三度目の衝撃 ―元社畜が破天荒ギルドに転生した理由―

詩方夢那

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第三章 異世界だけど、現実的です

54.対魔獣警備:公儀からの依頼

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 その日の午後、アスピダの一行はエフサに集まっていた。まだ正式な拠点は定まっていなかったが、憲兵隊からの依頼が舞い込んだのだ。
「ミハミズモス……此処から南東にある小さな町で、鉄道部品の製造拠点が有る町だな」
 オルドは首を傾げた。
「そのミハミズモスにどうしてぼく達が?」
「ミハミズモスはカヴァロから近く、鉄道部品の工場が置かれている……帝都政権はオークの襲撃を恐れてるんだ」
「それで、仕事の条件は?」
 アナスタシアに促され、メテオーロは続けた。
「一ヶ月間、専属の警備部隊としてミハミズモスの警備に当たってくれとの事だ。報酬は一ヶ月で銀貨三十枚、金貨なら三枚分。警備は交代制で、空いた時間には憲兵が調練を行うとか」
「金貨三枚……」
 アナスタシアは目を瞠った。この世界における一ヶ月は二十八日であり、一ヶ月で金貨三枚分というのは、日当が銀貨一枚分以上の条件である。カリキで大店に雇われた労働者の月給が銀貨十五枚である事を考えれば、破格の条件だった。
「しかし、オークを対象とした警備であるなら断るべきですよ。このギルドの半分は人間、しかもオークの討伐をした事が有るのは私とあなたくらいです。無茶な事をするべきではない」
「でも、この契約金、取られるのは癪じゃなくて?」
 吸血鬼の男とアナスタシアの意見は真っ向から対立する。
「なぁ、メテオーロ。その、おーくとやらは、そんなに手強いのか?」
 ジーナの問いにメテオーロは眉を顰めた。
「人の形をした化け物といえば分かるか……怪力なだけでなく残忍、奴らの持つ刃は毒を持ち、癒えない傷を残す。無論、オークに勝る戦士は居るが、魔獣退治屋の手に負える物じゃあねぇな」
 ジーナは眉を顰めて首を傾げた。
「でも、そのオークが必ずしも襲撃してこないとすれば、一ヶ月で金貨三枚……一ヶ月勤めに出るよりも高い収入よ。ましてや私達は依頼が無ければ仕事が無い魔獣退治ギルド、こんなにいい話は無いわ。しかも調練が有るんでしょ? 乗馬練習が差せてもらえるなら、ジーナだって馬に乗れるかもしれないわ」
 アナスタシアの言葉に、メテオーロは男を見遣る。
「確かに、オークの襲撃が無いのであれば、一月ひとつきの辛抱で二月ふたつき分かそれ以上の収入が得られるのは魅力です。ただ……オークはまだ近隣に潜んでいますし、人間しかいない帝都からの援軍ではオークを倒せないでしょう」
「帝都の兵士は鉄砲を持っているわ」
「鉄砲で倒せるなら今頃オークなど居ませんよ。それにメテオーロ、あなたは困っている人を助ける為にこのギルドの結成を承服したのですよね。だからこそ、先日もイタチの毛皮を全て村に残し、即席の忌避剤の作り方も教えたのでしょう」
 メテオーロは目を伏せた。頭領として仕事を断る事は従業員に対する裏切りとなる一方、彼自身としては、男の言う事に反論が出来ない。そんな様子にアナスタシアはオルドを見た。
「そうですね……ギルドの趣旨は人助けですけど、その分お金はやっぱり稼げませんから、お金になる仕事を受ける事は必要です。ただ、オークって言うのはすごく怖い物みたいですし、僕にはきっと倒せないです……」
 ギルドとしての判断に口出しする事を避け、オルドは理想論と自身の力量の限界だけを語る。
「そう言えば、仮に警備をするとして、憲兵は私達に随行するの?」
 オルドに助け舟を出すようにアナスタシアは尋ねた。
「一応、監視役は付けると」
「だったら憲兵の鉄砲が使えるし、その鉄砲で倒すのが難しいっていっても、あなたやジーナの手に負えるところまで無力化出来ないかしら」
「数によるだろう」
 アナスタシアとメテオーロの議論に男は溜息を吐いた。
「現状、オークが出たとして対処不可能と見るのが妥当です。ただ、オークが出現しないなら、またとない好条件かつ、公儀の覚えもめでたくなる仕事なのは事実……メテオーロ、返答の期限はいつですか」
「明日の夕方までだ」
「でしたら明日の朝、多数決を採りましょう。少なくとも私は、ひとりだけ逃げおおせる程度の事なら出来なくは有りませんし、皆さんの決定には従います」
「そうね、それがいいわ。明日の朝までに利益と危険、どちらが上回っているかをよく考えてきましょう。私は断然、利益が大きいと思うけど」
「……それじゃ、今日は解散だ」
 メテオーロは議論の切り上げを宣言した。
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