三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

文字の大きさ
上 下
58 / 77
第三章 異世界だけど、現実的です

57.対魔獣警備:横暴な憲兵

しおりを挟む
 アスピダの一行がミハミズモスへと出発する朝、ボスウェリアの館の女中・プトーシ―は恐ろしい程に暗い表情だった。
「人間の愚かさを恨みます」
 プトーシ―は油分を含まないビスコッティを大量に焼き、吸血鬼の男とメテオーロの分をそれぞれ袋に詰めていた。
「どうか巻き込まれずに戻って来て下さい」
「私はともかく、あの三人の方を心配してやって下さい……彼等はオークをまるで分っていない。その上、今回選抜されたギルドは総じて人外が多い……帝都政権はオーク討伐を口実に、魔族を根絶するつもりなのでしょう」
 プトーシ―は眉根を寄せる。
「確かに、魔獣退治なんて破落戸上がりの連中ばかり……でも、なんでそうなったかと言えば、帝都を追われて失業した人達がこっちに流れ込んできて、悪さをして、立ち直った結果が魔獣退治屋だったわね」
 吸血鬼の男は溜息を吐いた。
「ミハミズモスには卿が懇意にしている金具職人が居ます、時間が出来ればそちらに挨拶をしておきますので、何かあればそちらを通して下さい」
 束ねた髪に金属の飾りの付いた革ひもを巻き付け、男はプトーシ―から荷物を受け取る。二階に居たオルドも準備を終え、ジーナと共に階段を下る。
「行ってきます」
「ご武運を」
 言って、プトーシ―は調理場の扉を閉めた。オルドとジーナの顔は、見たくなかった。
「では行きましょう」
 男は静かに言って、裏口から通りへと向かう。そして大通りで長屋に起居するアナスタシアとオルドが加わり、アスピダの一行はカリキ中心街の広場に向かった。
「これよりミハミズモス特別警備隊はミハミズモスへと移動し、任務に就く。各ギルドにつき一名の監督を配置している、活動中は監督の指示に従い、国家の安全と鉄道の円滑な運行を死守せよ!」
 特別警備隊を取り仕切る憲兵の演説の後、一行はカリキ東側からミハミズモスへと向かう。その道中は各ギルドの監督の厳重な監視によって私語が許されず、さながらその隊列は囚人の移送か、刑場に送られる死刑囚の葬列の様だった。
 一行がミハミズモスに到着したのは昼下がりで、アスピダ一行は到着直後から夜警当番に当たる過密な勤務が控えていた。しかも、アスピダ一行に手配された宿はミハミズモスの外れに有る安宿で、街に到着してからもなお一行は監督の監視の下で移動を強いられた。
「部屋は二階に二部屋手配した。男部屋と女部屋に分かれてもらう。それと、監督である私は確実でそれぞれの部屋に滞在する。くれぐれも勝手な行動はしないように!」
「ちょっと! それはおかしいわ! なんで男のあなたが女部屋に滞在するのよ!」
「黙れ! 私には貴様らを監督する義務がある!」
「監督するなら部屋の外からでもいいでしょ! なんで男のあなたを同じ部屋に入れなきゃいけないのよ!」
「娼婦風情が何を言うか!」
「私は医者よ!」
「嘘吐くな!」
 声を荒らげるアナスタシアの胸倉に憲兵が手を伸ばした瞬間、メテオーロがその腕をひねり上げた。
「おーっと、其処までだぜ憲兵さんよ」
 メテオーロは憲兵をアナスタシアから引き離し、その腕を放す。
「流石に今のはいくら何でも無礼だぜ?」
「人外風情が何を言う!」
「人外だろうがなんだろうが、俺はお前さんの十倍以上生きてんだ。それを利用しようというのに、その態度はねぇだろう?」
「そうですね。それと、この宿の規模でしたら、三人で一部屋というのは無理があります。ましてや其処にあなたまで滞在するとなれば、横になる事すら出来ないでしょう。男性の部屋を二つに分け、一人になった者を監視するだけでいいのではないでしょうか。それに……もしあなたが女だったなら、男三人と同じ部屋で寝たいとは思わないでしょう。少しは物事を考えなさい。それと、グラオ君は人間ですよ、まぎれも無く、純血の。女であるからと娼婦扱いをした事、今すぐ謝罪なさい」
「貴様」
「謝罪なさいと言っているのです。それとも、硫黄のお香に一晩いぶされるおつもりで?」
 吸血鬼の瞳から放たれる冷酷な侮蔑の視線には殺意すら有り、憲兵は遂に形だけの謝罪をした。
「悪かったよ、娼婦扱いで。ただのクソアマだったな」
「私が“クソアマ”なら、あなたは権力の犬ね」
 アナスタシアはあからさまな嫌悪感の宿る目で憲兵を見遣った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...