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第二章 Gambling with the Devil
2-4-2 馬子にも衣裳は選ばせて
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二度目となったリハーサルは前回同様、当日の楽曲を通して演奏する物だったが、メンバーが向き合った形ではなくステージを意識した配置での演奏を行い、立ち回りを確認する様に進められた。
レインはハリーとケリーに促されるまま前に出るなどしたが、振る舞いは何処かぎこちなく、デビュー当時よりも硬い物だった。
そのレインの立ち回りは鴇田にとって満足出来る物ではなかったが、それがブランクだと鴇田は自分に言い聞かせ、レインに不平をぶつける事は堪えた。
とはいえ演奏そのものに問題は無く、鴇田が用意した機材はバンドの理想とする音を作り出しており、レインの演奏はデビュー当時と変わらず丁寧で、手癖で誤魔化す様な事も無い。それだけは鴇田の理想通りだった。
「ユウキ君」
予定通りに練習を終え、レインがギターからストラップを外していると後ろからルーシーが声を掛ける。
「ウィッグの件、大丈夫か?」
「すぐに適当なの探すから大丈夫」
「それはそうとして、カットや地毛のセットに困ったら連絡をくれ、美容師の知り合いが居るんだ」
「そっか、ありがと。多分大丈夫だと思うけど、助かるよ」
「……気を付けてな」
ルーシーは眉を顰め、低い声でそう告げる。
「うん」
メンバーはスタジオで引き続きコメント用の動画を撮影する為に残るが、レインは機材が隠されると同時にスタジオを出ていく。
「レイン」
扉の外には鴇田が待っていた。
レインは不機嫌そうに立ち止まり、鴇田と向かい合う。
「一回限りならあれでも構いませんが、会場とステージの空気感を壊すような態度はとらないようにしてください……当日の事は追って連絡します。くれぐれも、体調にだけは気を付けて下さい」
「善処します」
レインは鴇田の顔を見る事無く、足早に建物から出てゆく。
暫く歩いていると、レインの影を追いかける様に何者かが彼へと近付いた。
「どーも」
それとなくレインに並び、下数は会釈する。
「おたくさんですか……内通者でも?」
「いえいえ、勘ですよ、勘。ファンミで復帰するのがアビーなのかレインなのか気になりましてね」
「新メンバーだとは思わないんですか?」
「あのバンドの中の良さを鑑みるに、新メンバーは無いでしょう」
「でも、俺を突いても何も出ないですよ」
「マニキュアを塗っていても?」
下数はねっとりとした視線をレインの手元に向ける。
「仕事柄塗ってる事の方が多いだけです」
「それじゃあ、なんでまた」
「これでも職業は音楽家ですから、芸能事務所にも用が有りますよ」
「へぇ……」
下数はレインを舐める様に見るが、レインはそれを気に留めず歩き続ける。
「ところで、時雨葉の作品、聴いたんですよ。ワタシの趣味じゃあありませんが、面白い事に気付きましてね。同じレーベルから日本のバンドもデビューしていましてね、ご存じですよね」
「それなりに」
「其処から色々見せて貰いました、案外歌も上手かったりするんですね……当日、楽しみにしてますよ。じゃあ、また」
下数は歩みを遅めて距離を取り、その気配を消した。
レインはそのまま雑踏へと紛れ込み、適当な道のりを挟んで駅に向かった。
レインはハリーとケリーに促されるまま前に出るなどしたが、振る舞いは何処かぎこちなく、デビュー当時よりも硬い物だった。
そのレインの立ち回りは鴇田にとって満足出来る物ではなかったが、それがブランクだと鴇田は自分に言い聞かせ、レインに不平をぶつける事は堪えた。
とはいえ演奏そのものに問題は無く、鴇田が用意した機材はバンドの理想とする音を作り出しており、レインの演奏はデビュー当時と変わらず丁寧で、手癖で誤魔化す様な事も無い。それだけは鴇田の理想通りだった。
「ユウキ君」
予定通りに練習を終え、レインがギターからストラップを外していると後ろからルーシーが声を掛ける。
「ウィッグの件、大丈夫か?」
「すぐに適当なの探すから大丈夫」
「それはそうとして、カットや地毛のセットに困ったら連絡をくれ、美容師の知り合いが居るんだ」
「そっか、ありがと。多分大丈夫だと思うけど、助かるよ」
「……気を付けてな」
ルーシーは眉を顰め、低い声でそう告げる。
「うん」
メンバーはスタジオで引き続きコメント用の動画を撮影する為に残るが、レインは機材が隠されると同時にスタジオを出ていく。
「レイン」
扉の外には鴇田が待っていた。
レインは不機嫌そうに立ち止まり、鴇田と向かい合う。
「一回限りならあれでも構いませんが、会場とステージの空気感を壊すような態度はとらないようにしてください……当日の事は追って連絡します。くれぐれも、体調にだけは気を付けて下さい」
「善処します」
レインは鴇田の顔を見る事無く、足早に建物から出てゆく。
暫く歩いていると、レインの影を追いかける様に何者かが彼へと近付いた。
「どーも」
それとなくレインに並び、下数は会釈する。
「おたくさんですか……内通者でも?」
「いえいえ、勘ですよ、勘。ファンミで復帰するのがアビーなのかレインなのか気になりましてね」
「新メンバーだとは思わないんですか?」
「あのバンドの中の良さを鑑みるに、新メンバーは無いでしょう」
「でも、俺を突いても何も出ないですよ」
「マニキュアを塗っていても?」
下数はねっとりとした視線をレインの手元に向ける。
「仕事柄塗ってる事の方が多いだけです」
「それじゃあ、なんでまた」
「これでも職業は音楽家ですから、芸能事務所にも用が有りますよ」
「へぇ……」
下数はレインを舐める様に見るが、レインはそれを気に留めず歩き続ける。
「ところで、時雨葉の作品、聴いたんですよ。ワタシの趣味じゃあありませんが、面白い事に気付きましてね。同じレーベルから日本のバンドもデビューしていましてね、ご存じですよね」
「それなりに」
「其処から色々見せて貰いました、案外歌も上手かったりするんですね……当日、楽しみにしてますよ。じゃあ、また」
下数は歩みを遅めて距離を取り、その気配を消した。
レインはそのまま雑踏へと紛れ込み、適当な道のりを挟んで駅に向かった。
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