35 / 84
第一章 The war ain't over!
14-1 封建社会も真っ青な指定制marrige
しおりを挟む
鍵を交換した翌朝、午前九時にそれはやってきた。
「では確認します、原則として売却可能な物は全て残すので、食品と、売却不可能な衣類だけは即処分という事ですね」
家屋の清掃を請け負う業者の作業員は、レインの父親に作業工程の確認をする。
「はい。こちらで大まかに指示を出したいので、作業開始を少し待って下さると幸いです」
「分かりました。では、比較的お荷物多いケースが多いので、台所から案内していただけますか?」
「はい」
レインの父親は鍵を開けて扉を開き、目を瞠った。
「なんでお前が居るんだ!」
玄関扉の向こう、上がり框に立っていたのは、この世の憾みと絶望をかき集めたかのような表情をしたレインだった。
「なんでって、俺、此処に住んでるし」
「お前に住む権利はない、さっさと出て行け!」
「持ち分の変更した覚えは無いし、固定資産税払ってるの俺なんだけど」
扉を開けるなり始まる親子間の修羅場に、清掃業者の作業員達は顔を見合わせ、困惑する。
「あと、車の車輪止めしたのもとーさんだよね」
「あれは俺が買った物だろうが!」
「借用書は作ってるし、年間の返済は間違いないよね? もう半分以上返してるよね? しかもあれは仕事用、社長から苦情が入ったらどうする? 今すぐ鍵を開けてくれないかな、一応今朝まで待ってたんだけど!」
「お前は車を持っていい人間じゃない、あれは売却先が決まってるんだ!」
「名義人は俺だよ? 勝手に委任状作ったら犯罪だ」
「お前はそんなに家も車も欲しいのか!」
「車は無いと仕事にならない、家は持ち分が有って固定資産税も負担している。適正な家賃を払う事には同意するとして、業者を呼んでまで家財を処分されるのはおかしいよ。ていうか、パソコンのモニターは弁償してもらわなきゃ、あれは俺が買った物であって、とーさんに壊していい権利はないんだよ」
「屁理屈ばっかり言いやがって!」
「屁理屈じゃない! 全部常識! 無責任に生きるっていう事は、それだけ知識が無いと生きていけないって事なんだよ!」
レインは肚の底から声を張り上げ、作業員達は身を縮ませる。
「大体、全部屁理屈だってねじ伏せられると思ったら大間違いなんだよ! 世の中知らないのはどっちだ!」
「うるせえ! あぁ、面倒だ、だったらお前が家も車も手に入れられる方法を教えてやる! 今すぐ結婚しろ! 田中さんところのお嬢さんならいいだろうが! 子供達もパパは誰だっていいと言っているんだ!」
突然の事に、レインは目を瞠った。
「この家はリナちゃんに月五万で貸す約束をした、車はお前と籍を入れたら名義をリナちゃんにする、それまでは俺のものだ!」
「ちょっと待て、結婚とか滅茶苦茶だよ! 何時の時代の条件だ!」
レインが声を上げるのにも構わず、父親は振り返って清掃業者の作業員達を見る。
「あぁ、すみません御見苦しい所を。遅くなって申し訳ないが、掃除を始めて下さい」
父親は強引に清掃を始めさせようとするが、作業員の一人が首を振った。
「す、すみません。現在住んでおられる方の同意が無いと、中には」
「こいつは居座っているだけなので気にしないで下さい」
「居座っているとしても、同意無しでは」
「あぁ、分かりました、では買取だけお願いします」
言うと父親は目を泳がせる作業員達を残し、レインを押しのけて土足のまま家に上がり込んだ。
「ちょっと、何を!」
父親はかつての応接間に入り、机の下からパソコンの筐体を引っ張り出し、キャビネットの前にあったギターケースを掴んだ。
レインは床が砂だらけになるのを眉を顰めて眺めるまま、何も言わなかった。
「そうか、諦めたか。ならいい。こんな下らん事は止めて真面目に働け。最初は工場でも漁船でも構わんぞ」
父親は勝ち誇った様に言い捨て、途方に暮れる清掃業者にそれらを押し付ける。
「作業賃の足しにして下さい」
「で、ですが」
「いいから引き取って下さい!」
「は、はぃ……」
押し付けられた物は後から返せばいい。責任者の若い男性は諦めた様にそれを受け取り、そそくさと車に積み込む。
「や、ヤマさん……」
「大丈夫、一旦、保管で……」
心配する作業員に、責任者の若い男性は冷静を装いながら言葉を返し、父親へ今日の作業は中止でよいかと尋ね、撤収の指示を出した。
「では確認します、原則として売却可能な物は全て残すので、食品と、売却不可能な衣類だけは即処分という事ですね」
家屋の清掃を請け負う業者の作業員は、レインの父親に作業工程の確認をする。
