夜想曲は奈落の底で

詩方夢那

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第一章 The war ain't over!

4-2  トラウマ掘削機(2022年春先)

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「二人で作った最初のアルバムは、相棒が気合を入れ過ぎてリズム感がプログレッシブでテクニカルな雰囲気になり過ぎていましたが、今はデプレッシブ風味のブラックゲイズ志向、デプレッシブ・ブラックらしい憂鬱さはそのまま、古典的ブラックメタルらしいブラストビートも重視しつつ、シューゲイザー的な要素を、時にはビートを切ってトレモロを主軸にしたリズム構成で、寂寥感のある、例えるなら、そう、朽ち果ててゆく歴史的な家屋が在りし日を懐古する様な雰囲気にしたり、元々の志向……バーズム的なプリミティブ・ブラックを踏襲した音作りから、ノイズの向こうで聞こえる様な仕上りで、どうしようもなく憂鬱にしてみたり、ある意味では日本的な、湿った雑木林の中を彷徨う様な、雨の日の夜道に佇む様な雰囲気……平たく言うと、日本らしい悲しみに満ちた怪談、そういう背景から生まれた国産ホラーゲームの様な世界観を目指しています。分かるでしょう、もう俺は戻れないんですよ」

 レインはケリーが理解するか否かを無視し、言いたい事を一息に語る。
 ケリーは途中から話が理解出来なくなっていたが、目の前のスマートフォンから流れる音はが商業的に成功するタイプのそれではないとだけは理解した。
「あ、あのさあ、この曲って、その、自主製作とか?」
「一応、フィンランドの弱小レーベルから出していますが、費用はたかが知れていて、レコーディングしたのは今の相棒が大工さんに手伝ってもらって作ったお手製の作業場所、大昔には牛舎だった場所に作ったスタジオで、エンジニアなんていませんから、作業は二人だけで終わらせています」
「……フィンランド?」
 レインの言葉の情報量の多さに混乱しながら、ケリーは辛うじてひとつの質問を投げかける。
「はい。初めてデモテープを送った当時はスウェーデンに在ったんですけど、治安が悪すぎて店と会社を移転してフィンランドに」

 何を聞いてよいか分からなくなり、ケリーは黙ってスマートフォンに視線を落とす。
 再生されていた音源は次の曲へと移っており、今は劣悪な録音の向こうから悲鳴が聞こえている。
「えっと、今流れてるのって」
「ん、あぁ……アルバムの最初に入れたイントロみたいな物ですね」
「え、これもレインが作ったの?」
「いえ、これは相棒が作ったトラックですよ」
「へ、へぇ……なんか、その、海賊晩みたいな音だね」
「解像度を低くする為に、ドラムは生音をマイク一本で集めて、次の曲からは通常通りに録音を。まあ、これランダム再生だから次の曲ないんですけど……このアルバムは、それこそデプレッシブかつプリミティブ、ノルウェイジャン・ブラックメタルのスタイルを日本的に落とし込んだ二枚目のアルバムで、過剰にテクニカルなリズムは排しつつ、ブラストビートをアクセントにトレモロリフをベースにしています。シューゲイザー的になるのはこの後、それが今のスタイルになりました」
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