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第一章 The war ain't over!
6-2 グラインド・ゴシップ(2022年春)
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下数と名乗る妙な男と接触して三日、レインは携帯の着信に叩き起こされた。
「ふぁい」
「あぁ、レイ君、ちょっといいかな」
「どした?」
「ワウーニュース、エンタメのタブに変な記事があってさ。出来たら見て貰いたいんだけど」
「んーちょっと待って」
佐伯からの電話を受けつつ、レインは古いスマートフォンの画面を起こす。
「ワウー……ワウー……あ、まさか、これ?」
――元・お化粧ロックバンドYLBのレイン、メンタル崩壊音信不通の中で見つけた姿。
「なんだろ、下衆を絵に描いた様な見出しだね……」
レインは乾いた笑いを立てながらその内容を追っていく。記事ではあの男がレインに接触した事、その周辺で平素からレインの目撃情報が無い事、そして、バンド在籍中の彼には薬物依存疑惑が有ったという事が列挙されていた。
「これ、どうする? 虚実綯交ぜで、随分な内容だけど」
「んー、たいへんに失礼ではあるけど、これで誹謗中傷は無理かなー……それに、イエロー・リリー・ブーケのレインは十三年も前に死んでるわけだし、今更騒いで今の状況を知られるのは御免だ」
「いいのか?」
「一応、しゃちょーには相談しておく。弁護士の一人は紹介してもらった方がよさそうだし、親にもちょっと変なのが沸いてるって伝えておく」
「そっか……一応、魚拓は取っておくから、必要になったら言ってくれ」
「うん、ありがと。それじゃ」
レインは溜息を吐きながら、再び寝床に横たわる。
――YLB脱退後、レインは都内のショップで勤務していたという噂もあるが、一方で服役していたとの噂も有る。次回はレインが勤務していたというショップを訪ね、YLB脱退後の足取りを追った様子をお伝えする。
(こいつ、まだやる気かよ……)
レインは再び溜息を吐き、渋々起き上がった。この状況をリアルツーディーの社長・亀山に伝えておかねばならない。この日、レインは件のライブハウスにほど近いライブバーのステージを借り、五十嵐小春と演奏する予定なのだ。
連絡を受けた亀山はレインに店へ横付け出来る機材車で移動する事を提案した。だが、レインはランに類が及ぶ事を恐れており、自分は何も喋らず危険が有れば防犯ベルを鳴らすなり催涙スプレーを撒くなりすると言い、ランを外に出さないようにして欲しいと伝えた。
昼下がり、バーの開店時間までの間にレインとランの動画撮影は行われた。ランは事務所までタクシーで向かい、機材車で直接乗り付ける形で会場に入った。
使う機材は二人のアコースティックギターと収録機材だけで、スタッフも車両担当と収録助手の二人だけ。演奏するのは二人のバンドで作った楽曲をアレンジした物で、バンドの演奏とは異なりランの女性的な高音域を活かした夢見心地な演奏だった。
レインは元イエロー・リリー・ブーケのメンバーである事を伏せているが、二人のバンド、ゴースト・モノリスの名前を出す事は厭わない。むしろ、原曲とアレンジの落差が話題になり、五十嵐小春が知られるならそれはそれで面白いとさえ思っている。
収録は順調に進み、予定通りの時刻にランは二本のギターを持って車に乗り込んだ。一方、レインは出来るだけ人通りの多い道へと出たが、何処から嗅ぎつけたのか、あの男が再び姿を現した。
「こんばんは」
下数は粘着質な会釈をしつつ、レインに張り付いた。
「どちら様ですか」
「またまた……今日は何かのイベントですか? 化粧をしてるように見えますけど」
「野暮用です」
「野暮用、ね……それとなく分ってますよ、あの店、良い店ですよね。で、ギターは」
「持ってないですよ」
「ほう、ギタリストが自分のギターを持ってないと……まあ、分かりますよ、このご時世、大変ですもんね」
レインは不快さを噛み殺し、ランに関心が向かないようにと注意を払う。
「それはそうと、この辺は例のブツが有るそうで」
「何の事です」
「まあ、分かってらっしゃると思いますが……最近はまがい物が出回っているという話ですし、気を付けた方がいいですよ」
レインには下数の言わんとする事が分からない。
「まあ、信頼できるバイヤが居るならそれでいいですけどね……使い過ぎには気を付けて下さいよ」
言って、男はレインから離れていく。
