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第三章 異世界だけど、現実的です
55.対魔獣警備:匿名の警告
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重要な決断を控えたその夜、吸血鬼の男は日暮れに姿を見せる行商人を探して街を歩いていた。その行商人は、帝都では作る事も売る事も、使う事はおろか持っている事すらも許されなくなった魔法薬の薬売りで、オークの刃を受けた時に使う薬も売っている。
幸いにして男はその薬売りを見つけたが、件の薬は持ち合わせが無いとの事だった。しかし、薬売りは今の時期であれば原料となる薬草が大陸にも自生していると言い、軟膏の基材となる油脂と薬効を抽出する為の酒精や瓶を男に安く売った。
しかし、警備に出た当日に襲撃を受けた場合、手の施しようがない事に変わりは無く、男は憂鬱を抱えたまま帰路に就いていた。
刹那、路地から伸びた手が男の腕を掴み、男の体を暗がりに引き摺り込む。
「悪い事は言わん、オークには関わるな」
「誰だ」
「此処のオークは魔族を殺さない。帝都の恨みから生まれたものだ」
男を暗がりに引き摺り込んだ何者かは男の問いに答える事無く、彼を大通りへと突き飛ばしてそのまま姿をくらました。
(もしや……)
気配の消えた路地を見遣りながら男は考えた。エストゥアでメテオーロから書類を奪い、昨日の移動中に書類を奪った狼を飼い慣らしていたのは、先ほどの何者かであろう、と。
そして思案した。このまま憲兵の仕事を引き受けなければ無辜の人間が殺されるかもしれないが、その危険な場所へ丸腰のオルドや人間のアナスタシアを連れて行く様な事はしたくない、と。仮令メテオーロが困った人を助ける為のギルドの頭領であるとしても、全ての人間を守る事は出来ない。ならば、最も身近に居る、自分が守れる範囲の人間を守る為に出来る事をする必要が有るだろう、と。
(しかし、あの娘がそれを承服するか……多数決による否決であれば、それでいいが)
男がボスウェリアの館に戻ると、裏口にアナスタシアが居た。
「おや、こんな遅くにいらしていたのですか。送りましょう」
「結構よ。この街の事はちゃんと知ってるから」
アナスタシアは男の申し出を断り、陽の暮れた大通りへと出てゆく。
「オルド君」
裏口から館に入った男は、階段を上るオルドを呼び止める。
「何の話をしていたのです?」
男は扉を閉めながら、それとなく話し始めた。
「え、えっと……鉄砲の話です。べ、別にいかがわしい事なんてしてませんよ! ただ……彼女が作った火薬を応用して鉄砲を撃ったら、どのくらいの威力が有るのかという事を教えてもらいました」
「オークもそれで倒せる、とでも」
「はい」
男は溜息を吐いた。
「それは一撃で頭を撃ち抜いたならの話ですよ。夜間に奇襲されれば鉄砲は無用の長物です」
「でも、心臓を撃ち抜けば」
「彼等の体は頑丈で、人間が使わない素材でも何でも使って防具を作ります……その防具を貫通させられるかどうかは、それが何で出来ているかによりけりで、とても確実に殺せるとは思えません」
オルドは返す言葉が無くなり沈黙する。
「それより、ひとつ渡したい物が有ります」
男の言葉にオルドは階段を降りる。
「これは……」
「オークの刃を受けた時の傷薬の材料です。肝心の薬草は有りませんが、今の季節なら大陸に自生している物が収穫出来ます。ひとまず、あなたの荷物に入れておいて下さい」
「はぁ……」
見慣れない小瓶を渡され、オルドは首を傾げる。
「それと、私はこれからメテオーロの所に行ってきます」
「分かりました……」
男は再び扉を開け、メテオーロが滞在する長屋へと向かった。
幸いにして男はその薬売りを見つけたが、件の薬は持ち合わせが無いとの事だった。しかし、薬売りは今の時期であれば原料となる薬草が大陸にも自生していると言い、軟膏の基材となる油脂と薬効を抽出する為の酒精や瓶を男に安く売った。
しかし、警備に出た当日に襲撃を受けた場合、手の施しようがない事に変わりは無く、男は憂鬱を抱えたまま帰路に就いていた。
刹那、路地から伸びた手が男の腕を掴み、男の体を暗がりに引き摺り込む。
「悪い事は言わん、オークには関わるな」
「誰だ」
「此処のオークは魔族を殺さない。帝都の恨みから生まれたものだ」
男を暗がりに引き摺り込んだ何者かは男の問いに答える事無く、彼を大通りへと突き飛ばしてそのまま姿をくらました。
(もしや……)
気配の消えた路地を見遣りながら男は考えた。エストゥアでメテオーロから書類を奪い、昨日の移動中に書類を奪った狼を飼い慣らしていたのは、先ほどの何者かであろう、と。
そして思案した。このまま憲兵の仕事を引き受けなければ無辜の人間が殺されるかもしれないが、その危険な場所へ丸腰のオルドや人間のアナスタシアを連れて行く様な事はしたくない、と。仮令メテオーロが困った人を助ける為のギルドの頭領であるとしても、全ての人間を守る事は出来ない。ならば、最も身近に居る、自分が守れる範囲の人間を守る為に出来る事をする必要が有るだろう、と。
(しかし、あの娘がそれを承服するか……多数決による否決であれば、それでいいが)
男がボスウェリアの館に戻ると、裏口にアナスタシアが居た。
「おや、こんな遅くにいらしていたのですか。送りましょう」
「結構よ。この街の事はちゃんと知ってるから」
アナスタシアは男の申し出を断り、陽の暮れた大通りへと出てゆく。
「オルド君」
裏口から館に入った男は、階段を上るオルドを呼び止める。
「何の話をしていたのです?」
男は扉を閉めながら、それとなく話し始めた。
「え、えっと……鉄砲の話です。べ、別にいかがわしい事なんてしてませんよ! ただ……彼女が作った火薬を応用して鉄砲を撃ったら、どのくらいの威力が有るのかという事を教えてもらいました」
「オークもそれで倒せる、とでも」
「はい」
男は溜息を吐いた。
「それは一撃で頭を撃ち抜いたならの話ですよ。夜間に奇襲されれば鉄砲は無用の長物です」
「でも、心臓を撃ち抜けば」
「彼等の体は頑丈で、人間が使わない素材でも何でも使って防具を作ります……その防具を貫通させられるかどうかは、それが何で出来ているかによりけりで、とても確実に殺せるとは思えません」
オルドは返す言葉が無くなり沈黙する。
「それより、ひとつ渡したい物が有ります」
男の言葉にオルドは階段を降りる。
「これは……」
「オークの刃を受けた時の傷薬の材料です。肝心の薬草は有りませんが、今の季節なら大陸に自生している物が収穫出来ます。ひとまず、あなたの荷物に入れておいて下さい」
「はぁ……」
見慣れない小瓶を渡され、オルドは首を傾げる。
「それと、私はこれからメテオーロの所に行ってきます」
「分かりました……」
男は再び扉を開け、メテオーロが滞在する長屋へと向かった。
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