三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第三章 異世界だけど、現実的です

59.中州の野伏:伝令

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 壊滅した湿地帯の村の跡地を拠点にする野伏の一行に、偵察へ出ていた一人が戻ってきた。
「盗賊の野営地がやられた。オークだ」
「だとしたら、一体どこから湧いてきている? 北の山からの一団なら、この辺りにも痕跡が有るだろうに」
 寝ずの番は首を傾げた。
「帝都かもしれないな」
 カリキから戻ってきた男が、首を傾げる寝ずの番に告げる。
「おいおい、冗談は」
「冗談じゃないぜ。あのオークは人間を好んで襲っていた。人間への憎悪がオークを呼び寄せ、繁殖させている……帝都の近くには洞窟の様な穴も在るし、何なら帝都の塀の向こうの地面の下にも空間が有る」
 寝ずの番と偵察に出ていた男は顔を見合わせた。
「それと、ミハミズモスに憲兵が魔獣退治屋の集団を送り込んだ。連中は武装していて、人間も僅かだが含まれている。特に憲兵は大部分が人間、標的になるのは時間の問題だ」
 カリキから戻った男の言葉に二人の男は沈黙する。既に夜は更けており、日の出になればオーク達の動きは止まる。しかし、日の出を迎えても動きの鈍らないオークも存在する。だが、いずれにせよ一行が滞在する村の跡地はミハミズモスから離れており、移動するにも地面の状態は良くない。
「夜が明けたら移動だな」
 寝ずの番が溜息交じりにそう言った時、カリキから戻った男は白い魔狼を起こす。
「おい、お前」
「ミハミズモスに先回りする」
「大丈夫か?」
「俺なら平気だ」
 寝ずの番の心配をよそに、男は白い魔狼に跨り闇の中へと駆け出した。
 足場の悪い湿地帯から草原を抜ける移動には時間がかかるが、大型の魔狼は適度に安全な場所を自ら見つけては小休止をとり、日が昇る頃には男をミハミズモスに送り届けていた。
「よーし、お前はここで休んでろ」
 男は白い魔狼を撫で、ミハミズモスに近い草むらから一人街へと向かう。
『オーク相手にあの上司、やってられねぇな』
『グラオ君も懲りたでしょうし、これは辞退してもいいかもしれませんね』
『まったくだ……それで、これからどうする』
『滞在の予定も不透明ですし、ひとまず宿に戻って休みましょう』
 男が街に入って早々出くわしたのは、エルフ語で愚痴をこぼし合うメテオーロと吸血鬼の男だった。
(あれは……彼等も警備隊に志願したのか。厄介だな。しかもオーク……)
 男は街を歩きながら、オーク騒動の痕跡を探す。そして番所近くまで進み、気配を誤魔化した。番所の裏に有る物置場所から、明らかに異常な臭気が漂っていた。
 その死体と思しき物体には黒い布が掛けられていたが、男はその布を少し捲りあげる。
 横たわっていたのは、死者にしても異様な肌色をした死体、それは土気色の肌をした半オークの特徴を残していた。
(首を刎ねられているのは、分かっている者の仕事か……)
 傍らに安置されていた首には、オークには見られない豊かな頭髪が残されている。
(半オーク……混ぜ物が人間かエルフか、あるいは吸血鬼か……これだけでは分からんな)
 男は布を元に戻し、番所の裏手を離れた。
(人間への恨みから動くとしたら、帝都を追われた混血……面倒だ)
 オークは成長が早く繁殖力が強い。半オークの場合、成熟は人間よりはやや早いが、獣並みに早いオークに比べれば遅くなる。
(二十数年前から始まった追放……その頃から既に半オークが出来ているとすれば、もう手遅れか)
 オークは一見して雌雄の区別が付かないが、エルフが堕落してオークと化していく中、雌雄の特徴を併せ持った個体も存在するようになった種族である。それ故、性別を問わず交配する人間あるいは混血者が居れば、それなりの数が発生する。しかも、オーク側が子供を宿した場合、人間に産ませるよりもはるかに早く子供が育つ。半オーク同士での繁殖は、オーク同士よりも時間がかかるにせよ、オークらしからぬ高い能力を持った個体が、人間と比べれば格段に早く育つ。
(もはやオークは半オークとみて構えなければならないか)
 男は再び町を離れ、草むらに待たせた狼の元へと戻った。
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