夜想曲は奈落の底で

詩方夢那

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第一章 The war ain't over!

9-2  思い込みは暴走の燃料

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 絶縁の宣言ともとれる言葉を残し両親が去った後、レインは投げつけられるまま電源の落ちた携帯電話を拾い上げ、電源を入れ直した。
 母親が電話をかけて回った三件のうち、留守番電話になっていたリアルツーディーのオフィスには短い謝罪の伝言を残し、ランには母親と諍いになってしまった旨と謝罪の文面をメールで送信する。
 ミカには電話を掛けたが、その着信に反応はなく、レインは短い謝罪だけをメールに綴った。
 それからしばらくの間、両親からこの上ない暴言の数々を浴びせられたレインは静まり返ったリビングにぼんやりと座っていた。そして、この家と土地にいくらの価値が有るのかと思案する。
 レインに持ち分の一部が譲渡されたこの建物は、彼が生まれた頃から住んでいる物で、修繕こそしているが付加価値は無い。土地は都心からは離れているものの、都内の住宅地であり、それなりの価格にはなるのだろうと考える。
 心情的に激しくこじれてしまっているものの、法律的には相続の権利があり、報道内容は虚偽である事を鑑みれば相続から廃除される理由は無い。そして仮におじとおばから絶縁を言い渡されたいとこと両親が養子縁組をしたところで、彼のとの関係は良好である。
(しかし、これで俺も天涯孤独か)
 レインにきょうだいは無く、付き合いのある親戚はルーシーだけで、おじやおばと直接連絡を取り合うような関係はない。
(まあ、いいや。みんなおんなじだ。別に血縁なくたって、異性じゃなくたって、家族にはなれるんだし)
 殆ど唯一の身内である両親からの理不尽な絶縁、其処に湧き上がる感情はただ、絶望だった。
 レインがこの感情を受け入れる方法はただ一つ、それをギターに注ぎ込む事だけ。
 気兼ねなくギターを鳴らし、気が済むまで作業部屋にこもることが許されるあばら家へとレインは車を出した。
 
 あばら家には家主たるランがおり、前置きなしにやってきたレインに気づいた彼は玄関に向かう。
「あぁ、無事に着いてよかったよ」
 ランが出迎えたレインの表情は絶望、悲嘆、蒸し返された後悔に悔恨の情を隠さない暗黒を湛えており、平素、妙に夢見がちでありながらも好奇心旺盛に光る眸は澱んだ溜池の様に暗かった。
「なんか大変なことになっちゃったね……まあ、ゆっくりしていきなよ」
 ランの言葉に甘えるまま、レインは夜更けまで作業部屋に籠り、心配したランが作業部屋を覗いた時には吸音材代わりに置かれた置き畳の上でレインは眠りに落ちていた。
 そして迎えた翌日、ランの雑な計量で作られたパンケーキを齧りながら、レインは現実に戻った感覚を味わった。
「暫く作業部屋借りていいかな」
「使うのはいいけど、着替えは持ってきたのか?」
 ランの質問にレインは彼の顔を見る。
「別に泊まり込むのはいいけど、風呂と洗濯はどーすんだよ」
 レインは雑なパンケーキに視線を落とす。
「昨日も風呂入ってないんだし、一度帰ってこいよ」
「……ん」
 ランに言われるまま、レインは一度帰宅した。
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