「はい。こちらで大まかに指示を出したいので、作業開始を少し待って下さると幸いです」
「分かりました。では、比較的お荷物多いケースが多いので、台所から案内していただけますか?」
「はい」
レインの父親は鍵を開けて扉を開き、目を瞠った。
「なんでお前が居るんだ!」
玄関扉の向こう、上がり框に立っていたのは、この世の憾みと絶望をかき集めたかのような表情をしたレインだった。
「なんでって、俺、此処に住んでるし」
「お前に住む権利はない、さっさと出て行け!」
「持ち分の変更した覚えは無いし、固定資産税払ってるの俺なんだけど」
扉を開けるなり始まる親子間の修羅場に、清掃業者の作業員達は顔を見合わせ、困惑する。
「あと、車の車輪止めしたのもとーさんだよね」
「あれは俺が買った物だろうが!」
「借用書は作ってるし、年間の返済は間違いないよね? もう半分以上返してるよね? しかもあれは仕事用、社長から苦情が入ったらどうする? 今すぐ鍵を開けてくれないかな、一応今朝まで待ってたんだけど!」
「お前は車を持っていい人間じゃない、あれは売却先が決まってるんだ!」
「名義人は俺だよ? 勝手に委任状作ったら犯罪だ」
「お前はそんなに家も車も欲しいのか!」
「車は無いと仕事にならない、家は持ち分が有って固定資産税も負担している。適正な家賃を払う事には同意するとして、業者を呼んでまで家財を処分されるのはおかしいよ。ていうか、パソコンのモニターは弁償してもらわなきゃ、あれは俺が買った物であって、とーさんに壊していい権利はないんだよ」
「屁理屈ばっかり言いやがって!」
「屁理屈じゃない! 全部常識! 無責任に生きるっていう事は、それだけ知識が無いと生きていけないって事なんだよ!」
レインは肚の底から声を張り上げ、作業員達は身を縮ませる。
「大体、全部屁理屈だってねじ伏せられると思ったら大間違いなんだよ! 世の中知らないのはどっちだ!」
「うるせえ! あぁ、面倒だ、だったらお前が家も車も手に入れられる方法を教えてやる! 今すぐ結婚しろ! 田中さんところのお嬢さんならいいだろうが! 子供達もパパは誰だっていいと言っているんだ!」
突然の事に、レインは目を瞠った。
「この家はリナちゃんに月五万で貸す約束をした、車はお前と籍を入れたら名義をリナちゃんにする、それまでは俺のものだ!」
「ちょっと待て、結婚とか滅茶苦茶だよ! 何時の時代の条件だ!」
レインが声を上げるのにも構わず、父親は振り返って清掃業者の作業員達を見る。
「あぁ、すみません御見苦しい所を。遅くなって申し訳ないが、掃除を始めて下さい」
父親は強引に清掃を始めさせようとするが、作業員の一人が首を振った。
「す、すみません。現在住んでおられる方の同意が無いと、中には」
「こいつは居座っているだけなので気にしないで下さい」
「居座っているとしても、同意無しでは」
「あぁ、分かりました、では買取だけお願いします」
言うと父親は目を泳がせる作業員達を残し、レインを押しのけて土足のまま家に上がり込んだ。
「ちょっと、何を!」
父親はかつての応接間に入り、机の下からパソコンの筐体を引っ張り出し、キャビネットの前にあったギターケースを掴んだ。
レインは床が砂だらけになるのを眉を顰めて眺めるまま、何も言わなかった。
「そうか、諦めたか。ならいい。こんな下らん事は止めて真面目に働け。最初は工場でも漁船でも構わんぞ」
父親は勝ち誇った様に言い捨て、途方に暮れる清掃業者にそれらを押し付ける。
「作業賃の足しにして下さい」
「で、ですが」
「いいから引き取って下さい!」
「は、はぃ……」
押し付けられた物は後から返せばいい。責任者の若い男性は諦めた様にそれを受け取り、そそくさと車に積み込む。
「や、ヤマさん……」
「大丈夫、一旦、保管で……」
心配する作業員に、責任者の若い男性は冷静を装いながら言葉を返し、父親へ今日の作業は中止でよいかと尋ね、撤収の指示を出した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サイデュームの宝石 転生したら悪役令嬢でした
みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった人達のお話です。
せつない話を書きたくて書きました。
以前かいた短編をまとめた短編集です。
更に続きの番外編をこちらで連載中です。
ルビーの憂鬱で出てくるパイロープ王国の国王は『断罪される前に婚約破棄しようとしたら、手籠にされました』の王太子殿下です。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる