三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第四章 ゲームなら、絶対悪質チーターです

73.ミハミズモスの鐘楼:不満と現実

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 吸血鬼はオルドに対して鐘楼の内側に結界を張るように指示し、アナスタシアとジーナをその場に残して二階へと進んだ。
「まったく、なんで私達があの吸血鬼の言いなりにならなきゃいけないのかしら……しかも連れて行くのがどっちもよそ者なんて」
「まぁ……確かに、頭領のメテオーロさんが仕切らないのはちょっと不自然ですけど、メテオーロさんが反論しないなら、僕たちも反論すべきではないでしょう。それに、何が居るか分からない所にいきなり行くよりは、何が居るか分かっている所にいる方が安全です」
「それはそうだけれど……」
 白骨と小動物の死骸の散乱した一階に留まるアナスタシアは、吸血鬼に対する不満を隠さない。
「適当な枝を持ってきたぞ」
「ありがとう! これで片付けが出来るわ」
 アナスタシアはジーナに少し太めの枝を数本拾ってきて欲しいと頼んでいた。それはこの魔獣退治を主導する吸血鬼の意には反していたが、アナスタシアには死骸と白骨の散乱した環境が耐えきれなかった。
「なぁ、こんな物どうするつもりなんだ?」
 ジーナは首を傾げるが、アナスタシアは目を輝かせている。
「こんな事なら火ばさみを持ってくるべきだったのだけど……これで火ばさみに似た物を作れば、触らずにこの骨と鼠を片付けられるわ。オルド、この枝の先を、少し平たく削ってくれる?」
「はぁ……」
 アナスタシアとオルドは家の枝を少し削った。
「鼠は疫病を拡散する媒介になる、だから直接触ってはだめよ」
 アナスタシアはジーナにそう言いながら、二本の枝で鼠の死骸を挟んで運ぶ。決して効率の良い物では無いが、少なくとも死骸に触れないだけ衛生的だった。
「しかし、上の方は静かですね……魔獣が居たのって、もしかして地下だけじゃなかったんですかね」
 オルドは階段の上に視線を向ける。
「そうね……そんなに隠れられる場所があるとは……」
 アナスタシアがオルドと同じ方向を見た時、怒号が一階にまで届いた。
 ――どうなってやがるんだよ!
 メテオーロのただならぬ怒声に一同が顔を見合わせると、慌ただしい足音が二階から一階へと駆け降りた。
「逃げて! 今すぐ此処を離れて! あなた達の手には負えない!」
 イロハはアナスタシアとオルドを小突いて追い立てる。
「ちょっと、いきなり何をするのよ!」
「今すぐ此処を出ろ! とにかく出て行け! 早く!」
「どうして私達が出て行かなきゃ」
「アナスタシアさん! 今は離れましょう!」
 状況が理解出来ないアナスタシアはイロハに立腹するが、オルドはただならない状況だけは理解し、アナスタシアの手を引いた。
「どうしたんだ!」
「来る、骨が来る! 来たら背骨を真っ二つに!」
 ジーナに応えながら、イロハはオルドとアナスタシアが建物から出るのを確かめる。
「一体たりとも、逃がせないの!」
 困惑するまま振り返るアナスタシアの目の前で、鐘楼の出入り口に白い光が張り巡らされる。
「ちょっと!」
 アナスタシアが叫ぶその向こうでは、乾いた音を立てながら白骨が階段を降り、ジーナに短い剣を振り下ろそうとする。
「え……」
 ありえない光景にアナスタシアは絶句し、立ち尽くす。オルドもまた現鍔慣れした光景に思考が止まる。
「背骨を!」
 イロハの叫びにジーナは首切り斧を振り回し、白骨の背骨を真っ二つにする。だが、上半身が落ちた白骨は残る腰椎から下だけになっても歩き回る。
「うそだろ!」
「頭の骨を割って、中身を叩き潰すのよ!」
「お、おう!」
 戸惑いながら、ジーナはイロハの言う通り頭蓋骨に向け、首切り斧の柄を突き下ろした。
「固い!」
 ジーナは何度か柄を振り下ろすが、頭がい骨は割れても中の石までは割れない。
「くそぅ!」
 イロハは結界を離れ、駆け寄るままの勢いで粘液に包まれた光る石を踏み割った。
「これが割れたら動き回る足は動かなくなる。ジーナ、上に行ってメテオーロを手伝って。私は動き回る足を逃がさないだけで精一杯よ」
「分かった!」
 ジーナは白骨が動き回っている事だけは理解し、二階へと駆け上がる。その間にイロハは出入り口の結界を魔法円のある強固な物へと作り直し、汚水の溜まる貯蔵庫の周辺にも近寄らないように作業する。
「ちょっと! これはどういう事なのよ!」
 割れた頭蓋骨と転がる白骨の向こうでアナスタシアは問うが、イロハは慌ただしく階段を駆け上がる。鐘楼最上階には、鉄格子が無いのだ。
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