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第二章 Gambling with the Devil
2-6-2 西の外れの幽霊屋敷
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世間が夏休みを迎える前に、レインとランは大阪の外れへと向かった。
東京から半日あまり、中心街の喧騒からは想像もつかない街外れに在る古民家の敷地へと入り、二人は車を停めた。
敷地は広く、東京であれば家の三軒は余裕を以て建てられそうな広さである。その広大な敷地に佇む古民家は部分的に二階建ての立派な姿をしており、母屋の傍らにはかつて農機具を保管した納屋と離れが並ぶ。
いずれも古びてはいるが手入れはされており、納屋の窓枠は新しく、離れには家主の仕事部屋が置かれている。
しかし、立派な佇まいの中には暗澹たる空気感が漂っており、離れの傍らには慈愛に満ちていながらもどこか悲しげな仏像が祀られ、異質な雰囲気である。
車を降りたレインとランは何も言わず仏像に一礼し、母屋の裏側へと回った。
裏口にも呼び鈴があり、鳴らして暫くすると扉が開いた。
「待ってたで、さ、上り」
二人を出迎えたのは、レインを上回る長身の男だった。
「こんな辺鄙な所まで来て、疲れたやろ? かき氷作ったるわ」
和風建築の古い佇まいはそのままに、生活に必要な部分は多少なり改修された屋内はランの暮らすあばら家にも似ているが、ところどころに残された家具や調度品は年代ものながらも格調高い雰囲気で、手入れは行き届いているがあまりにも生活感の乏しい様はあばら家と大きく異なっている。
洗面台を借りた二人が通り過ぎた仏間には形式的ではあるが仏壇があり、歴代家長の肖像や家族写真が掲げられている。
二人が向かった客間には床の間と違い棚が有り、作者は不詳だが繊細な水墨画の掛け軸や焼き物が飾られ、使い込まれた茶机が鎮座している。
「……今、なんか、音、しなかった?」
ランは隣のレインを見遣る。ランの耳には天井の裏で何かが落ちた様な物音が聞こえていた。
「そんな事無いと思うけど」
「でも、天井裏……」
「ネズミは追い払われてるはずだけど。だってさ、なんかこの家の中、そこはかとなくばあちゃんの箪笥みたいな匂いするじゃん」
「そ、それはそうだけど……」
「大丈夫、粘着シートも置いてるらしいから、ネズミが降ってきたりはしないよ」
家主は害虫害獣の類を嫌っており、家の周囲には消石灰が撒かれ、敷地の各所には動物が嫌うサポニンを含んだヒトデの干物を砕いた物や、害虫防除に効果が有る樟脳を含んだ錠剤も撒かれている。屋内も例外ではなく、屋根裏や床下にも樟脳を含む防除剤が設置されている。
だが、なおも時として家鳴りとは異なる妙な物音を聞く事が有る。それはこの家屋が曰く付きの物件であるからだと解釈される事も有るが、レインは気にしたら負けであると考え無視していた。
「お待たせー、さ、どーぞ」
暫くの間を置いて家主の男は二人分のかき氷を手に客間へと現れた。
「え? 何これ、イチゴソース?」
ランは透明な器の中に揺れる赤い液体に目を輝かせる。
「自家製のシロップや。今年は苺育てたんで、作ってみた」
「すごーい」
家主は二人にかき氷を差し出し、そのまま二人の向かいに腰を下ろした。
「それで、話いうんが」
ランがかき氷を大方食べたところで家主は話を切り出した。
「あ、うん」
ランはレインに視線を向ける。
「実は、シュヴァルツ・ネーベルと契約したのはいいんだけど、まともな宣材写真を撮る様に言われて……レーベルとしては、日本人と契約したのはこれが初めてだし、こう、フロム・ジャパンって感じにして欲しいと。そこで、例の納屋か、其処の裏山で写真を撮って欲しいんだ」
「そんなんでええんか?」
家主は首を傾げた。
「あぁ。此処の納屋、梁がむき出しになってるだろ? だから、梁にロープ掛けて、撮影したいな、と」
「それは構わんけど、あんまり日本らしい物、置いてないで?」
「いや、あの木造の感じでいいんだ。煉瓦作りじゃない雰囲気で、扉は引き戸……欲を言えば、竹竿とか、草鞋みたいな雑多な物が有ればいいなとは思うんだけど」
「それならちょっと散らかしたらええかな? 流石に草鞋は無いけど、手桶や下駄やったら転がしたる」
「いい?」
「ええよ」
「ありがと。それとー、実はエンジニアが一人必要なんだ」
家主は黙ってレインを見る。
「今まではさ、俺達二人、経験則だけでやってきたわけだけど、流石にこの自主製作状態じゃあまずいなと思って。でも、かといって誰かに頼もうにも、ブラックゲイズなんて理解してもらうのはしんどいし、分かってる人が目の前に居るなら頼みたい」
「ワシでええんか?」
「リンくん以外に誰が居る?」
一瞬の沈黙の合間に、ランは器に残った液体を流し込んだ。
東京から半日あまり、中心街の喧騒からは想像もつかない街外れに在る古民家の敷地へと入り、二人は車を停めた。
敷地は広く、東京であれば家の三軒は余裕を以て建てられそうな広さである。その広大な敷地に佇む古民家は部分的に二階建ての立派な姿をしており、母屋の傍らにはかつて農機具を保管した納屋と離れが並ぶ。
いずれも古びてはいるが手入れはされており、納屋の窓枠は新しく、離れには家主の仕事部屋が置かれている。
しかし、立派な佇まいの中には暗澹たる空気感が漂っており、離れの傍らには慈愛に満ちていながらもどこか悲しげな仏像が祀られ、異質な雰囲気である。
車を降りたレインとランは何も言わず仏像に一礼し、母屋の裏側へと回った。
裏口にも呼び鈴があり、鳴らして暫くすると扉が開いた。
「待ってたで、さ、上り」
二人を出迎えたのは、レインを上回る長身の男だった。
「こんな辺鄙な所まで来て、疲れたやろ? かき氷作ったるわ」
和風建築の古い佇まいはそのままに、生活に必要な部分は多少なり改修された屋内はランの暮らすあばら家にも似ているが、ところどころに残された家具や調度品は年代ものながらも格調高い雰囲気で、手入れは行き届いているがあまりにも生活感の乏しい様はあばら家と大きく異なっている。
洗面台を借りた二人が通り過ぎた仏間には形式的ではあるが仏壇があり、歴代家長の肖像や家族写真が掲げられている。
二人が向かった客間には床の間と違い棚が有り、作者は不詳だが繊細な水墨画の掛け軸や焼き物が飾られ、使い込まれた茶机が鎮座している。
「……今、なんか、音、しなかった?」
ランは隣のレインを見遣る。ランの耳には天井の裏で何かが落ちた様な物音が聞こえていた。
「そんな事無いと思うけど」
「でも、天井裏……」
「ネズミは追い払われてるはずだけど。だってさ、なんかこの家の中、そこはかとなくばあちゃんの箪笥みたいな匂いするじゃん」
「そ、それはそうだけど……」
「大丈夫、粘着シートも置いてるらしいから、ネズミが降ってきたりはしないよ」
家主は害虫害獣の類を嫌っており、家の周囲には消石灰が撒かれ、敷地の各所には動物が嫌うサポニンを含んだヒトデの干物を砕いた物や、害虫防除に効果が有る樟脳を含んだ錠剤も撒かれている。屋内も例外ではなく、屋根裏や床下にも樟脳を含む防除剤が設置されている。
だが、なおも時として家鳴りとは異なる妙な物音を聞く事が有る。それはこの家屋が曰く付きの物件であるからだと解釈される事も有るが、レインは気にしたら負けであると考え無視していた。
「お待たせー、さ、どーぞ」
暫くの間を置いて家主の男は二人分のかき氷を手に客間へと現れた。
「え? 何これ、イチゴソース?」
ランは透明な器の中に揺れる赤い液体に目を輝かせる。
「自家製のシロップや。今年は苺育てたんで、作ってみた」
「すごーい」
家主は二人にかき氷を差し出し、そのまま二人の向かいに腰を下ろした。
「それで、話いうんが」
ランがかき氷を大方食べたところで家主は話を切り出した。
「あ、うん」
ランはレインに視線を向ける。
「実は、シュヴァルツ・ネーベルと契約したのはいいんだけど、まともな宣材写真を撮る様に言われて……レーベルとしては、日本人と契約したのはこれが初めてだし、こう、フロム・ジャパンって感じにして欲しいと。そこで、例の納屋か、其処の裏山で写真を撮って欲しいんだ」
「そんなんでええんか?」
家主は首を傾げた。
「あぁ。此処の納屋、梁がむき出しになってるだろ? だから、梁にロープ掛けて、撮影したいな、と」
「それは構わんけど、あんまり日本らしい物、置いてないで?」
「いや、あの木造の感じでいいんだ。煉瓦作りじゃない雰囲気で、扉は引き戸……欲を言えば、竹竿とか、草鞋みたいな雑多な物が有ればいいなとは思うんだけど」
「それならちょっと散らかしたらええかな? 流石に草鞋は無いけど、手桶や下駄やったら転がしたる」
「いい?」
「ええよ」
「ありがと。それとー、実はエンジニアが一人必要なんだ」
家主は黙ってレインを見る。
「今まではさ、俺達二人、経験則だけでやってきたわけだけど、流石にこの自主製作状態じゃあまずいなと思って。でも、かといって誰かに頼もうにも、ブラックゲイズなんて理解してもらうのはしんどいし、分かってる人が目の前に居るなら頼みたい」
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