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第二章 Gambling with the Devil
2-5-1 道化師のお仕事
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イエロー・リリー・ブーケのファンミーティングが行われる当日を迎え、レインはスタッフに紛れて会場へと入った。
メンバー達にとっては十三年ぶりにレインと同じステージに立てる不思議な一日であるが、レインにとっては幾つかの問題が片付けられる日であった。
父親との諍いから高額な家賃を請求されていた実家の問題は、父親に借りた車の代金を一括で返済する事で向こう半年間の居住の許可を取り付け、その間に亀山が事務所の作業場所兼所属タレントの宿舎という名目で借り上げる話を取りまとめる事に落ち着いた。
とはいえ、この一件でレインの口座の残高は公共料金の支払いに耐えない額に落ち込み、パソコンに組み込んだグラフィックボードを担保にと座の資金をランに借りた有様だった。
だが、この出演が無事に終われば、少なくとも今月分の支払いが出来る程度の金銭が手に入り、週刊誌の風説も沈静化する。レインを狙うパパラッチの下数がどう動くかは未知数だったが、有名週刊誌の風説が無くなれば無用な誤解を生む事は無くなる。そうなれば多少の誇張記事はいずれ忘れられるだろうとレインは楽観視していた。
規模は大きくないが十分な広さのステージに演奏機材が着々と用意されてゆく中、控室でメンバー達がイベント進行を確認するのを後ろから眺めながら、レインは全てが無事に終わる事だけを願っていた。
「それじゃあ、音響チェックの方お願いします」
スタッフに促され、メンバー達はステージへと向かう。
「キミもギターのチェックをして下さい」
鴇田に言われ、レインもその後を追う。
ステージ上には通常のライブと同じ機材がセットされているが、進行の大部分を占めるトークイベントの為に三脚の椅子が用意されており、客席に映像を提供するモニターも用意されている。
楽器は配置も調律も済んでおり、各々適当な音を出してエンジニアがそれを確認していく。
「それじゃ、このまま通してやってみる?」
ケリーの号令でリハーサルが始まった。照明が本番同様に稼働し、レインは鴇田に袖へと呼び戻される。
「それじゃあお待ちかねー、本日のメインイベント、スペシャルライブーっ! 今日は特別なゲストと一緒に、皆の良く知ってる曲を五曲! では拍手でお迎えください、本日のスペシャルゲストォ……俺達の弟、レイン!」
鴇田に突き飛ばされる様な格好で、レインはステージへと向かう。
「今日は初心に帰ってまずは俺達のデビュー曲、掌の上のロマンスーッ!」
ルーシーがリズムを取り、それに合わせて演奏が始まる。
ケリーは曲の合間に適宜言葉を挟みつつ、ルーシーはそれに呼応する様に演奏開始の合図を出す。最早イエロー・リリー・ブーケの経験を忘れてしまったレインには感覚の掴み辛い進行だったが、演奏開始を判断するのドラマーがルーシーである事は救いだった。
「……レイン、もうちょっとステージに上がる時にリアクションをしてくれないと困ります」
一通りの演奏を終えて袖に戻るなり、鴇田は苦虫を噛み潰した表情でレインに迫った。
「お客さん居ないのに無理言わないで下さい」
「お客さんが居ようとキミはその態度でしょう。大体、ライブなんてしてなかったんでしょう?」
「一応やってますよ、スウェーデンから何をどうしたら来日する事になったのか分かんないマイナーなバンドが来た時の前座とか」
鴇田は盛大に溜息を吐いて頭を抱えた。
「鴇田さん、流石にお客さん入った状態ならノリも変わりますって」
傍からやりとりを聴いていたハリーは鴇田の肩を叩く。
「な、レインもすっからかんの客席じゃ、気が乗らないよな?」
「ま、まあ……」
「頼みますよ」
鴇田は何か諦めた様に言い放ち、その場を離れた。
メンバー達にとっては十三年ぶりにレインと同じステージに立てる不思議な一日であるが、レインにとっては幾つかの問題が片付けられる日であった。
父親との諍いから高額な家賃を請求されていた実家の問題は、父親に借りた車の代金を一括で返済する事で向こう半年間の居住の許可を取り付け、その間に亀山が事務所の作業場所兼所属タレントの宿舎という名目で借り上げる話を取りまとめる事に落ち着いた。
とはいえ、この一件でレインの口座の残高は公共料金の支払いに耐えない額に落ち込み、パソコンに組み込んだグラフィックボードを担保にと座の資金をランに借りた有様だった。
だが、この出演が無事に終われば、少なくとも今月分の支払いが出来る程度の金銭が手に入り、週刊誌の風説も沈静化する。レインを狙うパパラッチの下数がどう動くかは未知数だったが、有名週刊誌の風説が無くなれば無用な誤解を生む事は無くなる。そうなれば多少の誇張記事はいずれ忘れられるだろうとレインは楽観視していた。
規模は大きくないが十分な広さのステージに演奏機材が着々と用意されてゆく中、控室でメンバー達がイベント進行を確認するのを後ろから眺めながら、レインは全てが無事に終わる事だけを願っていた。
「それじゃあ、音響チェックの方お願いします」
スタッフに促され、メンバー達はステージへと向かう。
「キミもギターのチェックをして下さい」
鴇田に言われ、レインもその後を追う。
ステージ上には通常のライブと同じ機材がセットされているが、進行の大部分を占めるトークイベントの為に三脚の椅子が用意されており、客席に映像を提供するモニターも用意されている。
楽器は配置も調律も済んでおり、各々適当な音を出してエンジニアがそれを確認していく。
「それじゃ、このまま通してやってみる?」
ケリーの号令でリハーサルが始まった。照明が本番同様に稼働し、レインは鴇田に袖へと呼び戻される。
「それじゃあお待ちかねー、本日のメインイベント、スペシャルライブーっ! 今日は特別なゲストと一緒に、皆の良く知ってる曲を五曲! では拍手でお迎えください、本日のスペシャルゲストォ……俺達の弟、レイン!」
鴇田に突き飛ばされる様な格好で、レインはステージへと向かう。
「今日は初心に帰ってまずは俺達のデビュー曲、掌の上のロマンスーッ!」
ルーシーがリズムを取り、それに合わせて演奏が始まる。
ケリーは曲の合間に適宜言葉を挟みつつ、ルーシーはそれに呼応する様に演奏開始の合図を出す。最早イエロー・リリー・ブーケの経験を忘れてしまったレインには感覚の掴み辛い進行だったが、演奏開始を判断するのドラマーがルーシーである事は救いだった。
「……レイン、もうちょっとステージに上がる時にリアクションをしてくれないと困ります」
一通りの演奏を終えて袖に戻るなり、鴇田は苦虫を噛み潰した表情でレインに迫った。
「お客さん居ないのに無理言わないで下さい」
「お客さんが居ようとキミはその態度でしょう。大体、ライブなんてしてなかったんでしょう?」
「一応やってますよ、スウェーデンから何をどうしたら来日する事になったのか分かんないマイナーなバンドが来た時の前座とか」
鴇田は盛大に溜息を吐いて頭を抱えた。
「鴇田さん、流石にお客さん入った状態ならノリも変わりますって」
傍からやりとりを聴いていたハリーは鴇田の肩を叩く。
「な、レインもすっからかんの客席じゃ、気が乗らないよな?」
「ま、まあ……」
「頼みますよ」
鴇田は何か諦めた様に言い放ち、その場を離れた。
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