61 / 77
第三章 異世界だけど、現実的です
60.中州の野伏:歪な共闘
しおりを挟む
『結局こうなる、愚か者どもめ』
吸血鬼の男は悪態を吐きながら、気性の荒い馬に跨る。
『だが、俺達だったのがまだ救いだ』
『しかし、戦えるのは我々だけでしょう』
メテオーロも馬に跨り、先行する憲兵の出発を待つ。
「出陣!」
憲兵の掛け声とともに、数頭の馬がミハミズモスを駆け出す。その騎兵に続き、後方支援として二台の戦車と、アナスタシアを乗せた馬が走り出す。だが、その隊列は荷馬車ほどの速さでゆっくりと前進し、気球の出動とはいいがたい状況が続く。
『先頭を待っていては間に合わない!』
『近道を知ってる、付いて来い!』
暴れ馬を貸し付けられながら、安全な速度でしか進まない銭湯へのいら立ちをあらわにする吸血鬼の男に、メテオーロは悪い笑みを浮かべて返す。
「近道したけりゃ付いて来い!」
メテオーロの馬を筆頭に、数頭の馬が馬車道を外れて原野を疾走する。騎兵を束ねる憲兵は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべているが、メテオーロにその表情は届かない。それどころか、一刻の猶予も無いと判断した憲兵は放浪エルフの馬に付き従ってしまった。
そうした前方の有様を目撃し、オルドは後ろを振り返る。
「馬車道を外れての走行は危険だ。俺達は後方部隊、このまま隊長と共に正規経路を辿る」
チャリオットの御者はそう言いながらもいら立ちを隠さない。それほどまでに騎兵を束ねる憲兵の馬は遅いのだ。
「おい!」
ジーナを乗せて広報集団を走っていた御者は、正規経路を外れて駆け出すアナスタシアの馬に思わず声を上げる。
「つっても、救護が居ねぇか……畜生!」
最後尾のチャリオットとなった御者もまた悪態を吐く。
他方、集団を外れた騎兵は原野を駆け抜けるが、気性の荒い二頭の馬から引き離され始めていた。
集団を外れた一行が向かうのは、ミハミズモスから南の方角に位置する小さな町だった。
『あれがやられたら、船着き場が壊滅しちまう!』
メテオーロは帰りの事を考えず、暴れ馬を全力で走らせる。陽は既に傾き始め、馬で走れる時間の限界が見えていた。しかも日没はオーク達が最も力を発揮する夜の到来を知らせている。
一団が目的地のリマナキまであと僅かの距離に迫った時、既に原野には怒号が飛び交っていた。
『沿岸の野伏……まだ生きてたのか』
野伏の中には魔族も加わっているらしく、晴天の原野には落雷の轟音が起こり、湿った草地に禍々しいほどに赤い火柱が経つ。
「な、なんだこれは!」
「沿岸の野伏だ。下手に加勢すればとばっちりを喰らう……とはいえ、憲兵じゃねぇ俺らは加勢するぜ!」
「おい、勝手な行動は!」
「巻き添えになりたくなければ、逃げ出したオークでも追いかけて下さい」
飛び出していくメテオーロに狼狽する憲兵の隣で吸血鬼の男は馬を降り、メテオーロに続く。
原野には既に打ち倒されたオークが転がり、焼かれたオークから異臭が放たれていた。
「何者だ」
「カリキの退治屋だ。憲兵についてきたが、やってられねぇ、加勢するぜ」
「そうか」
野伏の一人はあっさりとメテオーロを受け入れ、あたかも長年の相棒同士の様に襲い掛かるオークを打ち倒す。
魔術師によって戦力に大きな差が生じている為か、既にオークの集団は殆どが戦闘不能に陥り、手の空いた者はとどめを刺していた。
「あんた」
「カリキの退治屋です。憲兵の配下に居ましたが、抜け出してきました」
「そうか。吸血鬼に役人仕事は無理だろうな」
「この集団とはいつ頃から交戦を?」
「四半時くらいになるだろうか、海岸線で憲兵が騒いでいたんだ。偵察に出てたんで、急ぎ引き返してこちらに……来てみたところ、帝都の方向から黒い影が見えた」
「この集団はあなたの集団だけですか?」
「いや、船着き場の近くに野営してる連中も混ざってる。まぁ、あいつらの事はよく知ってるんだがな」
吸血鬼の男と野伏は残党を探す様に死体の首にとどめの一撃を与えて回る。
