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第一章 The war ain't over!
11-2 雑に粗くて噛み合わない罠
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「そういえば、さっき見ましたけど、スマホは持たないんですか」
年嵩の警察官は最大の疑問を投げかける。
「作業の方の片手間に電話をしたり、有線のヘッドフォンをかけた状態で触ったりする事が有るので、誤作動しやすいスマホは使えません。元々は金が無くてガラケーでしたけど、今でもそのタイプの方が便利で」
「メッセージアプリの類が使えないのは不便でしょう」
「あ、あの有名なアレは海外のサーバーから抜かれるって評判ですし、俺は使いませんよ」
「でもメールも今日日ガラケーじゃあ不便ですよね」
「格安キャリアのシムカードは買いましたよ、商談で自分の作品を聴いてもらう時にも便利なので」
「商談用といったところですか……しかし、持ってませんね」
「ケータイショップに行くだけですから、充電したままですよ」
「そうですか……それを見せてもらう事は出来ますか?」
レインは一瞬の沈黙で状況を把握する。
「お待ち下さい」
レインは家の中へと入り玄関先に鞄を投げると、居間で充電ケーブルに接続されたままの古いスマートフォンを手に取った。
「お待たせしました」
外に出たレインは指紋と埃の残るスマートフォンを年嵩の警察官に渡した。
「画面ロックはしてないんで、上にスライドで」
若い警察官と顔を見合わせつつ、年嵩の警察官は画面を開く。インストールされているアプリはプリセットの各種機能と、外資系の通販サービスが展開する映像や音楽の配信サービス用のアプリが上位に来ており、その他には簡易的なメモや描画ツール、無料のゲーム程度しか入っていない。
連絡先の一覧には仕事の取引先と思しきものと複数の個人名が並ぶが、件数はあまりにも少ない。
「随分少ないですね」
「何がなんでも連絡がつかないと困る相手……今だと、配信者事務所の社長とバンドメンバー、後は身内くらいにしか番号を教えてないので」
「普段使いの方も見せて頂けますか」
「ええ」
レインは再び家に入り、投げ出した鞄から真新しい携帯電話を取って外に出る。
「機種変したばかりなので、履歴は無いですけど」
若い警察官はレインから携帯電話を受け取り、連絡先を開く。スマートフォンと比較すると登録された連絡先の数は多いが不審な点は見られない。ただ、何件かの個人名には絵文字が入っている。
「この絵文字の入った連絡先は、何か特別な間柄の方で?」
「あー、バンドメンバーとか、個人的にも付き合いのある人ですね」
「バンドメンバーの方はバンド名の登録はしてないんですか?」
「するまでもないです。だってバンドは俺と相棒だけなんで」
若い警察官とレインは顔を見合わせる。
「バンド、ですよね」
「元々一人でやっていたので」
「はあ……あぁ、それと、女性の名前で一件だけ絵文字つけられてますけど」
「連れ合いです」
「奥様?」
「いえ、結婚はしてません。通い婚みたいな関係で」
若い警察官と年嵩の警察官は視線を合わせる。
「通い婚というと、同居はされてないんですか」
年嵩の警察官の問いに、レインは何ら動じる様子も見せず口を開いた。
「えぇ。新幹線の距離で遠距離恋愛なもんですから、デートが一ヶ月みたいな関係だと思って下さい、今は実家に帰ってますよ」
二人の警察官は再び目配せする。
「……分かりました。お時間取らせてすみません、今日はこれで」
年嵩の警察官はレインにスマートフォンを返し、それに続いて若い警察官も携帯電話をレインへ返す。
「失礼します」
二人の警察官は小さく頭を下げ、そのまま去っていった。
年嵩の警察官は最大の疑問を投げかける。
「作業の方の片手間に電話をしたり、有線のヘッドフォンをかけた状態で触ったりする事が有るので、誤作動しやすいスマホは使えません。元々は金が無くてガラケーでしたけど、今でもそのタイプの方が便利で」
「メッセージアプリの類が使えないのは不便でしょう」
「あ、あの有名なアレは海外のサーバーから抜かれるって評判ですし、俺は使いませんよ」
「でもメールも今日日ガラケーじゃあ不便ですよね」
「格安キャリアのシムカードは買いましたよ、商談で自分の作品を聴いてもらう時にも便利なので」
「商談用といったところですか……しかし、持ってませんね」
「ケータイショップに行くだけですから、充電したままですよ」
「そうですか……それを見せてもらう事は出来ますか?」
レインは一瞬の沈黙で状況を把握する。
「お待ち下さい」
レインは家の中へと入り玄関先に鞄を投げると、居間で充電ケーブルに接続されたままの古いスマートフォンを手に取った。
「お待たせしました」
外に出たレインは指紋と埃の残るスマートフォンを年嵩の警察官に渡した。
「画面ロックはしてないんで、上にスライドで」
若い警察官と顔を見合わせつつ、年嵩の警察官は画面を開く。インストールされているアプリはプリセットの各種機能と、外資系の通販サービスが展開する映像や音楽の配信サービス用のアプリが上位に来ており、その他には簡易的なメモや描画ツール、無料のゲーム程度しか入っていない。
連絡先の一覧には仕事の取引先と思しきものと複数の個人名が並ぶが、件数はあまりにも少ない。
「随分少ないですね」
「何がなんでも連絡がつかないと困る相手……今だと、配信者事務所の社長とバンドメンバー、後は身内くらいにしか番号を教えてないので」
「普段使いの方も見せて頂けますか」
「ええ」
レインは再び家に入り、投げ出した鞄から真新しい携帯電話を取って外に出る。
「機種変したばかりなので、履歴は無いですけど」
若い警察官はレインから携帯電話を受け取り、連絡先を開く。スマートフォンと比較すると登録された連絡先の数は多いが不審な点は見られない。ただ、何件かの個人名には絵文字が入っている。
「この絵文字の入った連絡先は、何か特別な間柄の方で?」
「あー、バンドメンバーとか、個人的にも付き合いのある人ですね」
「バンドメンバーの方はバンド名の登録はしてないんですか?」
「するまでもないです。だってバンドは俺と相棒だけなんで」
若い警察官とレインは顔を見合わせる。
「バンド、ですよね」
「元々一人でやっていたので」
「はあ……あぁ、それと、女性の名前で一件だけ絵文字つけられてますけど」
「連れ合いです」
「奥様?」
「いえ、結婚はしてません。通い婚みたいな関係で」
若い警察官と年嵩の警察官は視線を合わせる。
「通い婚というと、同居はされてないんですか」
年嵩の警察官の問いに、レインは何ら動じる様子も見せず口を開いた。
「えぇ。新幹線の距離で遠距離恋愛なもんですから、デートが一ヶ月みたいな関係だと思って下さい、今は実家に帰ってますよ」
二人の警察官は再び目配せする。
「……分かりました。お時間取らせてすみません、今日はこれで」
年嵩の警察官はレインにスマートフォンを返し、それに続いて若い警察官も携帯電話をレインへ返す。
「失礼します」
二人の警察官は小さく頭を下げ、そのまま去っていった。
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