鍋から直接料理を出しているらしい。
「野菜のポリッジ」
「あいよ」
客は料理と引き換えに銅貨を五枚出している。ソーヤもポケットの中から銅貨を五枚引っ張り出し、列に並んだ。
「えっと、野菜のポリッジを」
「あいよ」
女性は注文を聞くなり器に料理を盛りつけ、器を出すと同時に五枚の銅貨を回収していく。
ソーヤは空いた机に並び、出された料理をまじまじと眺めた。
(あぁ、お粥の事なんだ、ポリッジって)
食堂で提供されているのはポリッジのみ。鶏肉、野菜、魚、あるいは卵を入れた四種類が用意されているとはいえ、それ以外に出している物はない。
作り置きのポリッジは既に冷めていたが、すぐに食べられるのがソーヤにはありがたかった。
(わぁ、あの村のスープとは全然違って美味しい……出汁が効いてるっていうか、塩味もする……)
味の無い汁と乾いたパン以外に食べられていなかったソーヤにとっては、忙しい労働者や旅人の為の一番粗末な店の食事も格別な物だった。
「あぁ、昨日の方。酒場の仕事はいかがでした?」
「思っていたよりは楽でした」
「そうですか。それで、今日は」
「昨日お聞きした、フーニス、でしたっけ、そっちに行きたいんですけど」
「あぁ、荷車の。あれでしたらまだ募集してますよ、行きますか?」
「はい」
「じゃあ、紹介状を書きましょう」
前日と同じく店主の書いた紹介状を持ち、ソーヤはフーニスへと続く町の出入り口へ向かう。
指定された荷物置き場には、数人の男性が既に集まっていた。ソーヤが到着して少しすると責任者らしき若い男が紹介状を見せるようにと指示を始める。
若い男は紹介状を元に荷車に人員を割り振りし、ソーヤに回されたのは手紙と小包の荷台だった。
「くれぐれも荷物は開封しないように! 野盗の気配が有ればすぐに知らせてくれ!」
若い男を先頭に、槍を手にした男達の指図で荷車が車列を成す。ソーヤの台車は最後尾に配置され、前後には武装した男が同行する。
鋭く砥がれた槍の穂の輝きに息を呑みながら、ソーヤは車列の一部となって進んだ。
出発から一時間半ほどが過ぎた頃、町はずれの景色が広がる場所へと一行は到着する。
「帰りの便で戻る者は昼二時までに集合だ」
先頭を歩いていた若者は往復する者に指示を出すとともに、片道だけの荷役夫に日当を渡す。
ソーヤは日当をうけ取り、荷物置き場から市街地を目指して歩くことにした。
(凄い、街だあ……)
荷物置き場を離れて広い通りに出ると、其処は舗装されたフーニスの中央通りだった。中央通りには分離帯が設置されており、舗装された路面の終点には馬車を切り返す為の広場が用意されている。それだけではなく、信号機も設置されており、馬車の通行の合間に人間や荷車が往来する余地も残されている。
(口利き屋に行って仕事を探そうか……その前に、お昼ご飯食べようかな)
中央通りに面しているのは荷物を扱う商社の事務所らしく、事務所の階上は貸家になっている建物が多い。
(多分、此処は国道沿いのビジネス街ってところで、道の向こうが市街地ってところかな?)
信号機の設置された分離帯の切れ間を目指すと、簡単な道案内が設置されていた。
(やっぱり、向こうが街か……)
信号機の看板が音を立てて表示を変えると、待機していた歩行者や荷車が続々と市街地方向へ動く。ソーヤはその雑踏に任せて大通りを抜けた。
賃貸住宅の乗った事務所の裏側には、幾つかの食堂が並んでいる。
(宿代も要るし、あんまり高いものは食べられないな……)
店構えの良い食堂はおそらく高いだろうとソーヤは通りを歩きながら考えていた。すると、簡素な店構えの食堂が目に留まる。
(立ち食い蕎麦みたいな物かな?)
客席には背の高い机が有るだけで椅子は無く、客層は旅人や労働者らしき男が多い。
「鶏肉のポリッジ」
「悪いね、鶏肉はさっきので売り切れだよ」
「じゃあ、卵を入れてくれ」
「あいよ、そっちで待ってな」
台所に直結してるらしいカウンターの奥で中年の女性が注文を取っている。物音からして台所には別の料理人も居るようだが、基本的にはカウンターの向こうに据えた鍋から直接料理を出しているらしい。
「野菜のポリッジ」
「あいよ」
客は料理と引き換えに銅貨を五枚出している。ソーヤもポケットの中から銅貨を五枚引っ張り出し、列に並んだ。
「えっと、野菜のポリッジを」
「あいよ」
女性は注文を聞くなり器に料理を盛りつけ、器を出すと同時に五枚の銅貨を回収していく。
ソーヤは空いた机に並び、出された料理をまじまじと眺めた。
(あぁ、お粥の事なんだ、ポリッジって)
食堂で提供されているのはポリッジのみ。鶏肉、野菜、魚、あるいは卵を入れた四種類が用意されているとはいえ、それ以外に出している物はない。
作り置きのポリッジは既に冷めていたが、すぐに食べられるのがソーヤにはありがたかった。
(わぁ、あの村のスープとは全然違って美味しい……出汁が効いてるっていうか、塩味もする……)
味の無い汁と乾いたパン以外に食べられていなかったソーヤにとっては、忙しい労働者や旅人の為の一番粗末な店の食事も格別な物だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる