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第三章 異世界だけど、現実的です
64.対魔獣警備:不吉な者
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不機嫌を隠さなかったアナスタシアさえも疲労に負けて睡魔に連れ去られた頃、一人の客が酒場に入った。
その客は灰色のマントを被った旅人風で、その容貌は伺い知れない。
「麦酒を」
吸血鬼の男の隣に腰を下ろした男は麦酒を頼み、鉄銭と蝋銭を出す。その蝋銭を見た吸血鬼はフードの下で眉を顰めた。
(シダージの蝋銭……あの野伏か)
暫くの間得体の知れない男は黙って麦酒を飲んでいたが、やがて呟いた。
「関わったからには教えてやろう……都の洞窟、あれは今や邪の巣窟だ。しかし、其処に巣食う四つ足はあまりにも多く、得体の知れぬものも多い。二つ足は新たな巣を探して走るだろう……悪い事は言わん、早めに手を引け。特別なものを幾つも抱えて戦えるほど生易しくは無い。近くのの民はいずこかの壁の中へと去る。そうなった時、使い潰されたくなければな」
男は麦酒を飲み干して席を立つ。
吸血鬼は深追いせず、葡萄酒を一口飲み下す。
(あれは東国のエルフ……野伏に身をやつしているからには、一族はもう居ないか)
吸血鬼の男が生まれてからというもの、人間の台頭にこの世での生を倦んだエルフの多くが西方へと去るか、あるいは堕落していった。メテオーロもまたそうした中で一族と別れ、この大陸に残った一人である。
夜明けまで少しの猶予がある頃、眠るでもなく目を閉じていた吸血鬼はただならぬ気配に目を開けた。
(オーク、いや、半オーク……違う、それよりも薄い)
それは夜明け前に尋ねてきた一人の客だった。他の客と同じく顔を隠しているが、その体には生気がない。かといって、不死鬼の様な狂気も無い。
(あぁ、そうか、穢れた血は、オーク)
吸血鬼はカリキでの出来事を思い返しながら、メテオーロの肩を叩いた。
『ディシオノスだ。此処を出るぞ』
メテオーロは目を瞠り、アナスタシアを起こす。
吸血鬼もまたオルドとジーナを起こすが、目覚めるなり不機嫌そうなアナスタシアと、疲労のまま動けるかどうかも怪しいオルドを連れて移動する事は困難だと二人は悟る。
『間に合わん』
振り返ったメテオーロは短く呟き、吸血鬼は短剣を引き抜いた。
カウンター席に着いていた生気の無い客は席を立ち、一行の席へと近付いている。だが、他の客どころか、女給すらもその事に関心は持たない。
〔アフトクラートラス……〕
歪んだ声が言葉を紡ぎ、メテオーロは息を呑んだ。
席を立っていないメテオーロになす術は無く、吸血鬼は短剣を構えるが、重厚な手袋に守られた魔の手は刃事それを奪い取った。
『逃げろ!』
メテオーロが叫んだ時、何者かの呪文が店の中に響いた。
メテオーロはその叫びの方を見た。其処に立っていたのは白い光を纏った人影。
『貴様の居場所は冥府だ!』
光を纏った人影は叫び、白い杖から放たれる光を生気のない人影に向ける。それは酷くまばゆい物で、メテオーロも吸血鬼も目を伏せる。その刹那、湿り気のある鈍い音が立ち、息の詰まるようなうめき声と共に生気の無い人物は前のめりに倒れ込み、メテオーロに覆いかぶさる。
メテオーロは息絶えたそれを払いのけた。
『星降谷の末裔、あまりにも迂闊だ』
返す言葉の無いメテオーロは目を伏せる。
『あなたは何者なのですか』
強い光が消え、吸血鬼は漸く直視出来るようになった人物を見る。
『悪い事は言わん、手を引け。街に戻ったなら、今度こそ名乗ろう……悪いが私は大体の事を知っている』
『おい!』
メテオーロはその人物を制止しようとするが、その人物は遂に絶命した不審な人物の骸を引き摺りながら店を出て行ってしまう。
