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第二章 Gambling with the Devil
2-7-1 Summer's Glory
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古民家を訪れた目的を果たし、レインとランは都市部へと戻った。
「帰り、くれぐれも気を付けてね」
「うん、それじゃ」
レインは運転席をランに譲り、新幹線に乗り継ぐ。ラン一人に東京までの運転をさせるのは忍びないと思いながら、これを逃せば西に下るのはまだ難しいだろうと、レインは改札に向かった。
東京からであれば四時間の距離も、大阪からであれば二時間あまり。駅構内で適当な手土産を調達したレインは早々に新幹線を降りた。
到着した先は新幹線の改札を出るとそのまま在来線の場内に入れる構造で、レインは案内に従い目的のプラットホームへ直行する。
目的地は快速で直行できず、鈍行でさえ乗り継ぎになる事も有る路線上にあった。直行便でさえ四十分あまりの区間、降り立ったプラットホームは一面しかなく、目前には青い水田が広がる場所だった。
そもそも駅員が配置されていない無人駅にはスロープすらないが、駐輪場には学生の物と思しき自転車がひしめき合っており、通学客の需要はまだ残されていることがうかがえる。
「やっと会えたね」
ほぼ乗降の為に設けられた駐車場所に車を停め、ミカはレインを待っていた。
「うん、私も会いたかった」
「でもペーパーなのに、ごめんね」
「いや、大丈夫。一応、ペーパー教習は行ったし、あんまり乗る事無かったから」
「そっか、じゃあ、よろしくね」
「うん」
レインは後部座席に荷物を放り込み、自分自身も乗り込んだ。
車は細い生活道路を抜け、国道を介して県道に入る。走行の割に車間が詰まっていなかったり、妙に速く停車してしまった為に信号待ちの列に隙間を作ったりとミカの運転はぎこちなかったが、レインはかつての自分も同じ様な物だった事を思い出す。
夕刻の混雑が始まるよりは早く、駅からミカの自宅までは十分ほどの道のりだった。
「裏玄関は開けてるから、早く入って」
急かされるままレインは車を降り、古びた洋風の扉を開ける。
ミカの自宅は店舗を併設した建物で、二十年ほど前までは父方の祖母が洋服の仕立てや服飾雑貨の販売を行っていたが、仕事の大部分は常連客の要望に応じて服を仕立てるもので、店舗はプライベートサロンの様な物だったという。
その名残で家の裏手にある駐車場は広く、店舗専用の出入り口は今も使える状態で残されている。
とはいえレインが駆け込んだ先に広がるのは、薄暗く雑然とした空間。営業しなくなった店舗部分は今や広すぎるクローゼットと化しているのだ。
だが、それも仕方が無い事だった。駐車場と店舗の影響からミカの自宅は見かけよりも生活空間が狭く、収納設備に乏しい。それ故にミカの祖母は息子の家で商売をしながら、同居はしていなかった。ミカの母親と双方の折り合いが悪かったのは事実だが、それ以前に三世代が暮らせるほど家は広くなかった。
「ちょっと待っててね」
レインを追って中に入ったミカは薄暗い空間を抜け、在宅の家族に帰宅と来客を知らせる。
ミカが戻るのを待ちながら、レインは店舗の名残を眺めていた。
かつてはディスプレイに使われていたであろう古いトルソーや、小物を陳列していたと思しきアンティークな机は埃を被るまま放置され、試着室になっていた一角は物すら置かれず、鏡は塞がれている。
「お待たせ、上いこっか」
「挨拶しなくてもいいの?」
「うん、別にいいって。まあ、それに、大阪経由東京からだし、ね?」
「それもそうだね」
都心部は今も混乱を引き摺っており、地方ではやや沈静化したとはいえ、都会からの帰省さえもまだ憚られる状況である。
レインはミカに続いて二階へと上がった。
「帰り、くれぐれも気を付けてね」
「うん、それじゃ」
レインは運転席をランに譲り、新幹線に乗り継ぐ。ラン一人に東京までの運転をさせるのは忍びないと思いながら、これを逃せば西に下るのはまだ難しいだろうと、レインは改札に向かった。
東京からであれば四時間の距離も、大阪からであれば二時間あまり。駅構内で適当な手土産を調達したレインは早々に新幹線を降りた。
到着した先は新幹線の改札を出るとそのまま在来線の場内に入れる構造で、レインは案内に従い目的のプラットホームへ直行する。
目的地は快速で直行できず、鈍行でさえ乗り継ぎになる事も有る路線上にあった。直行便でさえ四十分あまりの区間、降り立ったプラットホームは一面しかなく、目前には青い水田が広がる場所だった。
そもそも駅員が配置されていない無人駅にはスロープすらないが、駐輪場には学生の物と思しき自転車がひしめき合っており、通学客の需要はまだ残されていることがうかがえる。
「やっと会えたね」
ほぼ乗降の為に設けられた駐車場所に車を停め、ミカはレインを待っていた。
「うん、私も会いたかった」
「でもペーパーなのに、ごめんね」
「いや、大丈夫。一応、ペーパー教習は行ったし、あんまり乗る事無かったから」
「そっか、じゃあ、よろしくね」
「うん」
レインは後部座席に荷物を放り込み、自分自身も乗り込んだ。
車は細い生活道路を抜け、国道を介して県道に入る。走行の割に車間が詰まっていなかったり、妙に速く停車してしまった為に信号待ちの列に隙間を作ったりとミカの運転はぎこちなかったが、レインはかつての自分も同じ様な物だった事を思い出す。
夕刻の混雑が始まるよりは早く、駅からミカの自宅までは十分ほどの道のりだった。
「裏玄関は開けてるから、早く入って」
急かされるままレインは車を降り、古びた洋風の扉を開ける。
ミカの自宅は店舗を併設した建物で、二十年ほど前までは父方の祖母が洋服の仕立てや服飾雑貨の販売を行っていたが、仕事の大部分は常連客の要望に応じて服を仕立てるもので、店舗はプライベートサロンの様な物だったという。
その名残で家の裏手にある駐車場は広く、店舗専用の出入り口は今も使える状態で残されている。
とはいえレインが駆け込んだ先に広がるのは、薄暗く雑然とした空間。営業しなくなった店舗部分は今や広すぎるクローゼットと化しているのだ。
だが、それも仕方が無い事だった。駐車場と店舗の影響からミカの自宅は見かけよりも生活空間が狭く、収納設備に乏しい。それ故にミカの祖母は息子の家で商売をしながら、同居はしていなかった。ミカの母親と双方の折り合いが悪かったのは事実だが、それ以前に三世代が暮らせるほど家は広くなかった。
「ちょっと待っててね」
レインを追って中に入ったミカは薄暗い空間を抜け、在宅の家族に帰宅と来客を知らせる。
ミカが戻るのを待ちながら、レインは店舗の名残を眺めていた。
かつてはディスプレイに使われていたであろう古いトルソーや、小物を陳列していたと思しきアンティークな机は埃を被るまま放置され、試着室になっていた一角は物すら置かれず、鏡は塞がれている。
「お待たせ、上いこっか」
「挨拶しなくてもいいの?」
「うん、別にいいって。まあ、それに、大阪経由東京からだし、ね?」
「それもそうだね」
都心部は今も混乱を引き摺っており、地方ではやや沈静化したとはいえ、都会からの帰省さえもまだ憚られる状況である。
レインはミカに続いて二階へと上がった。
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