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第三章 異世界だけど、現実的です
58.対魔獣警備:深夜の奇襲
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日が暮れた深夜、アスピダの一行は静まり返った街を巡回していた。
眠気を噛み殺しながら歩くアナスタシアとオルドには何も感じられていなかったが、残る三人はそれぞれに不穏な気配を感じ取っていた。だが、一行を監督する憲兵の前では一切の発言が出来ず、憲兵に従って歩き回る事しか出来ない。
(これでは仕事になりませんねぇ……)
吸血鬼の男は少しずつ強くなる不穏な気配に、眠気を噛み殺して歩くオルドの腕を軽く叩く。
「ん……」
男は僅かに声を出す事しか出来ないオルドの手に、問答無用で発煙筒を握らせ、同じ様にやや遅れ気味に歩くアナスタシアにもそれを手渡す。男の背後に、ただならぬ気配が纏わり付いていたのだ。
足音は無かった。だが、腐臭にも似た酷い臭気が男の鼻腔を刺激する。
男は歩く速度を緩やかに落とし、先頭を行く監督との間合いを広げた。
『……襲撃だーっ!』
男はエルフ語で絶叫し、振り向き様にその直線状から身を翻す。
一行の背後には、大きな魔狼に跨ったオークが一体貼り付いていた。
男の叫んだ言葉を理解しないアナスタシアとオルドも、悲鳴に思わず発煙筒に火を点ける。
「ついて来い!」
メテオーロは上がり始めた発煙筒の煙を掻い潜る様に、ジーナを伴ってきた道を引き返す。
『魔狼から引き離せ!』
幅の広い両刃の剣を抜いた男は叫び、メテオーロは魔狼に狙いを定めた。
「貴様ら、何を勝手に!」
発煙筒を焚いたオルドとアナスタシアは煙の来ない方へと逃げおおせ、煙を被って咽る憲兵を置き去りにする。一方、メテオーロは魔狼に一撃を見舞い、体勢を崩したオークに向かってジーナは斧を振り下ろす。ジーナはエルフ語を理解しないが、感覚的に戦況を把握する能力には長けていた。
「オルド、何を」
戦場を離れたオルドはチョークを取り出し、石畳に何かを書き始める。
「結界を作ります、隠れられないなら、おまじないでもなんでも信じるしかありません!」
オルドは星型の中心にアナスタシアを立たせ、魔法円を形成する。
『他には居ないな、残党か?』
『近隣で襲撃があったか否か分かりません、油断しないで下さい』
オークはジーナに首を刎ねられて絶命したが、オークを振り落とした魔狼はそのまま逃走してしまった。
「貴様ら、いい加減にしやがれっ!」
憲兵は叫び、一行は番所に連行された。
番所では吸血鬼の男とメテオーロが憲兵達と言い争う最前線に立ち、堂々巡りの言い争いが続いた。
「ですから、不審な気配が有る事の伝達すら出来ないというのなら、警備など出来るはずが有りません」
アスピダ一行は監督の憲兵が強引な指示を出した事が全ての元凶であるとして譲らず、遂に東の空が白み始めた。そんな中、伝令が駆け込んできた。
「で、伝令、伝令です! カヴァロ北方面、野伏あるいは盗賊の野営地が襲撃された模様。生存者は無し、周辺に逃げた者は不明!」
駆け込んできた憲兵は酷く狼狽していた。その様子から、メテオーロと吸血鬼の男は襲撃された人間は凄惨な殺され方をしたのだと悟る。
「……戦いに長けているであろう野伏や盗賊の集団でさえ、その有様なのです。少なくとも、オークの恐怖を何ら知らぬ人間の横暴な指示に従えというのだけは撤回して頂かねば、我々は仕事が出来ません」
問題発生に叩き起こされ番所にやってきた警備隊隊長は、歯軋りせずにはいられなかった。
眠気を噛み殺しながら歩くアナスタシアとオルドには何も感じられていなかったが、残る三人はそれぞれに不穏な気配を感じ取っていた。だが、一行を監督する憲兵の前では一切の発言が出来ず、憲兵に従って歩き回る事しか出来ない。
(これでは仕事になりませんねぇ……)
吸血鬼の男は少しずつ強くなる不穏な気配に、眠気を噛み殺して歩くオルドの腕を軽く叩く。
「ん……」
男は僅かに声を出す事しか出来ないオルドの手に、問答無用で発煙筒を握らせ、同じ様にやや遅れ気味に歩くアナスタシアにもそれを手渡す。男の背後に、ただならぬ気配が纏わり付いていたのだ。
足音は無かった。だが、腐臭にも似た酷い臭気が男の鼻腔を刺激する。
男は歩く速度を緩やかに落とし、先頭を行く監督との間合いを広げた。
『……襲撃だーっ!』
男はエルフ語で絶叫し、振り向き様にその直線状から身を翻す。
一行の背後には、大きな魔狼に跨ったオークが一体貼り付いていた。
男の叫んだ言葉を理解しないアナスタシアとオルドも、悲鳴に思わず発煙筒に火を点ける。
「ついて来い!」
メテオーロは上がり始めた発煙筒の煙を掻い潜る様に、ジーナを伴ってきた道を引き返す。
『魔狼から引き離せ!』
幅の広い両刃の剣を抜いた男は叫び、メテオーロは魔狼に狙いを定めた。
「貴様ら、何を勝手に!」
発煙筒を焚いたオルドとアナスタシアは煙の来ない方へと逃げおおせ、煙を被って咽る憲兵を置き去りにする。一方、メテオーロは魔狼に一撃を見舞い、体勢を崩したオークに向かってジーナは斧を振り下ろす。ジーナはエルフ語を理解しないが、感覚的に戦況を把握する能力には長けていた。
「オルド、何を」
戦場を離れたオルドはチョークを取り出し、石畳に何かを書き始める。
「結界を作ります、隠れられないなら、おまじないでもなんでも信じるしかありません!」
オルドは星型の中心にアナスタシアを立たせ、魔法円を形成する。
『他には居ないな、残党か?』
『近隣で襲撃があったか否か分かりません、油断しないで下さい』
オークはジーナに首を刎ねられて絶命したが、オークを振り落とした魔狼はそのまま逃走してしまった。
「貴様ら、いい加減にしやがれっ!」
憲兵は叫び、一行は番所に連行された。
番所では吸血鬼の男とメテオーロが憲兵達と言い争う最前線に立ち、堂々巡りの言い争いが続いた。
「ですから、不審な気配が有る事の伝達すら出来ないというのなら、警備など出来るはずが有りません」
アスピダ一行は監督の憲兵が強引な指示を出した事が全ての元凶であるとして譲らず、遂に東の空が白み始めた。そんな中、伝令が駆け込んできた。
「で、伝令、伝令です! カヴァロ北方面、野伏あるいは盗賊の野営地が襲撃された模様。生存者は無し、周辺に逃げた者は不明!」
駆け込んできた憲兵は酷く狼狽していた。その様子から、メテオーロと吸血鬼の男は襲撃された人間は凄惨な殺され方をしたのだと悟る。
「……戦いに長けているであろう野伏や盗賊の集団でさえ、その有様なのです。少なくとも、オークの恐怖を何ら知らぬ人間の横暴な指示に従えというのだけは撤回して頂かねば、我々は仕事が出来ません」
問題発生に叩き起こされ番所にやってきた警備隊隊長は、歯軋りせずにはいられなかった。
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