夜想曲は奈落の底で

詩方夢那

文字の大きさ
上 下
40 / 60
第一章 The war ain't over!

16-1 払う犠牲は確かな見返りを求めてる

しおりを挟む
 一行が修羅場から解放されたのは、すっかり日が暮れた頃の事だった。
 レインの父親とリナはそれぞれ居合わせた若い男達により引き離され、夫が連れてゆかれる事に恐怖を覚えたレインの母親は悲鳴を上げて取り乱し、従業員に抱えられながら裏方へと連れていかれた。
 一方、机の下で蹲っていた二番目の子供は母親が居なくなった事が分かると、介抱に入った従業員の制止を無視してレイン達が居たテーブルに向かい、残ったピザに手を伸ばした。呆然と一部始終を見ていた亀山は優しくそれを止めようと試みたが、子供はまだ幼稚園児の年齢の子供とは思えない暴言を吐き、ピザを掴んで店から出ようとした。
 だが、出入り口では店から出ようとしてヤクザ者まがいの男に激突し、怒鳴られた事でパニックになって失禁しながら意味不明な事を叫ぶ一番上の子供が居り、二番目の子供も訳が分からなくなって泣き叫んだ。
 三番目の子供は別の客に介抱されながら従業員へと引き渡され、バックヤードへと移された。

 結果的に警察官が到着した事で一行の処遇はそちらに任され、バックヤードに隔離された一行はそれぞれ事情を聴かれる運びとなった。他方、従業員は子供達の粗相の後始末に追われ、店内が落ち着きを取り戻したのは警察官の到着からしばらくたったころの事だった。
 結局、子供達は日常的に適切な養育がなされていないと判断されそのまま一時的に保護される事となり、一番上の子供を怒鳴りつけた男は子供相手に大人げない事をしてはいけないと警察官に厳重注意の上で帰された。
 リナは警察署への同行を求められたが、子供を取り上げられる事に抵抗して暴れ、遂には公務執行妨害の体で連行され、その後の事をレイン達が知る術はない。
 レインの父親は第三者である亀山の証言からリナを制止しようとしただけであると認められ、取り乱した母親と併せて年齢相応に冷静に対処すべきだったと諭されて帰された。
 完全に巻き込まれた格好で、なおかつ、傍から見れば手付かずの料理まで奪われてしまったルーシーら三人は同情的な目で見られ、警察官は状況だけ聴取して連絡先を控えて引き揚げていった。
 レインは亀山に料理代を払うと言ったが、亀山はそれを断り会社へと戻ってゆき、ランが合流した。ランはレインが暴走した時には止めに入るべく呼ばれており、彼等が集まる前から少し離れた席を確保して様子を窺っていたのだ。
「どうする、このまま帰るか?」
 ルーシーの問いにレインは首を振る。だが、飲食店は客入りの多い時間帯で、入りたい店の席が空いているわけではない。
「あ、カラオケにでも行こ? ドリンクバー頼んでちょっと落ち着こうよ」
 二人はランの提案に乗り、一番近くのカラオケ店へと入った。

 項垂れるレインを残し、ランとルーシーはドリンクバーに向かう。
「歳片手の子供にあんな事出来るのって、マジで人間としてどうかしてますよね」
「あぁ、そうだな。俺も親には絶縁されたが、あんな親じゃなかったよ」
「あれ? 奇遇だね、俺も親には勘当言い渡されてるんだ、あはは」
 ランは親に縁を切られた事を気に病んでいないが、その態度にルーシーは違和感を覚える。
「笑い事じゃないでしょう」
「いや、笑うしかないよ。俺、他にきょうだい居ないし、親戚居ないし、押し付けられた東京の外れのあばら家住まい、将来は良くて孤独死腐乱死体、家が家だし白骨も白骨で廃墟マニアに見つかって行旅死亡人の官報送りかもしれない未来しか無い事が人生四半世紀の内に決まったんだもん、開き直って生きていかなきゃ生きていけないよ。さ、戻ろ戻ろ」
 レインの分のグラスを持って戻るランを追いかけ、ルーシーは扉を開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...