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第一章 The war ain't over!
1-2 トラウマ掘削機(2022年晩冬)
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「……まあ、そう言わずに少し聞いてくれ」
ハリーはコーヒーに口を付け、此処に至る経緯を語り始めた。
「もしかしたら、そのゴシップのトピックで知っていたかもしれないが、半年ほど前からウメは無期限休養中。実態は脱退するかしないかの猶予期間に入っている。どうも最近のアマミは品行方正で、やる気が無くなった、とな。次のレコーディング準備に入ったら決められるかと思ったんだが、今度はコリーがシゲ剣崎のサポートに専念したいと言い出したんだ。一応、慰留は試みたんだが、まあ、無理だったよ。もっと大きなステージで演奏したいっていうのは理解出来るし、シゲ剣崎のサポートという経歴は、それを辞めてからもきっと役に立つだろうからな」
黒髪の男は特に何の感慨も無い様子で、ただ、ハリーの話を聞いていた。
「そこで後任を探してはいるんだが……レコーディングの感性や、ステージでの掛け合いを考えると適任者はなかなか見つからない。ライブをするにもまだ規制は続くし、オンラインで何かするとなると、気心知れた相手の方がいいに決まってる。それでウメと少し話をしたんだが……どう考えても今すぐ見つかる最適解は、レイン、お前さんを呼び戻す事になっちまったんだよ」
黒髪の男、レインは盛大に溜息を吐き、ソーダを一息に吸い上げた。
「……あのさあ、短絡的だと思わないんですか。隆君は俺の身内ですから、俺を推挙すると思います。だからってハル兄までそれに乗らないで下さい」
「だが、バンドを辞めてから、海外レコーディングや海外レーベルからのデビューをしたんだろ?」
白い指先が、黒髪を抱え込んだ。
「……彼から何を聞いたか知りませんけど、それ、きっと認識が違います」
「どういう事だ?」
「その海外レコーディング、何処で何をしたと?」
「え、あ……細かい事までは聞いてなかったな」
「じゃあ、どういうイメージです?」
「え……そ、そりゃ、アメリカ、いや、お前さんの場合は……イギリスか? とにかく、向こうのスタジオでアルバム作ったんだろ?」
レインは深い溜息を吐き、机に就いた肘に頭を任せる。
「行先はフィンランドの森の中、スタジオはお手製の小屋、レコーディングエンジニアはレーベルの社長、何故か標準装備のサウナに引き摺り込まれて、そこで焼いたソーセージを食わされる、それが俺の海外レコーディングですよ」
「え……」
ハリーには想像がつかなかった。フィンランドの森の中も、サウナで焼かれるソーセージも。
「後、海外レーベルとは言いますけど、会社は独立零細マニア向けのレーベルで、費用は全面自力作業でぎりぎり黒字、商品は海外拠点の通販で細々売っただけですよ」
「通販……何枚くらい売ったんだ?」
「海外レコーディングしたプロジェクトは百枚、デビューアルバムは五十枚」
「ご、ごじゅう?」
ハリーは思わず声を大にする。
「現物は五十。後からデジタル配信やストリーミングが始まったので、収益はそれ以上に出ましたけど」
「同人レベルじゃねえかよ……なんだって海外から」
「デモテープを送った縁です。零細インディーズですけど、それ故、社長が出すといえば話は決まりです」
「はぁ……で、国内でどのくらい売れたんだ」
「さあ、十枚も流通してないんじゃないですか? そもそもデプレッシブ・ブラックメタルの市場は母数が小さいですし」
「で、でぷ……」
「デプレッシブ・ブラックメタル。興味があれば調べてみて下さい、メジャーなロックシーンには縁の無い暗黒が広がっていますから」
ハリーはコーヒーに口を付け、此処に至る経緯を語り始めた。
「もしかしたら、そのゴシップのトピックで知っていたかもしれないが、半年ほど前からウメは無期限休養中。実態は脱退するかしないかの猶予期間に入っている。どうも最近のアマミは品行方正で、やる気が無くなった、とな。次のレコーディング準備に入ったら決められるかと思ったんだが、今度はコリーがシゲ剣崎のサポートに専念したいと言い出したんだ。一応、慰留は試みたんだが、まあ、無理だったよ。もっと大きなステージで演奏したいっていうのは理解出来るし、シゲ剣崎のサポートという経歴は、それを辞めてからもきっと役に立つだろうからな」
黒髪の男は特に何の感慨も無い様子で、ただ、ハリーの話を聞いていた。
「そこで後任を探してはいるんだが……レコーディングの感性や、ステージでの掛け合いを考えると適任者はなかなか見つからない。ライブをするにもまだ規制は続くし、オンラインで何かするとなると、気心知れた相手の方がいいに決まってる。それでウメと少し話をしたんだが……どう考えても今すぐ見つかる最適解は、レイン、お前さんを呼び戻す事になっちまったんだよ」
黒髪の男、レインは盛大に溜息を吐き、ソーダを一息に吸い上げた。
「……あのさあ、短絡的だと思わないんですか。隆君は俺の身内ですから、俺を推挙すると思います。だからってハル兄までそれに乗らないで下さい」
「だが、バンドを辞めてから、海外レコーディングや海外レーベルからのデビューをしたんだろ?」
白い指先が、黒髪を抱え込んだ。
「……彼から何を聞いたか知りませんけど、それ、きっと認識が違います」
「どういう事だ?」
「その海外レコーディング、何処で何をしたと?」
「え、あ……細かい事までは聞いてなかったな」
「じゃあ、どういうイメージです?」
「え……そ、そりゃ、アメリカ、いや、お前さんの場合は……イギリスか? とにかく、向こうのスタジオでアルバム作ったんだろ?」
レインは深い溜息を吐き、机に就いた肘に頭を任せる。
「行先はフィンランドの森の中、スタジオはお手製の小屋、レコーディングエンジニアはレーベルの社長、何故か標準装備のサウナに引き摺り込まれて、そこで焼いたソーセージを食わされる、それが俺の海外レコーディングですよ」
「え……」
ハリーには想像がつかなかった。フィンランドの森の中も、サウナで焼かれるソーセージも。
「後、海外レーベルとは言いますけど、会社は独立零細マニア向けのレーベルで、費用は全面自力作業でぎりぎり黒字、商品は海外拠点の通販で細々売っただけですよ」
「通販……何枚くらい売ったんだ?」
「海外レコーディングしたプロジェクトは百枚、デビューアルバムは五十枚」
「ご、ごじゅう?」
ハリーは思わず声を大にする。
「現物は五十。後からデジタル配信やストリーミングが始まったので、収益はそれ以上に出ましたけど」
「同人レベルじゃねえかよ……なんだって海外から」
「デモテープを送った縁です。零細インディーズですけど、それ故、社長が出すといえば話は決まりです」
「はぁ……で、国内でどのくらい売れたんだ」
「さあ、十枚も流通してないんじゃないですか? そもそもデプレッシブ・ブラックメタルの市場は母数が小さいですし」
「で、でぷ……」
「デプレッシブ・ブラックメタル。興味があれば調べてみて下さい、メジャーなロックシーンには縁の無い暗黒が広がっていますから」
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