「な……なんだったのよ!」
騒動にすっかり目の覚めたアナスタシアは顔を歪めて悲鳴を上げた。しかし、それに答える者は誰も居なかった。
その客は灰色のマントを被った旅人風で、その容貌は伺い知れない。
「麦酒を」
吸血鬼の男の隣に腰を下ろした男は麦酒を頼み、鉄銭と蝋銭を出す。その蝋銭を見た吸血鬼はフードの下で眉を顰めた。
(シダージの蝋銭……あの野伏か)
暫くの間得体の知れない男は黙って麦酒を飲んでいたが、やがて呟いた。
「関わったからには教えてやろう……都の洞窟、あれは今や邪の巣窟だ。しかし、其処に巣食う四つ足はあまりにも多く、得体の知れぬものも多い。二つ足は新たな巣を探して走るだろう……悪い事は言わん、早めに手を引け。特別なものを幾つも抱えて戦えるほど生易しくは無い。近くのの民はいずこかの壁の中へと去る。そうなった時、使い潰されたくなければな」
男は麦酒を飲み干して席を立つ。
吸血鬼は深追いせず、葡萄酒を一口飲み下す。
(あれは東国のエルフ……野伏に身をやつしているからには、一族はもう居ないか)
吸血鬼の男が生まれてからというもの、人間の台頭にこの世での生を倦んだエルフの多くが西方へと去るか、あるいは堕落していった。メテオーロもまたそうした中で一族と別れ、この大陸に残った一人である。
夜明けまで少しの猶予がある頃、眠るでもなく目を閉じていた吸血鬼はただならぬ気配に目を開けた。
(オーク、いや、半オーク……違う、それよりも薄い)
それは夜明け前に尋ねてきた一人の客だった。他の客と同じく顔を隠しているが、その体には生気がない。かといって、不死鬼の様な狂気も無い。
(あぁ、そうか、穢れた血は、オーク)
吸血鬼はカリキでの出来事を思い返しながら、メテオーロの肩を叩いた。
『ディシオノスだ。此処を出るぞ』
メテオーロは目を瞠り、アナスタシアを起こす。
吸血鬼もまたオルドとジーナを起こすが、目覚めるなり不機嫌そうなアナスタシアと、疲労のまま動けるかどうかも怪しいオルドを連れて移動する事は困難だと二人は悟る。
『間に合わん』
振り返ったメテオーロは短く呟き、吸血鬼は短剣を引き抜いた。
カウンター席に着いていた生気の無い客は席を立ち、一行の席へと近付いている。だが、他の客どころか、女給すらもその事に関心は持たない。
〔アフトクラートラス……〕
歪んだ声が言葉を紡ぎ、メテオーロは息を呑んだ。
席を立っていないメテオーロになす術は無く、吸血鬼は短剣を構えるが、重厚な手袋に守られた魔の手は刃事それを奪い取った。
『逃げろ!』
メテオーロが叫んだ時、何者かの呪文が店の中に響いた。
メテオーロはその叫びの方を見た。其処に立っていたのは白い光を纏った人影。
『貴様の居場所は冥府だ!』
光を纏った人影は叫び、白い杖から放たれる光を生気のない人影に向ける。それは酷くまばゆい物で、メテオーロも吸血鬼も目を伏せる。その刹那、湿り気のある鈍い音が立ち、息の詰まるようなうめき声と共に生気の無い人物は前のめりに倒れ込み、メテオーロに覆いかぶさる。
メテオーロは息絶えたそれを払いのけた。
『星降谷の末裔、あまりにも迂闊だ』
返す言葉の無いメテオーロは目を伏せる。
『あなたは何者なのですか』
強い光が消え、吸血鬼は漸く直視出来るようになった人物を見る。
『悪い事は言わん、手を引け。街に戻ったなら、今度こそ名乗ろう……悪いが私は大体の事を知っている』
『おい!』
メテオーロはその人物を制止しようとするが、その人物は遂に絶命した不審な人物の骸を引き摺りながら店を出て行ってしまう。
「な……なんだったのよ!」
騒動にすっかり目の覚めたアナスタシアは顔を歪めて悲鳴を上げた。しかし、それに答える者は誰も居なかった。
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