吸血鬼の男は悪態を吐きながら、気性の荒い馬に跨る。
『だが、俺達だったのがまだ救いだ』
『しかし、戦えるのは我々だけでしょう』
メテオーロも馬に跨り、先行する憲兵の出発を待つ。
「出陣!」
憲兵の掛け声とともに、数頭の馬がミハミズモスを駆け出す。その騎兵に続き、後方支援として二台の戦車と、アナスタシアを乗せた馬が走り出す。だが、その隊列は荷馬車ほどの速さでゆっくりと前進し、気球の出動とはいいがたい状況が続く。
『先頭を待っていては間に合わない!』
『近道を知ってる、付いて来い!』
暴れ馬を貸し付けられながら、安全な速度でしか進まない銭湯へのいら立ちをあらわにする吸血鬼の男に、メテオーロは悪い笑みを浮かべて返す。
「近道したけりゃ付いて来い!」
メテオーロの馬を筆頭に、数頭の馬が馬車道を外れて原野を疾走する。騎兵を束ねる憲兵は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべているが、メテオーロにその表情は届かない。それどころか、一刻の猶予も無いと判断した憲兵は放浪エルフの馬に付き従ってしまった。
そうした前方の有様を目撃し、オルドは後ろを振り返る。
「馬車道を外れての走行は危険だ。俺達は後方部隊、このまま隊長と共に正規経路を辿る」
チャリオットの御者はそう言いながらもいら立ちを隠さない。それほどまでに騎兵を束ねる憲兵の馬は遅いのだ。
「おい!」
ジーナを乗せて広報集団を走っていた御者は、正規経路を外れて駆け出すアナスタシアの馬に思わず声を上げる。
「つっても、救護が居ねぇか……畜生!」
最後尾のチャリオットとなった御者もまた悪態を吐く。
他方、集団を外れた騎兵は原野を駆け抜けるが、気性の荒い二頭の馬から引き離され始めていた。
集団を外れた一行が向かうのは、ミハミズモスから南の方角に位置する小さな町だった。
『あれがやられたら、船着き場が壊滅しちまう!』
メテオーロは帰りの事を考えず、暴れ馬を全力で走らせる。陽は既に傾き始め、馬で走れる時間の限界が見えていた。しかも日没はオーク達が最も力を発揮する夜の到来を知らせている。
一団が目的地のリマナキまであと僅かの距離に迫った時、既に原野には怒号が飛び交っていた。
『沿岸の野伏……まだ生きてたのか』
野伏の中には魔族も加わっているらしく、晴天の原野には落雷の轟音が起こり、湿った草地に禍々しいほどに赤い火柱が経つ。
「な、なんだこれは!」
「沿岸の野伏だ。下手に加勢すればとばっちりを喰らう……とはいえ、憲兵じゃねぇ俺らは加勢するぜ!」
「おい、勝手な行動は!」
「巻き添えになりたくなければ、逃げ出したオークでも追いかけて下さい」
飛び出していくメテオーロに狼狽する憲兵の隣で吸血鬼の男は馬を降り、メテオーロに続く。
原野には既に打ち倒されたオークが転がり、焼かれたオークから異臭が放たれていた。
「何者だ」
「カリキの退治屋だ。憲兵についてきたが、やってられねぇ、加勢するぜ」
「そうか」
野伏の一人はあっさりとメテオーロを受け入れ、あたかも長年の相棒同士の様に襲い掛かるオークを打ち倒す。
魔術師によって戦力に大きな差が生じている為か、既にオークの集団は殆どが戦闘不能に陥り、手の空いた者はとどめを刺していた。
「あんた」
「カリキの退治屋です。憲兵の配下に居ましたが、抜け出してきました」
「そうか。吸血鬼に役人仕事は無理だろうな」
「この集団とはいつ頃から交戦を?」
「四半時くらいになるだろうか、海岸線で憲兵が騒いでいたんだ。偵察に出てたんで、急ぎ引き返してこちらに……来てみたところ、帝都の方向から黒い影が見えた」
「この集団はあなたの集団だけですか?」
「いや、船着き場の近くに野営してる連中も混ざってる。まぁ、あいつらの事はよく知ってるんだがな」
吸血鬼の男と野伏は残党を探す様に死体の首にとどめの一撃を与えて回る。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる