三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第三章 異世界だけど、現実的です

60.中州の野伏:歪な共闘

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『結局こうなる、愚か者どもめ』
 吸血鬼の男は悪態を吐きながら、気性の荒い馬に跨る。
『だが、俺達だったのがまだ救いだ』
『しかし、戦えるのは我々だけでしょう』
 メテオーロも馬に跨り、先行する憲兵の出発を待つ。
「出陣!」
 憲兵の掛け声とともに、数頭の馬がミハミズモスを駆け出す。その騎兵に続き、後方支援として二台の戦車チャリオットと、アナスタシアを乗せた馬が走り出す。だが、その隊列は荷馬車ほどの速さでゆっくりと前進し、気球の出動とはいいがたい状況が続く。
『先頭を待っていては間に合わない!』
『近道を知ってる、付いて来い!』
 暴れ馬を貸し付けられながら、安全な速度でしか進まない銭湯へのいら立ちをあらわにする吸血鬼の男に、メテオーロは悪い笑みを浮かべて返す。
「近道したけりゃ付いて来い!」
 メテオーロの馬を筆頭に、数頭の馬が馬車道を外れて原野を疾走する。騎兵を束ねる憲兵は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべているが、メテオーロにその表情は届かない。それどころか、一刻の猶予も無いと判断した憲兵は放浪エルフの馬に付き従ってしまった。
 そうした前方の有様を目撃し、オルドは後ろを振り返る。
「馬車道を外れての走行は危険だ。俺達は後方部隊、このまま隊長と共に正規経路を辿る」
 チャリオットの御者はそう言いながらもいら立ちを隠さない。それほどまでに騎兵を束ねる憲兵の馬は遅いのだ。
「おい!」
 ジーナを乗せて広報集団を走っていた御者は、正規経路を外れて駆け出すアナスタシアの馬に思わず声を上げる。
「つっても、救護が居ねぇか……畜生!」
 最後尾のチャリオットとなった御者もまた悪態を吐く。
 他方、集団を外れた騎兵は原野を駆け抜けるが、気性の荒い二頭の馬から引き離され始めていた。
 集団を外れた一行が向かうのは、ミハミズモスから南の方角に位置する小さな町だった。
『あれがやられたら、船着き場が壊滅しちまう!』
 メテオーロは帰りの事を考えず、暴れ馬を全力で走らせる。陽は既に傾き始め、馬で走れる時間の限界が見えていた。しかも日没はオーク達が最も力を発揮する夜の到来を知らせている。
 一団が目的地のリマナキまであと僅かの距離に迫った時、既に原野には怒号が飛び交っていた。
『沿岸の野伏……まだ生きてたのか』
 野伏の中には魔族も加わっているらしく、晴天の原野には落雷の轟音が起こり、湿った草地に禍々しいほどに赤い火柱が経つ。
「な、なんだこれは!」
「沿岸の野伏だ。下手に加勢すればとばっちりを喰らう……とはいえ、憲兵じゃねぇ俺らは加勢するぜ!」
「おい、勝手な行動は!」
「巻き添えになりたくなければ、逃げ出したオークでも追いかけて下さい」
 飛び出していくメテオーロに狼狽する憲兵の隣で吸血鬼の男は馬を降り、メテオーロに続く。
 原野には既に打ち倒されたオークが転がり、焼かれたオークから異臭が放たれていた。
「何者だ」
「カリキの退治屋だ。憲兵についてきたが、やってられねぇ、加勢するぜ」
「そうか」
 野伏の一人はあっさりとメテオーロを受け入れ、あたかも長年の相棒同士の様に襲い掛かるオークを打ち倒す。
 魔術師によって戦力に大きな差が生じている為か、既にオークの集団は殆どが戦闘不能に陥り、手の空いた者はとどめを刺していた。
「あんた」
「カリキの退治屋です。憲兵の配下に居ましたが、抜け出してきました」
「そうか。吸血鬼に役人仕事は無理だろうな」
「この集団とはいつ頃から交戦を?」
「四半時くらいになるだろうか、海岸線で憲兵が騒いでいたんだ。偵察に出てたんで、急ぎ引き返してこちらに……来てみたところ、帝都の方向から黒い影が見えた」
「この集団はあなたの集団だけですか?」
「いや、船着き場の近くに野営してる連中も混ざってる。まぁ、あいつらの事はよく知ってるんだがな」
 吸血鬼の男と野伏は残党を探す様に死体の首にとどめの一撃を与えて回る。
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