60 / 77
第三章 異世界だけど、現実的です
59.中州の野伏:伝令
しおりを挟む
壊滅した湿地帯の村の跡地を拠点にする野伏の一行に、偵察へ出ていた一人が戻ってきた。
「盗賊の野営地がやられた。オークだ」
「だとしたら、一体どこから湧いてきている? 北の山からの一団なら、この辺りにも痕跡が有るだろうに」
寝ずの番は首を傾げた。
「帝都かもしれないな」
カリキから戻ってきた男が、首を傾げる寝ずの番に告げる。
「おいおい、冗談は」
「冗談じゃないぜ。あのオークは人間を好んで襲っていた。人間への憎悪がオークを呼び寄せ、繁殖させている……帝都の近くには洞窟の様な穴も在るし、何なら帝都の塀の向こうの地面の下にも空間が有る」
寝ずの番と偵察に出ていた男は顔を見合わせた。
「それと、ミハミズモスに憲兵が魔獣退治屋の集団を送り込んだ。連中は武装していて、人間も僅かだが含まれている。特に憲兵は大部分が人間、標的になるのは時間の問題だ」
カリキから戻った男の言葉に二人の男は沈黙する。既に夜は更けており、日の出になればオーク達の動きは止まる。しかし、日の出を迎えても動きの鈍らないオークも存在する。だが、いずれにせよ一行が滞在する村の跡地はミハミズモスから離れており、移動するにも地面の状態は良くない。
「夜が明けたら移動だな」
寝ずの番が溜息交じりにそう言った時、カリキから戻った男は白い魔狼を起こす。
「おい、お前」
「ミハミズモスに先回りする」
「大丈夫か?」
「俺なら平気だ」
寝ずの番の心配をよそに、男は白い魔狼に跨り闇の中へと駆け出した。
足場の悪い湿地帯から草原を抜ける移動には時間がかかるが、大型の魔狼は適度に安全な場所を自ら見つけては小休止をとり、日が昇る頃には男をミハミズモスに送り届けていた。
「よーし、お前はここで休んでろ」
男は白い魔狼を撫で、ミハミズモスに近い草むらから一人街へと向かう。
『オーク相手にあの上司、やってられねぇな』
『グラオ君も懲りたでしょうし、これは辞退してもいいかもしれませんね』
『まったくだ……それで、これからどうする』
『滞在の予定も不透明ですし、ひとまず宿に戻って休みましょう』
男が街に入って早々出くわしたのは、エルフ語で愚痴をこぼし合うメテオーロと吸血鬼の男だった。
(あれは……彼等も警備隊に志願したのか。厄介だな。しかもオーク……)
男は街を歩きながら、オーク騒動の痕跡を探す。そして番所近くまで進み、気配を誤魔化した。番所の裏に有る物置場所から、明らかに異常な臭気が漂っていた。
その死体と思しき物体には黒い布が掛けられていたが、男はその布を少し捲りあげる。
横たわっていたのは、死者にしても異様な肌色をした死体、それは土気色の肌をした半オークの特徴を残していた。
(首を刎ねられているのは、分かっている者の仕事か……)
傍らに安置されていた首には、オークには見られない豊かな頭髪が残されている。
(半オーク……混ぜ物が人間かエルフか、あるいは吸血鬼か……これだけでは分からんな)
男は布を元に戻し、番所の裏手を離れた。
(人間への恨みから動くとしたら、帝都を追われた混血……面倒だ)
オークは成長が早く繁殖力が強い。半オークの場合、成熟は人間よりはやや早いが、獣並みに早いオークに比べれば遅くなる。
(二十数年前から始まった追放……その頃から既に半オークが出来ているとすれば、もう手遅れか)
オークは一見して雌雄の区別が付かないが、エルフが堕落してオークと化していく中、雌雄の特徴を併せ持った個体も存在するようになった種族である。それ故、性別を問わず交配する人間あるいは混血者が居れば、それなりの数が発生する。しかも、オーク側が子供を宿した場合、人間に産ませるよりもはるかに早く子供が育つ。半オーク同士での繁殖は、オーク同士よりも時間がかかるにせよ、オークらしからぬ高い能力を持った個体が、人間と比べれば格段に早く育つ。
(もはやオークは半オークとみて構えなければならないか)
男は再び町を離れ、草むらに待たせた狼の元へと戻った。
「盗賊の野営地がやられた。オークだ」
「だとしたら、一体どこから湧いてきている? 北の山からの一団なら、この辺りにも痕跡が有るだろうに」
寝ずの番は首を傾げた。
「帝都かもしれないな」
カリキから戻ってきた男が、首を傾げる寝ずの番に告げる。
「おいおい、冗談は」
「冗談じゃないぜ。あのオークは人間を好んで襲っていた。人間への憎悪がオークを呼び寄せ、繁殖させている……帝都の近くには洞窟の様な穴も在るし、何なら帝都の塀の向こうの地面の下にも空間が有る」
寝ずの番と偵察に出ていた男は顔を見合わせた。
「それと、ミハミズモスに憲兵が魔獣退治屋の集団を送り込んだ。連中は武装していて、人間も僅かだが含まれている。特に憲兵は大部分が人間、標的になるのは時間の問題だ」
カリキから戻った男の言葉に二人の男は沈黙する。既に夜は更けており、日の出になればオーク達の動きは止まる。しかし、日の出を迎えても動きの鈍らないオークも存在する。だが、いずれにせよ一行が滞在する村の跡地はミハミズモスから離れており、移動するにも地面の状態は良くない。
「夜が明けたら移動だな」
寝ずの番が溜息交じりにそう言った時、カリキから戻った男は白い魔狼を起こす。
「おい、お前」
「ミハミズモスに先回りする」
「大丈夫か?」
「俺なら平気だ」
寝ずの番の心配をよそに、男は白い魔狼に跨り闇の中へと駆け出した。
足場の悪い湿地帯から草原を抜ける移動には時間がかかるが、大型の魔狼は適度に安全な場所を自ら見つけては小休止をとり、日が昇る頃には男をミハミズモスに送り届けていた。
「よーし、お前はここで休んでろ」
男は白い魔狼を撫で、ミハミズモスに近い草むらから一人街へと向かう。
『オーク相手にあの上司、やってられねぇな』
『グラオ君も懲りたでしょうし、これは辞退してもいいかもしれませんね』
『まったくだ……それで、これからどうする』
『滞在の予定も不透明ですし、ひとまず宿に戻って休みましょう』
男が街に入って早々出くわしたのは、エルフ語で愚痴をこぼし合うメテオーロと吸血鬼の男だった。
(あれは……彼等も警備隊に志願したのか。厄介だな。しかもオーク……)
男は街を歩きながら、オーク騒動の痕跡を探す。そして番所近くまで進み、気配を誤魔化した。番所の裏に有る物置場所から、明らかに異常な臭気が漂っていた。
その死体と思しき物体には黒い布が掛けられていたが、男はその布を少し捲りあげる。
横たわっていたのは、死者にしても異様な肌色をした死体、それは土気色の肌をした半オークの特徴を残していた。
(首を刎ねられているのは、分かっている者の仕事か……)
傍らに安置されていた首には、オークには見られない豊かな頭髪が残されている。
(半オーク……混ぜ物が人間かエルフか、あるいは吸血鬼か……これだけでは分からんな)
男は布を元に戻し、番所の裏手を離れた。
(人間への恨みから動くとしたら、帝都を追われた混血……面倒だ)
オークは成長が早く繁殖力が強い。半オークの場合、成熟は人間よりはやや早いが、獣並みに早いオークに比べれば遅くなる。
(二十数年前から始まった追放……その頃から既に半オークが出来ているとすれば、もう手遅れか)
オークは一見して雌雄の区別が付かないが、エルフが堕落してオークと化していく中、雌雄の特徴を併せ持った個体も存在するようになった種族である。それ故、性別を問わず交配する人間あるいは混血者が居れば、それなりの数が発生する。しかも、オーク側が子供を宿した場合、人間に産ませるよりもはるかに早く子供が育つ。半オーク同士での繁殖は、オーク同士よりも時間がかかるにせよ、オークらしからぬ高い能力を持った個体が、人間と比べれば格段に早く育つ。
(もはやオークは半オークとみて構えなければならないか)
男は再び町を離れ、草むらに待たせた狼の元へと戻った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる