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第三章 異世界だけど、現実的です
53.対魔獣警備:カリキの早朝
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その朝、カリキからもほど近いカヴァロが襲撃されたとの一報に街は騒めいていた。
カヴァロの荷馬車が不正な荷物を運搬している事はカリキの上流商人の間で有名な話であり、東国系の野伏がそうした荷馬車を襲撃しているのもよく知られた事だった。しかし、今回のカヴァロ襲撃ではその野伏までもが襲撃の対象とされており、周辺地域に衝撃が走っていた。
「カヴァロって、昨日ぼく達が行った街ですよね……」
街頭で読み上げられる新聞の内容に、オルドは呆然とした。
「状況からするとオークの仕業でしょう、彼等は陽の沈んだ時間を好みます」
吸血鬼の男は立ち止まるオルドの隣で呟いた。
「オーク?」
オルドは男を見た。
「人型の魔獣とでも言いましょうか……禍々しい事極まりない種族で、あのイタチなどとは比にならない邪な存在です。見た目は醜悪、気質は残忍、オークの刃は毒を持ち、決して癒えぬ痛みを残す……最悪な連中ですよ」
オルドは息を呑む。
「で、でも……魔獣じゃないなら、ぼく達は」
「いずれ戦う事になるでしょう」
男の言葉は酷薄で、オルドは言葉を失った。
「オークは魔王の配下に無い外道の存在でしたが、魔王の権威が有った頃にはその軍勢により鎮められていました。しかし、今やそれを鎮圧する力は無く、軍勢を立て直したオークが人間を襲撃し始めたとみるべきでしょう。そして……人ならざる存在に対して、権力者がする事といえば、我々の様な魔獣退治屋を派遣する事……この先、魔獣退治屋がオークと対峙させられ、多くの犠牲が出る事でしょう」
「そ、そんな……」
オルドはその場に崩れ落ちそうなほどの絶望を覚えた。
「何より、オークは人間が簡単に殺せるほど軟弱な生物ではありません。魔族を全て追い出した帝都に勝ち目はないでしょうね、自業自得ですが」
男は呆れた様に言いながら、オルドのシャツの袖を掴んで歩き出す。
二人は錬金術ギルドのエフサへと向かい、注文していた火薬を受け取る。しかし、その火薬は魔獣の忌避効果の無いただの発煙筒でしかない。効果的な忌避剤を含む発煙筒の製造は、秘密裏にアナスタシアの仕事となっている。
有象無象が集いながらも、まだオークの手が及んでいないカリキの雑踏に変わりは無く、新聞の情報を知らない者や、それが関係ない事象とする者達はただその日の暮らしを続けていた。
「おい」
突如として憲兵が二人を呼び止める。
「何でしょう」
男は何ら後ろめたい事などしていないと言った風に答える。
「お前達魔獣退治屋だったな、それも、昨日カヴァロに行った」
「そうですが」
「白髪で木の杖を持った、髭を蓄えて眼鏡をかけた男を知らないか?」
「お尋ね者ですか」
男は眉を顰める。
「あぁ。どう考えても老人の様なのだが……昨夜の襲撃事件の現場で、その手引きをした頭領の可能性が有る」
「申し訳ありません。その様な人物に見覚えは有りません」
「本当か? あまり背の高くない、いや、腰の曲がった老人の様なのだが、死体が挙がっていない」
憲兵は訝しむ。
「間違いありません。昨日は従業員二人の乗馬練習を兼ねてカヴァロに向かいましたが、街の中は殆ど見ていませんので」
「そうか……もし怪しげな老人を見つけたら教えろ」
憲兵は当てが外れたといった風に溜息を吐きながら警備に戻った。
「……悪い人の中には、随分歳のいった頭領が居るんですね」
「変装していたのかもしれませんし、闇の中で人間が見えるものなど、不確か極まりないでしょう……野伏の稼業など、腰の曲がった老人に務まるはずが無いというのに、真に受けるのですからね」
男は歩き出し、オルドはその後を追った。
カヴァロの荷馬車が不正な荷物を運搬している事はカリキの上流商人の間で有名な話であり、東国系の野伏がそうした荷馬車を襲撃しているのもよく知られた事だった。しかし、今回のカヴァロ襲撃ではその野伏までもが襲撃の対象とされており、周辺地域に衝撃が走っていた。
「カヴァロって、昨日ぼく達が行った街ですよね……」
街頭で読み上げられる新聞の内容に、オルドは呆然とした。
「状況からするとオークの仕業でしょう、彼等は陽の沈んだ時間を好みます」
吸血鬼の男は立ち止まるオルドの隣で呟いた。
「オーク?」
オルドは男を見た。
「人型の魔獣とでも言いましょうか……禍々しい事極まりない種族で、あのイタチなどとは比にならない邪な存在です。見た目は醜悪、気質は残忍、オークの刃は毒を持ち、決して癒えぬ痛みを残す……最悪な連中ですよ」
オルドは息を呑む。
「で、でも……魔獣じゃないなら、ぼく達は」
「いずれ戦う事になるでしょう」
男の言葉は酷薄で、オルドは言葉を失った。
「オークは魔王の配下に無い外道の存在でしたが、魔王の権威が有った頃にはその軍勢により鎮められていました。しかし、今やそれを鎮圧する力は無く、軍勢を立て直したオークが人間を襲撃し始めたとみるべきでしょう。そして……人ならざる存在に対して、権力者がする事といえば、我々の様な魔獣退治屋を派遣する事……この先、魔獣退治屋がオークと対峙させられ、多くの犠牲が出る事でしょう」
「そ、そんな……」
オルドはその場に崩れ落ちそうなほどの絶望を覚えた。
「何より、オークは人間が簡単に殺せるほど軟弱な生物ではありません。魔族を全て追い出した帝都に勝ち目はないでしょうね、自業自得ですが」
男は呆れた様に言いながら、オルドのシャツの袖を掴んで歩き出す。
二人は錬金術ギルドのエフサへと向かい、注文していた火薬を受け取る。しかし、その火薬は魔獣の忌避効果の無いただの発煙筒でしかない。効果的な忌避剤を含む発煙筒の製造は、秘密裏にアナスタシアの仕事となっている。
有象無象が集いながらも、まだオークの手が及んでいないカリキの雑踏に変わりは無く、新聞の情報を知らない者や、それが関係ない事象とする者達はただその日の暮らしを続けていた。
「おい」
突如として憲兵が二人を呼び止める。
「何でしょう」
男は何ら後ろめたい事などしていないと言った風に答える。
「お前達魔獣退治屋だったな、それも、昨日カヴァロに行った」
「そうですが」
「白髪で木の杖を持った、髭を蓄えて眼鏡をかけた男を知らないか?」
「お尋ね者ですか」
男は眉を顰める。
「あぁ。どう考えても老人の様なのだが……昨夜の襲撃事件の現場で、その手引きをした頭領の可能性が有る」
「申し訳ありません。その様な人物に見覚えは有りません」
「本当か? あまり背の高くない、いや、腰の曲がった老人の様なのだが、死体が挙がっていない」
憲兵は訝しむ。
「間違いありません。昨日は従業員二人の乗馬練習を兼ねてカヴァロに向かいましたが、街の中は殆ど見ていませんので」
「そうか……もし怪しげな老人を見つけたら教えろ」
憲兵は当てが外れたといった風に溜息を吐きながら警備に戻った。
「……悪い人の中には、随分歳のいった頭領が居るんですね」
「変装していたのかもしれませんし、闇の中で人間が見えるものなど、不確か極まりないでしょう……野伏の稼業など、腰の曲がった老人に務まるはずが無いというのに、真に受けるのですからね」
男は歩き出し、オルドはその後を追った。
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