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序章 転生先は寄せ植えの世界

パルースで口利きしてもらう

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 ――村長からの伝言、アンタはここに残って仕事を探しな。
 詰草を麻袋に詰めたところで、バントからパルースに留まる様にと言い渡されたソーヤは荷物置き場の事務所に向かった。
「す、すみませーん……」
 ソーヤが遠慮がちの声を掛けると先ほどの女性が扉を開ける。
「あら、ヘンプロープの荷役夫さん。仕事は終わった?」
「あ、はい。麻袋は指定の台車に積みました」
「そう」
「あ、あの」
 女性が戻ろうとしたところで、ソーヤは意を決して声をかける。
「じ、実は、僕、今、働き口を探していまして……その、ヘンプロープの近くで、迷って、無一文で……」
「悪いけど、うちは取次しかしてないの。もし働き口を探しているなら、この先にある口利き屋に行くといいわ」
 女性はそっけなく言って事務所に戻る。ソーヤは示された方向へと歩き、それらしい場所を探した。
(お腹空いたなー……)
 パルースはヘンプロープとは異なり、田舎町というにふさわしい活気のある雰囲気である。道路は舗装されておらず、建物も木造建築ばかりであるが、荷物置き場から進んだ先に広がる市街地には商店が並ぶ。
「あ、此処か」
 大通りを外れた裏通りにもいくつかの商店が並び、その一角に口利き屋が事務所を構えている。そして、道路に面して据えられた掲示板にはいくつもの求人が貼り出されていた。
(この世界のハローワークって感じかな……)
 掲示板を見ると一回限りの荷物の運搬から食事付きの仕事まで、幅広い求人が並んでいる。
(家もないし、お金もないし、寮と食事のある仕事がいいんだけど……)
「仕事をお探しで?」
 ソーヤの気配に気づいた店主に声を掛けられ、ソーヤは一瞬悲鳴を上げる。
「あぁ、驚かせてすみませんねぇ。で、どんな仕事をお探しで?」
「あ、えっと、その、無一文で放り出されちゃったんで、住む所のある仕事が有れば、と……」
「あー……」
 ソーヤの希望に、店主の表情が曇る。
「残念ながらパルースにそんな仕事はなかなかありませんでねぇ……隣のフーニスにでも出れば話は別ですが……あぁ、この仕事なんてどうでしょう。フーニス行きの荷車が有りますよ」
「あぁ、それはいいですね……あ、でも、今日泊まる場所も無いんです」
 不意にソーヤの空腹が音を立てる。
「なかなか大変そうですねぇ……それじゃあ、酒場の手伝いなんてどうでしょう。水路の修繕で技術者が来てるもんですから、皿洗いだけでも忙しいようで」
「あ、じゃあそれに行きます」
「はいはい。紹介状を書きましょう。ささ、中に入って」
 店主に言われるままソーヤは事務所に入る。すると、店主はソーヤの身元を確かめる事もせず、紹介状に署名をし、丸めた紙に封蝋を施す。
「これを持って其処の酒場に行けば話は通じますからね、しっかり働いて下さいよ」
「は、はい!」
 店主の簡単な道案内を聞き、ソーヤは指定された酒場に向かった。
 酒場は殊の外大きく、開店前だったが扉に鍵は掛かっていなかった。
「ごめんくださーい」
「まだ準備中だよ!」
「そ、其処の口利き屋さんで紹介状を」
「あぁ、そうかい。早く言いな」
 作業場に居た店主と思しき女性がソーヤの前に現れる。
「こ、これを」
 背が高く恰幅の良い女主人の前に、ソーヤは縮こまりながら紹介状を差し出す。
「あぁ、皿洗いね。悪いけどまだ仕事は無いわ。広場の時計が五時になったらこっちに来てちょうだい」
「はいっ!」
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