(一体何が言いたいんだ、あの男)
下数の気配が消えてからも、レインは警戒し、最寄り駅を外してタクシーで帰宅する事を選んだ。
「ふぁい」
「あぁ、レイ君、ちょっといいかな」
「どした?」
「ワウーニュース、エンタメのタブに変な記事があってさ。出来たら見て貰いたいんだけど」
「んーちょっと待って」
佐伯からの電話を受けつつ、レインは古いスマートフォンの画面を起こす。
「ワウー……ワウー……あ、まさか、これ?」
――元・お化粧ロックバンドYLBのレイン、メンタル崩壊音信不通の中で見つけた姿。
「なんだろ、下衆を絵に描いた様な見出しだね……」
レインは乾いた笑いを立てながらその内容を追っていく。記事ではあの男がレインに接触した事、その周辺で平素からレインの目撃情報が無い事、そして、バンド在籍中の彼には薬物依存疑惑が有ったという事が列挙されていた。
「これ、どうする? 虚実綯交ぜで、随分な内容だけど」
「んー、たいへんに失礼ではあるけど、これで誹謗中傷は無理かなー……それに、イエロー・リリー・ブーケのレインは十三年も前に死んでるわけだし、今更騒いで今の状況を知られるのは御免だ」
「いいのか?」
「一応、しゃちょーには相談しておく。弁護士の一人は紹介してもらった方がよさそうだし、親にもちょっと変なのが沸いてるって伝えておく」
「そっか……一応、魚拓は取っておくから、必要になったら言ってくれ」
「うん、ありがと。それじゃ」
レインは溜息を吐きながら、再び寝床に横たわる。
――YLB脱退後、レインは都内のショップで勤務していたという噂もあるが、一方で服役していたとの噂も有る。次回はレインが勤務していたというショップを訪ね、YLB脱退後の足取りを追った様子をお伝えする。
(こいつ、まだやる気かよ……)
レインは再び溜息を吐き、渋々起き上がった。この状況をリアルツーディーの社長・亀山に伝えておかねばならない。この日、レインは件のライブハウスにほど近いライブバーのステージを借り、五十嵐小春と演奏する予定なのだ。
連絡を受けた亀山はレインに店へ横付け出来る機材車で移動する事を提案した。だが、レインはランに類が及ぶ事を恐れており、自分は何も喋らず危険が有れば防犯ベルを鳴らすなり催涙スプレーを撒くなりすると言い、ランを外に出さないようにして欲しいと伝えた。
昼下がり、バーの開店時間までの間にレインとランの動画撮影は行われた。ランは事務所までタクシーで向かい、機材車で直接乗り付ける形で会場に入った。
使う機材は二人のアコースティックギターと収録機材だけで、スタッフも車両担当と収録助手の二人だけ。演奏するのは二人のバンドで作った楽曲をアレンジした物で、バンドの演奏とは異なりランの女性的な高音域を活かした夢見心地な演奏だった。
レインは元イエロー・リリー・ブーケのメンバーである事を伏せているが、二人のバンド、ゴースト・モノリスの名前を出す事は厭わない。むしろ、原曲とアレンジの落差が話題になり、五十嵐小春が知られるならそれはそれで面白いとさえ思っている。
収録は順調に進み、予定通りの時刻にランは二本のギターを持って車に乗り込んだ。一方、レインは出来るだけ人通りの多い道へと出たが、何処から嗅ぎつけたのか、あの男が再び姿を現した。
「こんばんは」
下数は粘着質な会釈をしつつ、レインに張り付いた。
「どちら様ですか」
「またまた……今日は何かのイベントですか? 化粧をしてるように見えますけど」
「野暮用です」
「野暮用、ね……それとなく分ってますよ、あの店、良い店ですよね。で、ギターは」
「持ってないですよ」
「ほう、ギタリストが自分のギターを持ってないと……まあ、分かりますよ、このご時世、大変ですもんね」
レインは不快さを噛み殺し、ランに関心が向かないようにと注意を払う。
「それはそうと、この辺は例のブツが有るそうで」
「何の事です」
「まあ、分かってらっしゃると思いますが……最近はまがい物が出回っているという話ですし、気を付けた方がいいですよ」
レインには下数の言わんとする事が分からない。
「まあ、信頼できるバイヤが居るならそれでいいですけどね……使い過ぎには気を付けて下さいよ」
言って、男はレインから離れていく。
(一体何が言いたいんだ、あの男)
下数の気配が消えてからも、レインは警戒し、最寄り駅を外してタクシーで帰宅する事を選んだ。
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